第三十五話 誕生会はプレゼントを用意するのも楽しい。 後編
夏美と秋恵の誕生会がついに開かれる。
そんな中で楽しげに進んでいたはずが、徐々におかしな方へと進んで行く。
我が姉と夏美の誕生日が同じ日に来てしまう今日、まさしく俺にとっては悪夢に染まった一日と言えるだろう。
最近までは姉が海外に居た事もあり、誕生日を祝うのは俺と浩寺で、主役は夏美だけだった。
姉貴に対しては誕生日にメールで連絡を取るようにしていたのだが、たまにプレゼントも贈れる時には送っていた。
そして今日は数年ぶりに二人が揃い、人生で始めての四人以上で祝う誕生日会だったが。
「ほら、たこ焼きが焼けたぞ。言われた通りに、表面は固めで、中身がとろっとろに出来てるヤツだ」
「メイドならさぁ、もう少し愛想良く振りまけないの?アンタと浩寺は今、私と秋恵お姉ちゃん専属メイドでしょ?だったらもう少し可愛く出してよ!アンタの言い方がいつもと変わらなくてつまらないんだけど!」
そう…現在俺と浩寺は、女装をさせられている。
発案者は由実で、それに便乗したのが夏美と蘭華だ。
「いつも思うんだけど、なんでアンタは秋恵お姉ちゃんにそっくりになるわけ?何、クローンなの?実は人間じゃないとか?」
いつも以上に調子に乗る夏美に苛立ちを覚えつつも、抵抗はせずに俺達は静かに作業を続けて行く。
不思議で仕方が無いことが一つあるのだが、どうして夏美は俺達のサイズのメイド服を所持しているのだろうか?
そしてウィッグまで用意までしてるから、用意周到過ぎる。
もしかすると、夏美と由実と蘭華がグルの可能性も出てきている。
あとだ…なんで、よりにもよっで俺のだけ魔銃淑女のコスプレ衣装になってんだ?
確かにアニメには出てくるけどさ…普通このタイミングで使ってくるか?
俺の心の傷に岩塩を押しつけるかの様な事をするなんて、本当に人間なのかと言いたいのはこっちのほうだ。
「先輩!ちゃんとパンツは履き替えてください!私のパンツ上げたじゃないですか!?なんで履いてくれないですか!?」
「人の履いたパンツなんて履きたくねぇよ!つかスカートの中をのぞくな!あとお前はちゃんと学生らしいパンツ履いとけ!お前が渡してきたの殆どヒモだろ!?風が吹いたりしたら危ないだろうが!」
突然スカートを掴む蘭華を抑えながらも、俺はたこ焼きを焼き続けるのだが、浩寺の方も色々と大変みたいだ。
完全に由実の写真撮影に付き合わされているのだが、アルコールの入った姉貴にも絡まれている。
一度アルコールが入るとテンションが上がって、手が付けられなくなるところが希にあるからな…こういうときに南さんが居ると助かる。
「タッちゃん!もう私そっくりで可愛いんだから!どこからどう見ても私達は双子よね!?もういっその事本当に双子として生きていくなんてどうかしらね!?」
「無茶な事を言うな、つか火傷するから絡むなって。浩寺、たこ焼きは頼む、しばらくは姉貴の相手するから」
「了解…たこ焼きは任せておけ…つか秋恵さん酔いすぎだろ。まだビール二缶しか開けてないぞ?」
浩寺の言うとおり、姉貴はまだビールを二缶しか開けていない。
だが俺はたこ焼きを焼きながらしっかりと見ていた…飲むペースがいつもより早かったことをだ!
