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第四話 新たな趣味への目覚め。

休日の朝。

激しくならされるインターホン。

彼はその音に無理矢理起こされた。

 日曜日の朝。

 時刻にして8時過ぎ、突如インターホンが鳴らされた。

 最初は無視していれば帰るだろうと思ったのだが、鳴り止む気配はまったくなかった。

 夏美と浩寺の奴はありえない、だとしたら先輩だろうか?

 つか俺の目覚ましと同時にドアノブを回しながらリズム刻むんじゃねぇ!

 インターホンまで交えてビートを刻むな!うっとうしい!


「せんぱ~い!春咲先輩!居るっすよね!?貸したお金返してくださ~いよっ!」


 は?貸した金って、俺人から金借りた覚えがないんだが。


「やめようよ由実、先輩に迷惑が掛かっちゃうよ…それに私…昨日だって迷惑掛けてるし」

「いやいや、やっとここまで来たんすよ、逃がすわけにはいかないじゃないっすか…このままだと駄目なんすよ、このままだと入部が出来ないんっす」


 やりとりが丸聞こえだ。

 ドアの前で話せば聞こえてくる。

 とりあえず面倒だから二人を中に入れた、騒がれるより断然良いと判断したからだ。


「へぇ、先輩って噂ではかなりのオタクって噂を聞いたんすけど、結構オシャレにしてるっすね。棚とかにフィギュアめっちゃあるっすけど、かなり家具には拘ってる感じっすか?」

「失礼だよ、人は見た目に寄らないって言うよ。だけど確かにオシャレにしてある…先輩のお部屋、ふふふ」

「取り込み中悪いが、とりあえずお前等そこ座れ、聞きたい事が幾つかある」


 俺は二人に質問をしていった。

 何故俺の部屋を知っているのか。

 どうしてここへ来たのか。


「まず一つ目の質問っすけど、私の知り合いに聞いたんっすよ、それからここに来た理由は春咲先輩と真手場先輩の事で取材をしたいんっすよ」


 マスコミ根性丸出しかよ。


「それでわざわざここまで来たと?」

「もちろんっす!私、新聞部に入部したいんすけど先輩方から特ダネを取ってこないと入れて貰えないって言われたんすよ」


 新聞部?うちの高校に新聞部なんてあったのか?

 俺部活に興味ないから知らなかった。

 にしても面倒な話だな、特ダネがないと入れて貰えないって。

 本当にあるのかよ、そんな理不尽なことって。

 あれ?よくよく考えたら俺、この二人の名前すら知らなくね?

 なんで俺二人の名前を最初に聞かねぇんだ?


「特ダネか…二人共新聞部に入りたいのか?」

「いえいえ、新聞部に入部したいのは私だけっす、おっと、自己紹介を忘れてたっすね、私は大島由実(オオシマユミ)って言うっす」

「わっ私は…愛神蘭華(アイカミランカ)といいまヒッ!」


 いいまひってなんだよ。


「どうかしたっすか?」

「いっ今!だっ誰かに腕を!」


 誰かに手を掴まれ…まさか。

 俺は立ち上がり、二人に退いて貰う。

 寝ぼけててあまり気づかなかったが、若干ベッドが盛り上がってる。

 ハァ…もう大体予想は出来た。

 シーツを掴み、勢い良く捲り上げると、やはり巨大バニラアイスが二つあった。

 これは流石に引かれたか?


