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第三十一話後悔するのに、宿題を後回しにするヤツは絶対居る。

夏休みが終盤近くまで来ていた今、柘魔はある事に悩まされていた。

その悩みは毎年彼を襲い、貴重な時間を消費させていくのだった。

 夏休みが終盤に近づいてきた、残すところもあと一週間ほど。

 ここら辺になってくると、必ず一人は居る。

 宿題に全然手をつけずに遊び呆け続けて、最後には間に合わなくなるヤツ。

 現在、俺と姉貴の前で、頭を抱えている夏美がいる。

 目の前には学校での宿題が並べられ、全てが印刷した文字しか載っていない。

 鉛やインクで書いた様な跡は一切無く、とても綺麗な状態で保管されていたのだろう。

 そう…学校終わりの鞄の中に。


「いつも言ってるじゃない。長期間の休みで出される宿題は、計画的に消費した方が効率が良いって」

「だって…まだ日数(よゆう)あると思ってたから」


 これは今に始まった事ではなく、言わば毎年の恒例行事と化している。

 事前にやっておけとラインをして置いたのだが、余計なお世話と返ってくる。

 だから最終警告をした後に、どうなっても手伝わないと書いたのに、手伝う事になってしまう。

 鉄どぁないほうが、夏美の為になることは分かって居るのだが、俺の部屋で暴れられるから困る。


「どう考えても自業自得よね?アナタは何年間続ければ、いい加減学習するのかしらねぇ?このままだと、卒業も危ういんじゃないのかしら?聞いてるわよ?毎回テストが赤点ギリギリだって」


 俺を睨み付けてくる夏美だが、犯人は浩寺だ。

 いつもいつも俺が犯人と決めつけてくるが、姉貴に話した所で、別に得する事が無いんだけどな。

 俺は夏休みが始まって、合間を見ては埋められる所は埋めて来たから、全て終わってる。

 読書感想文に関しても、事前にネットで面白そうなのを探して、注文しておいた。

 だからあまり苦労する事も無かった。

 浩寺の方も、姉貴の恐ろしさを知っているから、俺と同じ作戦に出ていた。

 よって、浩寺も既に宿題は終わっている。


「タッちゃんの方は、全部終わってるの?」

「夏休み開始一週間で終わらせた。昔から知ってるだろ?俺は宿題は先に終わらせる方だって」


 心配そうな顔を向けられたが、終わらせている事に安心をしたようだ。

 俺はそんな二人を背後に、ゲーム機の電源へ手を伸ばそうとしていた時、携帯が鳴り始めた。

 番号を確認すると、珍しく由実からだった。

 正直出るのが面倒だったが、何かあったのかと思い出てみることにした。


「一体何のようだよ?まだ朝の九時だぞ?」

「良かった、起きててくれて助かったッス。単刀直入に言うッス!蘭華と姫華の宿題、手伝って欲しいっす!」


 おいおい…こっちもかよ。


「念の為に聞くぞ?全員、どこまで終わらせてる?」

「私はあと読書感想文だけっすけど、蘭華と姫華は…悲鳴で察して欲しいッス」


 向こう側にも、馬鹿が二名程居たよ。

 なんなの?宿題一週間までやらないのが常識なの?

 宿題やらない教でもあるわけ?てか姫華はまだまともだと思ってたんだが。

 やはりあの二人は、似た物姉妹なんだな。

 というより、もう少し良い部分だけ似ろよ!

 毎回毎回悪い部分ばかり似やがって!どうなってんだ!?

 電話の向こうでは、姉妹揃って何か叫んでるし、軽く断末魔だろ。


「お前の宿題を写してやれば良いだろ」

「いやぁ…それが…出来る事ならそうしてるッス。実は、蘭華本人が先輩に教えて貰いたくないって、全然譲らないッス」


 面倒くせぇ!俺教えるのもう面倒くせぇ!

