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第二話  俺達は、ただキャッチボールしてたはずなのが。

学校で噂に悩まされる柘魔。

学校の屋上で浩寺と休み時間を満喫していたのだが。

 今、俺はとんでもない状況に置かれている。

 置かれていると行っても、警察に補導されたりしたわけじゃない。

 学校で面倒な事態に発展したのだ。

 昨日先輩に連れられ屋上に行った、アレを何処かの誰かが脚色して噂を撒いたらしい。

 内容は、先輩が俺に告白して付き合い始めたとか、俺達は昔付き合っていたのが離ればなれだったとか。

 実際は色んな噂が出回りすぎてわけが分らない状態だ。


「そんで?ここで告白されて付き合う事になったのか?あの先輩に小さい妹とか居ないか?」

「付き合ってねぇよ変態、居たとしてもお前には危なくて近寄せないように忠告するぜ」


 浩寺のロリコン癖にも困ったものだ。

 ただでさえ学校で落ち着けない、その上でコイツの性癖発言は流石に堪えてくる。

 先輩は今、クラスで質問攻めに遭っている頃だろうな。

 うちの高校は恋愛大好き女子が多いって有名だし。


「なぁ、今日の放課後キャッチボールしようぜ、ガキの頃よくやってただろ?」

「お前…確か中学の時もそんな風に誘ってよ、結局は公園で遊ぶ小学生と砂場で遊ぶ幼稚園児眺めてニヤついてたよな?どうせそれが目的なんだろ?」


 何故バレたって顔すんじゃねぇよ!やっぱ図星か!


「いい加減にしねぇと通報されるぞ……」

「分ってるって、自分でも自重しようと最近はロリッ娘系ので我慢してるんだ…ああいう女優近くにいないかな」


 もし近くに居たら、お前なら簡単に落とせるだろうな、凄いモテるから。

 実際、会話までは聞こえてないだろうが、屋上の入り口に女子が数名盗み見してやがる。

 コイツが目的なのか、それとも俺と先輩の噂で興味を抱いてるのか。


「なぁ春魔。今日のキャッチボールの件だけどよ」


 まだ言うかコイツ。

 いっそのこと、バッティングセンターにでも行ってこいよ。


「もうしてるだろ、言葉のキャッチボールをよ」

「何上手い事言ってんだよ……夏美からメール?……春魔!スマホ確認してみろ!おもしろい事になってるぞ!」


 嫌な予感がする、特に夏美が絡んでくるとだ。

 俺は浩寺に言われるように携帯を確認してみると、夏美から大量にラインが来ていた。

 2、3件なら分るが、30件を超えるとなると流石に恐怖を覚える。

 青ざめる俺と笑う浩寺、その間にも再び通知の音が何度も鳴る。

 内容は俺と先輩に関する噂、俺に対する暴言の数々。


「アイツ、小学生かよ…最初以外全部バカとアホばっかりじゃねぇか、途中から語尾にウンコの顔文字まで付けてきたぞ」

「ウンコだけならまだマシだ、俺のほうなんか絵文字と顔文字だらけで訳が分らない状態だぞ、解読出来るか?」


 そういって見せつけてきた画面には、何がしたいのか訳が分らない文面が広がっていた。

 これはあれだな、あっちの学校で発狂でもしてそうだ。

 俺の携帯から既読に気づいたのか、更に攻撃が激しくなるので「うるさい」の文字を送り着け電源を切った。

 入り口の方まで二人で行くと、まるで蜘蛛の子が散るように女子が逃げて行く。

 結局、何が目的だったんだ?


「ボーッとしてないで戻ろうぜ、そろそろチャイムが鳴りそうだ、それに次の授業遠山だから遅れると追い出されるぞ」


 忘れてた、遠山の授業は絶対にで出ないと。

 気に入らないことがあると直ぐに成績落とすから嫌われてるんだよな。

 俺達は急いで教室に戻るも、既に遠山が来ており、余裕で間に合ったのも関わらず追い出された。

 どうも今日は機嫌が悪かったらしい、教師より後に来たのが駄目だと言われたが、これは職権乱用じゃないのか?