姉貴は普段はゆっくりと、チビチビと飲んでいくスタイルが好きだ。
理由はお気に入りが生ビールなのと、日本産だから二百円以上はするからだ。
ましてや今日飲んでいるのは小さい方ではなく、大きいタイプを思いっきり飲んでいた。
特に俺が蘭華と狂子に絡まれている度に、少しだけ飲むペースが上がっていた。
ましてや三十分で二缶も開けるなんて、姉貴にしたら普通の事じゃない。
それにだ…酔っ払っているせいか、先ほどからセクハラ紛いの事までしてくる。
「私に似て腕と足は少し細めで綺麗なのに、なんで腹筋はこんなにバキバキに割れちゃったの?大胸筋も凄くしっかり鍛えてるから…でもゴリマッチョになるよりお姉ちゃんはこっちの方が好き!!」
「それは分ったからベタベタ触るのはやめろ、背後凄い視線が飛んで来るんだよ。あと姉貴の大好きなお好み焼きが焼けないぞ?」
姉貴がここまでセクハラをしてくるのはかなり珍しいのだが、もう殆ど抵抗が無くなってしまった俺は、相当な末期にあるみたいだ。
知らぬ間に蘭華まで一緒にセクハラを始めたかと思えば、狂子まで腕を掴んでくるからな。
夏美の方は面白くなさそうに、たこ焼きを早食いして浩寺に焼かせてるしで。
その隣で姫華はお好み焼きを食べて、小百合が新しいのを焼いてくれている。
もう俺はただ女装してるだけじゃん…女装して絡まれてるだけじゃん。
あまり居る意味がみいだせないのだが…ヤバい、蘭華が本格的に暴走を始めだした。
「お姉さんは触りすぎです!次は私が触る番です!隅々までねっとりと触るんです!」
「いいや!次は私が柘魔の筋肉の付き方を確認する番だ!最近は柘魔が筋トレを少しサボり気味なのは知っているぞ!前は一日ダンベルを二百回なのを最近は半分に抑えている!」
別にサボってるんじゃなくて、忙しくて体力が残って無いだけなんだよ。
あとしっかりとダンベルの回数を数えてるのかよ…まぁ前から一緒に筋トレしてたけどな。
おかげで豆乳の消費量も増えたが、何より月々に掛るプロテインの金額も上がった。
俺は基本的に筋肉を付けるホエイタイプを使用しているのだが、狂子は体重を減らしたり引き締める大豆で出来たソイタイプを飲んでる。
姉貴も昔からソイタイプを愛用して飲んでる…たまに俺も飲んでるけど。
「だぁもう!つまんない!プレゼント!早くプレゼント寄越しなさいよ!はいまずアンタ!名前なんだっけ?とりあえずギャル!早く!」
「私の名前は小百合だってば…いい加減覚えてよ。プレゼントって言っても、そこまで大した物じゃないけど」
小百合の手からプレゼントをもぎ取った夏美が、乱暴に包みを開けた瞬間に、小さい悲鳴が上がった。
そういや…小百合が選んだのってリアルな豹のぬいぐるみだったな。
あのリアルな豹がいきなり現れたら、びっくりするのはしか方がないのだが、思いっきり宙を舞ったな。
あと数センチ程ズレてたら、埃まみれであろうタンスの上に着陸するところだった。
「なんでトラなのよ!?てか怖いのよ!何あのギロッとした目!」
「虎じゃなくて豹だから!全然違う1人のプレゼント投げ飛ばすとか信じられない!どんな教育受けてんの!?」
三人をなんとかふりほどき、今にも夏美に襲い掛かりそうな小百合を後ろから押さえる。
予想はしていたさ…毎年の事だから言われるのは知っていた。
まだ俺と浩寺に対してやるのは分かっていたが、小百合に対してはまだ大人しいかと考えた俺が甘かった。
リアルな豹のぬいぐるみを渡す小百合の完成も凄いが。
「もう自分で良さそうなの探す!次この小さいヤツ!」
次に手に取ったのは、確かに小さいプレゼント。
四角く薄い形、そのプレゼントを買ったのは姫華だ。
一緒に買うところを見ていたし、買った本人が青ざめて震えてる。
丸わかり過ぎるが…流石に小学生相手に悪態はつかないだろ。
もし悪態なんてついたら、物理的に俺が夏美の頭をどつき回してやる。
「あ…結構可愛いかも。私の好きな猫のキャラじゃん!?これ買ってくれたの誰!?超嬉しいんだけど!」
「はい私!夏美お姉ちゃんが好きだと思ってそれにしたの!」
似たもの同士だ…やはり二人の方が姉妹として成り立つんじゃないのか?
