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第八話 類は友を呼ぶと言うが、こんな奴は呼んでない。

姉である春咲秋恵が部屋に住む事になった柘魔達。

そんな四人の朝は秋恵による暴走から始まるのであった。

 俺達姉弟の朝は地獄から始まります。

 第一に、鳴り響く目覚ましを止めましょう。

 このときに注意をする事、それは前方に人が居ないかしっかりと確認をすること。

 そうしないと人にぶつかってしまいます。


「うるさいのよ!このお馬鹿時計!」


 特に家の姉は寝起きに関しては俺より悪い。

 よって時計が飛んで来た場合は素手では無く、枕を構えて受け止めましょう。

 そうすれば怪我する事も無く、時計が壊れる事もありません。

 ここで小話、俺はこの習慣のおかげで反射神経が鍛えられた。

 あと姉貴は時計がなるときっかり4分43秒後に目を覚ます。


「眠りながら時計を投げつける…流石は柘魔の姉上と言うべきか」

「で…でも怖いです…先輩は朝、私の顔を掴んでくるだけですが…時計を投げてくるとなると…」


 二人は既に目を覚まして学校へ行く準備をしていた。

 対して俺は、いつも姉貴より10分早く起きる。

 でないと攻撃を躱す事が出来ないからである。

 不思議なのは、どこに居ても必ず時計が、俺目掛けて飛んで来る事。

 以前トイレから出た瞬間、寝ぼけた姉貴が待ち伏せして投げつけてきた事があった。

 あの時は流石に殺意が湧いたな。


「姉貴がこの部屋に住むと言う事は、己の実は自分で守るしかないと言う意味ですよ…なんせ姉貴は悪魔と呼ばれてますから」


 姉貴が投げつけてきた時計をはたき落とし、警戒態勢を解いて朝食を作り始める。

 時計が無くなれば姉貴の攻撃は怖くない。

 あとは支度をするだけ、熱も一日で下がった事だし。

 アレは風邪と言うより…過労によるものだな。

 あのあと一日寝たら完全復活だ。



「今日の朝食ってなに?もちろん私の分もあるわよね」

「ナチュラルに部屋へ入ってくるな、それから奥で姉貴寝てるから気を付けろよ」


 全く、夏美が部屋に入ってくるのも問題だ。

 姉貴は夏美に関しては別に言わないのが気になる。

 まぁガキの頃からの付き合いだから、そこは容認してるのかもしれない。

 と考えて居る間にも、朝食の支度が終わりテーブルに並べ得ていくわけなのだが。

 手伝ってくれているのは蘭華くらいか。

 先輩は妙に姉貴の顔を覗いてるし…どうしたんだ?


「そういえば先輩、あの後蘭華の家での件を聞きそびれてたんですが」

「…それは確か話したような気がするが…君が私の頭を撫でながら慰めてくれたじゃないか」


 あれは…夢じゃなかったのか?

 確か蘭華の顔が凄い形相に変って、恐怖のあまりに俺は気絶したはずだ。

 だが今の話では、夢は現実と同じと言う事なのか?

 あれか…まさか先輩の事を名前で呼ばないといけないのか?

 しかしあの時も先輩はそう呼べって言ってたしな。


「覚えててくれたんだな…あの後気絶してしまったから驚いたが、覚えているなら約束通り私を名前で呼んでくれるのだろう!?」


 あなたはエスパーか何かですか?


「さぁ呼んでくれ!私の事を狂子と!」

「そんなのずるいです!私も先輩を名前で呼びます!先輩の名前ってどうやって書くんですか?」


 ややこしくなって来やがったな。

 これは俺の予想だが、もし蘭華に俺の名前の漢字を教えたら面倒な事になるのは間違い無い。

 どうせ俺の名前に着いてる魔と言う字で、悪魔だ悪魔だとか騒ぎ始めるだろうしな。

 正直教えたくはない。

 そんな願いも叶わず、どうしてか夏美が調子に乗りながら教えてしまった。

 コイツ…どうして教えるんだよ。

 ほらもう、スイッチ入った顔してる!