 仕方ないので俺達は廊下に立たされたが、反省をする気なんてない。

 むしろ反省をする点なんて見当たらないからだ。


「あーイラつく、あの禿山の野郎、頭をサッカーボールに見立てて蹴りあげてやろうかな…昔のお前なら滅茶苦茶口答えしてたろうな、一度横暴な女教師を言い負かせて泣かせた事があっただろ?覚えてるか?」

「あったかもな…正直覚えてねぇ…そんな昔の事なんて」


 覚えてないというのは、正直嘘だ。

 ハッキリと、覚えてている。

 休み時間にトイレに行って、長い戦いを終えた後に教室に行ったが、チャイムが鳴っていたんだよな。

 教室に行き理由を説明したのだが、人の話を聞かないで勝手に決めつけてきた。

 その結果、言い合いにまで発展して、俺が勝利を収めたが教師は泣いて逃げた。

 授業は潰れた上で、俺は他の教師に尋問を受けたが、浩寺が講義をしに来たんだっけか。

 それ以来、俺達は連む様になり、今では腐れ縁みたいな感じになったというわけだ。


「昔のお前は本当に凄かったぜ、夏美を泣かせる女子にすら容赦無く顔面ストレート入れてよ」

「勝手に捏造するな、やったのはせいぜい加減してのチョップ、あるいはデコピンとしっぺくらいだ…場合によっては問答無用で蹴りを入れたがな」


 浩寺の奴はたまに記憶を作り変える事がある、大体が俺に関するものだが。


「女子に蹴りを入れる時点でもかなり酷ぇって…怪獣って呼ばれてた頃のお前が懐かしいな…」


 今、その名前を出してくるか。

 怪獣か…子どもの頃は周りからそう呼ばれてたな。


「この学校で、俺が怪獣なんて呼ばれてたのを知ってるのはお前くらいだろうな」

「そうだな…本当にお前は怖いくらいに怪獣ってのが似合う悪ガキだった。必殺のテールキックとか火炎放射ナックルに超振動アイアンクローとかヤバかったもんな、歳上のガキ大将が号泣してたしよ…禿山のケツに一発お見舞いしてやれよ」

「ほう、お前達は一切反省してないようだな、この俺がハゲでチビで?しかもデカいケツが巨大な的だとでも言いたいようだな」


 やべっ、聞かれてた!?

 しかも自分でプラスしてるし、本当に悪質な野郎だ。

 ここは浩寺の奴が余計な事をいう前に謝罪でもしておくか。


「先生!僕達は先生の事をチビとかデブとか加齢臭がキツいとか言ってません!勝手に被害妄想するのはやめてください!」


 この野郎!マジで余計な事を言いやがった!

 考えたらコイツ、テンパるとおかしな事を言い始めるんだったっけ。

 俺と浩寺はその後、遠山に説教的な物をされ、その間に授業は終了した。

 教室内では浩寺は相変わらず女子からチヤホヤされてるが、俺の方は遠巻きにされてる。

 なんだろうな、この差ってやつは一体。


「HELP!柘魔HELP!助けてくれ!私を匿ってくれ!」


 名前を呼ばれた気がして入り口の方を向くと、真手場先輩が勢いよく教室に飛び込んできた。

 そして俺の方へと駆け寄ると、机の下に逃げ込む。

 先輩…もう少し隠れる場所と言うのもがあるでしょうが。

 どうして俺の机に隠れるんだよ。


「何があったんですか?いきなり人の机に隠れたりして」

「わっ私の天敵が!私の天敵が出たんだ!」


 先輩の天敵だと?少し気になる。


「おい見ろよ、あれって昨日の」

「机の下に隠れてるってことは、もしかしてやっぱりデキてるとか?」

「でも趣味悪く無い?徳江君とならお似合いだけど、春咲君だと…なんかねぇ?」


 言いたい放題だな畜生が。

 だがしかし、先輩がここまで覚えてると言う事は、相当苦手な物が三年の教室にあるということか?