「超特ダネありがとうござマックスフィーバー!」

「すごく大きい…それに真っ白…」


 マジかよ、引くどころかむしろ興奮してやがる。

 俺は急いでシーツを被せ、由実からカメラを取り上げた。

 このままだとコイツ、先輩の裸体写真を良からぬ事に使いそうな気がしたからだ。

 カメラを取り返そうと飛び跳ねるが、伸長差は歴然。

 届くはずもなく、まるで大人と子どもみたいだ。


「先輩のエッチ!私の聖域を覗かないでください!叫ぶっすよ!?」

「叫びたかったら叫べ。俺の一番機嫌が悪い朝方に来たのがそもそもの間違いなんだよ、削除完了っとざまぁ」


 カメラを取り上げたまま、先輩の服をシーツの中に忍ばせる。

 次は二人に状況の説明をしないとだが。

 しっかりと聞いてくれる事を信じるしかないな。


「いいかお前等。この事は絶対に外に漏らすな、絶対にだぞ」

「でもお二人はお付き合いしてるからこそ、ヤッてるんすよね?実際に目の前で見ちゃってるっすから」

「…柘魔…起きたのか?すまない、日本に来てからなかなか寝付けなくてな、どうもこの部屋は落ち着くから勝手ながら入らせてもらったのだが…客人が来ていたのか」


 先輩、客人が来てると分ったなら胸くらい隠せよ。

 さっきから面倒な事態ばっかり巻き起こってるんだよ、その巨大な胸揺らしてないで早く着替えろ。

 頭を抱えながらどうしたものかと考えると、更にややこしい奴が来る。

 隣の部屋から会話を聞いていたであろう、夏美の奴が。

 絶対に二人を会わせたくねぇ、そして先輩が会えばまた修羅場が起る。


「早く服を着てください、なんでいつも裸で寝るんですか?」

「私は裸にならないと眠れないんだ、だから年中はこの姿だが…おかしいか?」


 おかしいかって、自分の家なら良いが人の家では駄目だろ。

 つかよくみればなんでリボルバーを股に挟んでるんだよ、アンタそれ何に使ったんだ!?

 いや真面目にナニに使ったんだ!?

 ナニに使ったのか?


「先輩、いい加減服着てください、あと何故銃がベッドに?」

「ああこれか?私が愛用してるマテバ・モデロ6・ウニカだ。これを抱いて寝ると凄く安心するんだよ」

「あの銃ってどうみてもチ○コっすよね?位置的に意識してるっすよね?誰がどうみてもチ○コっすよね?欲求不満っすか?」

「だめだよ先輩相手にそんな事言っちゃ、せめてオチ○ポにしないと」


 お前等も何話しの花咲かせてるんだよ。

 あと蘭華、言葉を変える前に言う必要すらないだろうが。


「ねぇ、さっきからインターホンならしてるんだけど、なんで出ないわけ?手首切るけど良い?良いよねもう、マジで切るから」

「まっ待て!まとめて相手をしてやれる程俺には余裕がない、とりあえずそこの二人は静ま!!先輩は早く服着る!夏美は黙って大人しく座ってろ!」


 全員が落ち着いた頃に、浩寺の奴から連絡が来た。

 話し合った結果、近くのファミレスで待ち合わせをするとに。



 ファミレスで食事を取る俺達五人と、優雅に珈琲を飲むイケメンが一人。

 何故か周りから凄い視線を感じるが、気にしてられるか。


「モテ期到来かよ春魔、今度は年下に手出したのか?」


 お前に言われたくねぇよ、ロリコン野郎。


「押しかけてきたんだよ、つかなんで年下だって知ってるんだよ?」

「そりゃ知ってるさ、右は大島由美だろ?学校じゃ噂大好きで有名だ。そんで左が愛神蘭華、学校に全然来ない引きこもりって話しじゃねぇか」

「…よく見たら二年の徳江先輩じゃないっすか!?学園のイケメンランキングトップ5の一人!あとで取材させてほしいっす!これで特ダネが沢山手に入るっす!」


 また特ダネ、凄い必死になってるんだな。

 気持ちは分らないでもない、俺だってフィギュアとか買うのに必死になるからな。

 それにしても、さっきから蘭華が俺をチラチラと見てくるのが気になる。

 これはなんて表現をしたら良いのか、まるで捜し物が見つかったみたいな感じだ。

 しかし、何故そんな眼差しを俺に向けてくるんだ?


「もうそろそろ話したらどうっすか?息が詰まりそうな顔してるっすよ」

「…うん、そうするね。あの、春咲先輩今から大切なお話がしたいので、今からお時間いただけますか?」


 俺は蘭華の誘いに乗ることにした。

 とても大切な話のようだしな、少しだが気になるのもある。

 蘭華が立ち上がと、俺の袖を引っ張ってくる。

 もしかして、外で話すと言う事でいいのか?

