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前世社畜な辺境伯は物語から退場したい(過労のため)  作者: もちだもちこ


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23/31

23、戻ってきた(社畜な)日常


 部屋の中で聞こえるのは、紙をめくり文字を書く音。

 書類を確認し終え、印章を手に取った俺は、虚ろな目をバスチアンに向ける。


「平和だな」


「そうですねぇ」


「うちの領地だけを見れば、だが」


「そうですねぇ」


「あと、どれくらい残っている?」


「そうですねぇ」


「おい、寝るな」


 バスチアンは声をかけないと、仕事をしながら寝てしまう。

 それでも書類内容に間違いはないところが怖い。こいつ、本当に人間か?


「失礼ですね。私は人間ですよ。蛇苺じゃあるまいし」


「まぁ、あいつはちょっと魔に属するところに片足つっこんでるからな」


「片足ですか? 結構深いところまで入っていそうですけれど」


 そう言いながら、取りまとめた書類を俺の机にドサリと置くバスチアン。うう、まだこんなにあるのか。


「はぁ……ひと息つけたい。茶を頼む」


「かしこまりました」


 領主館は静かだ。

 カイトとユウコ、そしてカオリはダンジョンに潜っている。王都からついてきた『元・何でも屋』の蛇苺は、なんとなく三人と一緒に行動しているらしい。


 なぜ「なんとなく」なのかというと、カオリが一人になると姿を見せるからだ。

 奴が言うには、家族にしか心を許してないからとのこと。

 カオリの弟のカイトはどうなんだって話になるが、そこは家族に入らないそうだ。かと思えばバスチアンの前には出てきたりするから、わけがわからん。


「そろそろ、ダンジョンの成長期に入るだろうから、カイトたちは別のダンジョンに移動したほうがいいだろう」


「よろしいので?」


「いつまでもここに留めておいてもな。それに、彼らはもう弱くはない」


「まだ、強くはないでしょう」


「それでも、だ。……俺がついていくわけにもいかないからな」


 せっかく物語で終盤に敵として出てくる『何でも屋』がいるんだ。そう簡単にはやられないだろうし。

 ちなみに俺と奴の絡みは、物語内ではないものだった。

 カイトたちが王都へ向かってから、辺境伯おれの出番は少なくなっていくからね。


 そう。

 徐々に出番がなくなっていく辺境伯は、ある日、再び登場することになる。


「報告を」


『南、異常なし』


『北の森に人間たちが少しいた』


『西はいつもと同じ。おいしい果物を見つけたよ』


『東の街道で、あるじの土地に住む人間が襲われそうになっていたので、縛って転がしておきました』


「バスチアン」


部下きょうだいから報告が入っております。現在、取り調べ中ですので、報告書は後ほどとなります」


「わかった」


 精霊たちは学習能力が高い。というよりも、俺と契約してくれる精霊たちは、ほとんどが学びの姿勢を持っていた。

 そして報酬を受け取ってもらえないことが多くなってきている。

 うちはブラックじゃないから、ちゃんと受け取ってほしい。いいから受け取れこのやろう。


 俺が精霊たちに茶菓子を押し付けていると、バスチアンに緊張が走る。


「デューク様」


「ああ、わかっている」


 執務室の隣には魔法陣だけ置かれた部屋がある。

 滅多にないことだが、それが起動した気配がしたのだ。


 これだけはバスチアンに任せられないため、俺がひとりでその部屋に入ることになる。


 部屋には家具も置かれず窓もなく、壁と床と天井が正方形になるよう造られていた。部屋の真ん中には、丸く幾何学模様で魔法陣が描かれている。

 起動し終えたばかりの魔法陣は、まだうっすらと光っていた。


「手紙と……なんだこの荷物は」


 ここの魔法陣は王城と繋がっている。王都で緊急事態が発生した時、素早く連絡がとれるよう開発されたものだ。

 生き物は無理だが、手紙などの無機物ならやりとりすることができる。


「いったい何があったんだ?」


  カオリちゃんたちの服が出来たので送ります。

  服を着たら、カオリちゃんに「かわいいね。愛してるよ。ちゅっ(はぁと)」ってしないとダメよ。

  キャー! いやーん! デュークのえっちー!

  

  姉より。


 くしゃりと手紙を(物理的に)握りつぶした俺は、無言で部屋を出る。

 ああ、バスチアンのいれてくれた紅茶はおいしいなぁ。







「お母様、どうしたノ?」


「思い出したの。そろそろ隣の国が怪しい動きをするはずなのよ」


「そろそロ?」


「うん。具体的にどうっていうのは説明できないけど、とにかく隣の国……えっと、ゲススギール帝国には注意してって、デューク様に伝えてほしいの」


「ふぅン?」


 王都で私を誘拐した『何でも屋』は、なぜか私を母親のように慕ってくれている。

 あの時は幼女の姿だったから、大人の姿になったらやめるかと思っていたけど、変わらず「お母様」と呼んでくれた。なんか、ちょっと嬉しい。


 そんな彼は、私が一人になると現れる。

 今もカイトたちとダンジョンを探索しているところ、見張りで私だけ起きていたらヌルッと出てきたよね。ヌルッと。


「来るときは私たちについてきたんだろうけど、ダンジョンから出るのに単独で行動するとか、大丈夫?」


「単独行動は慣れるし平気だヨ。でも、言わなくてもお父様は知ってると思うけド」


「知ってるって、何を?」


「そろそろ隣国が動き出すってやツ。お父様も言ってたかラ」



お読みいただき、ありがとうございます。

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