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第二十六話 ショックな事があると、立ち直るのは大変だ。

夏休みが始まって早々、遊んでいた柘魔だったが、彼の身に悲劇が巻き起こる。


暗闇の中で光る、テレビの明かり。

画面には番組のエンディングが流れるが、別にどうだっていい。

ただただ虚しさと、絶望感が頭を染めていく。


「しっかりしろ!春魔!目を覚ませ!意識をしっかりと保つんだ!」


激しく浩寺に揺すられながら、絶望に浸りながら、テレビを直視し続けた。


「あんなのはただのテレビオリジナルだ!原作はまだ続いてるんだろ!?原作ではこういうのはないんだろ!?死ぬな春魔!」

「死か…もう絶望しかないのに…生きていて何があるというのだ?」


やべぇ…俺自身がおかしくなってきてるな。

相当堪えてきてるようだ…ショックがデカいから。


「は…春魔が壊れた!?待ってろ!今すぐ秋恵さんを起こすからな!」


姉貴を起こしたところで、多分何も変らないだろうな。

ゆっくりと眠って忘れるとするか。

明日になれば、きっと持ち直す事が出来るかもしれない。

ダメだ…しっかりと焼き付いて、頭から離れない。

そのせいで眠れない上に、モヤモヤしてくる。


「ですから!春魔が大変なんです!おかしくなったんです!」

「そう?普通に眠ってるじゃない。あんなゲームなんてするからよ」


眠ろうとする俺を、浩寺が無理矢理起こそうとしてくる。

隣には眠そうな目を擦る裸の姉貴に、騒ぎに目を覚ます狂子達。

そっとしておいてくれよ、全く。

俺が現在、こんな状態に陥ってしまった原因は、アニメ版の魔銃淑女真射子の最終回。

原作が最近終了して、新シリーズが始まると言う事で、アニメも新シーズンに入ると告知されていた。

よってアニメが一時的に終了、最終回を本日迎えたのだ。

それがまさか、深夜枠のアニメを利用して、ベッドシーンが用意されていた。

それも真射子が結婚して、そこから一気に転々と進んで行った。

教会でのキスシーンで発狂しそうになり、ベッドの所で抜け殻と化した。

結果、現在は虚しくて放置して欲しい気分なのに。


「柘魔の顔が青白いぞ!?ホスピタルに連れて行かないと!ドクターだ!ドクターを呼べ!」

「ち、違います!これは変態をするんです!先輩はこれから悪魔へと変る為の変態を始めるんです!」


顔が青白いのは仕方がないだろ。

蘭華、お前に関しては俺を虫扱いか?

お前は俺をザ・フライに出てくるハエ男したいのか!?


「ああ、これ安全に絶望してる顔。何か相当ショックな事があったか、あるいは絶望的な事態を見てしまったか…あと、二人に対して、多分ツッコミを入れてる」


お前は超能力者か?心を読みすぎだぞ小百合。


「何があったのか説明してくれる?一体何があったって言うの?タッちゃんがこんなになるなんて、夏美ちゃんが怪我をした時くらいよ?」

「実は…言いにくいんですけど。さっきまで、春魔の好きなアニメを見てたんですよ…そしたら、まぁなんと言いますか」


どうやら浩寺が姉貴に耳打ちで説明をしたようで、驚いた声をあげる姉貴。

その間にも、狂子と蘭華が揺すったり等の悪戯を仕掛けてくる。

多分この中で、一番まともなのは小百合だけだな。

由実もいるはずだが、声すら聞こえてこないから、まだ寝てるかもしれない。


「こうなったら、しばらく放っておく方が良いよ。私ならそうして欲しい」

「…つまり、今の弱ってる先輩を慰めれば、私の物になってくれるはずです!うひ、うひひひ…では早速」


蘭華が俺を自分の方へ向けた瞬間に、何故か青ざめられた。

俺の憶測だが、多分死んだような顔をしていたんだろうな。


「これ結構重傷かも。かなり気が滅入ってる感じだから」

「確かに、柘魔の好きなフィギュアを横に置いても無反応だ。いつもならこれを触ると怒るのに、心配だ」

「もしかして…今のうちにズボンを脱がしても無反応じゃないですか!?」


どうしてそっちに進もうとするんだよ。

もうほっといてくれよ!頼むよ!