 多少夏美から睨み付けられたものの、浩寺の奴がニヤニヤしながら送り出してくれた。

 先輩もついてこようとしたが、そこは由実がガードした。

 外に出てしばらく歩いたものの、何処へ行くのか決まってはいないらしい。

 ただただ適当に歩いてると行った感じだ。


「どこまで行く気だ?ファミレスから大分離れたぞ」

「もっもう少し、私あまり人が多いところは苦手なんです」


 確か浩寺の奴が引き籠もりだって言ってたか。

 それなのに何故、ネカフェは平気なんだ?

 気がつけば路地裏に来ていた、ここなら人気も少ないにはすくないな。


「あの…私、実は」

「ねぇちょっと見てよ。あれってさぁ、もしかして愛神じゃない?同じクラスでビッチって呼ばれた」

「えマジ?あ、ほんとだ。よぉビッチ神!」

「なになに?うわ超お似合いカップルじゃね?せっかくだしよ兄さん。ちょいと俺等に彼女貸してくれね?あと金も」


 クソみたいなタイミングで絡んで来るなよ、つか馴れ馴れしいな。

 蘭華とは知り合いみたいだが、この怯え方は普通じゃないのが分る。

 見た感じはギャル三人とチャラ男二人ってところだな。

 明らかに面倒事しか持ってこない人間、相手したくねぇ。


「蘭華、こいつ等知り合いか?それとも過去に何かあるとかか?追い払っていいなら追い払うが」


 返事は無し、それどころか後ろに隠れてきた。

 過去に何かあったのは間違いない。

 追い払っても良いと言う事で認識させてもらうぜ。


「俺達を追い払うだぁ?カッコつけてないで早く財布出せって!」

「お前も早くこっちにこ」


 男の手が蘭華に伸びた瞬間、俺は男にアイアンクローをキメる。

 アイアンクローなんて、掛けるのは久々だな。

 この感覚、懐かしい。

 昔はよく相手や夏美にも掛けてたっけか。


「痛ぇ!痛ぇよ!なんだよこの馬鹿力!?離せよ!」

「20秒だけお前等に時間をやる…逃げるも良し、逃げずに掛かってくるも良し、お前等いい年なんだからどれが正解かはちゃんと分るよな?」

「クソッ!どうなってるんだよ!?全然引きが剥がせないぞ!?」


 普段からかなりハードに鍛えてるんだ、握力には自信がある。

 今から久々に、今ここで怪獣を解き放つとするか?