 既に入ってるような気もするが、これはエスカレートしてるな。


「名前に魔が!?柘魔悪魔ぁぁぁぁぁ!」

「どうすんだよ!?発狂しちまっただろ!?」

「私は悪くないから!勝手に騒いでるこの女が悪いの!タクもあんまり偉そうにしないで!」


 開き直りやがった!

 いつもの事ながら、酷い性格をしてやがる。

 だがこのやりとりが、悪魔を目覚めさせた。

 後ろから迫りくる気配を察知した時には遅く、一瞬で仕留められた。

 軽々と俺を持ち上げ、捕食する蛇の如く締め上げていく。

 驚きの表情で三人が止めに入るも、この悪魔に腕力で敵うはずも無い。


「私の眠りを妨げるなんて、良い度胸をしてるわね」

「知るか…こっちはこれから学校なんだよ…つか離せ…」


 学校へ行くと聞いた瞬間、姉貴は俺を開放した。

 流石に弟が学校へ行くのは妨害出来ないか。

 姉貴の顔が少し和らいだと思えば、自分の現在の姿を理解したらしい。

 そりゃ素っ裸で寝てればな、それも同居人が二人もいる。

 先輩はいつもそうだが、姉貴は違う。

 常識は一応持ち合わせて居る、ただ一部がだらしがないだけで。


「学校に行くと言うことは…風邪が治ったのね!?」


 嬉しいのは分るが、強く抱き締めないで欲しい。

 滅茶苦茶恥ずかしい。

 つか姉貴自体が裸だから余計に恥ずかしい。

 これ絶対引かれ…てないだと?

 むしろ興味津々と言った顔で見てくるんだが、それも舐め回す様に!


「負けたか…悔しいな」

「二度も負けました…でも大きすぎるのもなんか違和感がある気がします!」

「あら?それは負け惜しみかしら?幾ら大きいといっても、こうして私のは形から何もかもが完璧(パーフェクト)なの、あなたのはそのうち…フッ」


 やっぱり喧嘩が勃発するのか。

 着替えも終わった事だし、学校行くか。

 帰りにでも仕切りのカーテン買おう、あとお客様用の布団も。


「それじゃ姉貴、行ってくるから」

「気を付けるのよ、車が来てないか確認をして、あと変な人に着いて行っちゃダメよ、それから今日は大切な話があるから予定を開けておくこと、いいわね?」


 適当に返事をした後、俺達四人は部屋を後にした。

 外には真っ赤な見慣れたポルシェが、一台だけ止まっていた。

 そこへ数人の人だかりが出来ているのも気になるな。


「昨日も気になったんですが、誰の車ですか?」

「ああ…姉貴のだよ、就職祝いで買って貰ったらしい、一時期は乗り回してたからな」

「秋恵さんは運転上手だもんね、なんでも出来ちゃうのがうらやましいな…胸もだけど」


 お前もやっぱり引きずってたのか。


「おっと忘れるところだった。蘭華、君の今度から住む部屋が決まりそうだ」

「へ?私のお部屋ですか?私は先輩とずっとあの部屋に住むんですよ?」


 はぁ!?今俺の部屋にずっと住むとか言ったか!?

 俺はあくまで泊めているだけで、同棲するなんて言った覚えはないぞ!?

 てか先輩も先輩で蘭華の事を考えていたのか。

 しかしだ、先輩にはかなり迷惑を掛けている。

 蘭華の時も、金で解決をしたと話していた。

 蘭華には先輩に対してデカい恩が出来たわけだが、仇で返しそうだな。

 そうならないように、俺も目を光らせて置かないといけないな。


「部屋って事は先輩の紹介ですか?」

「私の事は名前で呼んで欲しいと言ったのだが、忘れたのか?」


 面倒くせぇ!急に呼び方変えるって結構大変なんだぞ!