 蘭華に教えるときって、大体が悪魔とかに変換して教えないと駄目だから、こっちがややこしくなる。

 かけ算をするだけで、悪魔の軍勢を例えで出してやって、そこから計算をさせる。

 ところどころで悪魔の名前を出さないと行けないし、名前間違えたら力説してくる。

 だから普通に覚えてくれたら、大分楽にはなる。

 当の本人が覚える気があればの話しであって、無いからこの方法をとっている。


「蘭華に伝えろ。(いさぎよ)く怒られて来いって、こっちも夏美の方でで手いっぱいだ」

「ぞんだごどいばずび!べぶだっでぐだざい!」


 音割れを引き起こす位に、電話の向こうで蘭華が叫んできた。

 泣きすぎて聞き取り難い上に、音割れは酷すぎる。

 蘭華の方には、由実が付いているから問題ないと思っていたんだが、読みが甘すぎたか。

 事前に言っておけば、宿題をしていたのかもしれないが…。

 一瞬の間に、俺の脳裏を嫌な予感がマッハで通過して行った。

 確か以前も似た様な展開があったはずだ…それはテストの時。

 狂子も同様に勉強が出来なくて、一緒に勉強をした覚えがある。

 つまり、狂子も宿題をしていない可能性がある。


「分った、分ったから叫ぶな。手伝ってやるから…場所は後々連絡する」

「もう先輩の家まで行きます!先輩とベッドの中で勉強した方が、絶対はかどります!」


 そのベッドが無いんだよな、お前等が壊したせいで。

 どっちにしろ、ベッドの中で宿題が出来るか!?出来るはずないだろうが!

 電話の向こうからは、ドタバタ聞こえてくるから、色々と準備してるんだろうな。

 もう電話を切りたくなってきた、向こう側の息が聞こえてくる。

 明かにヤバい声が聞こえてくる。


「せんぱ…い。こういうプレイも、興奮してきますね」

「無駄な体力を使う暇があれば、全力疾走でこの部屋まで来い。30分以内に来れなかったら、お前の宿題の回答欄全部を、油性ペン使って間違いだらけにしてやる、姫華も同様な」


 慌てた声で何かを言った後に、電話を切られた。

 これで狂子の方にも電話を掛けられるな。


「ちょっと、やり過ぎじゃないかしら?流石に油性ペンで書くのは、私でも躊躇うレベルよ」

「そうでも言わないと、蘭華(アイツ)は言う事を聞かないさ。夏美も同じだからな…俺が狂子に電話をかけ終わるまでに国語終わらせないと、ノートに大量のフロッグマンを描くぞ」


