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臨海違法都市DIVA  作者: 鄭香陽
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1-1

こんにちわ。3日に一度の更新というのはなかなか厳しいものですね。まあ、頑張っていきましょう。

「もう一度...」

涙が流れて起きた。なんだか悲しい夢を見ていたようで、それでいてどこか懐かしいような夢。僕はときどきそんな夢で起きるのだ。前世にあった事と言われれば、思わず納得してしまいそうなそんなものなのである。それでも、どんな夢を見ていたのか、と尋ねられても何も思い出せないのが不思議で、それはきっと思い出したくないような酷いものなのに違いない。そんな夢を見た朝は大抵寝坊しているのである。


大抵寝坊しているのである。

「寝坊した!」

大切なことなどでもう一回言っておこう。

「寝坊したァァァァ!!!!!」

殺風景な部屋を見渡して時計を見ると7月2日、日曜日の朝の9時、出勤にはだいぶ遅い時間だ。

そして、そんな日にかぎって大事な日である。

そう今日は年に一度のハンニバルのリーグ合同の試合があるのだ!



グラディエーターとはなんぞやと言う方に簡単にご説明。21世紀も半分が終わった頃、AIが社会進出をし、人間はする仕事がなくなった。人間はいわば、ポエニ戦争で奴隷に仕事をとられ、パンとサーカスを求めたローマ人のようなもので、その娯楽に仮想現実を使ったバトルゲーム“ハンニバル”が人気を博している。

ハンニバルには『龍』と『虎』の2つのリーグが存在し、その中にランクがある。それはEランクからSランクに分けられている。僕は『龍』の6人しかいないSランクに所属していて、普段はこのリーグ内で戦って順位をきめている。



そんなことはさておき、早く支度をしてグラディエーターの試合場、コロシアムに行かないとまずいのだ。

コロシアムは旧東京ビッグサイト、又はビックサイトの跡地にできた旧東京賭博場に位置し、少し都心から離れた若洲という辺鄙と言ったら失礼かもれしないが、まあそんなところにあるのだ。コロシアムが近づくにつれてなんとも言えない潮の匂いが鼻腔をくすぐり、自宅から30分と自転車を買った時にはちょうど良い時間で行けるためよくサイクリングに行ったものだ。近くには大きな公園があり、そこには風車がクルクルと回りお気に入りのスポットだ。ただ今日に限ってはなんでもっと都心にないんだと恨めしく思うばかり。

いつもは朝の7時には支度をして、のんびりとコーヒーでも飲んで、朝のニュースをチェック。でも、今日はそんな余裕はない。第1試合は9時から始まっていて、僕の試合は第2試合。第1試合終了後、すぐに僕の出番である。そんなことを考えながら、バタバタとしているうちに支度は完了して、家を飛び出した。



間に合ったか、間に合わなかったいえばギリギリアウト。僕目当てだった観客は当然ブーイング、ブーイング、ブーイングの嵐。


「遅刻なんて珍しいんじゃないか?でもよ、おまえなぁ、年に一度の合同試合の日ぐらいはちゃんと起きろよ」


そうやってグラディエーター控え室に連れてきて僕の頭をワシワシとするのは梅村裕翔マネージャーである。

グラディエーターの控え室と言っても、そんなに想像するような部屋ではないかもしれない。別に昔の人たちが使っていたような剣がおいてあったはしない。芸能人の楽屋なんかを想像してくれればいいとおもう。普通にすこし待てればいいのである。畳があって四角い木のちゃぶ台があって、化粧するための鏡がたくさんある部屋だ。そして、男2人がそのちゃぶ台に並んで座り、話をしているのだ。


さて、この梅村裕翔がどんな容姿と言われれば、典型的な科学者を思い浮かべてほしい。白い白衣をきたら、とても似合うであろう、メガネをかけ、頭髪はボサボサで白髪混じり。それでいて髭の剃り残しが目立つようなそんな風貌だ。ただよく見ると若い頃はさぞモテたであろうという甘いマスクで、なんとも言えない不思議な雰囲気が漂う50歳。