 昨日は別にそんな様子はなかったのに、今日はどうしてだ?


「とっとりあえず何があったのか説明をしてください、それから机の下から出てください」


 顔を青ざめた先輩が机から出てきたので、俺は椅子を譲り座って貰った。

 教室内がかなり騒がしいが、先輩は移動が出来そうにない。


「あっアイツが現れた…黒くて…素早いあの生物が…」

「黒くて…素早い生物……ですか?」


 黒くて素早い生物…そんなの居たっけか?

 ……そういや居たな、あの生物が。

 あの長い触覚に、死んだかと思えば突然飛び始める。

 正直俺も視界には入れたくはない、だが教室内に現れてもおかしくはない。

 だってたまに廊下で見かけるからな。



「コックローチだ…アタック・オブ・ザ・コックローチだぁ!アイツが私目掛けて飛んで来たんだ!私を殺しに来たに違いない!絶対にそうだ!頼む助けてくれ!」


 やっぱりゴキブリの事か。

 助けてくれと言われても、どうしようもないだろう。

 多分三年の教室で誰かが駆除自体はしてくれてると思うが、先輩の怯え方からして素直に教室に戻ってくれるだろうか。

 駄目だ…戻ってくれ無さそうな気がする、俺のズボンしっかりと掴んでるもん。


「もうそろそろ誰かが仕留めてくれてるころじゃないですか?」

「私は戻らない!確実に排除したと言う証拠を持ってこない限り私は戻らない!」


 困ったな…。

 完全にここに居座る気だ、机にしっかりとしがみついてるし。

 周りの目も段々と気になり始める、どうしたものかな。


「ま、真手場さん…ゴキブリはもう居ないから教室に戻っても大丈夫だよ、二年生にも迷惑が掛かるから戻ろう?」


 三年の先輩が迎えに来たようだ、これで一件落着かと思われたが。

 どうして私を連れて行かせるな的な目で見てくるんだよ。

 結局先輩は、最後まで俺に目で訴えてきた。

 今度こそ、一件落着といったところか。

 ただ周りからの視線が、凄い気になる。


「あの先輩…胸デカかったな」

「クソ、なんであんなオタク野郎が」

「知ってるか?アイツ更に幼馴染みまでいるらしいぜ」

「え?マジ?その幼馴染みって可愛い?」


 男子達がざわつき始めた、それを女子が冷めた目でみるのだが。

 それでいて一部の女子が興味津々な視線と、何か不満そうな視線を送り着けてくる。

 そんな中、浩寺が俺にスマホの画面をちらつかせてくる。

 内容を見て悟った、コイツがあの先輩を呼んだと言う事か。

 こういうときには頼りになる野郎だぜ、全く。

 その後は無事授業を受け、今日の学校も終わった。



 今日は珍しく浩寺の奴から帰ろうと誘ってきた。

 最近は部活が急がしかったらしいが、休息が必要と言う事で今日は休みらしい。

 教室で少し話して居ると、先輩が凄い勢いで教室に再び飛び込み、俺達に一緒に帰ろうと誘ってきた。

 誘ってくるところは先輩らしいと言えば先輩らしいか、飛び込んで来る理由は不明だが。

 校門へ向かうと何かが高速で飛んで来たが、俺は素早く避ける。


「タクー!なんで電話に出ないのよ!?アンタ一体どういうつもりなのよ!?浩寺も浩寺でなんで返事寄越さないわけ!?特にアンタ!胸が大きいのと外人だからって二人に色目使ってどういうつもりなの!?」

「……柘魔、この女は一体誰だ?」


 火に油を注ぐような発言をするんじゃねぇよ!

 つか昨日会ってるだろうが、なんで忘れてるんだよ。

 怒りで顔を真っ赤にする夏美を浩寺が抑え、俺が昨日会っている事を話したが、完全に知らないと言った顔をしている。

 これはまさか、鳥頭なのか?