 大っ嫌いなフロッグマンと言うワードは絶大だな、直ぐに取り組み始めた。

 嘘でしょ的な顔で、姉貴が交互に見合わせてきた。

 俺はと言うと、狂子に電話を掛けるわけなのだが、ワンコールで出たな。

 それも向こう側では、妙にテンションが高い。

 子どもがクリスマスか誕生日に、ゲーム機本体を買って貰った時のテンションだ。


「どうしたんだ!?柘魔の方から電話を掛けてくるとは珍しい!私に会いたいのか!?私も柘魔に会いたいぞ!待っていろ!今そっちに轟さんを向かわせる!」

「随分とテンションが高いな?何か良いことでもあったか?」


 狂子がテンションが高い理由を聞いてみると、どうやら犬を買ったらしい。

 そりゃあ高くなってもおかしくはないか、犬って可愛いからな。


「見に来ないか!?もの凄く可愛いんだ!今も私とお母様にくっついて離れなくてな、そっちへ行きたいのだが行けないんだ」

「そういうことか、理解したが…狂子、1つ質問をしたい。夏休みの宿題は、終わっているか?」


 しばらくの間、チンもk寿賀続いたが、答えがくるのを待った。

 一体どんな返答が来るのかを待っていたが、なかなか返事が返ってこない。

 たまに犬の息が聞こえてくるが、興奮してる蘭華の声を聞かされてる気分だ。

 それから五分ほど待っていたが、狂子が出る気配は無く、キャリーさんとの会話が始まった。

 話した内容は、世間話程度なのだが、ところどころで下ネタをぶち込んで来るのはやめて頂きたい。

 途中でえげつない内容から、狂子の身体的特徴まで話し始めたから、こっちは困りものだ。


「それでねぇ、あの子ってば、私とお風呂に…ちょ、顔は舐めないで!お化粧してるから!舐めるならもっと下の…こことかぁ、ここを集中的にぃ」

「お母様!勝手に電話をしないでください!あと一体何をなさっているのですか!?まだ子犬だからといって、自分のミルクを飲ませないで下さい!」


 あの人…頭おかしいのかもしれない。


「待たせてしまったな。ところでだ、宿題と言う物は、出ていたか?」

「は?え?三年も確か出てるはずだぞ。持って帰ってきてるよな?机の中に、放置とかしてないよな?」


 再び沈黙の後に、涙が混じった声で焦り始める狂子。

 三人を超えるお馬鹿が、電話の向こう側に発見。

 宿題に手をつけていないどころか、存在自体を認識すらしていなかった。

 もうね…開いた口が塞がらない、開けるボタン押しっぱなしだよ。

 俺自身が唖然としている間にも、汗だくになってる蘭華達が部屋に入ってくる。

 でもそれどころじゃない、予想を斜め上を軽く越えて来てる。

 俺を疲労で殺しに掛ってきてる、今日でトドメを刺しに来てる。


「どうすれば良いんだ!?私は宿題なんて分らないぞ!」

「分らないぞじゃなくてだな…もういい、そっちに全員で行く。こっちでも役三名が宿題してないから、まとめて片付ける」


 狂子の家へ行くことを伝えると、慌てていた様子から一変して、喜びへと変る事が分った。

 声のトーンが大きく変化するから、分りやすい。

 疲れてバテてる三人に麦茶を飲ませた後に、俺と夏美も出かける準備を始めた。

 姉貴は付いてくる気はないらしく、家で仕事をするそうだ。

 電話をしてから三十分ほど経過した頃に、轟さんの運転するリムジンが、迎えに来ていた。



 真手場家はいつ見てもデカい、とにかくデカい。

 普通の家を何十倍も巨大化させたのが、真手場家と言えるだろう。

 野球場すらも軽く陵駕するから、全て回るとなると一日で終わるか分らない。

 そしてこの家に比例するかの様に、家の主達も色々とデカい。


「待っていたぞ!こらっ!勝手に外へ出ようとするんじゃない!」


 真手場家の次期当主!真手場狂子!デケーい!


「挨拶とか良いから、早くエアコン聞いた部屋に連れてって。外暑すぎ」

「おお、警察犬ッスね。よしよし、おいでおいで…うわぁ!なんで唸るッスか!?」


 由実が完全に敵視されてる、人を見る目があるな。

 そして蘭華が超懐かれてる、もう手懐けてる状態だ。

 俺の方は、完全に無視と言うか、存在自体を認識されてない。

 あと狂子が水着で家をうろついてる事に、俺は疑問を覚える。

 狂子が住んでいる家だから別に良いんだが、流石にヒモ水着は過激すぎるだろ。


「二人には早々懐いたか…柘魔にも懐くかと思っていたのだが、予想外だな」

「唸られるよりはいいさ、にしても今日は…随分と派手な格好だな。水着が金色か」

「確かに大分派手ッスね。まぁそれより、犬の名前はなんて名前ッスか?既に蘭華達が勝手に名付けてるッスけど」


 狂子の事だから、犬の名前に銃系の名前でも付けそうだな。

 ワルサーとか、モデロとセイとウニカだったりして。


「名前か?全員整列!右からアレックス、ロレックス、ベイ○ックスだ」


 最初以外の名前、どこかで聞き覚えがある名前なんですけど!?

 真ん中は時計のメーカーだよな!?最後なんて映画じゃなかっか!?

 まだ銃の名前をつけてやる方が数倍マシだ!

 あと蘭華!人様の犬に悪魔の名前をつけるな!


