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こんにちは
連投してみました。
臨海違法都市DIVA 三話
氷室を侮っていたかもしれない。防戦一方になるなんて思わなかった。こいつは今まで、闘ってきた中でダントツにつよい。と理沙はおもった。そもそも、氷室のギフト、絶対命中について勘違いをしていたのだ。絶対命中は投げたものだけが必ず当たるという能力ではない。氷室の支配下にあるものを当てる能力なのだ。つまり、持っている剣でも勝手に目標に斬りつけてきたり、槍でも勝手に目標を突こうとしてくる。理沙がまともに攻撃を当てられたのは不意打ちの初撃だけ。青波に『意外と理沙さんって大雑把な作戦で戦ってるんですね。』と指摘されたが、今になってその通りだと後悔している。
(青波に氷室の魔法生物のとこ聞いとけばよかった...)とため息をつきたいところだ。なにしろ、本当に青波の言う通りの『なんかよくわからない生物』なのだ。まず理沙からしてみれば、氷室が御玉杓子といっているやつが腹が立つ。形はふつうのオタマジャクシと変わらないのだが、大きさは頭が50センチほどで、その後ろに申し訳程度に尻尾が付いていて、ちょっとでも衝撃を与えると爆発する。それが空中を泳いで理沙目掛けてやってくるのだ。爆発自体は大したことないが、ぬめぬめしている見た目や爆発による視界不良が苛だたしい。さらに、イライラが募らせるのは雁と呼ばれる三角錐型のヘンテコ生物だ。こいつは雁なんて言うから、鳥には違いないのだが、いかんせん動きが速すぎる。軽く音速はこえるに違いない。大きさは御玉杓子と同じぐらいで、これもやはり三角錐に申し訳程度に小さな羽がついて、超高速でくるくると回りながら襲いかかってくる。こいつらは氷室が空間を拳で殴った時にできる歪みからわいてくるのだ。理沙の強みはワープで戦線離脱、戦線復帰が簡単にできることで、ヒットアンドアウェイと奇襲が持ち味だ。しかし、氷室相手ではあまりにも噛み合わない。御玉杓子と雁が戦線離脱した瞬間に召喚されて、絶対命中と組み合わさることで、どこにいても攻撃が届くからだ。
では接近戦だけで戦えはいいではないか。しかし、そんなアイデアが簡単に打ち砕かれるほどに接近戦でも氷室は猛威をふるった。
接近戦でつかうヘンテコ生物はガルーダと呼ばれており、その名から想像できるかもしれないが、体長1メートル半もある大きな鳥である。クチバシは黄色で、羽根の色は真っ白でツバサの先は赤や青、黄色とカラフルでとても美しい。そしてそのガルーダはなにをされてもクチバシから足まで、一直線にピンと真っ直ぐに伸ばしている。この鳥の足をむんずと氷室は掴み、槍としてつかっているのだ。さらにこのガルーダにも絶対命中が掛かっているため、ワープして後ろを取ろうとしても、自動的に攻撃を弾く。そう考えを整理してみると、理沙にとってますます氷室には死角がないグラディエーターに思えてくる。返す返す攻略法を青波に教えてもらうべきだったと悔いる。しかし、青波は青波でちゃ太郎を必死に食い止めてくれているのだ。今だって、ものすごいやかんが落ちる音がして、向こうも熱戦を繰り広げているのだ。自分がここで頑張らなくては青波に申し訳が立たない。と理沙は気持ちの切り替えをする。気持ちの切り替えは簡単だ。
理沙は大きく息を吸い宣言をした。
「ちょっと、君。あたし今から本気出すけど、いいかしら?」すると氷室が攻撃の手を休め、「ウッス」姿勢を正し、お辞儀で返してきた。なんだか氷室の反応はいまいち掴みにくいが、もしかしたらいい人なのかもしれない。
「よし、じゃあ行くよ!」と理沙は声をかける。向こうも小さくこくりと頷き、再び戦場に火花が散る。
「加速術式《水鏡の庭》発動。」[minus5000]と理沙は叫ぶ。刹那、理沙に追い風の加護がつく。《水鏡の庭》は追い風で術者を加速させ、さらに相対している者には向かい風により、速度が遅くなるという二重の意味を持ったもので、これにより理沙は超高速の打撃を氷室に叩き込む。しかし、これに反応して、ガルーダを振るう氷室の腕も無理矢理その動きについていく。その素早い攻撃の応酬を観ている人々は皆まばたきを忘れてしまうほどの、そんな攻防だった。
