第二十三話 自宅訪問に、突撃は迷惑行為と同じだよ。
朝、目を覚ますと同時に、違和感に襲われた柘魔。
蒸し暑い部屋で今日も繰り広げられる、狂子達との日常。
あ…暑い…蒸し暑い。
一体何が起ってるって言うんだ?まるで何かに挟まれているようだ…。
この感覚は、以前にも数回は味わってる。
もしかするとだ、蘭華が狂子と協力して、部屋に侵入してきた可能性がある。
この時期、姉貴は暑がって、こちらへと来ると言う事はない。
となってくると、やはり二人に絞られてくるわけだ。
よくこんな暑い中、人の布団に潜って来れるもんだ…サウナ並だぞ。
「またか…起きろ狂子、姉貴にフルボッコにされちまうぞ」
妙だな…狂子だったら、俺を抱き枕にしてくるが、やけに下過ぎる。
顔が腹部の方にあるのが気になるな。
対して蘭華なら、これの逆の位置にいるはずなのに、俺より上の方で寝てる。
そのせいで、胸が枕みたいになっているがな。
「狂子?本当に起きないとヤバい事に」
「私なら…後ろに居るが、何か問題でも起きたのか?」
狂子が後ろに居る…じゃあ、これは誰だ?
え?マジで誰?ガチで怖い。
しかもしっかりと腰をホールドした上で、腹部にしっかりと顔を埋めてる。
蘭華の可能性も考えたが、金髪だから明らかに違う。
まさか狂子以外に、侵入してきた者がいるというのか?
もしそうだとしたら、大変な自体だぞ。
「いいか?今、この布団に、誰か知らないヤツが潜んでる…そっと気づかれない様に姉貴の元に行って、起こして逃げろ…今はしがみついてるから」
「人の家に勝手に入ってくるとは、姿を現せ!この不法侵入者め!」
お馬鹿!今、このタイミングで布団を捲るんじゃない!
俺の方からだと、後頭部とつむじくらいしか見えないんだから!
あと不法侵入者とか言ってるが、思いっきりブーメラン刺さってるからな!
「…お母様?何故、お母様がここに?」
ファッ!?お母様!?
今お母様って言ったか!?言ったよな!?
なんでキャリーさんが、俺の布団で寝てるんだよ!?
何この布団、女性を呼び寄せるフェロモンでも出してんの!?
いやだ!そんな気持ちの悪い布団やだ!
もう買い換える!呪いだ!ただの呪いだぞこれ!
「てっきり蘭華が寝ているのかと思っていたのだが、人違いだったか」
「正直…俺も蘭華かと思ってたんだが…つか、なんで二人して裸なんだよ…いい加減にしろよ」
やべぇぞ…どうしていつもこうなる。
相手は人妻だぞ、後ろにはその娘がいるが。
「申し訳ない。私がしっかりと確認しておけば良かった…まさかこんなところにまで着いてくるなんて」
娘から失望されてますよ、無理はないけどな。
それより、どうやって二人が侵入してきたかだ。
可能性としては、合鍵が一番可能性としては高いのだが、取り上げているはず。
この二人なら、金があるからいくらでも複製は出来るだろうが。
とにかく、服を着て貰わないと困る。
起こすにしても、下手に騒がれても大変な自体に発展するだろう。
「あ…二人とも起きてる…グッドモーニング!脱チェリーおめでとう!お赤飯が食べられるぅ!」
目を覚ました瞬間から、元気がいいな。
つかこの状況の説明を求めたいが、裸で体操をするか普通。
「説明をしてください!何故ここに居るのですか!?」
「だって!将来息子になる柘魔君の家、見てみたかったんだもん!」
だもんって…アンタいくつだよ。
あとせめて服を着てから喧嘩してくれ、人の部屋で素っ裸で喧嘩をするな。
色々と目のやり場にも困ってくる、恥じらいを少しは持てないのか?
親子揃って、裸で言い争うとか見たくねぇんだよ。
この部屋にどうして、裸の女が三人もいることになるんだ!
「とにかく服を着ろ…それと静かにしないと…」
す、既にスタンバイしてるだと?
もう目覚まし投げつける準備が出来てやがる、こちらに向けてるのが証拠だ。
あの調子だと、俺を中心的に、二人も狙うつもりか?