「じゃあ次はこれ!なんか明かにぬいぐるみだと思うけど…まさかこれ、タクのプレゼントじゃないでしょ?」
「それ、私と先輩からです!」
手に取ったプレゼントを、あっそうと一言で片付け、開けずにベッドに投げる夏美。
あれは流石に蘭華に対して失礼すぎる気がするが、途中で嘘をついたら俺は何も言わないでおく。
どうせ夏美のヤツも信じて無いだろうしな。
でもちょっと可哀想な気がする…半泣きでプレゼント回収してるから。
だが俺の方まで来て…人の胸の中で泣くのはどうしてだ?
今はパッド入れてるからある方だけども、しっかりと顔を押しつけてるよ。
うん…とりあえず頭を撫でてやるが、相変わらず息を荒くするな。
「分った!これ浩寺のでしょ!?いつも浩寺は私にアクセサリーくれるから!」
夏美の勘は見事的中し、中身まで全てが当たっていた。
毎年同じような物ばかりプレゼントしてたからな、今年も同じ様な物だったか。
少しだけ違っているのは、いつもより少し高そうな物ばかりが入っていることだろう。
特に目を引くのは、夏美が好きそうなハートのネックレスだ。
完全に目がうっとりしてるから、かなり気に入ったのだろう。
「似合うじゃない!夏美ちゃん、もう可愛くなっちゃって!昔から本当に可愛いんだから!それに夏美ちゃんは胸が大きくないから、ネックレスを無くす事もないしね」
姉貴ィィィ!?核ミサイルを発射するな!
夏美のやつ、かなり気にしてんだから!デリケートな問題なんだから!
もう夏美の顔が真っ赤になってるよ!俺の背中を攻撃するという八つ当たりに出てる!
「その通りだな、私も以前似た様な事をして新しいのを買った事がある」
「私もです!えっと…シャーペンの芯が飛んで来て、胸の中に入ってました!」
狂子の方は普通にありそうだが…もう蘭華のは嘘だな。
張り合いたいのは十分分るのだがな、流石に無茶があり過ぎるような展開じゃないか?
あと夏美にガソリンを注ぐのをやめてくれ…蹴られた後が痣になりそうだ。
酷い事をしてくれるな…本人にとっては相当なダメージだぞ。
「落ち着けよ夏美。いくら春魔を攻撃したって意味ないだろ」
「何を言っても無駄だ…三人の言葉は、夏美にとってハイオク並のガソリンだったって事だよ。もう何も聞こえてねぇ、ハァ…よいしょっ!」
あまりにも八つ当たりが酷いので、俺は一気に夏美を担ぎ上げ、蹴り攻撃を止める事が出来た。
代わりに無言で叩いてくるが、蹴られるよりは全然痛くない。
これで…一気に四人の相手をしなければならなくなった。
もうそろ俺も、隠しておいたプレゼントを出さないと行けないが…かなり文句を言われるだろう。
予想外にプレゼントが似たり寄ったりだから、殆ど同じなんだよな。
「そろそろ先輩のプレゼントを見たらどうッスか?見た感じ、それっぽい物がないッスけど?ああ、ケーキだけでしたっけ?」
「ええ!?タッちゃんのプレゼント、ケーキだけなの!?」
由実の発言で涙目になる姉貴だが、この反応をするのは酔っ払ってるからだ。
ちょっと待って!なんか姉貴、服一枚脱いでない!?
ベッドの上に、見覚えのあるスカートが置いてあるんだけど!?
しかもお腹を出しながら服をパタパタしてる…パンツ丸出しじゃねぇか!?
いつも部屋で裸で寝る癖があるけどよ、ここは自分の部屋じゃない。
今日に限ってなんで透けたパンツを履いてるんだよ!?姉がそんなパンツ履いてる事実なんて知りたくねぇよ!
一応浩寺とか姫華も居るんだから考えろ!
パンツ丸出しで泣くとか本当になに!?新手の男を落とす技!?