辛いんだよ!ズボンを脱がすなよ!暑いから別にいいけどさ!

逆に楽になったよ!寝苦しいのがマシになったよ!


「アナタ達にはどうする事も出来ないわ。こうなったら、好きにさせるしかないのよ」

「私も遠くから見てたッスけど、まぁ先輩には衝撃だと思うッスよ。言わば失恋したのと同じッスから」

「「「失恋!?」」」


三人同時にハモるなよ、五月蠅いな。


「せせせ、先輩はいつ誰に告白をしたんですか!?私と言う物がありながらどうしてですか!?」

「どう考えても、そのアニメのフィギュアが原因でしょ」


いや、真射子事態は悪く無い。

悪いのは全部俺だ、アニメと現実の区別が付かなくなった俺が悪い。

だから真射子を責めるな!俺が全部悪いんだ!

狂子と蘭華が今にもフィギュアを破壊しようとした瞬間、俺はすぐに取り上げた。

今の二人なら、ぶっ壊されそうな気がしたからだ。


「復活しました!先輩が復活しました!」


お前等が大人しくしてくれないせいだよ。

こっちは落ち着いて寝たいって言うのに、全然寝付かせてくれないんだろ。


「大丈夫ですか?一発ヤリますか?」


そっちに持っていくんじゃない、人が悩んでるのに。

しかも傷口を抉られるんだよ、そう言う系の話をされるとな。

お前が基本的にそっちへ会話を持っていく理由がワカンねぇよ。

もう少し落ち着いてくれたら良いのに、こっちが楽になるから。

蘭華自身は一生懸命なのは伝わるんだが、俺どちらかというと押される方好きじゃないしな。

もう完全に目が覚めちまったよ。


「少し冷静になろう。柘魔の様子がおかしいのは確かだが、原因が失恋となって来ると…柘魔の心に空いた薬室チャンバーに、私という弾丸バレット再装填リロードされるという事か⁉︎」


どういう例えをしてんだよ⁉︎ある意味上手いけどな!

てか自分が一番落ち着けてねぇだろ!?

俺も内心落ち着けって話だけどよ!

まさか銃で自分の思考を例えてくるとは、狂子らしいと言えばらしいが。

俺を銃にするのはどうなんだ?


「そんなのズルいです!先輩の弾丸になるのは私です!私こそが先輩専用の魔弾です!」

「あんた達の思考回路にはついていけない…アンタもアンタで、よく付き合ってられるよ。私なら頭がおかしくなりそう」


それが正常な考えなんだろう、俺は完全に麻痺してるかもしれない。

もう馴れすぎて、全然おかしくならないから。

本当に唯一まともなのは、小百合だって理解が出来た。

狂子と蘭華に関してはダメだ…手遅れ過ぎた。

姉貴に関しても、普通に真射子グッズを勝手に仕舞いはじめてる。

これは俺にオタクを卒業しろと言う、真射子からの通達なのかもしれない。

だとしたなら、俺はそれを受け入れよう。

オタクからしたら外道な行動だが、中古屋に持っていくか。

やっぱり嫌だ!持っていきたくない!

でもこのままだと、ずっと心がモヤモヤして辛い。


「悪るかった、心配かけて。もう大丈夫だから寝て良いぞ」

「大丈夫じゃないです!先輩がフィギュアを箱に仕舞おうとしてます!」

「ドクターだ!急いでドクターを呼ばなければ!」


そこまで大騒ぎしなくたって良いだろ。

こっちは地味に傷つくんだぞ!

とりあえず俺は、ケジメをつけたいだけだしな。

静かにフィギュアを箱に詰めていくと、背後から二人の騒ぐ声が凄い。

俺が壊れたとか、狂ってしまったとか、世界が滅ぶとか。

俺がオタクをやめたら、世界滅ぶって恐ろしいな。


「本当に良いのかよ?これ全部、お前が何年も掛けて集めて来た物だろ!?この銃だって!お前が金貯めて買った銃だろ!?」

「銃は残すぞ。元々真射子以前に銃とかは好きだからな」


心底残念そうな顔をするな、お前が俺のエアガンを狙ってるのは知ってるんだ。


「よかった…柘魔がオタクを卒業すると言う事は、銃を捨てるのかと心配になったが、本当に良かった」

「でも先輩も結構繊細ッスよね。たかがアニメで濡れ場に突入しただけで、心が折れるって」

「失恋ってのは結構辛いよ…私も昔、経験したから分る」


今日の小百合…なんかいつもと違うな。

いつもならもう少し突っかかる事とかも多いが、やけに同情的だ。

しかもちゃっかり、失恋経験があるとか言ったな。

小百合にとってはい、言って良かった事なのか?