 大凶の怪獣が出るか、あるいは凶の春咲柘魔が出てくるか。

 お前等の選択肢次第だ。

 俺のおすすめは後者なんだが、妙にむしゃくしゃしてるんから逃げない方に掛けたいものだ。

 どちらが出ようと運が悪いに代わらないわけだが。


「死ねぇ!この根暗野郎!」


 金髪頭のストレートが入るが、コイツひょろいな。

 これなら夏美のストレートの方が、断然怖い。

 ダメージ自体もそんなにない、青あざが出来るか出来ないか位だな。


「3、2、1…お前等の勇気を表して、俺の得意技をプレゼントしてやるよ」

「ちょちょっとヤバいって…マジでコイツヤバい奴だよ!」

「目が…目が普通じゃない…完全に人殺してる目してるってば!逃げようよ!」

「もう無理!私先に逃げるから!」


 最初に与えてやった時間で逃げればよかったのに、チャンスを捨てたのは自分達なんだよ。

 俺はさっきから殴ってくる男に蹴りを一発入れた。

 やっぱりひょろいな、蹴り一つでダウンしやがった。

 これでもかなり加減はしてやった方なのに、張り合いがねぇな。

 次はアイアンクローをキメてる奴だが…既に半泣きかよ。

 だが容赦は無しだ。

 俺がガキの頃。暴れてたもう一つの理由…それは。


「散る覚悟は出来たか?先輩から一つアドバイスをやる…目上の人には敬語を使え!」


 弱いものイジメが嫌いだからだ、特にいじめっ子は痛めつけると笑いが出てくるほどに弱い。


「た、助けて…謝るから!本当に勘弁して!」

「俺に言っても襲い。覚悟を決めろ、ゲームオーバーって奴だ」


 案外あっけなかったな。

 もう少し歯ごたえがあってもいいのに。

 まぁ俺が強くなりすぎた感じとかか。

 とりあえず腕は落ちてないと言うのが確認できた、あとはこいつ等にちょいと脅してして終わりにするか。

 ただ知ってればいいんだけどな、俺の事を。


「ひぃぃ!ごめんなさ」

「よく聞けよお前等、怪獣バーサーカーって噂くらいは聞いた事あるだろ?次俺の後輩や友人に手出してみろ。今度は怪獣がお前等全員病院送りにしてやるからな、分ったら行け…残り時間はあと」


 カウントダウンを始めると、五人は直ぐに逃げて行った。

 これでとりあえずは一件落着か。

 気がかりなのは、後輩に怖い思いをさせた事だ。

 正直言うと、あまり怪獣の名前は出したくは無いんだが、事情が事情なだけに仕方がないか。

 実際、怪獣バーサーカーって名前を出しただけで青ざめてたからな。


「悪かったな、怖い思いさせて…おっと、どうしたんだよ?」


 振り向くと同時に、蘭華が泣きながら抱きついてきた。

 相当怖かったみたいだな。

 蘭華が泣き止むまで待つことにした、そうしないと動けそうにない。

 大分時間掛かったから、心配してるかな。

 電話だけでも掛けておくか。


「あれタク?どうかしたの?」


 なんで夏美(お前)がでるんだよ。

 俺は浩寺の奴に電話をしたのに、どうして夏美の奴がでるんだ。

 意味がわかんねぇ。


「浩寺を出せ、お前に用事はない」

「ちょっとそれ酷くない?今浩寺はナンパされててでられませ~ん!てかなんか泣いてる声が聞こえるんだけど、アンタなんかしたの!?」

「どうしたんすか!?春咲先輩が蘭華を襲ったんすか!?傷物にしたんっすか!?」


 おいおいおい!ややこしい事に発展させるな!

 話がどんどんややこしい所に迷走してるぞ!?

 やめて!本当にややこしいからやめて!?

 元々は、全部浩寺の奴が出ないのが悪いんだ!

 あのクソロリコン野郎がぁ!


「もしもし、狂子だ。そちらで何かあったのか?」


 少しはまともな人にかわったか。


「ええ、少し絡まれた程度ですが…蘭華が落ち着いたらそちらに行くので、もう少し掛かります」

「分った。こっちのほうは私に任せてくれ」


 頼りになるときもあるんだな。


「せっ先輩…ひっぐ…ありがどう、ござまず!」


 久しぶりに礼を言われた気がする。

 ガキの頃は普通に言われてたが、年齢を重ねる度に収まったからな。

 あの頃はよかったな、攻撃対象が多かったからストレス発散に。

 ガキ故にいじめっ子を力でねじ伏せる、ある意味英雄としても称えられる。

 学校では怒られてたが。


「少しは落ち着いたか?」

「…先輩は、強いんですね。二人がかりでも全然苦戦しないで、相手を片手で制して」


 あれはアイツ等が弱すぎだ。

 相当手加減してやったのに、一蹴りでダウンしやがって。

 対して楽しむ事も出来なかった。


「相手が喧嘩馴れしてないだけの話だ。コンビニで何か飲み物でも買うか、怖い思いさせたから好きなの奢ってやる」


 蘭華を連れてコンビニに行こうとすると、何かが俺の裾を掴んできた。

 振り返るとうつむいた蘭華が引き留めていた。

 …何この展開?

 なんか空気おかしくね?

 テレビでこういう展開の映画見たことあるけど、流石にないよな?


