第十九話 メイド喫茶に女生と行くのは、妙に緊張する。
狂子が行きたいと言う店に行く二人。
目的地に着いても、二人にはトラブルが付きまとうのだった。
朝から俺は、災難に遭っている。
「アナタが男の子だと言うのは分るわよ。でもこれは流石に早すぎると思うのよ、あと一年もすれば十八歳よ、そうなればいくらでもいかがわしい物を買っても良いけど…」
なんで俺のベッドからAVが出てくるんだよ。
しかもチョイスも最悪なんだよ!
どうして姉弟物を選ぶんだよ!?ふざけんなよ!馬鹿じゃねぇの!?
「いくらお姉ちゃんの事が好きだからって…こういう物は認められないわよ、私達は血の繋がった姉弟なのよ」
「だから!俺のじゃねぇって言ってんだろ!誰のせいで三次オタになったと思ってんだ!?あとAV片手に全裸で説教するな!説得力に欠けるんだよ!せめて前くらい隠せよ!」
この事件の犯人は、一人だけ思い当たる。
昨日、部屋に来たメンバーは五人。
狂子、夏美、蘭華、姫華、由実だ。
考えられる犯人は主に、由実一人に絞り込める。
どこかにカメラでも隠してるのではないだろうか、部屋の中に不審な動きは…。
「よそ見をしないの!今大切な話をしてるんだから!」
顔を無理矢理曲げるな!今向いてもその肉の塊しか視界に入らねぇんだよ!
「姉貴…何か部屋に違和感を感じないか?例えば誰かに見られているような感じとか」
「…確かに…てっきりタッちゃんが、私に対して欲情した視線かと思ってたけど…違うみたいね」
いつ誰が欲情したんだよ!?
いい加減にしろよ!馬鹿姉貴!
昨日のアルコールまだ残ってるだろ!絶対まだ酔ってるだろ!?
そりゃ朝の五時まで飲んでたからな!眠ったの二時間前だもんな!
「この棚…やだ、これ小型のビデオカメラよ…タッちゃん、まさか私の事がそんなに」
俺は姉貴からカメラを奪い取り、中のデータを確認した。
中にはやはり、由実が撮影したらしき映像が幾つか残っている。
テストと言いながら家族を写した映像。
蘭華が俺に絡んで来るところへ、ブチ切れる夏美。
風邪で寝込んでいる狂子に対して、悪戯をする蘭華。
決定的なのは、ビデオカメラを設置した後に、俺のベッドにAVをしのませている所。
つかこのビデオカメラ、相当バッテリー持つな。
「犯人は由実のヤツだ…しっかりと映像が残ってた」
「そうなの?ごめんね疑って、お詫びに一緒にお風呂入る?」
マジでいい加減にしろよ、酔っ払い。
胸を顔に押しつけてくるな!あと酒臭い!
それに俺は今日、大切な約束がある。
狂子の事だから、あと少しで家に来るだろう。
今日は彼女が行きたいと言う所に行く予定、だから急いで支度をしないといけないのに。
「姉弟なんだから別に問題ないわよ、小さい頃も一緒に入ってたでしょ?」
この絡み、蘭華以上に厄介だ。
「離せ!入らねぇよ!つかあんな小せぇ風呂に入れるわけねぇだろ!お前の胸で溺死するわ!」
「溺死なんてしないわよ、失礼ね!私が先に湯船に浸かって、タッちゃんが後から入れば良いのよ!」
だから、なんの解決にもなってねぇんだよ。
誰かがこの部屋に来て見ろ、完全に勘違いされるだろうが。
やべぇ!今変なフラグ立てちまった!
この場合は大抵、夏美のヤツが部屋に勝手に入ってきたり。
「柘魔、待ちきれずに来てしまった、鍵は家に忘れてきてしまって、窓から失礼する」
夏美じゃなくて狂子来ちゃったよ、アイツより断然マシだけどよ。
この状況を見てどう思うだろうか…流石に引かれた可能性があありそうだ。
いやまて…なんか目が輝いてる。
もしかしてだが、良くないことを考えて居るのではないだろうか。
つか今日の狂子、やけに露出多くないか!?
何故上ビキニ!?ビッチに昇格した!?
ないない、狂子に限ってそれは絶対にない。
「あら似合うじゃない、この上に着てるのとか私にピッタリじゃない?」
やめろ姉貴!人様の物を奪い取るな!