「先輩!私も犬飼いたいです!チワワが飼いたいです!名前はオルトロスが良いです!」

「やめてよ!私動物アレルギーなんだから!今も鼻と目がかゆくてヤバいんだからね!」


 だから姫華が俺の背後に隠れてる訳か、アレルギー持ちなのを忘れてた。

 俺を盾にすることにより、犬たちの視線から外れる作戦か。

 夏美の方も懐かれているみたいだが、蘭華の人気度がヤバいな。

 顔中がよだれ塗れになって輝いてる。

 てか抑え込まれて、スカートの中に潜り込んだりしてるよ。

 ちゃんと躾けられているのか心配になってくるが、狂子達の事だから出来てない可能性もある。

 去勢しているのかすらも分らないからな。


「な、なんで腰振るんですか!?私、そういうことは先輩にされたいんです!」


 発情してるなぁ…この光景は、狂子にどう見えているのか。

 俺の後ろに隠れてる姫華は、思いっきり引いた顔をしてる。

 引かれるのもあたりまえだよな…同じ状況で同じ事を言われたら、俺だって引く。

 実際に俺も引いてる。


「ベイ○ックスがじゃれているな。母もよくやられて笑っていたが、私には何が楽しいのか全然分らなかった」

「そういや前に、こういう感じのAVをネットで見た事あるッス。正直気分悪くなったッスね…私は何を見てんだと自己嫌悪になるってあれ」


 なんて物を見てんだよ、そのうちクリック詐欺に引っかかるぞ。

 姫華の顔が段々と青ざめてるし、内容を理解しきってらっしゃる。

 服を掴む力が強くなって、ガタガタ震えてるのが伝わってくる。

 そりゃ初めて知る世界の話だから、びっくりするよな、ビビるよな。

 小学生の頭じゃ考えつかないだろう内容だ。


「犬のことは分ったから、宿題を終わらせるぞ。遊ぶのはその後だ」

「顔中がベタベタです…お風呂貸してください。先輩も一緒に入りましょう!そのままの勢いで、くひひ…うふゅ!」


 ゲスい顔をしながら何かをぶつぶつと呟く蘭華を置いて、勉強が出来る部屋へと案内してもらった。

 案内してもらったまでは良いが、連れて行かれたのは巨大な武器庫とも呼べるような作りの場所が、屋敷内にあったなんて。

 コンクリートの壁に、大量の銃がガラスと壁の間に納められてる

 戦争でも始める気でいるのか、問い詰めたくなるくらいの品揃えだな。

 全部が全部、モデルガンなのか?