「実は…私、四年程前に先輩に一度会ってるんです…本屋さんで…手が届かない本を親切に取ってくれて」


 四年前と言うと、俺が中学二年の時か。

 そういや、この恰好始めたのもそれくらいの時だったな。

 あの時は中二病を発症してた時期。

 正直黒歴史生成期間ってやつだ。

 どうしよう…全然覚えて無い。

 まず四年前に一度しか会ってないのに、覚えてるってのが逆にスゲぇ。

 一体どんな記憶力してるだよ。


「そっそうか…俺達一度会ってるのか」

「はい!あの時は学校にも家にも居場所がなくて、唯一の場所が本屋さんだったんです…学校で苛められて人間不信になっていたとき…先輩が親切にしてくれたんです」


 なぜ頬を染めながら言う!

 しかも頬に手を添えながら言うな!


「私、先輩にずっと会いたかったんです!昨日やっと会えて、嬉しかったんです!でも先輩直ぐ行っちゃって…そしたら由実ちゃんが先輩を見つけようって言ってくれて」


 それで俺の部屋まで来たと言う事か。

 やっと納得が出来た。

 元々由実の奴が来るなら一人でも良いはずだった。

 そこへ蘭華も着いて来た理由、これだったのか。

 奇跡ってあるものなんだな。


「きっと、毎日朝昼晩に悪魔様へのお祈りが効いたんです!」

「そうかもしれな…今悪魔って言ったか?」


 目を輝かせながら元気よく頷く蘭華。

 どうして悪魔にお祈りするんだよ。

 悪魔…そういや、俺一時期悪魔について調べてたな。

 このとき、俺の脳にある記憶が蘇った。

 アレは中学二年、真射子の妹である真孤斗(マコト)が悪魔と契約する回で興味が湧いたんだよな。

 真射子も同時に悪魔の素材から作られた銃を使う、カッコイイんだよな。

 思い返すと、確かにそういうことがあったかもしれない。

 あの時蘭華は確か、眼鏡を掛けてたような気がする。

 今の蘭華は前髪で顔の右側を隠してる、だから気づかなかったのか?

 多分忘れてただけだろうが。


「思い出したぞ…悪魔学の本を取ってやったときの子か、こうして見ると随分と成長したな」

「そうです!先輩が取ってくれたあの悪魔学の本!今でも大切にしてるんです!毎日愛読してるんですよ!」


 毎日愛読だと!?

 あれかなり分厚い上に文字細かいよな!?

 俺も同じの持ってるが、正直全部読むのに一週間掛かったぞ!?


「す…凄いな…あの本を毎日愛読するって」

「はい!あれが私の心の支えなんです!この服装も先輩を見習ってなんですよ!なんだか黒魔術師にでもなったような気持ちになれます!」


 黒魔術師!?

 俺がこの服装をしてるのは、ただ単に落ち着くからだぞ!?


「この姿でいると先輩に会った時を思い出すんです…それでそれで、パーカーを着てると先輩が抱き締めてくれてる気がして」


 うん、確定したな、コイツもヤバい。

 ただでさえ夏美は若干病んでる面がある。

 しかも俺の見解だが、真手場先輩は若干ストーカー気質になってきてる。

 それに加えてコイツは…コイツは…?

 なんだろうな、本当になんだろう?

 悪い子ではないのだろうが、確実にヤバい。

 よく見たら目がおかしい上に顔も赤いぞ!?


「…ハァハァ、先輩は…やっぱり、胸が大きい人が好きなんですか?」


 突然何を言い出すんだよ!?


「なっ何が言いたいんだ?」

「だって先輩…真手場先輩とお付き合いしてるじゃないですか?あれ見たらやっぱり先輩は胸の大きい人が好きなのかと思って、私結構ある方なんですよ」


 …話が通じないだと?

 あと完全に誤解が生じてる。

 先輩と付き合っていると言う話、訂正をしないと。

 ちゃんと聞いてくれるのを信じるしかないか。


「とりあえず落ち着け。まず俺は真手場先輩とは付き合ってない、朝見たのは先輩が勝手にやってることだ、そして俺は二次元にしか興味が」

「先輩達は付き合ってない…先輩達は付き合ってない…先輩達は付き合ってない…」


 駄目だこりゃ、全然人の話を聞いていない。

 つか人が変りすぎだろ。

 まさかと思ったが、やはり予想は当たりか。

 問題は夏美とも違う、先輩とも違う。

 対処方が全然分らない!