あとから後悔するパターンじゃないのか?


「決まったら始めましょ。もう皆、目が覚めちゃってるでしょ?終わったら、外食させてあげるわ」

「外食なら、私は日本のバーガー店に行ってみたいぞ!」


日本のバーガー店か、最近行ってないか。

というより、あまり行かないからな。

たまには良いか、ハンバーガー美味しいし。

俺がフィギュアを片付け始めると、ミン亜蛾手伝ってくれるが、蘭華だけが雑に扱うのが気に入らん!

たまに怒りの眼差しをフィギュアに向けるんだよな。

そして、箱に詰めたら投げるを繰り返すから、俺が急いでキャッチする。

決めたぞ、蘭華には二度と触らせない!



ハンバーガー店に大人数で来るというのは、人生で初めての経験だ。

1つのテーブルを、四人で囲む訳なのだが、店で喧嘩が勃発するなんて。


「だから先輩の隣は私が座るんです!絶対にそう決まってるんです!譲れないんです!」

「いいや、ここは私が座るべきだろう。柘魔の隣にはいつも私が居たから、いつもの様に私が座るべきだろう」

「何を言ってるの?タッちゃんの隣に居たのは、姉である私よ。何年一緒に居ると思ってるの?普通に考えてここは姉である私に譲るべきでしょ?」

「いや、どうでもいいけどさ…私は正面に座らせてもらうから」


小百合の言うとおり、どうでも良いんだけどよ、落ち着けよ。

他のお客からの視線が凄いんだよ。

隣の方は、浩寺と夏美と由実と姫華でピッタリだが、こっちは五人。

だから必ず、一人が席から外れる。

困ったぞ…これが原因で喧嘩が勃発してるようなものだ。

そして考えた結果、俺はある行動に出た。

俺だけが一人だけの席に座り、四人が1つのテーブルを囲めば良い。

よし、これだ!


「どこへ行くんだ?そっちには誰も座っていないぞ?」

「そうですよ先輩。これから一緒に、1つのハンバーガーを二人で交互に食べるんですから」


ハンバーガーを、二人で交互に食べる。

気持ち悪ぃ!ありえないって!ガチでない!