理沙がワープして氷室の頭上から足蹴をあびせようとすると、ガルーダがそれを弾き氷室が長い脚を生かした理沙に向けてハイキックを放つ。そのハイキッキを見越していたかのように、理沙は瞬時にワープし今度はハイキックを放った脚の下に潜り込み、足払いをしようとする。するとその攻撃をガルーダのクチバシを地面に突き刺してガード、ハイキックを放った脚のそのままかかと落としに移行させる。理沙はそれを《solesta!》を以って吹き飛ばし、氷室の横転を狙う。しかし、氷室は脚の吹き飛ぶ力を利用して、素早くバク転をし、横転を回避。すぐさま、ガルーダを握っていない左手で空間をなぐり召喚術《Globalization 》[minus3000]を発動させる。
「行け、御玉杓子」と無数に召喚し、理沙への牽制を行う。しかし、理沙は《水鏡の庭》の影響で動きの遅い御玉杓子を優しくキャッチすると、その御玉杓子の群れに投げ返し、その群れごと連鎖的に爆発させる。しかし、氷室はその爆発のなかから、ガルーダの突きを強行し、理沙を貫かんとする。絶対命中によりガルーダは勝手に理沙のほうに突こうとしていくので、氷室は突く動作よりもガルーダの脚を引っ張ることで、ガルーダを戻し、手を離すことで再び突きを繰り出す。この動作により、爆発的な手数を理沙に浴びせる。しかし、あくまでも目標が一つの方向にいる時だけしかこの方法はとれないのだ。これに気づいた理沙はすぐさま、ワープで背後を取る。これに反応してガルーダも背後を突こうとぐるっと氷室によって回される。しかし、この一瞬の動作が理沙の狙い目だった。腹に向けて放たれるガルーダを紙一枚ほどスレスレのすんでのところでよけ、氷室がガルーダを引くよりも先に顔面に
「《solesta!》」
とたたきこむ。さらに氷室が吹き飛ぶ瞬間に手に持ったガルーダを右回し蹴りではたき落とす。いま、氷室は手になにも持っていない状態で吹き飛んでいるのだ。だとするならば、つぎのガルーダを召喚される前に、一気にたたみこめば、かたがつく。理沙はそう思うと、中華屋の壁に激突した氷室に足蹴を食らわせ、さらに吹き飛ばす。この分ならば、先にやられたお返しを返せそうだ。と、思っていたその時だった。理沙の脇腹にガルーダが勢いよく刺さった。
「なんで....」理沙が戸惑いで止まった瞬間氷室は跳ね起き、刺さったガルーダを引き抜いてさらに後ろに下がった理沙に追い打ちをかける。
「えっ...なんで」その答えは空と氷室の頭上にあった。それは歪みと表示であった。それが口を開けてガルーダを吐き出すかのように召喚しているのだ。その数は10。そして召喚術《FAN》[minus1万]の表示だ。
それは氷室の手に何も持ってない時に自動で発動するように定められた術式であり、武器を持っていないと何もできない、という欠点を確実に補う術設定であった。
「君なかなかやるね...あたし勝てる気がしないんだけど—————」
「そんなこと言わないで頑張ってください。俺、応援してますから。」とガッツポーズする。それを見て氷室の硬いイメージとは乖離しているため、理沙は少し戸惑う。
「氷室君、意外と天然?」
「べ、別に天然じゃないですよ。ちょっと舞い上がってるだけです。」とほおをかく。
「まあ、なんかそれくらいの方がやりやすくていいかも。」と理沙は笑う。
「じゃあ、このまま膠着もなんです。さっきは理沙さんから仕掛けてきたので今度はこっちから仕掛けます。」そういうとさらに氷室は新たな術式を発動させる。その瞬間氷室の背中が光る。
憑依術式《Don’t stop the party》[minus100]
この術式が発動された瞬間、宙に浮いているガルーダは光の粒になり、氷室の背中に集まり羽が生える形で収束された。その巨大さは広げた形では幅5メートルぐらいで、中華街の通り3分の1塞いでしまうほどだ。
しかし、この氷室が武器を持たないクールタイムを理沙は見逃さない。瞬時に背後を取り《solesta!》をもって《Don’t stop the party 》の発動無効を狙い、吹き飛ばす。しかし、氷室の憑依術式は理沙の打撃前に完了しており、さらに《FAN》によって召喚されたガルーダが発射され....