 今分ることは一つ、俺一人で相手をしたら危ないと言う事だ。


「蘭華、皆が待ってるからとりあえず戻るぞ」


 俺はこの時、一つの恐怖を覚えていた。

 夏美の闇とも違う、先輩の予測が出来ない行動力とも違う。

 全くもって別ものだ。

 それがもの凄く怖い。



 なんでファミレスからコスプレの店に移動してるんだよ。

 意味が分らん、俺には到底理解が出来ない。

 てか何故にコスプレだ?何故にコスプレだ?


「見てみて!ネコメイド!家のニャリーゼにそっくりでしょ!?」

「良いっすよ!最高っすなっちー先輩!そのままスカートの裾を持ち上げてポーズ決めてください!」


 コイツ等…楽しんでやがる。


「たっ柘魔…由実からこの服が似合うと言われたんだが…変だろうか?」


 生のバニーガール、初めて見た。

 てか先輩似合い過ぎだろ、やっぱり体型的に大人びてるのとハーフだからか?

 若干恥ずかしげにしてるのも、なんかエロいな。

 あれ?なんか周りに人集まってね?

 凄いカメラを持った男達が、集まって来てるよな?

 なんで普通にカメラ構えてるんだよ。

 なんで先輩は俺を盾にしてるんだよ。

 なんで浩寺がロリータファッションしてるんだよ!?

 一瞬本当の女かと思ったわ!似合い過ぎるだろクソ!?


「写真一枚お願いします」

「もしかしてA○とかに出てました?」


 女子高生に何とんでもない事を言ってるんだ!?

 つか流石にヤバいだろ、この状況。


「…柘魔。なんだかこの男達の視線が怖いぞ…それになにかA○とか言ってるが…AA12の間違いじゃないのか?」

「とりあえず試着室に戻っててください。ここは俺と浩寺の奴で納めるんで」

「俺もやんの?正直この恰好であまり出たくないだが」


 俺は先輩を背に隠しながら、試着室に押し戻した。

 その間に周りからブーイングが始まる。

 今日は妙に絡まれる日だな。


「下がって下がって。本人の許可無しの撮影はやめてください、見世物じゃないんですから」

「はぁ?ふざけんなよ!何独り占めしようとしてるんだよ!?」

「そうだぞ!コスプレすると言う事は写真を撮られても良いからするんだろうが!これだからにわかって奴は」


 今、カッチーンと来たぞ。

 本日二回目の怪獣を登場させてやろうか?

 特撮撮影会でも開いてやろうか?

 いやまて、ここは店の中。

 暴れたりしたら面倒な事にしかならない、むしろ警察沙汰にもなりかねない。

 さっきは路地裏だったのもあるが、相手が相手だからな。

 対してここは目撃者も多い上に、完全に力差があり過ぎる。

 下手に手を出したらこっちが悪者だ。


「とりあえず撮影はやめてください。ここで争ってもお互いにメリットなんて無いでしょう?撮影をするならイベントとかでしてください」

「じゃあなんでそこの女は良いんだよ!?おかしいだろ!?」

「いや、私はこの人達の後輩っすから事前に許可は下りてるっすよ」

「え?もしかして君たちってJKなの?マジ?じゃあじゃあさっきの金髪の子もJKなの?」


 余計にややこしくなってきたな畜生!

 なんでこんなに話がこじれるんだ!?


「わ、私が写真を撮られれば解決するんだろう?…それなら撮られても」

「駄目ですよ。言ったじゃないですか、もう少し自分の体を大切にしてくださいって、先輩は女の子なんですよ、だったらもう少し恥じらいを持ってください」


 くせぇな、このセリフ。

 くせぇ上に逆に恥ずかしくなってきた。

 なんかこの場から逃げ出したくなってきたぞ、なんか取り返しがつかない事言った気がする。

 それでも、言っちまったものは仕方がない。

 男に二言は無いと言う事だ。


「私の…私の春咲先輩を困らせる人は皆…死ねばいいのに…」


 へ?今なんて言った?