「何をするんですか!?これは母が今日の為に用意してくれた、柘魔が好きそうな服なのに」
「俺別にそういうの好きとかじゃないから、どっちかと言うと清楚系の方が好みなんだが…つか姉貴!狂子に返せよ!パッツンパッツンだろうが!あとワインをラッパ飲みするな!」
「いやぁ!タッちゃんのケダモノ!いくらお姉ちゃんが美人で!超セクシーで!クレオパトラすらも遙かに陵駕するお姉ちゃんだからって!これは流石にダメよ!」
もうやだ…誰か酔っ払いを止めてくれ。
どうして俺の部屋で、上半身裸の女と、下半身裸の女が戦うんだよ。
せめて両方上半身なら諦めが付くよ、上手い事髪で隠れてくれればの話だが。
二人共見事に髪は長い、狂子は背中まであるし、姉貴は腰より下まである。
でもよ、姉貴に関しては下半身丸出しで喧嘩するな。
一応こっちの身にもなれ、これでも目のやり場に困ってるんだよ…馴れてるけど。
「いい加減に返してください、流石の私も怒りますよ」
「怒ればいいじゃない、毛の生えてないお尻の青い子どもが、悪魔に勝てると思ってるのかしら?」
もういい、俺は寝る。
もう知らない、もうどうにでもなれ。
「ちょっとうるさいんだけど!?今何時だと思ってんのよ!?てか二人共何その恰好!?タク!さっさと止めなさいよ!」
「止めるなお前が止めろ…そこの餅アイスと草原は、俺にはどうしょうも出来ねぇよ…くわばらくわばら」
今、足を何かが掴んだな。
それも両足を、もの凄い力で掴まれてる。
これは…まさか二人が、俺の足を掴んでいるわけじゃないだろうな?
俺は嫌だぞ、これ以上、俺に何を求めると言うんだ。
お前等の求めている物なんて持っていない、だから大人しく離せ。
「寝てないでどっちかハッキリしなさいよ!私の胸とこの女の胸!どっちが好みなの!?もちろん私の方よね?」
「いや、きっと柘魔は私を選ぶはずです、この間も私に付きっきりで看病をしてくれた…あと…恥ずかしいが、私に座薬を入れてくれたしな…」
どうしてこのタイミングで、それを暴露するのだ。
「たたた、タクが座薬を入れたぁ!?ちょっと!それってどういうことなのよ!起きて説明しなさいよ馬鹿!変態!」
「揺らすな揺らすな、緊急事態で仕方なく座薬を入れたんだよ、だから俺を揺さぶるのをやめろ」
今日は朝から運が悪いのか?
もしかして厄日ってヤツじゃないだろうな?
朝からAVは仕込まれてる、ビデオカメラで盗撮されてるで。
絶対に許すまじ、コブラツイスト決めてやる。
「こんちわッス!蘭華がどうしてもこの時間に来たいって言うもんで、連れてきたッスけど」
来やがったな、元凶め。
この状況を見て何を驚いてる、元はと言えばお前も関係してるんだよ。
変な事をしなければ、姉貴もそのまま眠ってくれたんだ。
いやマジで、余計な事をしてくれたんだよ。
あと狂子と姉貴、いい加減バトルをやめろ。
とりあえずはビデオカメラを、アイツに見せつけてやる。
すると、きっと慌ててビデオカメラを取り返しに来る。
そこを掴まえて、技を掛けてやる…今回ばかりは加減無しにだ。
「せ、先輩もカメラを買ったんッスね、いやぁちょっと見せて貰っても良いッスか?」
「これお前のだろ?データがしっかりと残ってんだよ、あ?」
予想通りに由実は、こちらへとカメラを取りに近寄ってきた。
その瞬間に、コブラツイストを仕掛ける。
「ぐぇ!いぎなりなんずが?ごんなじうぢ酷いっずよ」
逃げられると思うなよ、ガキの頃から夏美との遊びでやってきた技だ。
これに関しては、逃がさない自信がある。
後ろで姉貴達のバトルが続いているが、こっちもバトルと行こうか。
「証拠は出てるんだよ、俺のベッドにDVDを仕込んだのも、ビデオカメラを設置したのものお前だろ?認めたら開放してやってもいいぞ」
「な…なんのごどっずが?ガメラはわだぢがぜっちじだっずげど…DVDはじらないっず…」
「そんなことどうでもいいから、何か食べる物ないの?うちの姉が食べ物買わないで、変な本買ったから食べ物ないんだけど」
確か蘭華の食費は、一応狂子からの借金で成り立っているはず。
んで家に帰れない姫華も、蘭華と姉妹であのマンションに住んでる。
だから食費は二人分あったはずだ。
俺が蘭華の方をみると、完全に青ざめていた。
あと由実が言うDVDの件、これも少し怪しいな。
後で蘭華と由実の二人には、しっかりと説教してやる!