 実銃を部屋に飾るのは無理がありすぎるからな、特にロケットランチャー系なんて無茶すぎる。


「ここで宿題をするつもりか?普通は自分の部屋とかじゃないか?」

「私はいつもここで勉強をしているぞ?部屋には誘惑する物が沢山あってな、集中が出来ないんだ」


 この部屋には、誘惑するものしかないような気がするけどな。


「成績が悪い原因が分った気がするよ。勉強の合間に、弄ってるだろ?」

「弄ってるって、先輩もベッドの中で自分の銃を弄って勘弁ッス!アイムソーリー!それ以上は何か大切な物が耳から出てくるッス!」


 本当に学習能力のない馬鹿だよ、悲しくなるからもう少し真面目になれよ。

 特に歳上なんだから、小学生の前での下ネタは控えろっての。

 途中で英語で謝罪しやがって、全然反省する気もないな。


「お前は罰として、自力で問題を解け。まずは先に狂子と夏美の宿題を片付ける」

「先輩ッ!!最初は私の宿題を手伝ってください!!私全然分からないんです!!」


 この部屋はコンクリートで覆われてる、つまり声がかなり反響する。

 蘭華が大声を出したせいで、部屋中に声が反響し続けて、もの凄く五月蠅い。

 皆で耳を押さえてるが、対して意味が無いくらいに大きい。

 てか蘭華に教える場合は、他と違ってややこしい方法をとらないと行けないから、先に狂子達を終わらせておきたい。

 最終手段も残してはあるのだが、あまり使う気になれない。

 だが状況的に、使わざるおえないか。


「よし、蘭華。大人しく待ってたら、俺が特別レッスンをしてやると言う事で手を打たないか?二人っきりで、分りやすくだ」

「本当ですか!?何でもありですか!?お触りありですか!?もういっそのこと、保険体育実戦で行きましょう!」


 それは流石に許可出来ないと伝えると、いつものように頬を膨らませて、こちらを見つめてくる。

 蘭華はこれをすれば俺が何かしてくれると思って居る野だろうが、今日の俺にはそんな余裕なんてない。

 とにかく全員の宿題を終える為には、三人の宿題をまとめて見る必要がある。

 ここで大きな問題があるとすれば、狂子の宿題を俺が解けるかどうか。

 姫華の問題は小学生だから、行けるはず。

 夏美の問題は俺達とそこまで大きく変らないから、全然問題は無し。


「…まずは狂子、解ける所は先に解いて、分らなかったらとりあえずは飛ばす。夏美も同じ様にしておけ、姫華は算数の解き方を教えるから、自分で解いてみろ」


 宿題を初めて数時間が過ぎた。

 姫華は元々賢い様子で、一度解き方を知ってしまうと、スラスラと空欄が埋まってしまった。

 思っていたとおりに、夏美の方は俺達の宿題とは大きく変らない。

 ところどころ問題の内容は違っていたりするが、数学に関してはウチの高校よりは簡単だった。

 問題を解くように伝えて置いた狂子の回答欄は、銃やらの事ばかり描かれている。

 どうして鎌倉幕府を作ったのが、ア○ノルド・シュワルツェネ○ガーになるんだ。

 既にあり得ない歴史を作り始めてるんだよ!?

 あの人どんだけ長生きしてんだよ!?まず出身国すら違うだろ!

 この答えについて問いただしたら、あの人はロボットじゃないのかと、完全にフィクションを信じ込んでるしよ。

 訂正するのに大分時間が掛りそうだな。


「さてと…蘭華、宿題を…何処行った?」

「なんか由実とトイレ行くって言ってから、ずっと帰って来てないけど。まぁうるさくなくていいけどね」


 逃げやがったな…あの馬鹿コンビ。

 大人しくしてくれていれば、手伝うと約束をしてやっていたのに、駄目だなこりゃ。

 本人達にやる気がないのであれば、こちらも手伝いようがない。

 自業自得で怒られると良い、馬鹿につける薬は無いって事だ。


「柘魔、今日は家に泊まって行くかないか?母が大切な話しがしたいとそうなのだが」

「いやな予感がするんだが…頼むから二人きりとかにしないでくれよ?」


 大切な話というのは、蘭華と姫華に関係あるそうだ。

 案内されて向かった先は、西洋家具一式で彩られた部屋。

 もう日本じゃないとすら思えてくる位に、海外の様な部屋に、俺と夏美と姫華は戸惑っていた。

 だってこう言う部屋ならワインとかが会いそうなのに、キャリーさんはウィスキーをストレート飲みしてるからだ。

 コップにウィスキーを注ぎ、笑顔でそれを口の中に流し込む姿は、豪快そのもの。

 酔っている状態で、大切な話なんて出来るのだろうか?


