18、噂を振り回す辺境伯
「ねぇ、生まれ変わりってご存知?」
「もちろん存じておりますわ! かの辺境伯様の恋人でしょう?」
「身を呈して辺境伯様をお守りしたそうですわよ」
「勇気のある女性でしたのね……」
「ほら、ご覧になって。もう片時も離さないといった雰囲気ですわ」
「まぁ! いつも無表情の辺境伯様が、微笑んでらっしゃるなんて!」
「愛ですわ!」
「愛ですわね!」
王城の一角にはバラ園がある。
とある穏健派の貴族主催の茶会は、天気にも恵まれ庭園で開催されることとなった。
場所が王城になったのは、王妃……姉上がごり押ししたからだ。
いつもなら色とりどりのドレスに囲まれる流れになるはずが、今回は遠巻きにされている。会場が外というのもあり、空気もうまい。
国王との謁見改め、突撃王家のティータイムを終えた翌日。
なぜか乗り気のカオリ(幼女バージョン)と一緒に、貴族たちの茶会に参加している。
そこで話題の中心になっているのは、俺とカオリのラブロマンス(捏造)だ。
「本当に良かったのか? カオリ殿」
「だいじょうぶです。デュークさま、こまっていたようなので、わたしにできることがあればちからになりたいです」
そう言いながら顔を赤くしてモジモジしているカオリは、幼女の外見だからかいつも以上に愛らしい。思わず抱きしめたくなるのを我慢しながら、彼女を見て愛でるだけにしておく。
それにしても、カオリは昨日から顔が赤くなることが多いが……もしや風邪でもひいたのだろうか。
「僭越ながらデューク様、少々よろしいでしょうか」
「ん? なんだ?」
「昨日の国王陛下とのお話し合いでもそうでしたが、なぜデューク様はカオリ様をずっと膝に抱いてらっしゃるのです?」
「は?」
カオリを膝にのせている……だと?
確かに彼女の顔が近いし、つむじもよく見える。たまに髪からいい匂いがするのを楽しんでいるのも否定しない。
「ずっとじゃないだろう。今は意識してやっているぞ」
「では、昨日は無意識だったということでしょうか」
「昨日も? ……カオリ殿、バスチアンの言ったことは本当か?」
「うう、はい、あの、は、はずかしかったですぅ……!」
ぷしゅーっと湯気が出たかと思うくらい、顔どころか手まで真っ赤になったカオリが愛らしすぎて鼻の奥が熱くなってしまう。落ち着け自分。
そんな顔を隠したいのか、俺のジャケットに顔を押し当てているのがもう……もう……っ!
「デューク様、お静まりください」
「……ああ」
バスチアンからそっと冷えた飲み物を渡され、一気にグラスを空にした俺は何度か深呼吸をする。
俺は貴族。俺は辺境伯。
よし。仮面復活。
それにしてもヤバイな。
何がヤバイって、無意識に俺はカオリのことを可愛がっているってところだ。
どおりで昨日はルークも姉上も、俺を見てニヤニヤしていたわけだよ。
彼らはカオリが幼女じゃないと知っているはずだし、ダンジョンの発見者としても報告していたし。たしたし。
「カオリ殿……いやカオリ、こんなことに巻き込んですまない。ダンジョンの攻略以外でも、困ったことがあれば何でも言ってくれ」
「な、なんでもですか?」
「ああ、なんでもだ」
「そういわれても……」
俺を涙目で見上げてくるカオリをどうしてやろうかと思いながらも、邪な気持ちを一切出さず微笑みをなんとかキープしておく。
バスチアンが残念なものを見るような視線を送ってくるのが気になるところだ。
ははは減給かな。
俺の膝の上でおとなしく茶菓子を食べているカオリに、バスチアンは紅茶の入ったカップを差し出した。
「カオリ様は精霊魔法の基本は学び終えたのですよね?」
「はい。もうひとりでれんしゅうできます」
「精霊は視えましたか?」
「みえません」
「でしたら、デューク様の魔法授業を再開してはいかがでしょう。精霊の多いところ……たとえば花畑などで実技をされるとか」
おいバスチアン、なんてことを提案しているんだ。
カオリはカイトたちとダンジョンを攻略するのに忙しいんだぞ。それに元の世界へと戻る方法を探しているんだから、彼らの邪魔になってしまうだろうが。
心の中でバスチアンにダメ出しをする俺に、カオリはふんわりとした笑顔を見せてくれる。
膝の上にいるから自然と俺を見上げる形になっていて、めちゃくちゃ可愛い。
「まほうのべんきょう、できたらうれしいです! おねがいできますかデュークさま!」
「もちろんだカオリ殿。食べ物を包んで、昼を外で食べるのもいいだろうな」
「わぁ、たのしみです!」
うむ。バスチアンにはボーナスを出してやろう。
神から得た力のおかげで、カオリは幼女のまま1週間過ごせるとのことだった。
夜は元の姿に戻って寝ているため、起きている間ずっと幼女でも魔力が切れて倒れるようなことはないそうだ。
「それで、アレク殿はなぜここに?」
「今回のお茶会は、やんごとなき方々が集まってますからね。警備ですよ」
「近衛騎士とは、主に王家の護衛をすることが任務では?」
「その王家からの依頼でして」
茶会がひと段落ついたところで控え室に入れば、そこには金髪碧眼の騎士が待っていた。
カオリが笑顔で「アレク!」とか呼ぶもんだから、つい眉間にシワが寄りまくってしまう。なんで俺は呼び捨てにしてくれないんだ。
「デュークさま? だいじょうぶ?」
「……大丈夫だ。それでアレク殿は何用で?」
「王妃様からのご伝言で『なかなか楽しませてもらった』とのことです」
「まったく姉上は性格が悪い」
「それと国王陛下から『あと五年の猶予にしておく』とのお言葉です」
「それが妥当か」
いくら社畜並みに忙しくしていても、伯爵位を継いでいるかぎり後継を残さないといけない。できれば姉夫婦の子に継いでもらいたいなぁとか思ってるなんて……。
うん。五年くらいは黙っておこう。
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