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前世社畜な辺境伯は物語から退場したい(過労のため)  作者: もちだもちこ


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28、睡眠不足の辺境伯


 一進一退という攻防のまま一週間、そろそろ俺は限界だ。


「バスチアン、もうダメだ」


「人はダメだと思った時に、ダメになるものですよデューク様!」


「何を適当なことを……あっ」


 帝国側の陣営から爆発音が響き、土煙があがっている。


「デューク様、集中してください!」


「王都から援軍は来ているから、俺が倒れてもなんとかなるだろう」


 ふたたびあがる爆発音。


「なりません! 今、デューク様が倒れたら全滅してしまいます!」


「わかってんだけど、さぁ……」


 増える爆発音。途切れる集中力。


「ああ、もう、精霊たちが言うことを聞かなくなってきた、なぁ……」


「デューク様! このままだと敵軍が全滅してしまいます!」


 ぼやける視界の端に映った、珍しく慌てているバスチアンの顔を見て、つい笑ってしまう。

 いや、笑ってる場合じゃないな。

 誰かー、あいつらをとめてくれー。


「精霊さんたちー!! とまってー!!」


 夢かな。めちゃくちゃかわいい声が聞こえてくる。強いて言えばカオリみたいな。


「おねがいー!! これ、これをあげるからー!!」


 ダメだよカオリ。女の子があげるとか言ったら……。


「私の持っている、秘蔵のデューク様の姿絵コレクションをあげるからー! うわぁーん!!」


「カオリ様、後でお風呂あがりデューク様お色気姿絵を差し上げますから、ここはこらえて」


 え、ちょっと待って。色々ちょっと待って。

 根性で目を開けると、いつの間にか厚手の毛布が敷かれた上に横になっていた。

 少し離れたところで泣きながら精霊に訴えるカオリと、なだめるバスチアン。内容はともかくとして、カオリが「それなら我慢する……」などと健気に笑顔を見せているからホッとする。

 いや、ホッとできないけどな! お色気姿絵って何だよ!


「目覚めましたか、デューク様」


「ああ! よかったぁー! ユウコちゃんの回復魔法も効かないからどうしようかとー!」


 呆れ顔のバスチアンの横で、涙と鼻水が出ているカオリが俺に飛びついてきた。

 ぐえっ、うれし、くるし。


「カオリ姉さん、回復魔法は睡眠不足に効かないって言ったのに……聞いてないなこりゃ」


「よかったデューク様。体調は大丈夫ですか?」


 ユウコとカイトが、くっついて離れないカオリを見て苦笑している。

 ここまで取り乱してくれるのは、ちょっと嬉しいな。


 精霊たちは、不本意ながら「姿絵コレクション」とやらで、暴れるのがおさまったらしい。

 元々は俺が中途半端な命令を出したせいなんだけどね。生かさず殺さずっていうのは調整が難しいんだよなぁ。


 王都からの援軍に加えて、こちらには相手国の将軍と、もう一人の切り札が加わった。

 幼女になったカオリの次くらいに可愛らしい、水色の髪を持つ幼い子だ。


「つまり、われが、せんとうにたてばいいのだな!」


「ご理解が早いですね。こちらで保護している将軍殿もいらっしゃいますから、なんとか相手を話し合いの場に立たせたいのです」


「うむ! カオリがおしえてくれたとおりだな!」


「ははは、さようで」


 ご機嫌なお子様に笑顔で接する俺。

 なぜかカイトたちがドン引きしているけれど、この状態なら無理ないと思うんだよね。


「よきにはからえ!」


「かしこまりました。ところで……」


 お子様にぴったりと張り付いた笑顔を向ける。


「なぜ、カオリ殿のひざの上にいらっしゃるので?」


「カオリは、われのだいじなひとだからな! ずっといっしょにいるのだ!」


「ふふふ、大事な人なんて、かわいいこと言っちゃって」


 嬉しそうなカオリは、水色の髪をふわふわ撫でてやっている。気持ちよさそうに目を細める幼児。

 カイトとユウコは「ダメだこりゃ」という表情で、バスチアンは俺に冷たいお茶を出してくれた。

 うん。まずは冷静になろう。


「だいじなカオリだからな! われのつまにしてやろう!」


 おっと、手に持っているカップが自然と割れてしまったようだ。


「中身が冷たい飲み物でよかったですね」


 乾いた布を出してくれるバスチアン。なんだろう。急にゲススギール帝国を滅亡させたくなってきた。


「はいはい、ちょっと待ってネ。君の妻になるとか無理だかラ。お母様はお父様のものだかラ」


 ぬるりと俺の影から現れた蛇苺に、カイトとユウコが反応している。うむ、いい動きだ。

 てゆか、初見だったか?


「この男は大丈夫だ。うちの隠密みたいなことをやってくれている」


「でも、まったく気配がなかったですよ? たまにいるデューク様のお屋敷にいる隠密の人は、少しは気配がわかったのに……」


「こいつは、まぁ、特別だからな」


 屋敷に潜んでいる隠密に気づいていたのか。なかなかやるな、カイト。

 俺の言葉に、蛇苺は銀色の髪をサラリと揺らし、赤い目をすぅっと細める。


「そこらの隠密と一緒にされても困るヨ。お父様の子だから特別なんダ」


「え? お父様って?」


 カイトが不思議そうに首をかしげているが、この件については後で説明するとして。


「貴方は王族です。そして、カオリ殿は帰らなければならないところがあります。妻にするのは難しいかと」


「かえってから、つまになればいい!」


 みるみるうちに目に涙をためた幼児をカオリが頭を撫でてやりながら、困ったような笑みを浮かべて俺を見る。


「デューク様、子どもの言うことです」


「彼は王族だ。子どもであっても、彼の言葉ひとつで周りが動くのだぞ」


「でも、まだこんなに幼くて……」


「それでも、だ」


 もちろん嫉妬もある。でも、それ以上に王族である彼が迂闊なことを言って、周りが動いてしまった場合、カオリが大変なことになってしまう。

 疲れもあって、俺はそれ以上は言わずにこの場を離れた。


「デューク様」


「悪い、少し寝る」


「かしこまりました」


 俺がテントの中に入ったのを確認したバスチアンは、すぐに結界魔法を発動させている。

 ほぼ一週間フル稼働していた俺の意識は、布団に入ったところですぐに途切れた。






お読みいただき、ありがとうございます。

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