「狂子、着替えたら出かけるとしよう…姫華も着いてくるか?飯奢ってやる」
「え?マジで?やった!行く行く!私パフェ食べたい!」
コイツ、本当にパフェ大好きだな。
小学生らしくていいけどよ、あとで食えそうな店に連れて行くとするか。
とりあえず着替えを…着替え…。
蘭華のスイッチが入ったようだ…腰にしがみついてきた。
ベルトを着ける度に、外してくる。
これじゃあ埒があかない…つか夏美!コイツを抑え付けとけよ!
姉貴も姉貴で、パンツを履いただけマシだが…二人に説教かましてる場合じゃねぇ!
酔っ払いの説教なんて説得力ねぇんだよ!
「なぁ柘魔、このDVD…男と女は一体何をしてるのだ?まるで」
「狂子は見なくて良いから…狂子?離してくれないか?これを見るのは早すぎる」
なんか狂子が釘付けになってんだけど、やめてくれる?
どうして男女でこんなDVD取り合いしないといけないの?恥ずかしいんだけど。
「何よこれ!?タク!アンタこんなのが趣味なの!?最低!」
面倒な事態になってきた。
この空気に耐えられなくなった俺は、狂子の手を掴み逃げ出していた。
もちろんDVDは手からもぎ取り、由実の後頭部目掛けて投げつけたのは、たまたまだろう。
家から飛び出してから、二時間ほどが経った頃だろう。
気がつけば、俺達はアキバまで来ていた。
「柘魔…あのDVDが気になって仕方が無いんだが、あれは一体どんな内容なんだ?さっきからずっと顔が赤いぞ?」
答えられねぇ…狂子はピュアだからなんて答えたら良いかもわかんねぇよ!
一番良いのは大人が説明することだろうが、姉貴は酔っ払ってる。
狂子の母親であるキャリーさんは、余計な事しか吹き込みそうにないしな。
「とりあえずアレは忘れよう、今日行きたいところがあるんだろ?」
「そうだった!確か秋葉原にあると母が言っていたのだが…ああ、アレだ!あの店だ!」
行きたい店って、メイド喫茶の事かよ。
まぁ狂子らしいけどよ、とりあえずはDVDの事から離れたからいいな。
もしあの内容を知ったら、狂子までおかしくなる可能性がある。
もしそんな事態になってみろ、俺には止める事が出来ない。
ただでさえ俺の部屋でもあんな状況になってる、色々と増長させるに決まってる。
「ここのメイド喫茶って…確か最近出来たとかって言うところじゃ」
「母の会社が経営しているメイド喫茶だ、一度来てみたかったんだ!だってメイドだぞ!メイドが喫茶店で働いているんだぞ!こんなに素晴らしい事があるのか!?」
いや、アンタの家に本職いるだろ。
「早く入ろう!レッツゴー!第三次メイド対戦だ!」
もう意味が分らねぇよ、あと進むのが早い。
店に入ったら時点で、もう目が輝いてる。
「おかえりなさ…いませ?ご主人様?」
「うむ!柘魔!本当に言ったぞ!私が女でもちゃんと言ってくれたぞ!おかえりなさいませご主人様って言ってくれたぞ!」
確かに言ったね、凄い疑問系だったけどね。
あと大声を出すのやめよう、他のお客さんが驚いてるから。
興奮する狂子と共に、席に案内され座ったものの、周りからの注目が凄い。
いきなり金髪美女が入って来て、騒ぎ出したら注目も浴びるよな。
二次オタの俺でも分る、狂子は相当美人だ。
だがここがまさか、あの人が関わってる店だなんてな。
「メニュー結構高いな、オレンジジュースで千円超えか」
「やはり高いか…母から店の様子を見てくるように頼まれていたのだが、柘魔が一緒に来てくれてよかった、色々と参考になりそうだ」
狂子がここに来たがった理由、それの半分が母親の頼みと言う事か。
ただ本人が楽しそうで何よりだ、もう少し大人しくしてくれたら良いんだけどな。
さっきからメニューを見ながら、あっちこっちキョロキョロして子どもみたいだ。
子ども…やべっ!姫華忘れてきた!