「お母様、柘魔と姫華を連れて来ました。蘭華はトイレに行ってから帰って来てません」

「ええー!?探して来てよ!私その間…柘魔君で適当に遊ぶから!とりあえずツイスターやろぉ!」


 うん、真面目に話が出来る状態じゃないな。

 人を玩具のように言った後に、ツイスターをやらせようという発言。

 つか何故にツイスターを選択した?別にトランプでもいいだろ。


「ツイスターで私が勝ったら、今日は狂子ちゃんの部屋でお泊まり!私が負けたら、私の部屋でお泊まり!決まり!」

「決まってねぇよ!?俺が勝ってもメリットがないですから!逆にリスクしか無いですから!ハイリスクでローリターンでしかないですから!」


 謎の話し合いが行われ、最終的にはツイスターをする事には変らなくなった。

 その代わり、俺が負けたら狂子の部屋に泊まる。

 勝った場合は夕食が豪勢になる上に、全員個室を用意してくれると言う事で話が着いた。

 しかしツイスターなんてやった事がない上に、この人はツイスターが出来るのか?テレビでしか見たことがないから、かなり難しそうな気がする。


「じゃあ始めるよ…ふふふ、私はこう見えて酔拳の使い手なのだぁ。この動きを見破れるかな?」


 ツイスターに対して、酔拳って何の関係もないじゃん。


「柘魔、お母様に気を付けろ。私も何度か対戦をした事があるが、酔拳は非常に危険な技だ」

「だからなんでツイスターで酔拳なんだよ。全く意味が分かんねぇって」


 キャリーさんとの対決が始まって、五分が経過した頃だろうか。

 圧倒的に押されている、というよりは押しつぶされそうになっている。

 酔拳がどうとか言っていた理由が分ったが、簡単に言うと絡み酒を利用した攻撃。

 酒臭さを利用して、こっちの集中力を削いだ上で、自分のターンには胸を利用して攻撃を仕掛けてくる。

 このツイスターと言うゲームは、密着しやすい。

 故に場合によっては、頭に胸を乗せられたりして、体重を掛けられる。

 なにより、キャリーさんの体が柔らかい事が加わり、普通じゃあり得なさそうな体制までこなしてくる。


「フフフ、私って昔から体の柔らかさが自慢だったから、ツイスターでは無敗なの。あと少しで柘魔君もノックアウト!狂子ちゃんと楽しい一夜を過ごしてね♥」


 この人…最初からこれが目的だったのか。

 既に俺の足に自分の足を絡めつつ、腕のほうも似た様に絡められてる。

 次のターンには確実に、転ばされる状態にあるということ。

 負け確定だ…この人には、勝てる気がしない。


「勝ったー!これで狂子ちゃんとお泊まり決定!もちろんベッドは一緒で、あ!色々と用意しておかないと!轟!大至急コン○ームとバイ○グラ買ってきて!極薄のヤツと、あとドリンクも!」


 とんでもない事を叫びながら、部屋を飛び出して行ったキャリーさん。

 姫華の方が心配で見てみると、見事に夏美が耳を塞いでくれていた、たまには役に立つな。


「なにあの人?突然ヤバい事言い出すから、超焦ったんだけど」

「母が言っていた…コンなんとかと、バイオイクラとは一体なんだ?」


 バイオイクラって何!?逆に怖いんだけど!


「狂子は知らなくて良い事だから、キャリーさんと轟さんから何か渡されても、受け取ったりはしないように」

「うむ、柘魔がそう言うなら、気を付けておこう。しかし柘魔が私の部屋に泊まるのか…なんだか緊張するな」


 頻繁に俺の部屋に侵入しては、素っ裸で寝てたのに何を緊張なさってるんだか。

 俺からしたら、何を今更って感じだがな。

 まぁ俺自身も緊張しているかと聞かれたら、緊張はする。

 狂子の部屋に泊まると考えただけで、妙に鼓動も早くなって行く。

 最近はこれが多い気がするんだが…ありえないと考えて置きたい。

 テレビで初めて真射子を見てから、放送される度にこんな感じになることは多かった。

 でも次第にそういうことは無くなっていったんだ。


「ねぇ、今日は私も一緒の部屋に泊まるから。別にタクが近くに居ないと寂しいとかじゃなくて、あくまでアンタ達の事を心配してあげてるだけだからね」


 ツンデレのテンプレはどうでもいいが、お前は一体どこで眠るつもりなんだ?