●
「ダウト!!!」青波の声が響き渡る。
「青波⁉︎」
「すいません。ちゃ太郎とめるよりも合流した方がいいかと思いまして。」不思議そうな顔をした理沙に青波はにっこりとする。まあ、分断作戦を立てておきながらなぜ来たのだと思っただろうな、と心の中で思いながらも青波は無事に合流できたことに安堵した。
「もう、君ダメじゃない!なんてねー。青波のダウトがなかったら、結構ダメージ受けてたから助かったよ。」と青波にデコピンしながら笑う。
そこにちゃ太郎も到着する。そして、彼は着くなり手を叩き、
「はーい、イチャイチャするのストップちゃた!ムロさんが怒るちゃた。2人とも試合に集中するちゃた!」
というなり、さっきよりも羽が生えて、数段速い氷室がガルーダを手に、理沙の懐に飛び込んでくる。理沙は反応が遅れたが、それを青波は「ダウト」の一言で、ガルーダを消滅させ、理沙をかばうようにカウンターで袈裟にきりつける。
「理沙さん、京平と戦うので背中任せました。」
「任せて!頑張っちゃうんだから」
●
「よし、役者も揃ったわけだし、氷室いくぞ!」
「おう。来い青波」と掛け合うと氷室と青波は互いに中華街の建物の壁を蹴り、あっという間に、駆け上ってしまう。それに続いてちゃ太郎もすたすたと壁を垂直に走っていき、理沙もそのあとを追いかける。
氷室と青波は屋上に到達するとすぐさま青波の横に薙ぎ払った斬撃が飛ぶ。氷室はそれを前転することで間一髪かわし、すぐさま体勢を整えみぞおちめがけ、前蹴りを繰り出す。そこの間に理沙がパッと現れ、氷室の脇腹に《solesta!》をたたきこむ。吹っ飛ぶ氷室をちゃ太郎が屋上から落ちる寸前で体を張り受け止めた。ちゃ太郎はさらに《solesta!》を打つ理沙の追撃を蛇の目傘で受け、傘の破壊に合わせて《蒼氓》を発動させ、《水鏡の庭》を上書きし、理沙の服装を黄緑色の和服にした。
急に動きやすい服装から歩くときは小股で歩かないといけないような和服になったことは、意外と肉弾戦を得意とする理沙にとっては致命的なことであった。さらに、履いていた靴も下駄になったため、パンチを繰り出す時に重要となる足の踏ん張りが効かなくなり、前につんのめってしまう。そのすこしの隙をちゃ太郎は見逃さなかった。
「ほい!」とつんのめる理沙のお尻を足刀で蹴り飛ばし屋上から落としたのだ。そして、その間に氷室はガルーダを《Globalization》で再召喚しなおし、青波とちゃ太郎、氷室という1対2の構図が出来上がった。そして、2人は攻勢に出て、戦闘の流れを再び引き寄せる。そのはずだった。しかし不意に爆発音が炸裂し、ちゃ太郎が屋上から地面に叩きつけられる。
「ちょっと、屋上から落ちたくらいでなにいないと思ってんのよ」と理沙がちゃ太郎のいた場所で仁王立ちしている。氷室も驚いた顔をしていたが、なによりも青波が口をあんぐりと開けたまま固まっている。
「そんな驚くこと?ただワープしただけなんだけど...」と思わず理沙は青波に呆れ顔をむける。ようやく青波も合点がいったようだ。
「あ、うん。わかってたよ。」と、目をそらしながら返事をする。ただ、氷室も襲いかかって来てもおかしくないのに、やはり目をそらしたままだ。
「なんなの、この空気?」
「えっ、いや、 なんというか。」と青波は助けを求めるかのように氷室に視線をなげる。それを感じた氷室はしどろもどろになりながら、
「和服の裾が...」だけ答える。たしかに、裾がめくれて、理沙の色白な脚がのぞいていた。しかし、ただそれだけなのだ。
「いや。なにもそんな恥ずかしいことなのかな?さっきの服のほうがミニスカートだし、露出高かったじゃない。」
「そうゆう問題じゃないというか。和服だと露出が少ないから逆に生脚に妙に目がいってしまって。」
「やめてよ、そう言われるとなんだかこっちも恥ずかしくなってくるわ。わかった、動きにくいし、青波がこの服をダウトして前の服に戻せばいいのよ!」と得意げに理沙は胸を張る。
