19、巻き込みたくない辺境伯
王城の一角とはいえ、王家のお膝元で開催された茶会ということで、かなり厳重な警備だったようだ。
その一端を担う近衛騎士アレクは、相変わらずカオリを膝にのせたままの俺を残念そうな目で見ると、ひとつ咳払いをしてから姿勢を正す。
「国王様と王妃様のご伝言は以上でありますが、もうひとつ確認すべきことがあります」
「確認すべきこと、とは?」
「ダンジョンのことです」
アレクが言うのは、カオリたちが見つけたダンジョンを発見した報告の続報がほしいというものだ。
この世界でのダンジョンというものは、それぞれに特性を持っている。
鉱物や植物などが多く魔獣が少ないダンジョン。魔獣や罠などが多いが、所々にアーティファクトと呼ばれる貴重な物があるダンジョン。
特に人間にとって有益なものを多く生み出してくれる「当たり」ダンジョンは、その土地を潤すものとされ、国が管理することが多い。
「監査官殿は、どのように見えた?」
「……自分が入ったのは浅い部分ではありますが、深くなるにつれ魔獣が強くなっていきました。まれにですが宝箱も出現していまして、なかなか高価な武器などが入ってましたね」
「そうだな。ダンジョン発見者として、カイト殿たちが自由に出入りできるのであれば、管理はお任せしようと思う」
「よろしいので?」
「国がすぐにどうこうできるようなものではなさそうだからな。我が国の騎士全員がアレク殿ほどの実力を持っていれば、話は別だろうが」
「あはは、確かに。あのダンジョンを攻略するならば、特級ランクを持つ者たちを呼ばないと」
アレクはカイトたちの強さを知っている。そして彼らの強さがまだ、限界に達していないというところまで理解しているのだろう。
「デュークさま?」
膝の上に行儀よく座っているカオリが、心配そうに俺を見上げる。やっぱりかわいいなと思いながら頭を撫でてやり、安心するよう彼女に言う。
「大丈夫だ、カオリ殿。あのダンジョンはきっと貴女たちを助けてくれるだろう。悪いようにはしない」
「ふぇ、は、はひ……」
撫でると赤くなる生き物となったカオリ。そのかわいさにニヤニヤしていると、アレクが頭を抱えて「一体どうしろってんだ……」などと呟いている。
ん? 何か問題でもあるのか?
「お茶のおかわりはいかがでしょう?」
「頼む」
バスチアンの言葉で、幼女なカオリ愛でるモードから辺境伯モードに切り替える。
そうだ。アレクに聞きたいことがあったんだ。
「ところで、ここまでカオリ殿を巻き込んで、国王陛下は……義兄上は何を求めている?」
「ウェスター辺境伯の王都へ来られる頻度を上げていただきたいようです」
「そうか」
色々やらかしてしまった覚えはある。姉はともかく、ルークには隠していたつもりだったんだが……カオリが絡むと、つい歯止めが効かなくなる。
間者たちの目は誤魔化せたはずなんだけど。
「辺境伯様の力を貸して欲しい、とのことです」
「私が陛下に力を貸す?」
「王国最強と謳われた、剣士デューク・ウェスター様が力になるのであれば、きっと陛下も心強いでしょう」
前世の記憶が戻る前に魔獣討伐無双とかしていた、あの時の自分を殴ってやりたい。
まぁいい、俺が精霊魔法を使えることが国王にだけバレてるくらいなら、大きな問題にはならないだろう。
それよりも、アイツが俺の力を借りたいってところが気になる。そこまで切羽詰まった現状になっているのなら、色々と心構えが必要になる。
小説では常に「他国でキナ臭い動きがある」という伏線が張られていたような気がする。俺の前世の記憶が戻ったことで、細かい流れは変わってしまったかもしれないし。それでも、大まかなものは変わらないのだろう。
魔獣の群れはともかく、人間相手の争いなんかにカオリたちを巻き込みたくはない。
それだけは絶対に阻止しないと。
「アレク殿。陛下には、何かあれば『私が』出ると伝えてくれ」
「……わかりました」
俺の考えていることが、アレクには分かったようだ。
それでも少し不満気にしているのが気になって、彼に釘を刺しておく。
「私以外の力を求めるならば、辺境伯の座をおりようと思う」
「そ、それは!」
「ははは、私一人くらい消えても、この国がどうにかなるものではないだろう」
「いえ、しっかりと陛下にお伝えしておきます!」
そこまで分かるとは思っていなかったけど、案外アレクは辺境の重要性を知っていたらしい。
他の貴族でも統治できるだろうけど、それ以外の諸々をどうにかするには精霊の力が不可欠だからな。
報告をするためと、慌てて部屋を出て行ったアレクに苦笑していれば、タイミングよくバスチアンが冷たい飲み物を出してくれる。
「デューク様」
「ん? なんだ?」
「王都での噂など解決しましたし、そろそろ……」
「ああ、一度領地に戻らないとな」
「いいえ、そうではなく……」
「一体なんだと言うんだ」
「そろそろ、カオリ様をお膝の上から解放されてはどうか、と……」
「はっ!?」
慌てて自分の膝にいる彼女の顔を見れば、すっかり赤く茹だってしまっている。
「大丈夫か! カオリ殿!」
「無意識なのかは知りませんが、会話の合間にデューク様がカオリ様の頬を指でスリスリしたり、何度も頭を撫でたり、口づけしたりしておりましたからね」
「く、口づけ!? 嘘だろう!? なぜとめなかった!?」
「申し訳ございません。口づけは嘘です」
「そうだろうて!!」
「頭に口づけされてました」
「だからなぜとめなかったー!!」
これだけ騒いでも大丈夫なのは、バスチアンが部屋に結界を張っているからだ。
だけど騒ぐ要因を作ったのもバスチアンだから、絶対に礼なんか言わないからな。
容量を超えたカオリが意識を失い、俺の膝の上で幼女から元の姿に戻ってしまう。
とりあえず俺は、バスチアンの給料を上げておくことにした。
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