流石の姉貴でも無理があるか。
だとすると…狙われるのは俺だけ。
「あれれ?急に枕を構えてどうしたの?もしかして!枕投げするの!?私枕投げ大好きなの!」
「違う…お母様…何か柔らかい物で身を守った方がいいです…柘魔、私も一緒に隠れさせてくれ!」
狂子が後ろに隠れてきたが…胸の弾力が凄い。
ぐいぐいと押しつけてくるから、盾が若干ズレる。
「柘魔君、この美女は誰?新しい子を追加したの?やっぱり歳上好きなの?」
「会うのは初めてですよね。一応紹介しておきます、春咲秋恵、俺の姉です…あと何かで防がないと、剛速時計が飛んできますよ」
ああだめだ…全然理解してくれてない。
むしろ遊びだと勘違いしてる節がある、もう戦闘態勢に入ってるし。
よく見たら、体超引き締まってる。
いやいや、よく見たらダメだ、絶対にダメだ。
とか考えて居る間にも、姉貴が時計投げてきたよ。
それもキャリーさん目掛けて、思いっきり投げつけた。
これは相当ダメージが…鈍い音がしない?
俺は恐る恐る枕を退けると、そこには凜々しく時計をキャッチした、キャリーさんがいた。
「くっ…なんという破壊力。私の魔力を持ってしても、ここまでの深手を負わされてしまうなんて…まだまだ未熟と言う事ですね」
真射子の真似だと…それも、ファンの間では絶望的な回の所じゃないか。
強大な敵に挑まれ、負けて絞まった挙げ句に、逃走するしか出来なかったあの回。
それを、完璧なまでにポーズを再現している。
裸じゃなければ素晴らしいのにな…こっちチラチラ見てくるしよ。
とりあえず…目逸らしておくか。
「似てた!?ねぇ似てた!?沢山練習続けたの!真射子格好良くて!憧れちゃう!」
「いい加減、服を着てください!柘魔が困っています!それに自分の歳を考えてください!」
服を着てないお前が言うな、それも背後から顔をひょっこり出してだ。
こっちは直視しないようにしてるのに、二人でサンドすんな。
「もしかして柘魔君、恥ずかしがってる?初々しい、パパにそっくり!」
「お願いしますから!服を着て下さい!狂子も同じだ!人に説教をするまえに、自分も服を着ろ!二人が着終わるまで、俺は外にいるからな!」
狂子に対して、久々に怒った気がする。
もう完全に確信したぞ、あれは遺伝だな。
素っ裸で寝るのは別に良いが…親子揃って、人の布団に潜ってくるかよ。
しかもここは賃貸だ、騒がれると困るんだよ。
ちゃんと二人が着替えているのを祈るが、着替えていなかったら大問題だ。
姉貴が目を覚まして、裸の女が二人、弟のベッドに居たとしたら。
「想像するだけで恐ろしくなってきた…怖えよぉぉ」
「お気持ち、お察しします。私も昨晩は、車内で一人寂しく過ごしました…リムジンに一人で居ると言うのは、凄く寂しく、心細く、恐ろしいものです」
俺は恐る恐る、声のする方を向くと、真手場家の運転手がそこに居た。
一瞬悲鳴を上げそうになったが、ここで叫ぶと近所迷惑だ。
特に隣は夏美の部屋、騒げば飛び出してくるに違いない。
「驚かせてしまい、申し訳ございませんでした。一晩中一人でしたので、あまりの寂しさから、つい人の温もりを求めてしまい、来てしまいました」
この人も大変だな…色んな意味で。
確かにリムジンに一人だけって、かなり寂しいだろうな。
以前乗ったときも、結構広かった上に、はしゃげる程だったから。
俺だったら、耐えられないかもしれない。
なんか背後から声とかしそうで、蘭華とかの。
「上がっていきますか?コーヒーくらいなら出せますが」
「コーヒーも良いですが、出来ることなら、人肌の温もりを下さい…なんでしたら、四人で楽しむ方法もありますから」
そういやこの運転手、変態だったのを忘れてた。
つか学生に手を出す気満々かよ、この人も恐ろしいな、おい。
「着替えが終わったのだが…轟さん、いつもお疲れ様です」
「お嬢様こそ嫁入り修行、お疲れ様です。トランクに着替えを用意してありますので、直ちにお持ちいたします…それから、ゴムは何枚ほど入り用ですか?」
蹴り飛ばして良い?この女、蹴り飛ばして良い?