 まて、鳥頭は散歩歩いて忘れる事を言う、だから違う、


「なんて失礼な女なの!?昨日タクの部屋で会ってるでしょうが!てかなんで二人が付き合ってるとか噂が立ってるのよ!?昨日だって私が校門で待ってたのに先に帰ってたし!うちの学校まで噂が来てるんだから!」

「昨日は先輩と先に約束してたんだよ、つか情報回るの早すぎだろ!?」

「アキバデートだろ?結構目撃者が多かったらしいぜ、それも喫茶店でお茶飲んでのガンショップ巡り、最後はファミレスで食事ってか?ガンショップでデートは流石に無いだろ」


 この野郎、絶対に面白がって言ってやがる、

 先輩に関しては妙に嬉しそうにしてるしで、夏美は今にも怒りが噴火寸前の状態だ。

 どうやって落ち着かせようか。

 とりあえず後で浩寺の奴は締めるとしてだ。

 睨み付けている夏美と、それすら気にしていない先輩を引きはがさないといけない。


「と、とりあえず二人共落ち着いて、夏美も睨み付け続けるなら一週間はお前の晩飯作らねぇけどそれで良いか?」

「待って!それは流石に困る!今月新しい洋服買っちゃったからピンチなのよ!でもこの女が私を忘れた事が許せない!」

「女の争い怖ぇ。先輩先輩、柘魔を連れて何処かに遊びに行けば面白い事になりま」


 無言で浩寺のケツに重い蹴りを入れた。


「じょ冗談だって…お前今ガチで蹴り入れただろ…」

「お前は俺をキレさせた、自業自得ってやつだ、とりあえず予定通りにゲーセン行きますか、夏美も来るか?」


 俺は無意識に夏美を睨み付けて居たらしく、彼女は酷く青ざめて頷いた。

 これは悪い事をしてしまったな。

 後で何か別の物で埋め合わせでもするか、どうせ夕飯とか食いにくるだろうから。


「柘魔はいつもああなのか?」

「いえ、アイツは普段大人しいですけどね…ただ怒らせるとガチでヤバいんですよ、昔のあだ名は大怪獣バーサーカーでしたから」


 再び蹴りの構えをすると、浩寺の野郎、夏美の後ろに隠れやがった。

 まぁ、反省もしている様だし許してやるか。

 その後、俺達はそのままゲームセンターに遊びに行った。

 予定では先輩とだったが、別にこいつ等が着いて来てもマズイと言う事もないだろう。

 むしろお互いを知るには良い機会かもしれないしな。

 浩寺はともかく、夏美を馴れさせないと絶対に面倒な自体にしかならない。

 夏美には前科がある、それもかなりヤバい前科が。


「浩寺見てみて!私このぬいぐるみ欲しい!取ってよ!」

「やだよ、俺クレーンゲームとか苦手だし、春魔得意だろ?取ってやれよ」


 取ってやれって、俺はフィギュアとかは取るがぬいぐるみは専門外だ。


「えー!だってタクってば先輩に鼻の下伸ばしてるよ、それにちょっとは協力してよ、タクを嫉妬させてやるんだから」


 そいういのはもう少し離れてたところで話してくれないか?

