14、次から次へと嵐はくる
前世の俺は、女性が苦手だった。
真面目だった学生時代はとにかく勉強ばかりで女子との会話はほとんどなかった。
社会人になり彼女がいたこともあるが、ブラックな会社だったため長続きしない。というかできない。
それなりに大手企業だったせいか、社名に釣られて寄ってくるのは派手な化粧や香水を身にまとい、ひたすら男に媚びるような女性ばかりだった。こっちが尽くさないと振られるのが関の山だ。
そして、今世でも俺に寄ってくるのは、伯爵という地位と外見に釣られるご婦人方ばかり。
うう、強すぎる香水が何種類も混ざり不快な匂いになっているし、なんだか気持ち悪くなってきた……。
「デューク様!」
ぶわっと一陣の風が吹き、爽やかで清涼感のある香りが一気に流れ込んでくる。
むちむち押し付けられた肉まんじゅうはそのままだけど、呼吸が楽になったのはありがたい。いや、俺も精霊使えばよかったんだよな。ははは。
「大丈夫ですか! デューク様!」
「カオリ殿」
どうやらこの風はカオリにつけている精霊『香風』が放ったものらしい。我ながらいい仕事をしているなぁ。
すると肉まんじゅうの持ち主たちがカオリに気づき、嫌悪感をあらわにしたまま彼女を睨みつける。
「なんですの、この小汚い平民の女は。貴族同士の会話に割って入るなど」
「しかもウェスター様を名前で呼ぶなんて、なんという礼儀知らずなのかしら」
「嫌ですわ、すぐにここから離れましょうウェスター様」
口々に好き勝手言う貴族の女たちに、さすがに俺の分厚い『辺境伯仮面』にヒビが入っていく。
すると突然、女たちに向かってカオリが両手を組み、まるで何かに祈るようにうつむいた。
「どうかおゆるしください、おきぞくさま。デュークさまは、いつもおやさしくしてくださるのです」
そこにふわりと風が舞い、カオリの艶やかな黒髪が揺れる。ゆっくりと顔をあげたその目は涙に濡れ、周囲の人々の庇護欲をそそらせた。
ん? ちょっと待て。
「あ、あら? 子ども?」
「さきほどの娘は……?」
「見間違いかしら?」
肉まんじゅうの圧力が一瞬ゆるんだ隙に、俺は素早く抜け出して黒髪の幼女を抱き上げる。
「どうしたカオリ、親とはぐれたのか?」
「デュークさま……おとうさん、どこかいっちゃったの」
「ははは、父親はお前がどこかへ行ってしまったと思っているだろうな……失礼、この子を送ってくる」
幼女を愛でる美丈夫という図は誰得なのかなどと、きっと考えちゃいけないやつだ。
護衛たちに送らせるとか後ろから聞こえてきたけど、知らないふりで精霊たちに肉まんじゅうをおしくらまんじゅうしてもらった。あとで屋台の甘味を精霊たちにふるまっておこう。
「デュークさま、おろしてください」
「すまないカオリ殿、もうしばらくこのままで」
「うう、さすがに恥ずかしいです」
「今の姿なら恥ずかしいことはないだろう」
姿を変化させる魔法とはいえ、カオリの中身は立派な成人女性だ。それでも、もう少しだけ彼女のあたたかく柔らかい体を堪能したくて、館に戻るまで彼女を抱き上げたままにしていた。
うん。なんか言い方がエロいな。ちょっと反省。
「デューク様……さすがに幼女趣味の領主とかシャレになりませんよ」
うるさいぞバスチアン。
契約精霊である羽矢風の言っていたとおり、嵐は三日後にきた。
祭りが終わった後だから良かったけど、それなりに建物や農作物の被害があったから無傷ではない。少し早いながらも果樹園の収穫をしておいて正解だった。
そして領主館では、また新たな嵐が吹き荒れようとしている。
「王女殿下、なぜこのような田舎町に来られたのです?」
「だって、王都では『辺境に咲く孤高の薔薇』と呼ばれる貴方が、とうとう花嫁を探し始めたと噂に聞きましたの。これは大変だってお父様が私をここに寄越したのですわ」
「国王陛下が?」
いや、それよりも王都で『孤高の薔薇』とか呼ばれてるとか、初めて聞いたんですけど。
マジで呼び名を増やすとかダメだから。
俺の背後で長いこと微振動しているバスチアンの腹筋が心配だから。
「私がここに滞在していることで、虫みたいに群がる貴族たちは貴方の領地から出て行ったみたいだし、虫よけだと思えば良いのです」
「そのような乱暴な言いかたはやめなさい」
「はぁーい、デューク兄様」
「もうすぐ成人だというのに、いつまでも子どものようだなエリーは」
現国王の正妃はウェスター伯爵家から嫁いでいる。
今、俺の目の前で優雅に茶を飲む美少女は、国王の末娘、エリザベス王女だ。父親譲りのふわふわな金色の髪と、母親によく似た綺麗な顔立ちと紫の瞳を持っている。
俺にとっては姉の娘であり、赤ん坊の頃から可愛がっている姪だ。他にも王子が二人いるのだけど、三人とは王族というよりも親戚の子という感覚で接していたせいか、やたら懐かれていたりする。
「デューク兄様がなかなかお城に顔を出してくれないと、お兄様たちはすっかり拗ねていますわ。お母様もすっかり不機嫌になってしまって」
「まったく姉上まで……建国記念の儀には伺うと伝えておいてくれ」
「ダメよ。私が帰る時は兄様たちも一緒ですもの」
「兄様たち、とはどういうことだ?」
「だって、いるのでしょう? この館には兄様の花嫁候補の方が」
「はぁ?」
思わず間抜けな声を出してしまう俺の前に、バスチアンが仰々しい封蝋が施された書簡を差し出してくる。
王家を表す獅子が蛇を咥えている模様が描かれているから、嫌な予感しかしない。
「それにも書いてありますわ。国王命令として連れてくるようにって」
「はぁ?」
いや、何を言うてますのん。
候補どころか恋人もいたことないのに、何でこんなことになったんだよ……。
……いやだから、無理だっつーの。
お読みいただき、ありがとうございます。
更新、遅くてすみません…!!




