22、家族が増える辺境伯
王都から少し離れた、とある貴族の屋敷から強い魔力が感じられる。
その騒動を見守りながら、俺はひとり、銀髪の男と向かい合っていた。
男のうっすらと開く細い目は、まるで傷のように赤い。
「なぜ追加の依頼を受けなかったのか、聞いてもいいか?」
「……英雄と呼ばれる辺境伯さマ?」
「英雄かどうかは知らんが、辺境伯ではあるな」
「なるほド。やはり追加の依頼を受けなくて正解だったネ」
満足げに頷く『何でも屋』は、鼻歌でも歌いそうな雰囲気で手に持つ袋を振ってみせた。ジャラリと重たげに鳴る音から、中身は金貨だろう。
「正解?」
「だってあの子を殺したら、僕は殺されル。それじゃあ意味がないでショ」
「……確かに、そうだな」
「それと、もうひとツ」
人を殺すことも厭わない、闇の界隈でトップと呼ばれる蛇苺。
そんな恐怖の権化である男が、なぜか急に身をくねらせ、ポッと頬を染めて言った。
「あの子、僕が呪われているのかって、心配してくれタ」
「は?」
何を言っているのか意味が分からん。あと頬を染めるのをやめろ。
「僕の目が赤いの、呪いの目だって皆から言われてル。そう言ったら本当に呪われているのかって、心配してくれタ」
「ああ、まぁ、あの子は優しいからな」
「優しイ。そして、とても綺麗なひト」
「おい、ちょっと待て。まさかお前……」
嫌な予感がした俺は続く言葉を止めようとするが、ひたすら身をくねらせ、頬を染めながら奴は思いの丈を叫ぶ。
「そう! あの子だヨ! やっと出会えタ!」
「やめろ! ダメだ!」
「きっと、あの子が僕のお母様なんダ!!」
「……はぁ?」
思わず間の抜けた声を出す俺に向かって、赤い目を見開く蛇苺は、恍惚とした表情のまま続けた。
「あの子と結婚する辺境伯様は、僕のお父様だよネ!!」
「ちがいます」
とある貴族たちを魔法で捕縛したカオリと事後処理を終えたバスチアンが、清々しい表情で合流する。しかし恐ろしいことに、混沌の場と化していたのだった。
無の状態となっている辺境伯、デューク・ウェスター。
王都でも英雄と呼ばれる彼の足元でガックリと四つん這いになり、ほとほとと涙を落とすのは闇の世界でトップと呼ばれた男、蛇苺。
いや、だって、いくらなんでも「お父様」は無いだろう。即否定した俺は悪くない。
「デューク様、拾ったらちゃんと責任もって世話をしないと……」
「拾ってない」
「孤児だった我らを拾うならまだしも、こんな成獣をどうすれば……」
「だから拾ってない」
成獣って……いや、確かに獣と言われれば、そのとおりなのかもしれんが。
呆れるバスチアンの視線を辿ると、なんと愛らしい幼女が、泣いている男の頭を撫でているではないか。
「なかないで。いいこ」
「お母様ぁ……」
「え? なんでおかあさま?」
ですよね。そう思いますよね。
カオリさん、ガツンと言ってやってくださいよ。
「だって君は、優しいし、綺麗だかラ」
「むすこー!!」
ちょ、カオリさんっ!? 何ほだされちゃってんの!?
「おめでとうございますデューク様。ご結婚前に、まさかお子様ができてしまうとは……これが異世界で有名な『できちゃった婚』でございますか」
何をわけのわからんことをほざいてやがるバスチアン。
あと別にできちゃった婚は有名じゃないし、『授かり婚』とも言われているのだぞ。前世じゃ縁がなかったから、そこらへんはあまり知らんけどな。
「デュークさま。ちゃんとごはんもさんぽもするから、いいでしょ?」
幼女の姿で上目遣いとか、卑怯ですよカオリさん。
ああ、もう、しょうがないな。
「好きにしろ」
「わーい!」
「わーイ!」
「よかったですね。カオリ様と……ペットの蛇様?」
「蛇じゃないヨ。蛇苺だヨ」
「失礼いたしました。ペットの蛇苺様」
「よろしくネ」
ペットはいいのか?
そして、闇の世界でナンバーワンだった男が、幼女のペットでいいのか?
遠い目をする俺に、精霊たちが集まってくるのが分かる。慰めようとしてくれているらしい。
最悪、蛇苺と対決するつもりだったから普段より多めに集めていたが、必要なかったかもな。
集めた精霊たちを散らしていると、バスチアンが俺に問いかける。
「もしや、森の主を呼び出すおつもりでしたか?」
「いや、精霊魔法を使う気はなかったぞ」
「さすがですね」
「精霊が勝手に何かすることもあるがな」
「えげつないですね」
珍獣なペット蛇苺を加えた俺たちは、とっとと領地へ戻ることにした。理由は二つある。
ひとつは、カオリが多くの貴族から狙われているということ。
もうひとつは、蛇苺が『何でも屋』を廃業したことで、とある闇組織がザワついているからだ。
「お前、組織には入っていないと言っていたよな」
「もちろン。蛇苺はひとりだからネ。他には蛇檸檬、蛇蜜柑、蛇西瓜とかいたけド」
「……それが組織ってやつだ。覚えておきなさい」
「はーイ」
「イチゴくんは、すなおねー」
馬車の中、カオリの「足元」にいるイチゴと呼ばれた男は、褒められて嬉しそうにしている。
うん。息子というよりもペットだね。まぁ、親子像は人それぞれだから、そこらへんは深くつっこまないようにしておこう。
一連の流れを黙って見ていたバスチアンは、やれやれと肩をすくめる。
「これは、帰ってからの説明が大変ですね」
「説明?」
「ペットとはいえ、息子が増えるのです。古参の子どもたちにも、ちゃんと説明してやらないと」
「……そうだな。もちろん、一番上の息子も手伝ってくれるのだろう?」
「まったく、世話の焼ける親ですね」
そう言って「イチゴ」を見るバスチアンの目は、意外にも優しいものであった。
お読みいただき、ありがとうございます。
もちだ作品コミカライズ
『オッサン(36)がアイドルになる話』のコミックス2巻が発売中です!
店頭在庫がないところもあるとか、ないとか?(どっちだよw)
素敵な漫画にしてもらえたので、ぜひともよろしくお願いします!