少しは真面目そうな面を見せたと思えば、そのまま引きずるのか!?。
お嬢様はポカン顔だよ!どう返答すれば良いのか分ってねぇよ!
相手純粋なんだから、そこを察してあげてくれ!
あとドアから顔を覗かせてる野次馬、興味津々に写メを撮るんじゃない!
「アンタ達、朝からうるさいんだけど、何時だと思ってんの?てかタク、また連れ込んだのわけ?そろそろ秋恵お姉ちゃん、本気で怒るかもよ」
ああ…心配はいらない。
もう既に…怒ってる様子だから…狂子の真後ろに居る。
寝癖を着け、恐ろしい程の怒った顔で、狂子を見下ろしてる。
更に恐怖するところは、狂子本人が気づいて居ないと言う事だ。
そして…俺は、静かに部屋へと戻って行った。
姉貴が怒り始めて、丁度30分が経過した頃。
ようやく頭も冷静になり始めたのか、俺へのエビ反り固めから、開放された。
「つまり?娘の惚れた男の家が気になって、わざわざ侵入したと言う認識で良いのかしら?だとしたらこれは、立派な犯罪になるのだけれど、ご理解なさってる?」
「だって…来てみたかったんだもん…狂子ちゃんが、柘魔君を抱き枕にすると、凄く眠れるって言うから、気になったんだもん」
やっぱりこの人、性格が幼稚すぎる。
あの姉貴がどう対応するのが正解なのか、悩んで居るほど。
とりあえずは、全員分のコーヒーを入れてから、俺も冷静にならないと。
長時間技掛けられたせいで腰が痛い、これだから朝方は姉貴を刺激したくないんだよ。
全部で五人居るから、カップは5つでいよな?
あとは、狂子は砂糖とミルクがないと飲めないから用意して。
さっきからピンポンピンポンうるせぇ!誰だ!?朝から人の家に悪戯してんの!?
「タッちゃん!さっきからピンポンが五月蠅いから、少し相手してあげて!私、こっちで忙しいから!」
全く、誰だよ本当に。
「やっと開けてくれました!何か嫌な予感がして、全力で走ってきたんですよ!全然扉開けてくれなくて、正直焦っちゃいました!」
「焦るのは別に勝手だがよ、せめて連絡くらいしろ。こっちにも都合ってのがあるから」
ちゃんと携帯を持ってるはずなのに…どうしてこうもアポ無しでくるのか。
それもまるでタイミングを見計らったように、来るんだからな。
しかも、予感が当たるというのも凄い。
今日は何人分の食事を作る事になるんだ…ただでさえ、二人多いのに。
多分…あと三名は増えるんだろうな…夏美と由実と姫華が来て。
にしても…蘭華のやつ、最近太ったな。
私服の上からでも分るくらいに、若干腹が出てきてる。
下手に指摘したら、なんか気まずい雰囲気になりそうだから、放っておくか。
「またアナタなの?毎日家に来るけど、他にする事はないの?学校のお友達と、買い物に行くとか」
「私は、先輩が居てくれたらいいんです!私は先輩の側に居るだけでいいんで、うぅ!」
姉貴のアイアンクローが炸裂した、終わりか。
「ああ…い、痛いです…でも、なんだか…気持ちいいです…」
「な、何よこの子!?私のアイアンクローで…もうダメ!鳥肌が止まらないわ!」
なんだと…姉貴が負けただと?
そんな事がありえるのか?
今現在、最強と言われた人が、背後に避難をしてくるなんて。
正直、信じられないでいる。
だってこれまで勝てなかったのが、いとも簡単に倒されたんだぞ!
