26、辺境伯の姿絵コレクション
スルリ、ヌルリと現れた細身の銀髪男。
片手に大きなずた袋を引きずり、満面の笑みで戻ってきた息子(元なんでも屋)を、俺はあたたかく迎え入れてやった。
「それで? それは土産か?」
「だって殺したらダメって、お父様が言うからサー」
「……なんだ、これは」
「んー、愛玩動物かなァ?」
ずた袋から出てきたのは、ゲススギールの鬼将軍と呼ばれる男だ。
泣く子も黙って失神するという髭モジャ強面の彼は、俺を見るとうっとりとした表情で頬を染めた。そしてなぜか、手足を拘束されていないのに大人しく跪いている。
うん。
ぶっちゃけ怖い。
ゴツい強面オッサンが頬染めているというホラー展開とか怖い。
「息子よ。飼うのはいいが、なぜお前じゃなく俺になついている?」
「そりゃ、調教する時にお父様の姿絵を使ったからだヨ。この子、美しいものに目がないみたいでネ」
「なるほど。確かにデューク様は、顔だけは無駄に良いですからね。無駄に」
おいバスチアン、無駄って二回も言うことないだろう。大事なことだから二回言ったとか、マジ泣きするぞ?
それに無駄じゃないし。イケメンは正義だし。
「いやいや、任務完了したって言うから、てっきり敵の大将を始末したのかと思ったぞ」
「生かさず殺さず、でショ?」
「そりゃそう……なんだが……」
俺が視線を向ければ、見えない尻尾がブンブン振られているのが分かる。
ガチムチなゴツいオッサン将軍がワンコ属性、とは。
鳥肌の立つ腕をさすりながら、俺は鬼ワンコ将軍に問いかける。
「おい、お前」
「はっ! 美しき御方っ!」
「……あー、お前がここにいたら、陣営は混乱するのではないか?」
「自分は『お飾り』の将軍でありまして! 実際は副官が指示を出しておりまする!」
妙に武士っぽい口調のオッサン将軍。
うっとりとした表情で俺を見てくるオッサン将軍。
うん。どうしてくれよう。
「自分に従う部下であれば、この近辺にいるはずであります! 麗しき御方の軍は隙がないので、自分が出てくるまで待機しているかと!」
「なんだ、この近くにいるネズミはオッサ……将軍殿の部下だったのか」
「自分が五体満足でいるため、今は様子見をしているのでしょう!」
「コイツ、お父様の姿絵に大興奮していたからネ。拷問しなくてもペラペラ話すし、ずっとご機嫌で早くお父様に会いたいってうるさかったシ」
「ちょ、それは言わない約束でござるよ!」
「約束なんてしてないかラ」
いや、そんなんぶっちゃけどうでもいいし、いらん情報なんですけど。
まぁ、蛇苺のせいで予定が狂ったけれど、結果オーライってことにしておこう。この変t……鬼将軍は、たぶん、きっと、使える……と、思う。
「それで? 将軍殿はなぜ、わざと我が軍に捕まろうと?」
俺の言葉を受け、うっとりとした表情を一瞬で引き締めるオッサン。やっと『鬼将軍』の顔を拝むことができた。
「……読まれておりましたか」
「さすがに、男の姿絵一枚で、天下の鬼将軍が籠絡されるとは思わないからな」
「いや、最初の『辺境伯、冬の装い』一枚なら我慢しておりました。しかし、今なら『辺境伯、夏の装い』を一枚追加すると言われましてな。さすがにその誘惑には抗えぬと……」
「夏のは暑いから、ちょっと肌色が多めなんだヨ」
おい、なんだその絵は。いつの間に描かせていたんだこのやろう。
「お母様に見せたら喜んでいたヨ」
よし。許す。
小説の内容どおり……とはいかないとは分かっていても、カイトたちは現状を確かめるべくダンジョンから出ることにした。
しかしその途中、思わぬ出会いに足どめされることとなる。
「いきましょう、おうじさま」
「やー、なのだ」
「このくにの、おうさまたちにあいましょう」
「やー、なのだ」
行き倒れしている幼児を発見したのはカイトだった。泥だらけの体を拭いてやり、怪我の治療をしたのはユウコだ。
そして、カイトたちを怖がる幼児に、お腹がすいているだろうとご飯を食べさせたのは「幼女のカオリ」である。
高校生や女性でも「大人」に見えるだけで警戒の対象となるらしく、カオリが魔法で外見を変化させれば安心したようにしがみつき……離れなくなった。
彼が王子だと分かったのは、この世界でも珍しい水色の髪と瞳、そして天使のように愛らしい顔かたち。
なによりも「われは、げすすぎーるていこく、だいいちおうじである」という本人の証言からである。
「もっと、とおくへにげるのだ。ちちうえも、ははうえも、にげろといっていた。」
「おうじさま……」
「カオリもにげるのだ。ここは……あぶないのだ……」
上着をつかんだまま離さずにいた王子は、そのまま寝入ってしまう。そっと上着を脱いで王子を包んだカオリは、大人に姿を戻して抱き上げてやる。
薄く緑に光っているのは、精霊『香風』が力を貸してくれているからだろう。
「ユウコちゃん、安眠の魔法かけられる?」
「疲れているみたいだし、弱い魔法で半日は寝たままになると思う」
「王都へは姉さんの魔法で短縮して行くとして、俺は王城でアレクさんに事情を説明するから、二人は王子についていてやって」
「わかった。ごめん『香風』、また力を貸してくれる?」
心地よい風がカオリの前髪を揺らす。優しい精霊からの返答に笑顔を浮かべた彼女は、カイトとユウコと共に王都へ向けて飛び立った。
そして、彼女たちを一部始終を見守っていた者たちも、少し遅れてその場から消えた。
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