「何を言ってるんだ?柘魔と1つのハンバーガーを食べるというのか?」

「そうです!先輩が囓ったところに、私が寄り掛かりながら静かに食べるんです!そして、先輩に微笑みかけると…」

「気持ち悪い…アンタ、頭湧いてるってそれ。普通はやらないから」


蘭華の言葉に、周りの客どころか、姉貴達もどん引きしてるぞ。


「そんな事ありません!先輩なら同意してくれます!」

「ありえねぇし、同意もしねぇ。流石に俺でも引くぞ」


涙目になってもダメだ、絶対にやらない。

思考がおかしな方へと進むのは恐ろしいな、想像しただけでもかなり恐ろしいぞ。

普通に考えてもそんな事を思いつくはずもない。

とびっきりぶっ飛んでる考えを持ってる、また個性的なこと。

これなら、一人だけ選べばもう収集がつくか。


「喧嘩するなら俺が決める。狂子が隣、小百合の隣に蘭華、姉貴は俺の右側に詰めて座れば良いだろ」

「それじゃあ先輩と一番離れちゃいます!」


離れちゃうんじゃなくて、離したんだよ。

お前を隣に置いたら、俺のハンバーガーに噛みついて来そうだからだ。

隙を見せた瞬間に、ガブッと行くだろうな。

他の男によっては羨ましいとか言われそうだが、俺は絶対に嫌だ。

俺からしたら、他人のリコーダーで演奏するのと同じ感覚だ。

まぁ蘭華にとっては、そういうことすらしたいと言うのだろう。

変態脳恐るべし。


「私は嬉しいぞ!信じていた!私を選んでくれる事を!」

「苦しい…狂子…胸で苦しいから、離してくれ」


誤算だった。

蘭華のセリフで考え過ぎたせいで、狂子による行動までを考えていなかった。

これは完全に俺の失態だ。

周りから更に集まる視線が、とても痛い。

あと全然離してくれないんだが…超暑いんだけど。

クーラーが効いているといえども、こんな真夏にピッタリと捕まれば、暑いに決まってる。

でも胸の高鳴りも凄い…俺の心臓もそうだが、狂子の鼓動も凄い。

やっぱり、俺の心境に何か異変が起ってきてる。

真射子の件も含めて、成長してるのか、別の意味で恐怖心が出てきた。

そしてこの光景を見ている蘭華と小百合は、子どもの様にジュースにストローを使って、ぶくぶくと泡を立てていた。


「やめなさい、他のお客様に迷惑が掛かるでしょ。そこの二人も、子どもみたいな真似をしないの」

「納得出来ません!なんで真手場先輩は良いんですか!?」

「アンタが変な事を言い出したからじゃん。ただこっちから見て、そういう事されるのも腹立つけど」


姉貴によって引きはがされ、やっとの事ハンバーガーが食べられる。

だが完全に冷めてる…とくにポテトとかが冷たい。

どうしてくれるんだよ、結構楽しみにしてたのに。

皆が喧嘩したせいで、思いっきり冷めちゃってるよ。


「日本のハンバーガーは冷たいのか…まさかこれは、猫舌用なのか!?」

「違う違う、冷めただけだから。三人が喧嘩してる間に、冷めちゃっただけだから、変な勘違いはしないように」


自分の予想が外れた事で、落ち込み始める狂子。

しかし、蘭華だけは違った。


「私は冷めてる方が良いです。昔から冷めてるのに食べ慣れてるので」


やめて、なんか涙出てくる。

姫華の方は、やけに楽しそうにしてるな。

しっかりと浩寺の隣に座って…野郎、鼻のした伸びてるな。

隣に小学生が座っただけで、下心が丸出しだぞ。

幸い三人は気づいていないようだが。

俺にはしっかりと分るぞ、お前の魂の叫びがな!


「…私、決めました!私、自立します!この夏休みの間に、バイトします!」


蘭華から思わぬ言葉が飛び出し、俺達の口から飲み物が噴出した。

真っ直ぐ吹き出したら小百合に当たり、左右のどちらかに吹いたら、狂子か姉貴に当たる。

よって俺は下を向いて噎せたのだが、前と左右からコーラが飛んでくる。

昨日に続いて今日もぶっ掛けられるのか…前に由実にも背中にリバースされた事もあったな。


「ご、ごめん!ヤバッ!マジ最悪!」

「すまない!あまりの衝撃に驚いてしまった!」

「やだ…本当にごめんね、私ったら…直ぐに帰って着替えないと」


三人から謝罪が来るものの、原因を作った本人は唖然か。

何ちょっと頬膨らませてるんだよ!?

コーラを一気に口に含んで何する気だ!?

お、お前まさか…コーラをこちらに噴出する気じゃないだろうな?

馬鹿な真似はよせ!これ以上お店に迷惑を掛けるな!

発射秒読みまで入った瞬間に、小百合が蘭華の鼻をつまみ、無理矢理飲み込ませる。


「これ以上やったら許さないから。自立するとか言ってて、子どもみたいな真似して恥ずかしくないの?」

「さっきのは私達が悪かったけど…悪意あってやるのは違うわよね?」


二人に挟まれ、涙目になる蘭華。


「だって…私だけ先輩に掛けてないんですよ…不公平です」


不公平なわけあるか!?こっちは大迷惑だ!

ただでさえコーラぶっ掛けられてるんだ!?そこへ追い打ちを掛ける馬鹿がいるか!?

お前の目には俺が嬉しそうに見えるのか!?

コーラをぶっ掛けられて、嬉しさのあまり踊ってるように見えるのか!?


「この惨状を見て、そんな事を考えるなんて恐ろしい子ね」

「全身がベトベトだから、家に帰りたいんだけど」

「とりあえずこれで体を拭いた方が良いぞ」


狂子から渡されたハンカチで体を拭くと、若干濡れてる。

それに妙に臭うんだけど…もしかしてこれって。


「狂子…このハンカチって、何に使ってる?」

「それか?この時期は暑くてな、よく全身の汗を拭くのに使ってるんだ」


…ふぁっ!?全身の汗を拭くのに使ってる!?