 こっちまで丸聞こえで正直とても不愉快なんだが。

 あと夏美にぬいぐるみは取ってやらね、なんか腹立ってきたから。


「おお!柘魔!見てくれ!ここに銃が景品として入ってるぞ!私はこれを取る事にする!」


 景品を見て興奮し出す先輩。

 だがゲーセンのってちゃっちぃのが多いんだよな、前にも数個取ったがコッキングで大体のパーツが壊れた。

 俺自身の力が強いのか、元々不良品が当たったのかは定かじゃない。


「くそっもう一度!…ああ!もう一度!…何故だぁ!?」


 先輩が遊んでいるのは…反動台か。

 普通に持ち上げてようとしても持ち上がらない、片方が若干強くて、片方が凄く弱い設定になっているからだ。

 少し様子を見ていると、先輩は反動台だと言う事を知らずに二千円目に突入しようとしている。

 流石に止めて、俺が一度試しに手本を見せた。


「ちょっと待てください、それじゃあ取れませんよ…変って貰って良いですか?」

「私は思うのだが、これは詐欺じゃないか?いくら金を入れても取れないなんて詐欺と同じだ、店員に文句を言った方が良いのではないだろうか?」


 何を言い出すんだよこの人は、取れないのはアンタのやり方が間違ってるからだ。


「いいですか?これは右アームが強いので、こうして片方を使って持ち上げると、こうして反動でズレるので…あ」


 ……どうやら開放台だったようだな。

 俺がやったら一発で取れたが、隣で先輩が若干悔しそうに涙目で見てくる。

 そりゃ二千円近くまでつぎ込んだのに取れなかった上で、目の前でたったの百円で取られれば悔しいだろう。

 しかし、取れたはいいのだが、別に欲しかったわけじゃない。


「譲りましょうか?俺似た様なの沢山持ってるので」

「いいのか?本当にいいのか?本当に本当に良いのか?」


 先輩が少し不安げな顔で聞いてくるも、俺は静かに頷き手渡した。

 すると先輩はそっとエアガンを受け取り、抱き締めながら笑顔を見せてきた。

 すごく無邪気な笑顔で嬉しそうだ。

 正直、俺はこのときドキッとしてしまった。


「ねぇタク、浩寺見なかった?さっき喉渇いたって行ってから戻ってこないんだけど」

「…さてはあの野郎、いつもの悪い癖が出やがったな」


 野郎の性格からして、幼女とかが近くにいるだろう。

 とするとだ、場所はカードで遊べる場所に居る可能性が高い。

 ここのゲーセンは近くに飲み物と休憩所も設置してある。

 アイツのことだから、その場で飲み物飲んで携帯を弄りながら、眺めてるだろうな。

 正直先輩に見せたくはない、だから二人に待って居て貰う事にした。

 自販機の場所へ行くと、やはりそこで携帯を弄りながらバレない様に子どもの声に会わせてチラ見をしていた。


「何してんだよジェントルマン」

「別に何もしてねぇよ、疲れたからほんの一休みってところだ、お前こそちゃんと二人の相手はしてるのか?」


 暢気な野郎だぜ、全く。


「気が済んだら戻ってこいよ、あまり長いしてると怪しまれるから気を付けろよ」


 馬鹿に付ける薬はないと言うが、ロリコンにも付ける薬はなおさらだな。

 薬どころか、トラウマでも植え付けないと治らないってか。

 大変な人生を歩んでるな、アイツもよ!


「あれ?浩寺はどうしたの?」

「体調悪いからしばらく休むってよ、しばらく部活が忙しかったからな」

「心配だな、誰かついていた方が良いのではないか?」


 今にも浩寺を探しに行きそうな先輩を止め、シューティングゲームを勧める。

 直ぐに食いついたが、夏美の方が怪しんでくる。

 お前は確か、アイツがロリコンだと言うことを知ってるはずなんだがな。

 ガキの頃に話したのに、忘れてるのか、それとも信じてないのか。


「私、浩寺の様子を見に行って」

「夏美…それで、どのぬいぐるみが欲しいって?」


 時と場合によっては友を庇う。

 それが親友同士ってものだ、例え友人がロリコンだろうと。



「にゃんにゃんニャンちゃん♪ニャンニャニャニャーン♪」


 上機嫌な夏美、俺がとってやったぬいぐるみが相当嬉しいらしい。

 メイド服を着た、金髪ツインテの猫だが、どう見てもマニアックな方に人気がありそうだ。

 この調子なら良いが、手に持ちながら歩き回られるとこっちが恥ずかしくなってくる。

 驚いたのは、ぬいぐるみが同時に二個取れた事だろう。

 以前、ヒモに引っかければ取れると言う話しを聞いた野を思い出して、試して見たものの。

 まさか取り出し口近くのまで、一緒に落ちるなんてな。

 もう一つは見た感じゴールデンレトリバーなのだが、髪型が若干先輩に似てるんだよな。

 背中まである金髪が特に、そっくりだ。

 二つも夏美に渡してもあれだから先輩にあげたが、ずっと静かなんだよな。

 夏美と違ってずっと抱き締めてる、もしかして猫の方が好きだったのか?