そこに地面に落ちたちゃ太郎がもどってくる。
「えぇ〜、せっかくの和服ちゃたよ?楽しんだほうがいいちゃた!」
「着物ってちゃ太郎の趣味なのか?」
「そうだちゃた。文句あるか?」
「よし、青波。理沙さんの和服もいいが、ちゃ太郎の趣味なのは許せん。早くもどせ。」
「そうだな。よし氷室、ちゃ太郎押さえとけ。」
「了解」
「やめるちゃたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー」
「じゃあ、理沙さんもどすよ」
「うん。」
「ダウト!」
「「「「.....................................」」」」
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理沙が全裸で立っていた。それも仁王立ちで。斬新!彼女の白く美しい裸体は夜の中華街の中でぼおっと浮かび上がる。すらっと伸びた脚から視線を上にやると、綺麗にくびれた腰、慎ましくも存在感のある胸。さらに、上に目をやると理沙の上気した頬がある。白い肌と真っ赤な頬のコントラストが悩ましい。それには思わず男衆も息をのむ。いや、生唾を飲み込んだ音すら聞こえてくるような、そんな見入り様だ。
そして、やっとフリーズから解け状況を理解した理沙が叫び、
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」といって、膝を抱え込こみ後ろ向きにしゃがんだ。
「君たちなにじっくり私の体見てんのよーーーーー!ばかぁぁぁぁぁぁ!!!!青波あんた責任とりなさいよ!」とさらに怒鳴る。しかし、理沙の膝を抱え込んだ後ろ姿はさっきは見ることができなかった色の白い背中とよく引き締まったお尻に3人は見入る。
「「「やべぇ」」」
「いい加減にしろぉぉぉぉ!!!!青波、あんた服でも被せなさいよ!!」
と、その時ちょうど長い様で短い10分間の試合の終わりの合図が鳴り響き、一瞬で現実の世界に引き戻される。視界が一気にブラックアウトした。
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青波が目を開けると「戻った!服も着てる。よし!」と嬉しそうにペタペタ自分の服を触っている理沙が目に移った。
よかった。あそこで試合終了してなかったら、なんかわからないけど大変なことになるとこだった。と青波は安堵する。後の二人も同様の表情を浮かべている。
「って、あたしがこれで納得するわけないでしょぉぉぉぉぉーーーー!!!!」と理沙がすぐ横の青波の肩を持ってガクガクと揺する。
「あわわわわ」
「青波、あわわわわじゃないわよ!これ、試合中に何やってるのよって話になるし、あたしの裸、観客に中継されたのよ!ちょっとどうしてくれるのよ!バカバカバカぁぁ」と青波に馬乗りになって、理沙がぽかぽかと青波をなぐる。といってもそんなにぽかぽかは強くない。それが逆に可愛いのだが、馬乗りになっているために身体が密着し、裸を見たあとだと変に意識してしまう。
「いや、ちょっと.......ちゃ太郎、助けて」とあくまでも冷静を装おう。しかし助けはなく、部屋には二人ともいない。残ったものは、青波を容赦なく見捨てる、素早すぎる退避に対してのほんの少しの尊敬だけだ。青波はこの状態を絶望した。どうにかしてしまいそうだ。
「まずいな....」
そしてその態度をみて理沙はさらに怒る。
「なにがまずいのよ!しかもなに君だけ冷静なのよ!自分のやったことわかってるの⁈うら若き乙女の服を剥いで、まじまじと観察してたのよ!それをなに?僕はそんなのなんともないですよ、みたいな顔をして!わたしの裸みて興奮しなかったって訳?」
それは今も興奮しっぱなしだけれども、それを悟られてはまずいのだ。硬いものがあたりそうっ!