彼はは僕がグラディエーターになってすぐに僕の専属マネージャーとして、運営委員会から派遣されサポートしてくれている人で、バイソンの名称で親しまれている、いやそんな風に呼ぶのは僕だけかもしれないが、親しんでいる人だ。


「いいか、いくらハンニバルがたかだかゲームだからって、おまえはSランクのグラディエーターなんだぞ、それも数少ない。試合に遅れてくるなんて言語道断もってのほか。お金が絡んでいるってことをわかってないわけじゃないだろう。たくさんの人がお前のことを楽しみにしてるんだ。今日だってお前目当てに足を運んでくれた人が大多数の筈だ。プレーヤーとしてじゃない、人間としてそういった人たちの期待に沿っていうのがもうそろそろできるようにならないといけないんだ!あ、いや、そんな落ち込むなよ。あつくなっちゃったな。たまにはそうゆう時もあるさ。初めての遅刻だし許すよ?な?うん。あるよある。」


僕にすこし甘いのが玉に瑕なバイソン。ただ、この人は顔もそうだが甘いだけではない。


「でも、罰金は200万円きっちりと払って、そんでもって、第六試合のタッグ戦に出てもらうことになるけどいいかい?いや、異論は認めないよ。うん。」

唐突な宣言に青波は驚く。

「えっ?」


本日コロシアム初めての開口がえっ?である。僕も間抜けなやつである。回顧してみれば、遅刻に関しては無言で頭を深く下げ続けただけであり、すみませんでしたの一言くらい言えばよかったなんて思う。


「いや、罰金はいいんですがタッグマッチって誰とくむんですか?」


「その『えっ?』は罰金の金額の方じゃなかったかぁ。グラディエーターは金持ちだねぇ〜」

うんうん頷くバイソン氏。


「大事なのはお金じゃありません!僕が人見知りなの知ってるでしょ!」

そう僕は人見知りで、大抵始めての人と会うときは緊張して口のなかがカラカラになってうまく言葉がでてこなくなる。だから、タッグマッチというのは自分にとってとても不安になる言葉だった。


「『大事なのはお金じゃありません!』ってなんかロマンチックだねぇ?そうそれで、タッグ組んでもらうのは今人気の橘理沙ちゃんなのよ。知ってるか?」

そういうと架空のキーボードを叩き、ホログラムで彼女の顔を映し出す。青波にとってはよく知っている顔だ。


「知ってるも何もファンです。可愛くて大好きです。ファンクラブにも入ってるし試合は全部見てるし、それからそれから—————」


「おまえにも可愛いと思うような女の子がいるんだなって、いま俺すごく感動してる。」

そういうとどこからともなく取り出したハンカチを手に涙を拭く真似をしている。


「お年頃の男の子に可愛いと思うような子がいなくてどうするんですか。」

青波は呆れたように彼を見る。


「いや、なんでっておまえあんまり喋らなくてクールだし、俺に似てイケメンだし、俗っぽさがかんじられなくって。」と照れながらバイソン氏はいう。自分でイケメンっていって、照れているのだろう。照れるなら言わなければいいのにという言葉を飲み込み


「僕、りったそのファンなんで、誠心誠意頑張ります!」といった。

何を隠そう青波はネットのSNSの裏アカは理沙さんのことを中心に活動しているのだ。思いっきり隠してるけども。


「う、うん。気合が入っているのはいいことだよね。あれっ?おまえ、橘理沙のこと『りったそ』って言った?言ってない。うん、いうはずがないよね。そうおじさんの聞き間違いだよ。」

僕が思いっきり睨んだせいか、バイソン氏はオロオロする。

「ともあれ、理沙ちゃんを紹介してあげよう!おいで。」



そういって、連れ出されたのが5分前の話で、僕を部屋まで連れてきてバイソン氏は『頑張れ〜少年〜負けるなァ〜少年』と間の抜けたことを節をつけていってふらっと、いずこに消えてしまった。現在僕は彼女の部屋の前で立ち尽くしている。やけに今いる廊下が寒々しく思える。まあ、どれくらい途方にくれているかといえば、形容し難いのだが、男の子がポツンと廊下に立っているところを想像してみてほしい。何を考えているとおもうだろうか?そう、ノックをしてそのあとどうするか。そのあとどうするのか?どうするのか!そんなことを考えていた。

