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2、ダンジョンとネズミを発見!

本日、2話目です。


「遅い。遅すぎる」


 前世で見た、どこかの県にある銘菓のCMみたいなことを呟いた俺は、側に控えるバスチアンに目を向ける。


「おい、本当に来てないのか?」


「来ていない、とは?」


「領内にダンジョンがあるのを発見したとか、ハンターギルドでとんでもない新人が出てきたとか」


「そのような報告はありませんが」


 バスチアンが訝しげな表情で見てくるが、俺はそれどころじゃない。

 主人公が現れないとなると、領地は活性化しないし俺の仕事は増える一方なのだ。

 国境も近いため、これまでそれなりに兵力があるものの、領内で何かが起きた時に攻め込まれたら一発アウトだ。

 なぜ早くダンジョンを発見してほしいのか。

常に戦力不足に悩まされていたこの領地にダンジョンがあると分かれば、名だたるハンターたちが集まってくるだろう。人が集まれば戦力不足は解決し、ダンジョンから得られる資源によって領内が潤っていくという寸法だ。


「はぁ……『主人公』はともかく、ダンジョンだけでも見つけておくか……」


「デューク様、その前世の記憶とやらでダンジョンを見つけようとされているのですか?」


「ああ、そうだ」


 まるで残念な子を見るような目で俺に言葉をかけるバスチアン。

 よし、お前の休みは俺と完全に連動させてやろう。


「失礼いたしました」


 ちっ、心を読んだか。

 王都ではいくらでも腹芸ができる俺だが、バスチアンの前ではつい気を抜いてしまうらしい。つい感情が顔に出てしまい、心の機微を読み取られてしまう。


 俺が前世で読んでいた『異世界に勇者召喚されたけどダンジョンで無双する』通称『ダンむそ』は、とある小説サイトで連載されていたものが書籍化された大人気作品だった。

 書籍化されて買おうと思っていたところから記憶がないから、きっとその前に俺は死んでしまったのだろう。


「そうか。もしかするとウェブ版と書籍版は違うのかもしれない」


 こうなると、もはや主人公カイトの動向はまったく不明の状態になる。隣国で行われる勇者召喚は極秘だろうし、ここにカイトの情報がくるには彼自身が動く必要がある。


「後手に回るしかないのか……?」


 いや、そんなはずはない。主人公たちが今どこで何をしているのか知らなくとも、分かっていることがある。


「バスチアン、今日の予定は?」


「いつもの決済書類を確認することです」


「よし。それは明日に回そう」


「後で地獄を見ますよ?」


「よし。午後から手をつけよう」


 俺は部下の言葉をしっかり聞く上司なのだ。


「それで、午前中は何をやらかすおつもりですか?」


「やらかすって言うな。お前が信じようとしないからダンジョンがある場所に行くぞ」


「は?」


 冷静沈着なバスチアンが珍しく口をぽかんと開けたままになっている。

 それもそのはず。ダンジョンとは便宜上そう呼ばれているだけで、実は魔獣などと同じ存在だ。

 外見は洞窟の時もあれば城や塔のような建物だったりもするが、すべてのダンジョンには最深部にコアと呼ばれる大きな宝石がある。

 それを壊すとダンジョン自体も無くなってしまうのだが、よほどのことがないかぎりコアを壊すことはない。


 ダンジョンは魔獣という危険な生物がいたり、罠が仕掛けられていて入った者は命がけで探索することになるが、その分素材や資源になるようなものが採取できる「実入りのいい」場所になるのだ。


「場所は分かっている。ほら、行くぞ」


 俺は設定資料として公開されていた地図の詳細を覚えている。この領主館からそんなに離れていない場所にあったはずだ。

 書籍版で変更されていることもあるかもしれないが、本編を全て改稿するようなことがなければ同じだろう。

 できれば、そうであってほしいと切に願っている。







 俺の願いが届いたのか、ただただ作者と編集者が面倒だっただけなのか。

 主人公が見つける予定のダンジョンは、あっさり発見した。俺が。


「まさか……本当のことだったとは……」


「腹心の部下だと思っていたのに、まったく信じてくれないんだからな」


「信じていますよ。いつだって自分自身を」


「いやだから、俺を信じろって話だろうが」


 ため息混じりに言った俺は、一瞬で力を練り上げると周囲に向かって放つ。


「お見事です」


「後は頼むぞ」


 めったに領主館から動かない俺がどこへ向かうのかを探る何者かの頭を、とある力で作ったボールで脳を軽く揺らしてやれば脳しんとうを起こす。

 いつもなら放っておくけど、今回はダンジョンを発見するという場合によっては国をも動かすトップニュースになる案件だ。

 なぜダンジョンまでついて来させたかって……ほら、現物を見せておけば自分たちがこの先どうなるかは理解できるだろうし、いい加減つきまとわれるのがウンザリしていたんだ。


「こんな極秘情報を見ちゃったら、たとえ自国の貴族が差し向けた密偵だとしても、隣国の密偵と同じ対処をするしかないからなぁ。ははは、かわいそうになぁ」


「さすが、正式には『薔薇のごとく美しき辺境伯は毒の棘を持つ』と言われているだけありますね」


「おい、それはお前みたいな部下のことを言われているやつだろう。棘は俺じゃない」


「ご冗談を」


「はぁ、せっかく給金を増やしてやろうと……」


「さすがデューク様です。素晴らしい記憶をお持ちだったのですね。このような主君を持った自分が誇らしいです」


「お前、俺のことを褒めているように見せかけて、ただ自分を誇っているだけじゃねぇか」


「そうでしたか?」


 そんな会話をしながらも、バスチアンは素早く指示を送り移動させている。俺はスリのグループを束ねていたバスチアンに目をつけたのは、彼の統率力もそうだがグループ全体の機動力だった。

 バスチアンは俺の命令を絶対守るが、彼の部下たちは俺の命令が絶対ではない。

 その理由は色々あるけれど、まぁ、そうしないと身動きがとれなくなる時があるとだけ言っておこう。


「さぁ、帰るぞ」


「このままで良いのですが?」


「一応、この周辺に俺の『見張り』をたてておく」


「わかりました」


 森の草木に『見張り』をつけた俺は、バスチアンと二人で領主館に戻ることにした。


 書類が山となっているであろう、あの地獄のような場所へと……。


お読みいただき、ありがとうございます。

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