16、王都が嫌いな辺境伯
王都にあるタウンハウスには人を置いていない。
この家はウェスター家のものではなく、王家が俺が領地に帰るのを引き止めようとして作ったものだからだ。
王都に来た時、ここに滞在しないとうるさいから仕方なく使っているけど、うちの使用人を置く気にはならない。
その理由は……。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「……ご苦労」
王家から人を寄こしてくるんだよなぁ。
ずらりと並んだ使用人たちを見て、俺は小さく息を吐く。
彼らは悪い人間じゃないんだけど、バスチアンを相手するように気を抜けないから、とにかく疲れるんだよね。
「身の回りはバスチアンに任せる。食事の用意は三時間後に頼む」
「かしこまりました!」
部屋の中に荷物を運び入れてくれた青年が、キラキラと輝く目で俺を見て一礼した。
うん。いたたまれない。
キラキラ青年が部屋を出たところで、バスチアンが耐えきれないといった感じで噴き出す。
「デューク様の武勇伝は、未だ王都の人たちに大人気のようですね。ぷぷっ」
「うるさいぞ、バスチアン」
俺が人気なんじゃない。
若い頃、辺境の地で傭兵団と魔獣相手に大暴れしていた厨二病まっさかりの俺を、陛下……その頃は王太子だったアイツが面白がって一冊の本にまとめやがった。本人に許可を得ずに、だ。
娯楽本として、貴族だけでなく庶民にも人気を博した『とある剣士の放浪記』は、どこのものとも知れぬ流れの剣士が実は貴族という設定が、この世界の人々の心を鷲掴みにしたらしい。
主人公の素性は隠していたはずだが、知らぬ間に俺がモデルだということが広まっていた。
「ルークめ……絶対に許さん」
「反逆罪になるので、我慢してください」
今や国王となったルークは、王妃になった姉と共に幼なじみという仲だ。
嫌ってはいないが、やたら俺で遊びたがるのはいただけない。
「いざとなったら国を出るし、構わないだろう」
「あー……デューク様にそれを言われたら、陛下が泣いちゃうと思うので、勘弁してやってください」
「そうか?」
珍しく殊勝な様子のバスチアンに、俺は首をかしげていた。
「え? デューク様が嫁探しをしている?」
「これは確かな情報だよ! カオリ姉!」
ダンジョンの探索に一区切りついたところで、ユウコはカオリに詰め寄っていた。
こうなったユウコは止められないと、カイトは進んで見張りに立っている。彼の気づかいスキルは日々爆上がりのようだ。
「ユウコちゃん、それが本当だとしても私たちには関係ないよね?」
「関係ありまくりだよ! もう! にぶいなぁ!」
長年カイトの好き好きアピールを受けているくせに、まったく気づいていないユウコから「にぶい」と言われたカオリは、思わず顔をしかめる。見張りに立っているカイトも苦笑いだ。
「なんで私に関係あるの?」
「だって、カオリ姉は辺境伯様のこと好きなんでしょ?」
「へ?」
きょとんとした顔をするカオリに、ユウコはやれやれと肩をすくめてみせた。
「他の人の行動に我関せずのカオリ姉が、辺境伯様が何かするたびに目で追っているんだもん。いやでもわかっちゃうよ」
「そうなの?」
そう言いながらカオリが弟を見れば、苦笑してうなずいている。そんなに分かりやすかったのかとカオリはみるみる顔を赤くしながら、もじもじと指をからませて言い訳する。
「べ、別に、好きとかそういうんじゃないの。たまに先輩みたいだなって思うことがあって、そこから気になっちゃって……」
「先輩って、姉さんが勤めていた会社の?」
「あのブラックなやつ?」
「ふふ、そうそう。よく覚えていたね」
年少組二人に言われたカオリはクスクス笑うと、膝をギュッと抱えこんだ。
敵を警戒しているカイトは、この世界にきてから姉の笑顔が少し陰っていることに気づいていた。事故に遭う直前、庇ってくれた『先輩』を心配しているのもあるだろうが、しかし……。
もしかしたら気づいているのかもしれない、とカイトは思う。
自分たちが光に包まれたその時、カイトが見た景色はあまりにも凄惨なものだったから。
それでも……。
「バスチアンさんのおかげで、この世界のことを勉強して、剣や魔法の腕も上がってきている。大丈夫だよ姉さん」
「……うん、そうだねカイト」
「姉さんの読んでいた小説どおりなら、元の世界に戻る方法もダンジョンで見つかるみたいだし、この調子で頑張っていこう」
「うん」
うなずく姉の笑顔がさっきよりも明るくなったような気がして、カイトは少しだけホッとしていた。
どこから聞きつけたのか、この時期に王都にいる貴族たちから夜会や茶会の誘いがガンガン飛んでくる。
もちろん、そんなもの今は後回しだ。
「まずは登城して陛下に挨拶をしないとだからな」
「それが終われば、断りづらくなってしまいますよ」
「はぁ……これだから王都に来たくないんだ」
眉間のシワが深くなっていくのが自分でも分かる。
王家との繋がりがあるせいで、貴族たちが自分の縁戚の人間を嫁に勧めてくるから本当に鬱陶しい。
婚約者がいれば……って思うけどダメなんだよな。ピンとくる女性もいないし、政略結婚なんて論外だ。
「国王陛下へのご挨拶が済みましたら、いくつかは受けていただかないと」
「わかっている。茶会くらいは受けるさ」
「夜会は危険ですからね……間に合うといいのですが」
バスチアンが何か呟いているが、俺はそれどころじゃない。
後回しにしている招待状を手に取り、比較的『良識ある』名前をピックアップしておくことにする。
肌の露出度が高い女性が群れている夜会は、絶対に断ることにしよう。
肉食女子の肉まんじゅう、マジ怖い。
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