 そんな事を言えるはずもなく、狂子と呼び治す事になった。

 隣には不満げな顔をした蘭華、睨み付けてくる夏美。

 俺が何をしたと言うんだ!?

 やめてくれよ!俺は悪く無いだろ!

 …狂子先輩に関しては、やっぱり嬉しそうな顔をしているな。

 もし学校に姉貴が迎えに来たら、悩みの種が増えそうだ。



 体が怠いな…マジで怠い。


「お前大丈夫か?大分疲れてるみたいだぞ、昨日だって休んでたし」

「疲れてたらしくてな…それ以上に姉貴が帰ってきた」


 驚愕の顔で見てくる浩寺、そこには少し恐怖が見え隠れしていた。

 そういや昔、コイツ姉貴の部屋に勝手に入って超怒られたんだったな。

 確かそれ以来から、姉貴が恐怖の対象になったとかいってたな。

 あと目覚まし事件もあったのが余計か。


「にしてもよぉ…昨日は大変だったんだぜ、お前の腰巾着ちゃんがよ」

「これが前方だったら玉と竿っすね」

「お前いい加減にしろよ、それから蘭華を引きはがしてくれ、さっきから重い」


 腰にしがみつく蘭華はまるでアザラシのようにだらけていた。

 しっかりと俺に抱きついた状態で下がり、危うくズボンが持っていかれるところだ。

 これもスイッチが入っているせいだろうが、この後教室にどうやって戻そう。

 拒否してくる事は想定している。

 となると…ダメだ、何も思いつかない。


「とりあえずは第一関門突破…次は教室に行けるようにならないとな」


 腰を掴む力が段々強まってきた、そんなに嫌なのか?

 だがここまで来たからな、保健室で預かって貰うか?

 しかし通用するかどうかだ。


「困ったな…教室まで送迎してやるのはダメか?それならまだ可能だと思うんだ…熱ぃ!」

「うぉ!春魔の背中に高速で顔を擦り着けてるぞ、これ煙が出るレベルじゃねぇのか?」


 どんだけ顔擦り着けてるんだよ!?

 お前そんなに顔を擦りつけるな!顔真っ赤になるだろが!

 急いで振り返ろうとするも、蘭華がしっかりと掴んでいて回れない。

 回る事は出来るが、一緒に回転される。

 こいつ…俺の動きに合わせてやがる。

 いくら回っても回っても着いてくる。


「お前!それ以上やると可愛い顔が台無しになるぞ!?」


 お?効果は抜群だったか?

 しがみついていた蘭華がずるずると落ちていくが、なんだか様子がおかしい。

 なんというか、うっすら笑ってる感じか?


「せんぱいが…柘魔先輩が可愛いって…いひひ、うひゃひゃ!」

「どうするんっすか先輩、取り返しがつかない状態まできちゃったっすよ」

「反省はしてる、だが謝罪はしない」


 チャイムが鳴りそうだな、教室に連れて行くか。

 といっても、しっかりと動いてくれるか。


「蘭華?蘭華?見えてるか?」


 返事が無い、暴走している蘭華のようだ。

 これは完全にやらかしたな、簡単に引きはがせるかと思って言っただけだったが。

 この状態だと授業なんて受けられないか。

 俺は二人に保健室に連れて行く事を伝え、屋上を後にした。

 はてさて、どうやって説明をしようか。

 ここは正直に話すべきだろうか?

 可愛いと言ったら精神が崩壊しました、絶対にダメだ。

 なんか変な目で見られるだろう。

 普通に体調を崩したと言いたいのだが…。


「いひひ…うひひひ…先輩が可愛いって」


 これ、調子崩したといより、ラリってると言う方が正しいのではないだろうか。

 蘭華を背負っているが、さっきから顔をすりつけて来やがる。

 しかも息が荒いから、首元がくすぐったい。

 他の生徒から注目を浴びるのが地味に辛いな。

 ただでさえ先輩との噂が立っている、そこへこれだからな。

 つか早く教室に帰れよ、でないと休み時間が終わるぞ。


「もう少しの辛抱だ…保健室でゆっく休ませてやるからな」


 保健室になんとか到着したものの、蘭華の奴…まさか察したのか?