 狂子の部屋には、巨大なベッドにデカいソファも置いてある。

 他には棚と銃が沢山あるくらい。

 無論俺はソファで眠るつもりでいるのだが、取られないか心配になる。

 夏美の事だから、俺に床で寝ろとか言い出すんじゃないかと。


「夏美も私の部屋に泊まるのか、良いぞ!皆で仲良く寝よう!私のベッドなら全員で寝れる!姫華も一緒に寝よう!」

「は、はぁ!?なんで私が一緒に寝るわけ!?あり得ないんですけど!私は夏美お姉ちゃんと寝るから!」

「え?ええ?私は良いけど…じゃあアンタ達、ベッドは私達が使うから。もちろんお客様なんだから当然よね?」


 ドヤ顔を決め込む夏美と姫華の額に、軽くデコピンを入れる。

 客とは言え、図々しすぎる。

 大分加減はしたつもりだったが、額をかなり抑え込んでるな。

 少し心配になってき…!!!


「何すんのよ…このDV野郎!」


 股間から全身へ掛け走る激痛で、俺はその場に倒れ込んだ。いくら肉体を鍛えようとも、鍛える事が出来ない箇所は存在する。

 特に男にとっての急所攻撃である、金的は防ぐにはプロテクターか何かをつけないと行けない。

 ある漫画では股間を、第二の心臓と言っていたような気がする。

 それを思いっきり蹴り上げられれば、倒れてもおかしくは無い。

 あとDV野郎って言葉、使いどころが違う気がする。


「たっ柘魔!一体何があったと言うんだ!?何をされたんだ!?ここか!?ここが痛むのか!?」


 手…手を揺するのをやめてくれ!振動が余計に悪化させてる!


「今のは流石にやりすぎじゃない?私も浩寺にやった事あるけど…泡吹いて気絶したんだよね」


 お前が浩寺の急所を蹴り上げたのは、中学三年の時だろ。

 いつもながらに、夏美の逆鱗に触れた上での、制裁を受けたわけだが。


「こうなったら…ズボンを脱がして直接確認をしよう。もしかしたら、内出血を起こしているかもしれない」

「ま、待て狂子…それだけは駄目だ。しばらくそっとしておけば、痛みは引くから」


 こちらが拒絶をしているというのに、強行突破をはかろうとしてくる狂子。

 心配をしてくれるのはありがたいのだが、ズボンを脱がすのはアカン!

 想像以上に狂子の力が強いのも驚きだが、何を執着してんだ!?