「いや、違いますよ........」
と青波は視線をずらす。僕も内心は理沙さんの目を見れないほど照れているのだ。しかし、
「もう!あたし一人が裸になるなんて不公平じゃない。青波も脱ぎなさい!」と馬乗りの状態からシャツのボタンに手をかけようとする。
「ぼ、僕がぬぐの?」
「そうよ。なんか文句ある?あたしも全裸になったんだから、君も全裸になるのよ。」
「い、意味がわからない........」
「つべこべ言わずに脱げぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
「そ、そういうなら」と青波は馬乗りの理沙をどけて服を脱ぎ、パンツ一枚の姿になった。
「青波、パンツもぬぐのよ!」
「それは無理です......」
「あたしなんて観客の前で全裸になったんだから、あんたも脱ぎなさい!」と理沙さんが青波のパンツに手をかける。しかし、
「お前らなにやってんだよ。」と梅村マネージャーが血相を変えて、ちゃ太郎と氷室に連れられて飛び込んできた。さっき助けを呼んだのに応えてくれなくて、薄情者と二人を心の中で罵った自分がいたが前言撤回したい。
「そうゆうエッチなことは、ここですることじゃないんじゃない?」と梅村はもっともなことをくちにする。それを聞いて、理沙はハッとした顔をして、半分お尻が出ている僕を見て今していることを理解した。そして彼女は後ずさりして
「完全に痴女じゃない.....」と顔を真っ赤にうつむかせて呟いた。
「まあ、理沙ちゃん。恥ずかしくてビックリしちゃったんだろ?しょうがない。うん。しょうがない。だから、あんまり気にすることないよ。あとね、君の裸は観客には流れてないよ。残念。一瞬でAIがモザイク加工されたから。おじちゃんは残念。」
「ほんとですか、嘘じゃないですよね!って、残念ってなんなんですか」
それを梅村は軽くスルーして、
「嘘じゃないよぉ。あとでリプレイ見るといい。さぁ、試合が終わったらインタビューに答えなきゃ。君たちをオーディエンスがまってるぜ?な?」と手招きをする。
「でも、モザイクかかったとしてもインタビューなんか受けたくないです。」と伏せ目がちに彼女は断る。きっと観客の一部が試合中に裸になってモザイクがかかったということで、性的な目で見られるとわかっているからだろう。
「じゃあさぁ、インタビューでなくていいから、今日の感想を今ちょうだいよ。それぐらいならいいよね?」と梅村マネージャーは優しく笑いかける。それを見て理沙は少なくとも表面的にはいつも通りの理沙に戻って、
「そうね。じゃあ、今日が初めてのタッグマッチで青波との連携して戦うことが経験なくて、大変だったけど楽しかったわ。あと青波、ダウトで助けてくれた時かっこよかったわ。ありがと。」
「こっちこそ、ありがとう。」と青波もパンツ一丁で感謝を述べる。普通だったらいい感じになるはずなのに馬鹿みたいな格好をしていることが悔やまれる。まあ、でも青波は悪い気持ちはしなかった。
「じゃあ、ちゃ太郎たちははヒーローインタビュー行くちゃた!青波も早く服着ろ。アホ!」と馬鹿がにこにこしていう。
「そうだな。まだ勝敗もヒーローインタビュー前だからわかってないし、早く行こう。」と氷室も頷く。
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「それでヒーローインタビューはどうだったよの?」と終了後にコロシアムの廊下で理沙さんがたずねる。
「映像のとおりちゃ太郎氷室ペアが勝ちました。」
そう、あと一歩のところで僕たちは負けてしまったのだ。