 てか腕に力入れすぎなんだよ!首が絞まってるだろうが!

 と、とりあえず保健室の扉を開けて…ヤバい、呼吸が。


「ん?どうかしきゃああ!どうしたの!?顔が真っ青に!?」

「先生…急患…もうダメ…俺が死ぬ…」


 蘭華をベッドに乗せるが、こいつ離れる気すらないらしい。

 さっきから背中でブツブツ何か言ってるしよ。

 若干聞き取れるのは、悪魔がどうたらこうたらだ。

 呪文でも唱えてるのか?まさか俺に呪いでも掛ける気か!?

 剥がしたら呪われるとか…。


「ね、寝かせないの?」

「…寝かせたいんですが…本人が離れてくれなくて…」

「離したら襲う…離したら襲う…離したら今夜襲う…離したら死んで襲う…離したら悪魔になって襲う」


 アカン!アカン!アカン!

 もうとんでもない事言い始めてる!

 なんか今夜襲うとか言ってる!つかお前死ぬ気かよ!?

 どうやって悪魔になる気してんだよ!?

 もう悪魔以前に悪霊みたいな状態になってるぞ!?

 先生見てみろ!もう引きすぎて超青ざめてるじゃねぇか!


「と…とりあえずお名前とクラスを教えてくれる?」

「二年B組、春咲柘魔です…背中のは一年E組の愛神蘭華です」

「先輩が浮気した…先輩が浮気した…先輩が妊娠した…先輩が浮気した」


 何さりげなく悪化してるんだよ!?

 あとなんで俺が妊娠してるんだよ!?俺男だぞ!?


「二年の春咲君ね…春咲、どこかで聞いた事がるような…もしかしてお姉さんとかいる?春咲秋恵って名前なんだけど」

「なんですか?あの乳…なんで先輩の周りは乳が大きい女が多いんですか?私がどうして負けるんですか?先輩は私の者になるんです、柘魔はもう私と魂が融合して…」


 この先生、姉貴の事を知ってるのか?

 てか先生!蘭華なんとかしてくれ!

 これもう引きはがすレベルじゃない!

 一言、言わせて貰いたい。

 今俺は蘭華を背負っているのではない。

 蘭華に憑依、あるいは憑かれているいると。


「あ…姉の事を知っているんですか?」


 と…とりあえず冷静になろう。

 蘭華の方を気にしていたらダメだ。

 これは諦めるしかない。


「やっぱり!?懐かしい!その目付きとかそっくり!あなたのお姉さんもよく体調を崩した生徒をここに運んで来てたの、まさかこんな弟さんがいるなんて知らなかった!」


 流石姉貴、いつも学校から帰ってきて自慢してた事は本当だったのか。

 まぁあの姉貴なら嘘はつかないだろう。

 だが姉貴の奴、保健室の先生と仲良かったんだな。

 保健室自体は始めて来たけど。

 あれ?チャイムって、既になってるよな?

 教室に戻らなくてもいいのか?


「秋恵さんは凄く優秀な生徒さんでね、イジメをしったら首を突っ込まずには居られない性格でよく保健室にもきてたの」

「姉貴は元々喧嘩が強かったですからね、自分も小さい頃からよく鍛えられました」


 その後は話に花を咲かせながら、一時間近くも経ってしまった。

 実質、蘭華を背負った状態でこの時間を過ごしたわけだが。

 先生…蘭華の事を完全に忘れてないか?

 もう悪霊として見てるのか?それとも遊び的に感じてるのか?

 てか姉貴どんだけ伝説残してるんだよ、先生思い出して号泣してるぞ。


「ところで…用件はなんだったかしら?」

「いえ…後ろにいる愛神さんが調子悪くて、授業に出れそうにないので連れてきたんですが」


 先生は今頃思い出したらしく、顔を覗き込んだ瞬間に悲鳴を上げた。

 何が起ったのか確認しようとしても…後ろが全く見えねぇし!