 お互いにズボンの引っ張り合いがしばらく続いたが、考えてみるとジーンズだから、腰にベルトが着いて居る事を思い出す。

 だがそれはそれで、体ごと引き寄せられてしまう。

 夏美と姫華は見てるだけで止めもしない。


「ズボンを脱がないと、確認が出来ないぞ?」

「だからそっとしておいてくれって。痛みがいつまでも治まらないだろ」


 長い攻防の末に、狂子の方が諦めた。

 どれくらい戦っていたのか分らないが、気がつけば夕食時。痛みはもう引いていたし、ただの意地同士の戦いとなっていた。

 その間にも、蘭華達が轟さんに連れられて来た。

 予想はしていたのだが、屋敷内を探索している間に、迷子になって戻れなくなったらしい。

 蘭華に関してはもう半泣き状態で、由実に関しては反省の色すら見えない。


「皆様、お食事の準備が出来ております。これは奥様から頼まれて居た物です、どうぞお納めください」

「いりません。お返しします」


 押しつけられ、押し返したりを繰り返している間に、蘭華と由実に強奪された。

 多分…また迷子になることだろう。

 俺達は二人を無視して、食事を取ったあとに、狂子の部屋へと向かった。

 やはり夏美と姫華はベッドを占領し始めたが、二人でも全然余裕のある広さは流石と言えますな。


「なんで一人の部屋に…こんだけの広さが必要なのよ!?私のベッドの何倍のデカさよ!?」

「超ふかふか!何この柔らかさ!私のベッドもこれにしたい!」


 二人がベッドで寛いでいる間も、ソファに座りながら狂子はしきりに俺の股間を心配してくる。

 たまに手を伸ばしてくるから、油断が出来ない。

 ベッド方面からは、枕をこちらへと投げつけてくる。

 人の家の物を投げつけるなって、前々から言っているのに。

 狂子のベッドには枕が2つに、ぬいぐるみも数個置いてある。

 それを手当たり次第に投げつけてくる。

 たまにキャッチしては、投げ返せないように奪ってしまうが、姫華がこっそり回収しにくる。

 本人はバレて居ないつもりなのだろうが、わざと気づいてないフリをしてるだけだ。

 理由としては、隣で狂子が楽しそうに飛んで来る物をキャッチしてるから。


「楽しいぞ!これが枕投げだな!」

「枕投げって言うよりは、八つ当たりに近い気がするがな。目が殺気立ってるだろ?」


 徐々に投げつけてくる力が弱まり始め、完全に疲れ果てていた。


「皆疲れてきているようだし、今日は寝るとしよう。さぁ、寝よう!」


 俺は別に寝ることに関しては…構わないのだがな。

 なんで俺は、狂子と夏美に挟まれる形になるんだ?

 あと狂子に関しては、気づけば全裸でベッドの中にいるしで。

 人の事を完全に抱き枕代わりにして、ぐっすりと眠ってる。

 隣の夏美に関してだが、一瞬は上目遣いに見えなくもないが、滅茶苦茶睨み付けてきて怖い。

 あっちはあっちで、姫華に抱き枕の如く利用されてるせいで、自由になれないようだ。

 …夏美と一緒に寝るのって…小学生以来か。

 小さい頃はよく遊んでいたから、こうして寝てたっけ。


「柘魔よ…これはオートマグ44であって、ルガーP08じゃないぞ…フフ、確かに似合っているな」


 夢にまで俺が出てくるのかよ…てか普通オートマグとルガーは間違えないだろ。


「ほう…エンゲージリングの代わりにエンゲージリボルバーだと?そしてウェディングバレットか…良い考えだ」


 この人の寝言が怖い、もう銃しか頭にないじゃん。

 婚約指輪が銃で結婚指輪が弾丸って、アナタは本当にそれで良いのですか?

 つか顔が近い!もうギリギリまで迫ってる!鼻と鼻がぶつかる距離まで来てる!

 あと後頭部を掴むのやめて!俺の頭は手榴弾じゃないから!

 し、心臓が爆発しそうな勢いで動いてる!

 このまま行けば、大爆発するんじゃないか!?

 鼓動が激しくなって行く中で、少しづつ狂子の顔が離れて行く。

 後頭部を掴んでいた手も離れ、やっと落ち着く事が出来る。

 すると背後から、夏美が話しかけてくる。


「タク?ねぇタク、タクってば!」


 後ろから夏美が何かを伝えようとしていたのか、眠れないから話しでもしようとしていたのかしらない。

 返事をしようと呼吸を整えていたその時だった。

 後頭部を思いっきり叩かれたのか、あるいわ押されたのであろう。

 頭が思いっきり狂子の方へと全身していき、タイミングを見計らっていたかのように、再び後頭部を掴みか掛ってきた。

 強い力で頭を抱き寄せられ、俺の顔面は柔らかい物体に挟まれる。

 夏だからエアコンが付いているものの、汗を掻いていたのか、抵抗なくすんなりと収まった。


「寝たの?…ハァ、もういい」


 もういいじゃない!助け出してくれ!

 腕で頭と背中を固定された上で、足で更にホールドまで掛けられてしまった。

 顔がヌルヌルしてる…そして暑い。

 結局…キャリーさんの大切な話というのは、全然分らなかったな。

 今日、俺眠る事が出来るのか?

 心臓の鼓動がまた激しくなってる…ただ狂子の鼓動も聞こえてくる。

 不思議とそれが、心地よかった。


なんとか宿題を一部終わらせる事が出来た柘魔達。

だがそんな事もつかの間、蘭華と由実の宿題が残っている。

更に狂子が家出!?そしてゲーム廃人へまっしぐら!?

柘魔は一体、どんな選択を取るのか。

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