「先輩はもしかして、猫とかの方が好きでしたか?」

「ん?いや違う…こうして父以外、ましてや歳の近い異性から物を貰う事が殆どなくてな…正直どう反応したら良いのか迷ってるんだ…」

「そんなの簡単簡単!体を使って表現すればいいの!ねぇニャリーゼ!」


 にゃニャリーゼ!?

 アイツ、早々にぬいぐるみに名前を付けたのか。

 それもなんてネーミングセンス。


「そうそう、夏美みたいに名前を付けたらどうです?」

「……では…ピース、ピースメーカーからとってピースにしよう!お前から今日はピースだ!」


 こっちはこっちで凄い所から取ったな。

 正直驚いた…ピースメーカーと言えばもう一つの名はシングルアクションアーミー。

 主に出てくるのは、西部劇辺りだろう。

 にしても先輩、やっぱりリボルバー系が好きなんだな。

 普通の人ならピースって名前は違う意味でとるだろうが、先輩らしくて良いか。


「何それ?全然可愛くないじゃん、ニャリーゼの方がずっと可愛いもんね!」

「お、私の家はこっちだからここでお別れだ、それじゃあまた明日学校で」

「先輩、明日は学校休みですよ」


 驚く先輩と夏美…どうしてお前まで驚いてるんだよ。

 明日は休みだ、嬉しいのと悲しいのが混じる。

 朝になると必ず夏美が部屋に居座ろうとするんだよな、朝食と昼食を狙って。

 いつも料理の勉強をしろといっても、我流でやってバイオ兵器並の物を作り出す。

 一度野良猫に与えたことがあるが、与えた次の日から一切見かけなくなるという威力だ。


「忘れるところだった、柘魔。私と連絡先を交換してくれないか?これから先は連絡が出来る方が便利だと思ってな」


 連絡先を交換した後、先輩と別れマンションに帰った。

 買ってきた物を部屋に置き、夕飯の支度を始める。

 直ぐに夏美の奴が来るだろうかなら、面倒だしチャーハンで良いか。

 それから卵スープに、ついでに青椒肉絲も作っておくか。

 三品もあれば足りるだろうし。


「タク!夕飯食べに来てあげたわよ、もうお腹空いちゃった」

「ちゃんとインターホン鳴らせよ、つか鍵してあるのに…お前まさか!?」


 やりやがった…俺に黙って合い鍵を作りやがった。

 取り上げても夏美の事だ、どうせ二個か三個くらいは作ってるだろう。

 もし取り上げても泣き叫んで抵抗される、最悪顔面を引っ掻かれるか、部屋の中の物を壊される。


「ねぇねぇ!もしかして今日って中華!?うぇっ!ピーマン入ってる!私ピーマン嫌いなんだけど!てかピーマンの割合多すぎ!ちゃんと肉を多めにしてよバカ!」


 人がせっかくテ負け掛けて作ってやったのに。


「好き嫌いしないで食え、お前もいい年なんだから」

「だって…ピーマンって苦いし、緑色だし、苦いし…もしかして私に対して意地悪で入れてる?」


 青椒肉絲にピーマン入れるのは常識だろ、むしろ入れないで何を入れるんだよ。

 頬を膨らませながら睨み付けてくる夏美。

 俺はそれを無視し、夏美のさらにはあえてピーマンを多くよそう。

 声にならない悲鳴を上げ絶望の顔を向けてくるが、好き嫌いは許さん。

 夏美の好き嫌いにも困った物だ、コイツは野菜が全般的に駄目。

 特に緑黄色野菜でピーマンが大っ嫌いだ。

 実家の方では野菜ジュースで野菜を取ってたらしい。

 最近じゃ俺が食事担当だから無理矢理にでも食わせる事にしてる。


「穢されたよ…もうお嫁に行けない…」


 ピーマン食ったら穢されるって、理解出来ねぇ。

 最初の頃は酷かったな、ナポリタンを作ってやったらピーマンだけを避けて食べやがった。

