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前世社畜な辺境伯は物語から退場したい(過労のため)  作者: もちだもちこ


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27、天使は楽園を夢みるのか


 王都に入ろうとしたカイト、ユウコ、カオリは、検問所の兵士に呼び止められる。


「悪い、俺たち急いでいるんだ」


「申し訳ございません。上からの命令でして……」


 カイトとユウコの後ろでは、マントの下に隠している幼子を抱いたカオリがいる。

 何かに追われているような感覚がするし、できる限り早く王城へ向かいたいと三人は危機感をつのらせていた。


 検問所の奥から出てきた兵士が、カイトたちを押しとどめる兵士に合図を送る。すると、対応していた兵士がカイトに頭を下げた。


「お待たせしてすみません。近衛騎士団の方と確認がとれましたので、どうかこちらに」


「もしかして、アレクさんが?」


「はい。カイト様ご本人だという確認をとるのに、時間がかかってしまいました。申し訳ございません」


「いやいや、助かったよ。会いに行く手間が省けた」


「そう言っていただけると助かります」


 人の良さそうな青年兵士は、カオリのマントの不自然な膨らみに気づいたようだが、特に何も言わずに検問所内に招き入れてくれる。

 三人が奥にある部屋に入ると、やたらキラキラした金髪碧眼の青年が満面の笑みを浮かべて立っていた。


「久しぶりだね。元気だったかい?」


「アレクさん! よかったー!」


「めっちゃ元気だったよ!」


「……暑いから、この子出していい?」


 再会を喜ぶカイトとユウコの横で、げんなりとした表情のカオリは無造作にマントを脱ぐ。

 そこに現れたのは、この世界では珍しい水色の髪。薄紅色に染まった頬はぷくりと柔らかそうで、思わずつつきたくなってしまう。


「この子は……ゲススギール帝国の王族だね」


「やっぱ、そうなんだ」


 アレクの言葉を受けて、カイトは大きく息を吐く。ユウコの魔法の効果は続いているらしく、幼い王子の表情は穏やかだ。


「かの国は長いこと王家の人間が権力を持つことはなく、宰相の一派がほぼ実権を握っていた。それでも、王家に忠誠を誓う者たちがいて、細々と暮らしていたのだけれど……」


「王子は両親から逃げろと言われたって」


 カオリは痛ましげに水色の髪を優しく撫でていると、アレクはなるほどと頷く。


「命を狙われたみたいだね」


「なぜ? このまま王家は存続させていくんでしょう?」


「そうなんだけどね。代々、王家には女児しか生まれない……ということになっているんだよ」


「男しか王になれないとか? それで家臣の息子とかを姫と番わせて傀儡の王にさせるとか?」


「さすが、カオリ殿だね」


「ゲスすぎる……!!」


 思わず国名を叫ぶカオリに、アレクは苦笑して王子を見る。


「これで、あの御方が何を狙っていたのかが分かったかな」







 王都の民たちは、おおいに盛り上がっていた。

 悪名高い「ゲススギール帝国」の軍が、国境を侵しているとの情報があったからだ。


 英雄であり、国一番の武を誇るデューク・ウェスター辺境伯が敵軍をおさえてはいるが、未だ勝敗を決するところまではいかないようだ。

 王都に援軍を求めた辺境伯に応える者たちは立ち上がる。

 英雄のために多くの貴族が軍を整える中、いざ進軍をというところで衝撃の事実が発覚した。


 ゲススギール帝国の正統なる後継者、第一王子が亡命してきたのだ。


「この幼き王子のために! そして国境で戦う、英雄デューク・ウェスター辺境伯のために! 我が国屈指の精鋭部隊はゲススギール帝国の侵略を止めさせ! 必ずや平和に導くことを誓おう!」


 王の言葉とともに、王都から国境へ向けて軍が派遣される。

 その中には、最近多くのダンジョンを制覇し、古代魔道具アーティファクトと呼ばれる貴重なアイテムを発見したパーティメンバーが含まれていた。




「まさか、国境に攻め込まれてから一週間になるなんて……デューク様は無事なのかな」


「姉さん心配してるんだ」


「そりゃ、心配くらいするでしょ」


「カイトくん、カオリ姉さんはほら、ちょっとアレだからしょうがないよ」


「確かにアレだよな」


「アレって何よ!!」


 ふくれっ面をしているカオリに、散々いじっていたカイトとユウコはこっそり安心する。

 英雄と呼ばれる辺境伯の現状を知ったカオリは、顔色を失いしばらく言葉を発することはなかった。そこに姉の色々な思いを読み取ったカイトだが、元の世界に戻る魔道具を得た今、この世界の住人と深い仲になることを勧めることは出来ずにいた。


 たとえ、二人が想い合っていたとしても。


 考え込むカイトは、騎士たちの集まる場所から、こちらに向かってくるアレクの姿を見てパッと顔を輝かせる。


「アレクさん!」


「カイト、すまないが俺を含む少数精鋭で先に進みたいんだ。大丈夫かな?」


「俺たちは大丈夫ですけど……もしかして、王子も連れて行くんですか?」


「もちろんだよ。カオリ殿に懐いているみたいだし、ここに残すのも心配だからね」


「そうなのだ! いっしょにいくのだ!」


 弾丸のように飛び出した水色を、カイトの後ろにいたカオリが慌ててキャッチする。

 王子は未だに「大人」を警戒する。しかし、カオリだけに懐いているし、カイトたちと一緒にいたほうが守りやすいだろう。


 それならば……と、思う。


「カオリは、われがまもるのだー」


「ふふっ、ありがとうございますっ」


 無邪気に話す隣国の王子は、よきにはからえ! とばかりに胸を張っていた。



お読みいただき、ありがとうございます。

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