背後でガタガタと震えながら、恐怖に覚えてる。
「一体なによあの子!?見てよ!こんなに鳥肌が立ってるのよ!あんな反応する人間なんて初めてよ!早く捨ててきなさい!」
「おいおい、蘭華を拾ってきた動物みたいに言うなよ。こちらに危害を加えてくるわけでもないしよ、それより先に、キャリーさんへの説教を終わらせろよ」
その間、どうせ俺が蘭華の相手をする事に、変わりなんてないからな。
腰に巻いておけば、悪さはあまりしない。
今日のズボンは短パンだからな、ベルトが着いてないから気を付けておかないと。
こいつ簡単にズボンとか下ろしてくるから、結構怖い所だ。
「何か手伝う事はないか?私でいいのなら、なんでもするぞ」
「じゃあ、蘭華が変な事をしないように見ていてくれ。この通り、今は大人しいが、何をするか分らないからな」
「いいんです!先輩と私は将来結婚するんです!だから今から何をしても問題ないんです!」
問題大アリだ!あと将来結婚するなんて誰も言ってねぇ!
つか付き合ってもいねぇのに、そういう話に持ってくな!
蘭華の貞操概念はどうなってやがるんだ、トラウマになってるはずだろうに。
逆にこっちが怖くなってくる。
「でも先輩の部屋、沢山コーヒーがあります。なんでですか?コーヒー飲むと性欲強くなるんですか?」
性欲が強くなるわけねぇだろ!?世界中が大混乱になるわ!
「コーヒーが好きなんだよ」
「い、今!先輩が好きって言ってくれました!」
人の話を聞けっての…この馬鹿。
コーヒーが好きだって言ったんだ、お前が好きだなんて言ってないってのに。
いつもの事だ、都合の良いところだけが聞こえてる。
大事な部分だけを抜いてだ、むしろ器用過ぎて驚くレベルだ。
大人しくしてくれればいいんだけどな、色々と悪戯をしてくるから、困りものだ。
マシなのは、狂子が助けてくれてる。
たったそれだけの事で、大分楽さが違うのも凄い。
手がズボンに行った瞬間に、見事に手を引き剥がして、元の位置に戻す。
「毎日母から鍛えられたCQCの応用だ、簡単に私を止める事は出来ないぞ」
「邪魔しないでください!忘れたんですか!?あの小さい女!先輩をトイレで襲ったんですよ!なら見てるはずです!私も見る権利はあります!」
権利はありません、全然ありません。
お前に権利があるとしたら、姉貴からの説教を受ける権利ならある。
「蘭華、部屋に戻っててくれ。今からコーヒーを運ぶから、危ないぞ、火傷するから離れてろって」
ダメだこりゃ…意地でも離れるつもりはない気だな。
仕方が無い、ゆっくりと歩くしかないか。
客である狂子に運ばせるわけにもいかないし、姉貴もまだ説教が終わりそうにもない。
つかやっぱり…蘭華のヤツ、太ったか?
さっきから妙に重いぞ、もう少し食べさせる量を減らすべきか。
「コーヒーを入れたから、飲んで一息ついたらどうだ?」
「気が利くのは良いけれど…その状況はどうしたの?」
どうしたもこうしたも、見たまんまなんだがな。
しっかりと腰に掴まった上で、頑なに離れようとしない。
俺にはこれ以上、対処の方法がないんだ。
あるにはあるのだが、本人を増長させるだけなんだよな。
変な癖が付いても困るのは俺の方だ。
学校での対処もややこしくなるのは確かな上、姉貴ですら引き剥がせないからな。
こいつは…本当に対処方法を考えないとダメだ。
「この香り…もしかしてキリマンジャロ!?私キリマンジャロが良い!マンジャロ!マンジャロ!マンジャロ!絶対キリマンジャロ!」
駄々こねてる幼稚園児みたいになってる!?
てか人のベッドでジタバタしないでもらえませんか!?ベッド軋んでるんですけど!
しかもバキバキ鳴ってる!?壊れる!ベッド壊れる!
「お、落ち着いてください。キリマンジャロなら、俺のを譲りますから」
「ほ…本当?キリマンジャロ?」
…狂子が涙目になってるようにしか見えない。
この親子、結構似てるからな。
よく見たら、俺の枕がびしょ濡れじゃねぇか。
なんか緑色の物まで付着してんだけど、何!?それもしかして鼻水!?
本当に鼻水だとしたら、枕自体買い換えなきならなくなる。
最悪だ…今日もまた、厄日なのか?