このハンカチが…全身の汗を拭くのに使ってる!?

俺…今顔まで拭いたんだけど。

ようは…俺は狂子の汗を自分に塗ったということか?

一体どんな罰ゲームだよ!?

だから臭うわけか!?


「顔色が悪くなっていくぞ!?何があったというのだ!?」

「自分の目寝に手を当てて…聞いてみろ」


俺の言葉に対して、行動をとる狂子だったが。


「…全然分らないぞ。柘魔には分るのか?教えてくれ」


指先に伝わる柔らかな感触には、覚えがある。

驚きで顔を向けようとした瞬間に、顔面へと何かがぶつかった。

ケチャップの臭いと、パンのような感覚からして、ハンバーガーだ。

酷い事をしてくれる…ただでさえコーラをぶっ掛けられてるのに。


「やり過ぎだぞ夏美!ハンバーガーがもったいないだろ!」

「人前でそういうことをするタクが悪いの。罰が当たったと思えばいいでしょ」


顔に着いたピクルスとタマネギを取ると、狂子があのハンカチで顔を拭ってくる。

く…臭い…汗臭い!

漫画とかで、良い香りとか言うが、あれは嘘だ!


「動かれたら汚れが落とせないぞ。大人しくしてくれ、目に入ってしまう」

「真手場先輩…そのハンカチで拭くのは流石にダメッスよ。完全に嫌がってるッス、言わないだけで本心は相当嫌みたいッス」


し…死ぬかと思った。

彼女自身が親切心でしてくれるのは分る、分るんだがなぁ。

どうして自分の汗を拭いたハンカチで拭くのか、そこが理解出来ない。

狂子だって、誰かが履いたパンツを履くのは嫌だろうに。


「タッちゃん…皆と先に帰ってて良いわよ。私は、急用が出来たから…ねぇ、夏美ちゃん?前から言ってたわよね?食べ物を粗末にしたら、頭にかなり強い拳骨(これ)が落ちるって」


俺達は夏美を残して、静かに店を出た。

この中では恐らく、姫華以外の全員が逆らった代償を知っている。

トラウマ確定になること間違いなしだ。

姫華に見せたら、しばらくは立ち直る事が出来なくなるだろう。

ただでさえ、最近は姉貴に憧れてるらしいからな。

このままだと、姉貴と夏美を融合させた存在になりかねない。

想像しただけで恐怖しそうなくらいだ。

そういう風にさせないように、こっちも気を付けてるんだけどな。

そういえば蘭華が、自立をするとか言っていたな。


「蘭華…自立すると言っていたが、どういう風にする気だ?お前には妹の姫華も居るんだぞ?」

「だから自立するんです!先輩のお姉さんに言われて思いました…これからは、私が姫華の保護者にならないと行けないんだと…琉美李ではなく、妹の姫華の為にも頑張らないと」

「だからその名前で呼ばないでって言ってるでしょ!今考えると超恥ずかしいんだから!何琉美李って!?意味分かんない!」


お前はそれで喜んでいたんじゃないのか?


「でも驚いたッスよ。まさかあの蘭華が自立宣言するなんて…私も将来を考えないといけないッスね…小百合はどうなんッスか?考えがあるとか?」

「突然私に振らないでよ。私は、一応は保育士志望だけど」


俺以外の全員が驚いた顔して、小百合を見つめ始める。

以前から聞いていたから俺は別に驚かないが、他の皆は驚きが隠せないか。


「これは意外な返答が来たッスね。てっきり先輩のお嫁さんとか言い出すかと思ったんスけど」

「今の時代、共働きも大切でしょ。専業主婦になるのもアリだとは思うけど、まずはなりたい仕事を目指してやり遂げるのが一番じゃない?」


…だからなんで皆で驚くんだよ?