 それから多少は工夫して作ってやったのに、避けるわ吐くわで酷い有様だ。

 結局俺は諦め、無理矢理にでも食べさせる事にした。

 といっても、隙を突いて更に盛ってやり逃げ場を無くすだけだが。


「気持ち悪い…気持ち悪いよ。柘魔の鬼、悪魔、閻魔大王」


 うるさいな、人のベッドに勝手に横になって文句垂れやがって。

 てか枕に顔埋めるのやめろ、一応マメに洗濯はしてるが恥ずかしいだろ。

 まぁ…昔からこういう奴だから仕方が無いか。

 ベッドを諦めながら携帯を確認すると、先輩からラインが来ていた。

 内容は明日についてだ。

 明日が休みと言う事でネカフェ巡りをしたいらしいが、あれって巡りとかをするところじゃないんだよな。


「……ネカフェ巡りか…一カ所だけならいけるんだがな…」

「ネカフェ!?ダメダメ!そんなところに行かせないから!メイド喫茶とかならまだ許せるけどネカフェは許さないんだから!もし行くなんて言ったら!私ここで」


 俺は急いで夏美を抑え込んだ。

 コイツは昔、自分の思い通りにならなくて手首を切ろうとした前科がある。

 発端は確か、夏美が俺に無理矢理約束させようとしてだったな。

 俺が断り続けた結果、何故かそっちに走っていた。

 一時は落ち着いたものの、最近ではたまに隙を見せれば脅すようにまで増長させてしまった。

 だからこうして、何かするまえに取り押さえないといけない。

 力自体は俺の方が上だ、なんせ体を鍛えてるからな、夏美は簡単に抜け出せないように技まで掛けてる。

 普通の男女ならあまり出来ないだろうが、小さい頃からともに過ごしてきたせいだろう。

 こいつとは兄妹みたいに思えて、躊躇無く技を掛けられる。

 夏美自身も俺に技を掛けてくる事もあるが。


「少しは頭が冷えたか?いい加減にその悪い癖を治せ。おじさん達が心配するだろうが…夏美?」


 返事がない、眠って居るようだ。

 ……コイツ…どんだけマイペースな性格をしてやがるんだよ。

 病むのは勝手だが、途中で眠るかよ普通?

 腹が膨れたってのと、今日は色々と騒いでいたから疲れたんだろうな。

 俺も少し疲れた。


「さてと、コイツを部屋に運ばないと行けないわけなのだが、正直面倒くせぇな」


 眠る夏美を担ぎ上げ、隣の部屋へと運び込んだ。

 静かにベッドに寝かし付け、部屋を後にする。

 早く戻って先輩に返事をしなければ。


「んん…タク…プリン買ってきて……え?ハバネロ味?バカじゃないの、カレー味に決まってるでしょ、ばちゅとして、バニーガールの姿で私に永久の服従を誓うの」


 顔面に水ぶっかけてやろうかこのアマ。

 一体どんな夢を見てやがるんだ、つか途中でかんだよな?なんだよばちゅって。

 あとハバネロ味とかカレー味のプリンって、正直食べたくねぇ。

 ただの罰ゲームだろ。

 それに何故バニーガールの姿にしようとしてるんだよ、俺のそんな姿を見ても気持ち悪いだけだろうが。

 付き合ってられねぇ、俺は部屋に戻るとするか。


「本当に世話の焼ける奴だ、こういうのが世間で言うヤンデレとかいうのかな…だがコイツはどちらかと言うとツンデレ…もう考えるのが面倒だ」


 部屋に戻り、先輩に返事をした後に眠った。

 しっかりと、ネカフェを巡る場所ではない事を書いておいたが、多分分ってくれるだろう。



先輩に変身をしたあと、眠りについた柘魔。

だが後に、これがとんでもない自体に発展して行く。

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