ハンニバルの勝敗はサイバーの消費率と与ダメージによって決まる。消費が少なければ少ないほど、効率よくダメージを与え、さらに被ダメージも少ないということで高評価である。これは最初の出資額によっても相当左右される。考えてみればわかるだろうが、極端な例を出すと100サイバー持っている人が10サイバー消費しても1割しか減っていないが、10サイバーしか持たない人が10サイバー使ったら10割つかったことになる。よって、この観点から前評判がとても重要になることはお分かりいただけるだろう。その点ですでにちゃ太郎たちに青波たちは遅れをとっていた。それに加えて、与ダメージについては氷室と理沙との戦闘で相当攻撃を理沙さんが食らっていたようだ。負けるのも当然かと青波は思う。
「えっと、聞きたいのは勝敗じゃないのよ。勝敗はちゃんと実況見てたし、しってるの。そうじゃなくて、あたしについてなんか観客の人達いってなかった?」と彼女はすこし顔を赤らめて心配そうに首をかしげる。
「なんもいってなかったけど.....まあ、僕は男3人でむさ苦しいかなぁっておもったな」と思ったことを口にする。いやいや、そんなことを理沙さんにいってどうするのだ。きっと理沙さんが聞きたかったのは大丈夫だったよという言葉なのだ。今のは明らかに意味のないことだった。青波はすこし自分の馬鹿さ加減を呪った。そして、
「いや、理沙さんを何かいう人たちは誰もいなかったです。大丈夫ですよ。」と急いで付け足した。
「でも、ネットであたしの名前が検索ランキングで一位になってるんだけど.....大丈夫じゃなくない?」と困った顔を見せる。ネットのことなど全く考えてなかった。
「僕がいうことじゃないと思いますが、人の噂も七十五日といいますし、案外すぐ忘れるかもしれないですよ。ただ、僕のせいでこうなっちゃったのは本当に申し訳ないです....」
「そうよ、あたし結構おこってる。まあ、そうは言ってもただの事故だもん。しょうがないといえば、しょうがない。でも、ちょっと恥ずかしかったなぁって。それだけよ。」と上目遣いに僕を見た。
「そんなに見つめないでくださいよ。僕だって照れます。」と思わず言ってしまう。それを聞いてうれしそうに
「青波は顔の表情が乏しいけど、もしかして頭の中ではいろいろなことを考えてる人だよね?」と聞いてくる。
「まあ、そうですね。思ったことが口になかなか出せないんです。だから、よくクールそうに見られるけど、本当は内心結構ビックリしていたり、普通の人間と変わりませんよ。」
「そうだよね...じゃあ、性格が誤解されやすいっていうのはあたしとおんなじかも。ほら、あたしって試合一緒にして気づいたかもだけど、話はあんまり聞かないし、いい加減だし、結構男っぽいでしょ?でも、周りからは繊細だと勝手に決めつけられたりして、大変なのよ。」と笑う。釣られて青波も笑い
「僕も理沙さん、美人だし気は強そうと思ってたけど、やっぱり今日会うまで繊細な人だとおもってました。」といった。
理沙さんはほっぺたを膨らませて、「もう」と怒ったふりをし僕の頭を軽くぺしっとたたいた。そして、思い出したかのように
「あ、そうそう。まだお昼過ぎじゃない?あたし、家に帰ってもやることないし、これからどこか行かない?」と提案をしてきた。
「それじゃあ、植物園にいきませんか?試合後はいつも地下植物園にいってくつろいでるんです。他にもグラディエーターの奴らがいると思うので親睦を深めることを兼ねてどうでしょう。」と答えると理沙は大きな目をさらに大きく見開いて、「いく!」と食い気味に返事をした。
ジョジョいいですよね。