いや…もう既に…年中が厄日…今年が厄年なのかもしれない。
姉貴も引いてる、あと鼻水にも気づいてるな。
「ふむ、少し話題を変えるとしよう。柘魔、以前私とした約束を覚えているか?メイド喫茶での話だ、丁度蘭華も居る事だから、話してくれ」
「話って何ですか?私の名前が出たってことは、私も関係があるんですよね!?先輩!お話って何なんですか!?」
このタイミングで出して来やがるのか!?
よりにもよって、姉貴まで居るこのタイミングで。
「一体何の話をしてるの?もしかして隠し事をしてるの?それもかなり深刻な事のようね…話なさい、少しは楽になるんじゃない?」
「そうそう、隠し事しても良いことないから!皆オープンで!」
「奥様がそうおっしゃられるなら、仰せのままに」
轟さんが服を脱ごうとした瞬間、もの凄い早さで、姉貴が取り押さえた。
ほんの一瞬の間だった、瞬きをした瞬間には捕らえてた。
まるでカマキリが、獲物を捕まえた時の様に。
「もしかしてだけど、タッちゃん。アナタが話す約束って、夏美ちゃんとの件が関わってるわね?顔を見れば分るわよ…良い機会じゃない…もうハッキリとさせた方が良いわよ、お互いの為にも」
お互いにハッキリさせろか…そいつは分ってる。
いずれは話さないとダメなのは、自分でも十分に、理解してるんだ。
ただそれ以上に、話そうとすると、我を忘れそうになる。
自分自身に対しての強い怒りのせいで、関係のない、夏美に手を掛けたヤツに対して。
あの時ほど、殺意を覚えた事はない。
もしあの時に、姉貴が止めていなければ、俺はここに居なかっただろう。
「数年前だ…俺がまだ、荒れてた頃…俺はよく喧嘩をしてた…毎日毎日、飽きもせずに喧嘩を楽しんでた…馬鹿だったよ、本当の大馬鹿野郎さ…」
俺は、言葉に詰まりながらも、この場に居る全員に全てを話した。
誰一人として、言葉を発する事はしなかったが、顔色が変るのが分った。
喧嘩をして、夏美を巻き込んでしまった事を話す時、胸が締め付けられるように苦しかった。
まるで誰かに、握り潰されそうになる感覚。
思い返す度に、腸が煮えくりかえるような気がして、息が詰まるような感覚にも襲われる。
だからこそ、怖い。
また…あの時のように荒れて、大切な人達を傷つける結果に繋がるんじゃないかと。
夏美の時みたいに、狂子、蘭華、由実、姫華、小百合達がだ。
そして…全てを話終える頃には…また、別の恐怖に襲われていた。
皆の視線が怖かった。
軽蔑しているのではないか?
恐れられているのではないか?
気味悪がれているのではないかと。
「俺はその後…姉貴から殴られて、夏美の両親と、家の両親から殴る蹴るをされた…土下座をして、頭を踏まれたが…全部自業自得だ…夏美に対して、罪滅ぼしとして、世話をする約束もさせられた」
両親は元々、俺に対しては殆ど無関心だったが、更に悪化した。
これは姉貴も知らない事だが…昔、両親からはこう言われた事がある。
俺はあくまで、予備だと、言われたこと。
春咲秋恵に何かあったときの為、俺を産んだと言われた。
あれからだったか…荒れ始めたのは。
だが荒れたのは俺自身で、全部俺が悪い。
「それが、私と付き合わない理由だと言いたいのか?たかがそれ位の事で、柘魔は誰とも付き合う気はないというのか?正直言わせて貰う、君は馬鹿だ」
…否定が出来ないのが辛いな。
まさか、狂子から馬鹿と言われるなんて、思いもしなかった。
「柘魔、私は今もの凄く君に怒りを覚えてる。罪滅ぼしで尽くすというのは、間違いじゃない…だが、自分の1つしかない人生を棒に振るというのは、私には考えられない」
「そうです!私も先輩には怒りを覚えてます!なんで先輩がそこまで苦しむ必要があるんですか!?確かに先輩も悪いですよ…でも!一番悪いのは、怪我をさせた人です…先輩は…先輩は…」
どうしてお前が泣くんだよ?意味が分らねぇよ。
なんで二人して泣いてんだよ…俺に対して怒ってるだろ?