「お姉ちゃん悲しい!タッちゃんがケーキだけだなんて!昔は誕生日にお願いとか聞いてくれたのに!一緒にお風呂とか!一緒に寝たりとか!」
「ちゃんとプレゼントは用意してあるから!パンツをむき出しにする形で涙を拭くな!小学生に悪影響だろうが!」
プレゼントがあると聞いた瞬間に、酔っ払いが飛びかかってくる。
咄嗟に避けようと試みたものの、間に合うことが出来ずに、下敷きにされてしまった。
酔っ払ってここまで酷い状態になるのは始めてだ。
夏美はなんとかベッドの上へ転がる形になったが、あまり聞きたくない音が聞こえてきた。
考えたくはないのだが、壁に衝突した可能性が出てきたぞ。
確認をしたいが、姉貴がしっかりと上で抱きしめてくるから身動きが取れない。
これは姉貴との最悪エピソードトップ10入り確定だ!
「大好き!タッちゃんは世界一の姉思いの弟ね!お姉ちゃんからご褒美のチューを上げましょう!」
「ちょ、流石にダメですって!徳江先輩、手伝ってください!大島!愛神!アンタ達も見てないで手貸しなって!」
大勢でやっと引きはがす事が出来た姉貴だが、剥がされた後に直ぐ眠ってしまった。
なんだか嵐が過ぎ去ったような気分なのだが。
「酷い目にあった…皆、ありがとな。夏美?頭とかぶつけてなガッ!」
夏美の様子を確認しようと振り返った瞬間に、顔面に枕を叩き付けられた。
「大丈夫なわけないでしょ!馬鹿タク!変態!死ね!アンタはいつもそう!私を不幸にして楽しい!?いつだって私が酷い目に遭うんだから!」
「待て夏美!今のはどう考えたって不可抗力だろ!?秋恵さんが春魔の上に乗っかったから、お前が転がって壁にぶつかったんだろ!?どう考えても事故だろ!」
口論を始める二人だったが、今度は浩寺目掛けて枕を投げつけ始める。
夏美が言いたいことは分る…過去にも色々と酷い目に遭わせる結果を招いたからだ。
だからこそ何も抵抗もしないし、本人がそれで納得するなら良いと考えていた。
だけどな…我慢にも限界と言う物がある。
「アンタ達だってそうよ!いつもはタクと浩寺と三人だけでお祝いをしてたのに…アンタ達が現れてから、私達ずっと一緒だったのに…最近のタク、全然相手してくれないし…もうヤダ!」
大きな声で叫んだ途端に、いきなり部屋を飛び出して行く夏美。
唖然とする俺達だったが、小百合に追いかけろと言われて、二人で部屋を飛び出した。
いきなりの事だったので俺達はそのまま、メイドのコスプレをしたままでマンションを飛び出したのだ。
周りからはメイド二人が走っていると、不思議な目で見られている事だろう。
特に浩寺も女装をすれば一応はモデルに見えなくもない、元々がイケメンというのもあるからだろう。
俺も一応は女装すると姉貴そっくりになるから、あまり違和感事態は仕事をしない。
問題はメイド服姿で夏美を探す事になってしまった事だ。
「なぁ春魔、今回の件で俺達は…夏美を傷つけていたと思うか?俺、どうしても分らねぇよ。アイツ、昔からツンデレだし…だけど、たまに甘えてくるだろ?俺達はどうする事が正解だったんだ?」
「どうするのが正解か…知るかよ。正解があればこんなことになってないだろ…あるとしたら、俺がもう少しだけ…いや、何でもない」