 明らかに怯え方もおかしい、絶対蘭華の奴がヤバい状態になってる。

 人の背中で怨霊化するな!

 ああ…先生も大分離れて行ってしまった。


「あなた達は…どういう関係なの?」

「どういうと言うか…こいつ引きこもりなもので、昨日から学校へ来させてるんですけど…まぁ色々とあって調子悪くなるとこうやって執着されると言いますか」


 結局説明をする事になるのかよ。

 一部を省きながら、出来るだけの事を説明すると再び泣き始めた。

 涙脆すぎるだろ。

 凄いボロボロと泣いてるし、手まで握って頷いてくるしで。

 もしかして、姉貴と俺を重ね合わせてみているんだろうか?

 俺はあそこまで優秀な人間じゃない。


「今ここで過ごした時間は体調不良にしておくから、しっかりと助けてあげてね、優しい所はやっぱり姉弟なのね」


 姉貴と比較される事はあったが、こんな事を言われたのは初めてだ。

 どちらにしろ、あの人の背中を見て育ってきたからな。

 自然とそういう風に見られるのだろうか、姉貴を知ってる人物限定で。

 それにしても、蘭華(こいつ)の執着心も凄いな。

 一時間ずっとしがみついてる。

 コアラかナマケモノかよ。


「どうする?このまま保健室で休む?担任には事情を伝えておいてあげるけど」


 授業をサボるのも悪くはないが、テストも近いしな。


「いえ、愛神さんをお願いします。蘭華、俺は教室に戻るが、休み時間には様子を見に来るからな」


 今だにブツブツと言い続ける蘭華は静かに剥がれ落ちた。

 ベッドで横に彼女を見た後、教室に帰るとざわついている。

 俺は内心またかと思いながら、席に着くと浩寺の奴が絡んで来る。


「春魔よぉ、お前最近モテモテだなぁ?ほらお前宛に三年から手紙が来てるぜ」


 どうせいつものパターンだろう。

 だがどうして浩寺の奴に託してきたんだ?

 浩寺に渡すならそのまま本人か別の奴に渡せば良いのに…。

 とりあえずは…俺宛の名前が書いてあるが…ハイド?

 なんか宛先に『私の愛するHYDEへ』とか書いてあるんだが。

 俺の名前は書いてある、だが直ぐ下にハイドと書いてあるのは…何故だ?

 てかどうして英語にしてあるんだ!?

 だから浩寺の奴、さっきから笑ってるのか!

 手紙を開けて中身を見てみる。


『春咲柘魔様という借りの姿をした私の半身ハイドへ、本日の静かなる放課後、夕暮れに照らされながら椿色に変る屋上でお待ちしております。必ず来てくれると信じています、貴方の半身である富閖野(ふゆの)マコトという借りの姿をしたジキルより愛を込めて。』


 ツッコミどころしかねぇな!おい!

 何これ!?なんなの!?

 なんでジキル博士とハイド氏になってるわけ!?

 ここまで凝るなら万年筆で書いてこいや!

 何蛍光ペンで書いてるんだよ!

 余計に読み難いわ!

 シールもデコり過ぎだろ!メールか!?

 つかどうして手紙にラメを振るんだ!?手がキラキラしちゃうだろう!


「これ…あはははは!強烈なのが来たな!渡してきた人とイメージ違い過ぎるぞ!」


 もうやだ…どうしてこうなるんだ。

 よりにもよって姉貴に呼び出されてるのに…最悪過ぎる。


「なぁ浩寺よ…これを渡してきたのは誰だ?」

「確か背が小さくて、表情が一切なさそうに見えて実は照れてたな…あの人は確か生徒会の書記をしてるって話だが」


 生徒会の人からこんなの来る時代なのか!?

 つか生徒会の人とか俺全然しらない。

 てかどうして俺の事をハイドとか書いてるんだよ。

 ジキルとハイド好きすぎるだろ。

 これが所謂電波系なのか…?