「こんにちは!」も違うだろうし、ドアを開けて「よっ!」も馴れ馴れしすぎるだろう。「はじめまして」なんてどうだろうか。はじめましては、純情な青波にとって長すぎる。はじめましての6文字の間でされ、永遠とも感じられるはずだ。ましてや憧れの理沙さんである。


そうして結局僕はノックして無言でドアをあけることにした。なんのテンプレかは知らないがテンプレ通りならここで、ラッキースケベがあるはずだという期待が半分。素っ気なくあしらわれるかもしれないという恐ろしさが半分。それではいざ!とコンコン、ドアをノックする。


すぐに「何か用?」と返事が後ろから帰ってきた。

「あっ、あの...」

あれ?後ろから...

そこには憧れのりったそ、いや違った理沙さんが立っていた。


「君一体私の部屋の前で、ずっと何ぼそぼそいってたの?」眉を立てて理沙は青波を不思議そうにみる。

青波は話しかけられたことにあまりに舞い上がり

「な、七瀬青波です。タッグを組むと聞いてここにきました。それでーーー」と鼻息荒くことの経緯を話すと、すこし引きつりながらも「よろしく」と返してきた。


実物の理沙は青波が思っていたよりも背丈が小さく、しかしそれでいて堂々と背筋がピンと張った姿は、気品に満ち溢れている。身長は160センチないのだろうか、すこし茶色がかったつむじがとても可愛らしい。今日の服装は白いシャツに黄緑のベストを着て、ミニスカートをはいている。


「なんというかすごく可愛いですね」と青波は自然に口にしていた。人見知りの青波では考えられないような言葉が出てきた。


「うん、ありがと。君にそんなこと言われるなんておもってなかったよ。」


「と、言いますと僕のこと知っているんですか?」


「だってあなた最近のグラディエーターの最注目株じゃないのよ。グラディエーターやってて、七瀬青波の名前を聞かな言って方が無理な話よ。あっ、でも、あってみて意外とテンションが高くて、もっと無口だとおもってたけど違うのね。ちょっとびっくり。」理沙はふふふっと笑った。


「僕なんか知っててくれて感慨深いというか、なんというか。」


「なんでそんなにネガテイブなのよ。試合に遅れてきたり、青波のイメージが今日ですごく変わったわ。」


そこで青波はそもそも自分のイメージってなんなんだろうか。と考え始めた。きっと、周りからはクールなんて思われているだろう。よくそう言われるので間違えはないはずだ。しかし、青波はただの無口な普通の人間なのである。まあ、根暗と思われるだけマシだろうけども。そこまで考えて、話が途切れたことに気づき、また自分の思考を中断して、なんとかして話を続けようと、


「そういえば、今回の対戦相手って誰なんですか?」と質問をした。


「あー、ちゃ太郎って人と氷室って人。わたしリーグが『虎』だからあんまりしらないのよ。リーグが同じの青波の方がよく知ってると思うんだけど、どうかな?」


「2人とも僕の幼馴染みです。2人とも気心が知れてるのでやりやすいというか。」


「幼馴染と殺し合いするのに気楽ってどうゆうことよ?かわってるのね。あ、いやそうじゃなくて、グラディエーターとしての2人のことを聞いてるのよ。どんな戦い方するの?」


「えっと、氷室はなんかよくわからない生物を使役して戦ってきます。それにちゃ太郎が抹茶を振りかけてエンチャートで後方支援に回るってスタイルでくると思います。というかちゃ太郎は攻撃術式を一つも持ってないので、それしかないというか。ちゃ太郎がやるとしたら、やかんや傘を振り回すぐらいで」


「ちゃ太郎は随分かわってるのね。でも聞いた通りかしらね。あ、あとギフトのこと聞いとかないと」


「ギフトですか?」青波は知らない単語が出てきて戸惑った。それを見た理沙も少し驚いた顔をつくる。


「まさかギフト知らないの?」


「....しりません」

理沙さんは呆れ顔で僕のことをみてくる。今自分がどんな風に映っていると思うと顔から火が出そうなほど恥ずかしい。


「ギフト知らないで、グラディエーターのトップ取ってるの?あ、でも君は違う言い方で言ってるのかもしれないわね。ごめんごめん。リーグによって色々あるだろうしね。」理沙は気にしないで、と笑って手を振る。