泣く必要なんてないだろうに。
こんな所で泣かれたら、俺が泣かせたみたいになるだろ。
もし夏美がこの部屋に来たりしたら、どうしよう。
「馬鹿じゃないの?いつ私が、タクに罪滅ぼしをしろなんて言ったのよ!」
夏美の声が聞こえた瞬間、後頭部に激しい痛み襲い掛かってきた。
どうやら、夏美に後頭部を殴られたみたいだな。
結構痛い、つか不意打ちとか酷い事をしやがる。
んで…夏美まで泣いてんのかよ。
まだ殴り足りないのか、更に追い打ちをかけてくる。
そこへ蘭華も加わり、狂子までが追い打ちに荷担してきた。
不思議なのは途中から、三人が泣きながらも、笑っていたこと。
女心ってのは分らない…俺には理解不能だ。
泣いてたのに、突然笑い始めるんだからな…泣きながら笑うんだ。
本当に不思議だ…不思議過ぎて、こっちまでおかしくなってくる。
「アンタはいつだってそう。なんでも背負い込む癖があるんだから…幼馴染みの私が悩んでたら、いつも全部背負い込んでた、私の無茶な我が儘だって…甘え過ぎてた」
「お前の我が儘なんて、もっと昔からだろ。木になってるドングリを取れから始まり、歩きたくないから背負えとかな」
昔から我が儘なのは変らない、軽く増しただけであって。
そこに俺自身が馴れてしまったんだろう。
「二人は小さい頃から、家族みたいにそだったかね…夏美ちゃんも、タッちゃんを頼りにしてる証拠ね…泣いてても仕方ないから、何か食べに行かない?気分転換になるわよ」
気分転換に何かを食べるって、姉貴らしいと言えば姉貴らしい。
ただこの面子で行くというのも、なんだか珍しい気もする。
普段とは違うメンバーだから、余計か。
と言っても食べに行くとなると、何処へ行くかだ。
「ご飯食べるなら、私が経営してるお好み焼き屋行こ!皆にご馳走してあげる!迷惑を掛けたから!」
そういうと、キャリーさんが何処かへと電話をかけ始めた。
見ている限りだと、何やら予約を取っている様子。
つまりは…今日の晩飯は作らなくて済むようだ。
ここはご厚意に甘えさせてもらうか、朝から大変な目に遭わされたから。
心臓が止まるかと思った、いきなりベッドに潜り込まれたからな。
お好み焼きを食べ、腹が膨れてきた頃に、それは起きた。
大人二人、姉貴とキャリーさんの酒が進み始めて頃にだ。
突然、お互いの職業について、話はじめた。
キャリーさんは色々な会社を経営しているのに対して、姉貴は顔色も変える事なく、話を聞いている姿勢を崩さない。
だが経営をしてる会社名を聞いた途端、顔色が変り始めたのだ。
最初は赤かったのが、青くなり、白くなる。
「んでね、うちの会社に勤めてた子が辞めちゃって。それも凄いの!セクハラをされた瞬間に、相手にアイアンローを決めた後に、アッパーを入れたって」
「あ…アイアンクローにアッパーを決めたんですか…凄い人ですね…その方」
その組み合わせを、俺は知っている。
姉貴が得意とする技の組み合わせと同じ、てかそうとしか考えられない。
その名も「デビル・ブレイカー」と呼ばれてる、名付けは花音さんだが。
相手の頭にアイアンクローを喰らわせたままの状態で、アッパーを叩き込む。
この叩き込んだ瞬間に、クローを解除するという技。
派生技として、さらにヤクザ蹴りを入れるものもある。
「確か名前が…アキエ?って子なんだけど、写真みたら結構可愛い子だったんだけど、やっぱり会社としては暴力沙汰は放っておけないから、両方ともクビにするしかなくて…どうしてるんだろ」
多分、現在アナタが話して居る相手が、その本人だと思われます。
だって姉貴!超目が泳いでるから!
もしかして、戻って来た原因ってのは、問題を起こして辞めさせられたって事か?