「良かったな、お前もこれで俺の気持ちが分るだろ?リア充」


 嬉しくねぇよ…これ。



 放課後、屋上に呼び出されたので来たわけだが。

 誰も居ない…影すらない。

 あと明らかに知ってるポルシェが校門に止まってるし…。

 スゲぇ生徒が注目してる。


「やっぱり来てくれた…ハイド」


 ふむ…誰かが腰にしがみついてきた。

 今日は妙に腰に執着される日だ…。

 と言ってもだ、どうして直ぐに抱きついてくるんだ?

 推測するに、浩寺の言うとおり背は小さい。

 むしろ背伸びをしてしがみついているのか、ぷるぷると震えてる。


「この手紙をくれたのは貴女ですか?富閖野マコト先輩」

「そう、私が書いた。貴方はハイドで私がジキル、私達は元々一人の人間だったの、それがこうして運命的に再び会えた」


 …この人も蘭華と同じような感じか。

 どうしよう…絶対話通じない人だ。


「と、とりあえず離れてもらえませんか?色々お聞きしたい事もありますから」

「どうして?私達はこうなる運命にある。だからこれは至って普通の事、何もおかしい事なんて無い…あの女達はハイドを誑かすヴィランに過ぎない」


 やっぱり話通じねぇ!

 相手は三年の先輩だ、あまりキツい言い方はしないようにしない…アカン!

 なんかアカン!とてもアカン!とにかくアカン!

 手が!手が徐々に下へ進行して行く!

 急いで手を掴み進行を止めるが、相手も相手で凄い力を込めてくる。


「な、何がしたいんですか!?やめてください!」


 しばらく格闘をし続けるも、この人しつこい!

 諦めるどころか技名まで叫び出したんだけど!

 どの技名も特撮っぽいバイク乗りが使う奴っぽいし!


「落ち着いてください!落ち着いて!落ち着け!ズボンのベルトを外そうとするな!いい加減にしろよアンタ!?」


 俺が声を荒げたと同時に一気に離れ、見覚えのある三人が視界に写り込んだ。


「無事か柘魔!?」

「先輩に手出す奴は殺す、殺すぅ!」

「いやぁいけないっすよ富閖野先輩。こんな人がいつ来るかもしれないという所で男子生徒を襲うなんて、生徒会にあるまじき行為じゃないっすか?」


 助かった…先輩と蘭華と由実が来てくれた。

 多分浩寺の奴が伝えたんだろうな、アイツこう言うの好きだから。

 しっかし、本当に助かった。

 小さいから動きが素早い、それも浩寺の言うとおり表情がない。

 ただ怒ってるのは伝わってくる。


「また邪魔をしたな…真手場狂子!」

「邪魔?柘魔に対して嫌がらせをしていた貴様にどうこう言われる筋合いはない、彼は私の大切な友だ、困っているなら助けるだけさ」


 おお…なんか先輩が格好良く見える。

 カッコいいのだが、抱き寄せるのはやめて頂きたい。

 いいんですよ、とても柔らかいクッション感覚でさ。

 だけど怖いんですよ、蘭華と富閖野先輩が。

 凄い形相で睨み付けてくるんですよ、先輩を。


「ジキルとハイドは元々は一人の人間だった。それが死んで生まれ変わった結果男女になっただけ…なのに再び出会えるのは運命でしかない!邪魔をするなら容赦はしない!」

「貴様は…もしかして本の話をしているのか?アレはあくまで創作(フィクション)であって現実(リアル)での話ではない、現実に存在するのはジャックオランタンとサンタクロースだけだ!」


 なんて純粋な事を言うんでしょう、両方とも実在しませんよ。

 先輩はやはり天然なのか。

 それより相手も相手でとんでもないのがまた来たな。

 どうして俺の周りにはまともな奴がいないんだ。

 これなら先輩が可愛く思えてくるぜ。


「会長から聞いている…お前は昔から非道な女だと言う事を!」


 非道?先輩は非道なんて事をしないぞ。

 逆に天然過ぎて優しい面が目立つくらいだ。

 だが相手の方は完全に自信ありげだ、これは説明するのにも困難になるのが目に見えてる。

 気になる点は、生徒会長が言っていたと言うこと。

 まるで先輩の事を知っているかのような感じ。

 生徒会長…どんな人だっけ?