これ以上の事を言っても、状況が変わるわけじゃない。
今、俺達がするべき事はただ一つ…夏美を無事連れ帰る事。
せっかくの誕生日会が大変な事になってしまったが、今優先すべきことは、夏美をとにかく無事保護する事だ。
夏美の事だから、きっと何かのトラブルに巻き込まれてる可能性がある。
頼むから交通事故とかに遭わないでくれ。
「やっぱり止めた方が良くない?だってあれ、見るからに中学生か高校生くらいだよ?」
「いいってば、もしウチ等が止めたとしても、多分やめないって。それに、あの女がぶつかってきてたんだし、自業自得でしょ…人にぶつかっておいて、文句言うとかマジウザい」
通りすがりの女子更生から聞こえてくる会話から、もしかすると夏美が関わっているのかもしれない。
話を聞きに行こうとすると、先に浩寺の方が行動していた。
浩寺の反応からして夏美が関わっていそうな感じだが、女子高生の方から少しナンパされてる様にも見える。
女装してても逆ナンされるって、イケメンが恐ろしくなってきた。
「やべぇぞ春魔…話を聞いてみたら完全に夏美だ。すぐ近くの路地裏に連れて行かれたって」
詳しい内容は、走って来た夏美が女子高生の一人にぶつかったらしい。
そこで謝るのが普通なのだろうが、やはり夏美は酷い悪態をついた挙げ句に逃走を図ろうとしたとのこと。
謝らずに逃げようとした事に、女子高生の男友達が連れていった。
やはり嫌な予感が的中したと、二人で深いため息を着きながら、連れて行かれたと言う路地裏に向かう。
どうしてで幼馴染みを探すのに、メイドのコスプレで走らされるのか。
しかも俺のだけミニスカだから簡単に走る事が出来ない。
これを着る為だけに足の毛の処理までさせられた。
パンツまで取り替えさせられるし…由実はなんで俺のサイズ把握してんだよ。
「もし夏美を助ける時に相手が殴り掛かってきたらどうする?やっぱり応戦するか?でもこの恰好で喧嘩するのは難しいと思うんだが」
「大丈夫だ…相手が記憶を無くすレベルで頭に蹴りを叩き込む。最近仮○ライダーで後ろ回し蹴りしてるの見て、一度試したいと思っていたからな…ミニスカだから蹴りに制限が掛らなくて良い」
あれ?俺…普通にミニスカのメリットを見つけてないか?
「居たぞ、つか詰め寄られてる!夏美の顔に男の顔があと数センチで触れる!あと三十秒!」
テンパってるのか、浩寺が大声で叫ぶせいで、あちら側に存在を気づかれてしまった。
まだ大勢ではないだけマシだが…見た目的に結構危なそうな感じなんだけど?
二名のうち一名だけ魔改造されたような人間がいるんですけど?
口からピアスとチェーン伸びて怖い!現実で見たの始めてかも!
「こんな所へわざわざメイドが来るなんて、コイツもしかしてお嬢様かなんかか?まぁいいや、アンタ達のお嬢さんの躾けなんとかした方が良いよ」
「これ、さっき噛みつかれちゃってさ。まるで猫みたいでびっくりしたよ」
涙目で睨み続ける夏美に、笑いながらフレンドリーに話掛けてくれる二人。
若干状況がつかめなくなってきているが、なにこれ?
結局は夏美は酷い暴力とか振るわれてないの?