「すみませんが、その方の年齢ってもしかして、二十二歳でしたか?」
「そうそう!凄い!なんで当てちゃうの?もしかして超能力とか使える?私のパンツの色を当てられる?轟のパンツのい色は?」
「奥様、お知りになりたいのであれば、言ってくれればいくらでもお見せします」
今の話で確信した、姉貴が働いていた会社で間違いない。
「姉貴ィ…謝った方がいいんじゃねぇのか?キャリーさんにしっかりと事情を話してよ」
「わ、分ってるわよ。ただどう切りだそうかと、タイミングを見計らってるのよ」
見計らってるって…完全にビビってるだけだろ。
逆に珍しい物が見れたわけだけどよ、なんだかなぁ。
殆ど相づちを打ってるだけにしか見えない。
ここは俺が切り出すしかないのか?
狂子に言って貰うってのも悪いし、何か違う気もする。
「暗い顔をしてるが、母が何か失礼な事でもしたか?」
「いや…なんというか、運命の悪戯と言うか。今、キャリーさんが話してる人ってさ、多分姉貴で間違いないと思う、てか確定だ」
「え?先輩のお姉さんって、キャバクラで働いてるんじゃないんですか?」
そんな馬鹿な事を話したのは誰だ?
姉貴に半殺しにされちまうぞ。
「申し訳ありませんでした!その…なんと言いますか…私なんです…部長を病院送りにしてしまったのは…お尻を触られた事へで、つい反射的に」
突然の事に、周りが静まり帰った。
周りから注目が集まる中で、いきなり見せた綺麗な土下座。
いきなり土下座を始める姉貴を、見ているのは辛かった。
いままでは、とても強く負けを知らない姉だけを見てきた。
それが、こうして自分の非を認め、土下座をする。
これこそが、社会と言う物のなのかと、現実を感じさせられる。
社会の重み、社会での厳しさがこれだと。
ドラマとかだと、頭を踏みつけたりする展開もあるだろうが、この人は違った。
土下座する姉貴に顔を上げさせると、抱き締めたのだ。
まるで親が子を慰めるかのように、そっと静かに頭を撫でながら。
「元気にしててよかった…あれからずっと気になってたから…大切な話があったのに、聞かずに日本へ帰ったって連絡が来た時は驚いた…轟、大至急であれもってきて!」
「あれでしたら、常に積んでありますので、直ぐにとってまいります」
キャリーさんの言葉と同時に、轟さんが外へと走って行く。
その間にも、俺達全員は、店の上へと移動させられた。
このときのキャリーさんの顔は、笑顔ではなく、とても真剣な顔付きに変っていた。
轟さんが戻ってくると、静かに説明会が行われ始めた。
内容というのは、姉貴への仕事紹介と言う物。
話によると、あの会社では問題が起る事が多く、とくにセクハラに関してが多かったとのこと。
そこで考えられたのが、退職する代わりに、自宅で仕事をして貰うという物。
「でも…私は会社で、酷い問題を起こして…相手に大怪我をさせました」
「奥様は気にしておりません。むしろ、以前よりも女性社員からの苦情が減りました、特にスカッとしたと言う方も多い程です、つきましては、この書類にサインをいただければ、採用となります」
この仕事に関して、しばらく姉貴は考えた後に、書類へとサインをした。
仕事内容はとても簡単、家でパソコンを使って書類を作成するだけ。
作成した書類は、会社の方へと送ると言う物。
必要なパソコンも会社が負担、とても美味しい仕事に間違いはない。
実質、キャリーさんもこの仕事をしているらしい…社長なのに。
「では、パソコンを購入なさりましたら、領収書を忘れずにお願いします。当社としては、グレープのパソコンをおすすめしておりますので、検討しておいてください」
「じゃあ頑張ってね、春咲秋恵さん。アナタは今日から、我が社で正式に採用となったらか」
こうして、姉貴は新たな職に就くことになった。
予想だにしていなかった結果に、俺達は驚きを隠せない。
この場で、姉貴が泣いていた事が、衝撃だった。
まるで釣られるように、夏美達も泣き始めた事にも衝撃だった。
俺は、泣きはしなかったものの、とてつもない安心感を感じた。
知らぬ間に、姉へ心配が、積もっていたのかもしれない。
自分の過去を話した柘魔。
そして、新たな職を見つける事の出来た秋恵だったが。
職をするなら道具が必要、いざ道具探し旅へ!
次回、いつもと変らずに、日常は進むのか?それとも進展が待ち受けているのか?