 ヤバい!覚えて無い!生徒会長がどんな人なのか思い出せない!


「何をしているのですかマコト、既に会議が始まっているというのに」

「…会長…申し訳ありません、少し彼との話し合いに邪魔をされてしまいまして」


 これが生徒会長?

 凄く清楚な雰囲気だな…現すとすれば淑女という言葉が似合いそうな感じ。

 うちの高校の生徒会長ってこんな感じだったのか。

 こんな淑女がいたとは…一生の不覚!

 ただなぁ…生徒会長が俺をゴミでも見るかのような目で見てくるんだよなぁ。

 この状況をみればそう見えるかもなぁ。

 顔半分が先輩の胸に埋まってるから。


「なんて下品な…相変わらずのようですね、狂子」

「…どこかで会った事があっただろうか?」


 そうだった、先輩は直ぐに人を忘れる所があるんだ。

 以前にも夏美を怒らせてる前科がある。


「私を忘れたと…この私を忘れたと…昔からそうやって私を不快にさせる天才でしたからね、貴女と言う人は…」

「本当に覚えて無いんですか?」

「私には覚えがない!ハッキリ言って、初対面としか感じられない!」


 せっかく小声で聞いたのに、大声で答えるなよ。

 生徒会長の顔がどんどん怖くなっていく…。

 どうしてそこまで忘れられるのだろう、逆に不思議だ。

 警戒をし始めたのか、蘭華と由実が俺の背中の方に隠れてくる。

 緊張が流れる中…俺の携帯が鳴り出した。

 恐らく電話の主は、姉貴だ。

 下で待っているが、来ないので痺れを切らしたのだろう。


「電話に出ないのですか?私達にお構いなく」


 威圧感怖ぇぇよ、目が笑ってない。

 なんか電話に出たら殺すと目で訴えてくるが。

 電話に出ないと出ないで、半殺しにされそう。


「先輩!あそこのポルシェから凄い美人が校舎を観察してるっす!それも双眼鏡を使ってしっかりと手を振ってるっすよ!」


 バレてる…完全に屋上に居る事がバレてる。

 恐る恐る電話に出てみると、陽気な声が聞こえてきた。

 俺はこのとき察した…姉貴は若干キレてる。

 何より恐ろしいのが、この状況を全て把握しているところだ。

 まさか盗聴器でも付けてやがるのか!?


「タッちゃん…あなた達の前に居る生徒会長って人に代わりなさい、でないと分るでしょ?」


 この時の俺は、酷く青ざめていた事だろう。

 蘭華と先輩の反応を見て分る。

 二人もかなり青ざめていたからだ。

 俺は生徒会長に電話を渡し、電話に出て貰う。


「はいもしもし、お電話をお代わりしました…はい、はい、いえそのようなことは…ですが…わかりました、申し訳ありません」


 姉貴…生徒会長に何をしたんだ。

 生徒会長、若干涙目になってるぞ。

 我ながら姉貴最強説が浮上している。

 やはり怒らせるのは良くないのだろう。

 その事は俺がしっかりと理解している、恐ろしや。


「今日はこの辺りで許して差し上げます、そこの君…お姉様によろしくお願いしますね、携帯はお返しします、行きますよマコト」

「ハイド…必ず取り戻す」


 白けたな…この状況。

 その後は、合流した姉貴に間接技を決められた後に車で連行された。

柘魔を狙う生徒会書記の富閖野マコト。

そこへ助けに来た狂子達の元へ、生徒会の会長が姿を現した。

しかし柘魔の姉である秋恵からの電話によりその場は収まるものの、姉のポルシェで連行されてしまうのであった。

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