 蘭華から放たれた言葉を聞いて、空気が凍り付いた。

 何気に由実の奴、青ざめて俺を見つめて来やがる。


「な、なんだお前?」

「先輩が嫌がる事は私も嫌なんです…私の大好きな先輩に逆らう輩は皆、呪い殺しますよ♥」


 怖い怖い怖い!

 蘭華超怖ぇぇ!

 もう目が違い過ぎる!明らかに違い過ぎる!

 あれだ!井戸から出てくる幽霊みたいな目付きしてる!

 背中からオーラとか出てきそうだもん!


「おっおい、逃げようぜ…コイツヤバいぞ」

「頭がイカれてる、完全に頭が逝ってる女だ!」


 男達二人は脱兎の如く逃げて行った。

 その場に残されて居たのはカメラだけ、どれも高価そうな機材ばっかりだ。

 後で取りにくるよな?流石に。


「…先輩!お怪我はありませんか?私怖かったです!勇気だして立ち向かったんですよ!先輩が頑張ってるのを見てたら励まされたんです!いつまでも過去を引きずってたら駄目だって!」

「何故抱きついてくる!?少し落ち着け!」

「あらら、蘭華のスイッチ入れちゃったみたいっすね。一度スイッチの入った蘭華はしばらくその状態何っすよ、ご愁傷様っす」


 ご愁傷様って、どういう意味だよ!?

 後ろの方では恨めしそうに先輩は見てくるしよ!

 夏美に関しては凄い睨み付けてくるんだけど!


「やめないか。柘魔が困惑しているぞ」

「真手場先輩には関係ありませんよね?お二人は付き合っていないらしいじゃないですか?なら私が先輩にアタックしても問題はないはずです!」


 なんか超絶面倒臭い状況に発展してきた。

 もう帰りたいんだけど、真面目に帰りたい。

 あと浩寺の女装がスゲぇ気になる。

 助けを求めようと若干チラ見したが、鏡で自分の姿を見てうっとりしてる。

 お前何どさくさに紛れて新たな性癖を開放してんだよ!?

 由実は由実で写真撮ってくる…もう散々だ。


「俺帰って良いか?なんか疲れてきた。朝の件と言いさっきも喧嘩して来たし、さっきので完全に体力使い果たした」


 強制的に蘭華を引きはがそうと努力したが、無駄なあがきだった。

 内心もうこのまま家に帰ろうかと考えたのだが、引きずって行く形になってしまう。

 もしそんな姿を学校の奴に見られたりしたら、学校に居づらくなる。

 それだけは勘弁願いたい。


「離せって!離せって言ってるだろ!」

「先輩。これはもう諦めた方が良いっすよ、蘭華は一度スイッチが入ると、それはスッポンの噛みつきの如くしっかりと引っ付いてくるっす、本人が飽きるのを待つしかないっすよ」


 とんでもないのに目を付けられた。

 コイツはヤバいと感じていたが、予想を斜め急カーブの左上に来やがったぜ。

 自分でも何を言ってるのか分らないが、もう俺の頭は限界なんだろう。

 完全に混乱している。


「どこまでも着いていきます!先輩が何処へ行こうとも!たとえトイレに籠もっても!男湯に入っても!ベッドの中で一人」

「分った!それ以上は言うなバカ!お前が飽きるまで相手はしてやるから落ち着け」


 結局はこうなるのか。

 仕方がないので、蘭華を引きずったままで部屋に帰る事になった。

 連れ帰ってきたのはもうどうしようもないが、いつまでしがみついてる気だ?

 途中滅茶苦茶恥ずかしかったぞ。

 周りから凄い見られてるしで、しかも殆ど俺が引きずってるようなものだしよ。

 少しは歩けっての。


「先輩、今日泊まってもいいですか?」

「駄目に決まってるだろ。お前の親御さんが心配するぞ」


 この言葉が後に、彼女の更なる引き金を引くことになるとは、知らなかった。


蘭華を家に連れ帰る事になってしまった柘魔。

どうしても部屋に泊まりたいと言う蘭華の真の目的とは?

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