「君、次から人にぶつかったら謝る。でないとお兄さん達みたいに怖い人に絡まれたりするから」
結局二人は、ぶつかっても謝らない夏美に対して説教をしていただけとのこと。
俺と浩寺は安心で自分の胸をなで下ろした後に、同時に夏美の頭に拳骨が落とした。
今回の件では夏美が絡まれていた事で、結構心配させられたからな。
何かされるんじゃないかって思っていたら、気が気でなかった。
浩寺に関してはもう青ざめてるしで、俺も少し足がガクガクしてる。
「痛った!なんで二人して殴るのよ!?暴力オカマ!馬鹿!死ね!禿げろ!クソ童貞野郎共!」
背後で騒ぐ夏美を無視して、俺達は二人に謝罪をしたあと、なおもこちらに矛先を向ける馬鹿を連れて帰る事にした。
部屋の中で数名の寝る吐息が聞こえる中で、俺と他三名が暗闇の中でゲームをしていた。
姉貴は酒で完全に潰れてしまい、何を考えてなのか、間違ったのか蘭華と由実と狂子まで酒を飲んでしまった。
飲んだと言ってもビールではなくカクテル類で、姉貴がカ○ピスソーダで割っていたのを、間違って飲んだだけだが。
由実は一口で速攻にダウンしてしまい、蘭華は突然服を脱いでからのベッドにダイブからの、速攻爆睡をした。
一番驚いたのは狂子が間違って飲んでしまった理由が、どうして二人がああなったのか確認をしようとしたためだ。
自ら望んで飲み言ったのには、かなりビビらされた。
そのあとで姫華は疲れたのか寝てしまったが、他のメンバーはまだ起きていた。
「だからなんで私の誕生日にフロッグマン(それ)をやるのよ。てか小百合は平気なわけ?ホントに女?」
「この女殴っていい?コブラツイスト決めて良い?」
「やめとけ、夏美にコブラツイストは効かねぇ。やるならキン○バスターで止めておけ」
「むかしから春魔にコブラツイストかけられてるもんな。俺も掛けられた事あるけど、あれはもう人間の領域を超えてるって」
残っているメンバーでやっているのはフロッグマン。
夏美が一番嫌っているゲームだ。
何故にこのゲームをしているのかというと、今日の件でのお仕置きのようなものだが、実の所は毎年恒例と化してる行事だ。
本人は怖いとか言いつつも、しっかりと俺と浩寺の間に挟まりながら、毛布を被って画面を見てる。
だが今日はいつもと違い、夏美と俺の間には小百合が座っている。
いつものポジションを崩されて少しご機嫌が斜めだったが、ゲームが着いた時点でもう何も言ってこない。
珍しいのは小百合自身が進んで、間に入ってきた事だ。
本人曰くテレビ画面を欲みたいとのことだが、腕を絡めてくる時点でもう下心が見えてる。
「そういや夏美、そこにあるまだ開けてないプレゼントで、黒い包装されてるヤツ開けてみろ。そいつが俺からだ」
「どうせアンタのなんて、いつもと同じぬいぐるみの新作でしょ。いくら私があのメーカーが好きだからって、毎年同じのだと」
包装紙を乱暴に開ける音が聞こえていたが、途中で何も聞こえなくなった。
どんな反応をしてくるのかまでは予想をしていなかったが、もう少し騒ぐと思って居た。
「タク…これって、私がテレビ見て欲しがってた」
「マジかよそれ!?俺もテレビで見たことあるけど、結構するんだろ!?あと予約してもずっと先になるって有名だろ」
「超可愛いやつじゃん!?しかも手に持ってるのって確か、ペンダントケースだよね?」
意外と詳しいな!?有名な所のぬいぐるみだけどさ!
てか夏美以外に二人も食いつきすぎだろ!?エロ本を見つけた小学生並だぞ!?
「バッカじゃないの!?確かにテレビ見て欲しいって言ったけどさ…どうして普通に買っちゃうのよ!?これ買うなら私に何か別の買ってよ馬鹿!アンタ、気を利かせ過ぎなんだから!」
嬉しさからくるものなのか分らないが、号泣しながら首をしめてくるのはやめてくれ。
火事場の馬鹿力でも発動しているか?手が全然外れないんだけど。
やっば…意識がだんだんともうろうとしてきた、なんでこういう時にス○ンドが使えないんだろ。
でもあんなのが現実に出てきたら、結構怖いな。
「しっかりしろ春魔ァ!夏美!それ以上やったら本気で春魔が死んじまうぞ!」
「タクを殺して私も死ぬ!アンタはいつもいつも、今日はもう絶対に許さないから!」
「真面目に死んじゃうって!力強すぎ!これ本当にリアル女子高生の力!?ああもう!あれしかないか!」