別に小百合はおかしい事を言ってないだろ。

むしろ俺は感心を持てるぞ、1つした年違わないけど。

俺なんて、適当に就職出来れば良いなんて、本気で考えてるからな。

そうなってくると、小百合の方が立派と言える。


「それで蘭華はどうやって自立をするんだ?私の方で母に仕事を紹介してもらった方が良いのか?」

「甘やかし過ぎだろ。ここはまず普通にバイトは…難しいか」

「出来ます!先輩の夜のお手伝いとかなら!」


結局そっち方面に突っ走るか。

蘭華の頭に軽くチョップを入れ、下半身にしがみつくのを止める。


「直ぐにそっちへ走るな。お前の悪い癖だぞ、周りの目も考えろ」

「私の目には先輩しか写らないんです!逞しい先輩の肉体に、冷たい眼差しがたまりません!こうして見つめてるだけで…ハァハァ…我慢出来ません…」


お前はもう変態以外の何者でもないのか!?

理性仕事しろよ!本能だけで動くな!

妹が引いてるぞ、保護者らしくしたらどうなんだよ。

背後からは、小百合が蹴りを入れる体制を取ってるんだけど。

もしかして俺ごと蹴る気か?やめてくれ!

こんな所で蹴られたら、大変な事になるに決まってる!

蹴り倒された場合、蘭華を押し倒す形になる。

そうなってくるとだ、何か変な事をされるか、怪我をさせてしまう。


「みんな、少し話を聞いてくれないか?今、母からメールが来たのだが、全員に頼みたい事があるらしい」


キャリーさんからの頼み事?嫌な予感しかしないな。

とらえず、小百合の蹴り体制が解除されたのは良かった。

解除された隙に、腰に抱きつかれたが。


「頼みって何ッスか?もしかして、また柘魔先輩と浩寺先輩による女装撮影会とかッスか?」

「いや違う。海辺に旅館を作ったら、試しに泊まって欲しいそうだ…どうも若者を対象にしているらしく、私達をモルモットに採用したとのことだ」


狂子…メールには本当にモルモットと書いてあるのか?


「モルモット?ハムスターとかの間違いでしょ?」


疑問に思うところはそこじゃない、つかハムスターならいいのかよ!?

確かにハムスターは可愛いよ、だが実験動物扱いは嫌だろう。

あの人が書くかどうかと聞かれたら、書きそうだな。

漫画の影響とかで、思いっきりなりきってそう。


「その旅館、温泉はあるんですか!?」

「設備についての、詳しい内容は送られて来ている。もちろん着いている上に、露天風呂と…コンヨク?というものまであるらしい」


ら…蘭華の腰を掴む力が、一気に強まった。

この状況で冷静な人間は居ないに等しいだろう。

まず俺は、危機感に恐怖していた。

特に蘭華と由実からの視線がヤバい。

次に冷静ではないのは小百合だ。

顔を真っ赤にして、頭を抱えながらしゃがみ込んでる。

この反応はまだ可愛い方だから良い。

問題は馬鹿二人組に絞られる。

蘭華と由実は絶対にやらかすだろう、

混浴と聞いてからの目付きが変わり過ぎて怖い、獲物を狙う獣と同じ目をしてる。


「母から追記のメールだ。どうやら生徒会メンバーも呼ぶようにと書かれているぞ」


神は俺を見捨てたのか?


「会長とマコト先輩も来るんですか?」

「既に連絡済みらしい。楽しくなりそうだな!」


楽しくねぇよ!むしろ地獄に変るわ!

どうするんだよ!?ただでさえ蘭華と由実で大変なのに!

あの富閖野マコトが来たとしたら、俺は死を覚悟するしかないか。

ただ望むとしたら、姉貴が上手く止めてくれる事を願うのみ。

あと混浴は入らないようにして、対策用に兵器も準備為ておくか。


「明日迎えを寄越すそうだ。いつものリムジンで、轟さんが来てくれるだろう」


あの変態運転手が来るのか!?

流石に轟さんは、旅館に泊まらないよな?


「あの…俺も良いんですか?」

「もちろんだ。母は友人を全員呼べと書いてあるからな」


明日って早いな。

怖くて仕方がないぞ…気が重いな。

狂子の母、キャリーが新たに経営する旅館に行く事が決まった柘魔達。

若者を対象にした旅館らしいが、実は飛んでもない裏が隠されていた!?

旅館で行われる戦争に悲劇!?柘魔は無事に夜を明かせるのだろうか。

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