「すいません...」


「謝んないでよ。わたしがいうギフトっていうのはグラディエーターそれぞれが持っている、サイバーを消費しないでつかえる固有の能力のことよ。私でいえば、ギフトはワープね」


「理沙さんは固有能力のことをギフトっていうんですね。それなら僕もわかります。ただ、氷室は絶対命中を持ってることは知っているんですが、ちゃ太郎のほうはこれといった固有能力をつかっているのを見たことがないんですよ。あいつは結構謎が多いんです。」


「うーん...ギフト使わないで、攻撃術式を持たない…どうやってこれまで生き残ってるのよ…それじゃあ、素がとてつもなく強すぎるってこと…なによそれ…」と彼女は少し困惑して下を向いた。したを向いた顔も整っていてかわいい。


ちなみに僕の固有能力、いやギフトはダウトと呼ばれるもので、視線を注いだものに対してダウトを宣言するとその技などの発動を無効化する能力だ。これがのんびりとした僕がグラディエーターでやってこれた秘密だ。消せると思ったものはなんでも消すことができ、発動条件がゆるいため、一部では最強なんて言われている。ただ、最強なんて言われると少し照れるし、なによりもダウトと言わないといけないのがカッコ悪い。いや本当は言わなくてもいいのだ。しかし、ダウトと宣言しないと自分の中のイメージしっかりとできずに、無効化されないので口に出している。ハンニバルは想像がいかにしっかりとできるかが鍵を握るので仕方がない。カッコ悪いなんて贅沢なことはいってられないのだ。


「とにかく、氷室が前線にでて、ちゃ太郎が後方支援ってことは 、攻撃手段のある氷室だけ潰せばいいってことよね?じゃあ、2人で氷室だけ狙えばいいのよ。その後にちゃ太郎を撃破する。こんな感じでいい?」


「意外と理沙さんって大雑把な作戦で戦ってるんですね。」と僕は雑だなぁというのと案外理沙さんが自分と変わらないと思い、嬉しくなった。そのためか、にやけ顔が出てしまい、それを見た理沙は


「あら、ちゃ太郎はたしかに得体がしれないけど、誰だろうとあたし1人で事足りるくらいよ。あたし強いんだから。まあ、青波は後方支援とかに回ってくれればいいから、お互いに自由にやりましょ。」少し理沙はほっぺたを膨らませて憮然としたふりをしたあとに、いたずらっぽい笑みを浮かべた。そんな笑顔を見て、僕はちょっとだけ今日の第1試合おくれてよかったなぁなんておもった。


「わかりました。でも少なくとも、ちゃ太郎の方は後方支援って言っても、想像以上にやっかいなやつです。でも逆に言えば、ちゃ太郎は合流さえさせなければこの試合は結構楽に闘えるはずです。だから、僕はちゃ太郎を締めてきます。」


「そう。せいぜい足を引っ張らないことね。」と僕に息がかかり甘い匂いが香るくらい、顔を近づけてやっぱりいたずらっぽくわらった。ふと、僕は理沙さんは誰にでもこんなことをするのだろうか、だったら少し嫌だなぁ、なんてことを不覚にもかんがえてしまった。


ちょうどそんな話をしている時、呼び出しのアナウンスが流れた。


「 第六試合出場のグラディエーターの皆様、闘技場にお集まりください」


いい雰囲気の時になんだよと思う反面、少しホッとしている自分がいた。もう少しこのままだったら心臓の鼓動が抑えられなくなっていたところだ。現に、青波の顔は真っ赤になっていた。理沙はからかっていたのだろうか。それとも、何か特別な感情が?はたまた、想像できないようなことがあるのかもしれない。そんなことを青波はぼんやり考えながら、2人は闘技場に向かった。

最近ふと思ったのですが、蛙の子は蛙ですが、鬼の子は鬼子ではないなぁと。

至極どうでもいいことです。ええ。

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