小百合が咄嗟に夏美をくすぐったおかげで、ギリギリ落ちる前で助かった。
首を絞めてくるパターンは始めてだったが…少しだけやり過ぎたか。
「この女ヤバいって…一回病院とかに行かせた方が」
「そこまでする必要はない…戸惑い過ぎただけだ。やっぱり急にプレゼントを高価な物にするのはダメだな」
「張り切りすぎなんだよ。いくら夏美が喜ぶだろうって、限度って物があるぜ…夏美も急に首を絞めるな!本当に死んだらどうする気なんだ!お前は犯罪者になるんだぞ!?」
複雑そうな顔で小百合から見つめられながら、首の痣を確認された。
浩寺の方は夏美に声を掛けているのだが、本人からは返事がないようだ。
他人からみればこの状況が異常に見えるのは確かだ。
この状況になれて麻痺していると言われたとしても、俺は否定が出来ない。
だが夏美をああいう行動に走らせるようにしたのは、主に俺が原因なのではないだろうか。
責められるのは夏美じゃなくて、俺が責められる方だ。
「夏美ちゃん…貴女が取った行動は、戸惑ってどうしたらいいのか分らないからでしょ?今までと全然違う、毎年欲しいと頼む物をプレゼントしてもらってたのに、今年は違ったから怖かった…でしょ?」
声の方を見ると、さきほどまで寝ていたはずの姉貴が、毛布でくるまった夏美を抱き締めていた。
「怖かったのは分るけど…もし私が貴女に何十万円もするバッグをプレゼントしたとして、私の首を絞める?タッちゃんじゃなくて、浩寺君が同じ物をくれたら同じく絞めるの?」
姉貴の反応に対して夏美は、静かに首を横に振る。
それでも姉貴は夏美へ、別の人物に例えて静かに質問をしていった。
狂子や蘭華に例え、そして両親やウチの親、最後には動く事も出来なくなっているかのようだった。
すると姉貴は強く抱き締めたのか、泣き出す声が部屋に響き渡り始める。
しばらく泣き続けていた声が静まると、静かな寝息が代わりに聞こえ始めた。
「今回ばかりは頑張りすぎたみたいね…学生なら学生らしい範囲で用意をするものよ。夏美ちゃんが混乱するのも無理はないわ…ただ、今回の件は私にも責任があるわ」
「姉貴に責任?違う…悪いのは俺だ。ちゃんとここまで予想してなかった俺が」
最後まで言う前に、何かに言葉を遮られてしまった。
頬から来る熱と痛みで、少しだけ頭が冷静になってきたようだ。
自分の頬を抑えながら横を見ると、目に涙を溜めた小百合が、手を大きく振り上げていた。
次の瞬間、今度はもう片方の頬に激痛が走る。
叩かれた頬に手を添えた時に、小百合に襟首を掴まれながら、激しく揺らされる。
「良い加減にしてよ…見てるこっちが辛くなるような事はやめてよ。アンタは何も悪くない…自分を犠牲にし過ぎてる、少しは本心を出したらどうなの?」
「俺の本心か…以前狂子に言われたよ。最近は意識して出してるつもりだったんだが、出てなかったか?というより、無意識に本心を出すってのも難しいもんだな」
次の瞬間、頭に衝撃が来たと思えば更に追い打ちを掛けるように、何度も頭に痛みが走る。
「難しいって何?それが人間でしょ?見てるかぎり、アンタはたまにロボットに見えてくる。殴られたりしても、本気で怒ってないで、感情を殺してるようにしか見えない!」
「落ち着いて!それ以上叩いたらダメ!私が、私がいけないのよ!小さい頃から我慢をさせすぎたから!だから責めないであげて…タッちゃんも少しづつで良いから、治していきましょう」
涙目で頷き会う二人を見て、どう言葉を掛けていいのか分らなくなってしまった。
浩寺の方を見ても目を逸らされた。
巻き込まれたくないのか、それともどうする事も出来ないという意味なのか。
とにかく…二人で抱き締めるのが複雑すぎて困った。
最近はこういう状況ばっかりな気がするんだが。
「明日は…この事について皆で話し合う事にしましょう。どうしてタッちゃんがこうなったのか…説明させて」
俺が本心を出さなくなった理由を説明するか。
姉貴は自分の生でもあると思ってるが、俺はそれが違うと言いたかった。
だがこのときだけは…どうしても言う事が、出来ないで終わってしまった。
夏美暴走で終わってしまった誕生会。
次回、柘魔の本心を表に出させる為に、皆での話合いが持たれる。




