2話~特別なクリスマス・イヴ
12月24日、この日について何を思い浮かべるだろうか?多くの人はこう浮かべるだろう、クリスマス・イヴと。
しかし、ある特定の人物にとってそれは違う意味を持つ、特別な日となる。
ある特定の人物、その中の一人が『八城 良樹』、
そう俺のことだ。俺はおそらく
『その日死ぬことになるだろう』
ある日突然、友達がこう言ったらどう思うだろうか?
『俺はクリスマス・イヴに死ぬんだ』
多くの人は笑い飛ばすだろう。
「おいおい面白い冗談だな?」
「ついに狂ったか(笑)?」
もしかしたら、真剣に心配してくれるかも知れない。
「大丈夫か?相談には乗るぜ?」
その人は素晴らしい人格者だと思うし、その友達は幸せ者だろう。しかし、この後、こう付け加えたらどうだろうか?
「俺、その日に死ぬと、その前の年のクリスマス・イヴまで時間を遡るんだ。」
今度こそ全員、笑い飛ばすだろう。もし、それでも信じてくれて、協力してくれる人が居たら、それはいい人を通り越してヤバイ人だ。
俺はそんな笑っちゃうような能力、いやもうこれは呪いと言ってもいいだろう。それを俺は持っている。
こんなことを話した後で言うのも何だが、信じて欲しい。ちなみに、これが何回目かは覚えていない。最初は誰かに信じて貰おうとしたが、どれだけ仲良くなった奴でも、家族でも駄目だった。まぁ、こんな狂った話を信じてくれるわけがないんだが…。だが、今この話を聞いてくれている君たちには信じて貰える筈だ。なぜなら今、俺は
『ナイフで刺されて死にかけているのだから』
前回、数十回の人生を『消費』して、一人目の襲撃者による死を回避する術を見つけた。しかし、襲撃者は一人では無かった。このルートではこれで二回目だ。
二人目の襲撃者は後、何回分の人生を『消費』すれば突破出来るだろうか。
このループに最初に気づいた時、俺は決意した。必ず抜け出してやると。
もしかしたら、襲撃者にも俺を襲う理由があるのかも知れない。
俺をこんな体質にした奴にも、それ相応のちゃんとした理由があるのかも知れない。
『だが、俺は辛かった、痛かった。』
そして俺は、俺をこうした存在を許さない。
だから俺は、襲撃者と、それと安全な場所で高笑いしているだろう黒幕に、今回も最期の罵声を放とう。
「いつか絶対、俺に手を出したことを後悔させてやる。クソ野郎どもがっ!」
『俺の心臓が止まったとき、世界の時間が止まった。』
一年巻き戻り、そしてまた
『動きだした。』
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もう何回死んだかは数えていない。二人目の襲撃者の攻略がハード過ぎる。何をやっても駄目。そしてきっと、こいつによる死を回避したとしても、また次の死因が襲ってくるだろう。
『2時間に一回死にかけることになっている』
攻略1 降ってくる鉄骨を避ける。
どこを歩いても降ってくるので、近くに建物がないところを歩くことで回避した。
攻略2 車に轢かれるな。
何回避けても轢こうとしてくるので、車通りの少ないところに居た。それでも何回かは車が来たので、全力で2時間逃げ切った。
攻略3 襲撃者に殺されるな
こいつには何回か会う内に、ある弱点を見つけることが出来た。『閉所恐怖症』これがそうだ。
狭い路地を逃げ続けて何とかした。こいつは1時間で何故か諦める。
攻略4 襲撃者に殺されるな?
これが今行き詰まっている所だ。クリア条件も分からない。襲撃者が強すぎる。足も速いし、力も強い、一体どうしろと言うのだろうか?
2時間生き延びると、1時間の休憩があることが分かっている。まるでゲームのようだ。6時から始まるので午後1時から3時までは安全だ。
『何とかしないと、何とかしないと』
俺はそんな、脅迫観念にも似たような物に突き動かされていた。
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~攻略4 数十回目~
「よっ、元気そうだな良樹!冬休みが楽しみだよな~。どっか俺らで遊びに行こうぜ。」
この台詞を聞くのは何度目だろうか。この、死にたくなるような、憂鬱な人生の唯一の救いが、この馬鹿と、葵、綾野と言っていいだろう。
この会話には3つのルート分岐がある、この直前の俺たちの行動などによって、
相良の行きたい場所(動物園)
葵の行きたい場所(水族館)
綾野の行きたい場所(映画館)
これらのどれに行くか決まる。今回は…
「じゃあ動物園にしましょうか」
「おう!良樹もそれでいいよな?」
「全然OKだよ。」
「じゃあ日にちとかは、また後で連絡するね!」
あぁ、本当にこういう時間は幸せだ。だからだろうか、
『あいつらに縋ってしまったのは』
「それなんだが、12月24日のクリスマス・イヴにしないか?」
「いいけど、なんで?」
「いや、今年のクリスマスは、一人で過ごす事になっていてな。かと言ってクリスマス当日は、みんなも忙しいだろうし…。」
ひとつも本当ではない嘘を吐くことに心が痛んだが、一度出してしまった言葉は取り返せない。
「じゃあ、クリスマス・イヴに、みんなで遊びに行こう!大丈夫だよね?」
「うん(おう!)大丈夫(だぜ!)」
「ありがとう、みんな。」
この後、起こるであろう出来事が恐ろしいが、気づかないふりをした。
『その選択がより深く、自分を傷つけることも知らないままに…』