帰りに土産でも買っていくか、ショートケーキ二個とかで良いだろ。
とにかくだ、狂子を落ち着かせないと。
「少し落ち着こう、周りの客の迷惑に」
「見ろ柘魔!本当にメイドが伝統のもえもえキュンをしているぞ!ところで萌えとは一体なんだ?」
ああ…全然話聞いてない。
俺の話はほとんど聞こえませんか、そうですか。
なんだか悲しくなってきた。あとメイドさん達の視線が痛い。
「ご、ご主人様。申し訳ございませんが、他のご主人様のご迷惑になりますので、あまり騒がれては困ります」
ほら見なさい、注意されちまった。
「そうだ、これを店長に渡してくれ、真手場からだと」
彼女がポケットから出した手紙、なんか怪しいな。
まさかここの店の代金が無料になるとか、流石にないな。
もしそんな事になれば、周りの客を敵に回しそうだ。
いつもと違うのは、周りの客が敵に見えないと言う所か…殺意とか感じない。
なんだか落ち着いて居られたら、どれだけ楽な事か。
「お待たせしましたぁ、こちらキューティクルラブリーオムゥッ!?」
お、オムゥッ!?
いきなりどうした!?オムライスの途中で何があった!?
てか店員がビビってる?何処でビビる要素があるんだ?
つかオムライス!おもいっきり潰れてるぅ!
ただでさえオムライス1つ2000円なのにぃ!
この展開には流石の狂子も…なんか嬉しそうなんだけど。
「柘魔…これは伝説のあれではないか?ドジっ娘メイド」
「ドジっ子!?」
アンタが驚いてどうするんだよ、実際にドジ踏んでるだろ。
超高いオムライスをひっくり返してるんだしよ、アンタが驚いたらダメだろ。
「すすすみません!今お取り替えしまッ!」
大丈夫かよ…この店員。
今思いっきりずっこけたぞ、パンツまで丸見えだったぞ。
掛けてる眼鏡、度が合ってないんじゃないのか?
狂子も狂子で目輝かせすぎだ、相手の不幸を喜ぶんじゃない。
もうガチで心配になってきたんだが。
「何してるの!?アナタは下がってて、後は私が全部やっておくから」
「すみません…失礼します」
そういうとメイドは、厨房らしき所へと引っ込んで行った。
…なんだったんだ…あのメイド。
「私はここに来れて感激だ!まさかドジっ娘メイドが見れるなんて、思いもしなかったぞ、母にも是非見せたかった」
「あまりドジドジ言ってやるな、相手も災難だったんだ」
特にパンツが丸見えになったんだからな。
幸いだったのは、俺達の周りには、客が座っていなかったことだけどよ。
いや、俺にパンツを見られた時点で大分ダメージはデカいだろう。
俺だって罪悪感がある、見慣れてるだけで。
別に感動とか言う物はない…と思う。
待って、考えたらドジっ娘メイドって、結構レアじゃね?
かなりレアだよな?眼鏡ドジっ娘メイド。
「先ほどは申し訳ございませんでした、まだ新人なものでして」
「構わないさ、ミスは誰にでもあるこどだ、それに私達の事は気にしないで欲しいと伝えておいて欲しい」
凄いな…普通の客ならブチ切れてもおかしくはない。
そこを狂子は、冷静に対応してる。
更に相手のフォローまで入れるなんて、彼女の方が営業に向いてるんじゃないか?
ここが母親の経営する店だとしても、狂子ならこれが普通だろうな。
「ただいま別の席にご案内いたします、料理も直ぐに新しいのを」
「慌てなくてもいい、むしろ良い物を見せてもらったんだ、なぁ柘魔?」
俺に振らないで、パンツ見えた事がラッキーと思われるのが嫌だから。
「それにここは母が経営している店だ、他のお客でなくて身内の私で良かったよ」
狂子の言葉を聞き、店員の顔が青ざめ始めた。
そりゃ経営者の娘に対して粗相をやらかしたんだ、ビビるのも仕方がないか。
もしかして、さっきのメイド…狂子がそうだと気づいたのか?
狂子とキャリーさんは、かなり似てる。
例えるなら、彼女をかなり大人な雰囲気にしたのがそうだろう。
性格はもの凄く幼稚だが。
「申し訳ございませんでした!ただいまVIPルームにご案内いたしま」
「だから構わないと言っているだろう、今の私は、ただの一般客と同じだ。ここで優遇されてしまうと、後で母に怒られてしまう、そう思うだろ?柘魔」
「まぁ確かに…経営者の娘だからといって、色々とサービスされてる姿を見るのは、あまり良い気分がしないな」
ここは狂子の意見に従うのが良いだろう。
「というわけだ、私はもう一度コーヒーを1つ、あとはもう一度オムライスを頼む、柘魔はどうする?」
「それじゃあ俺もコーヒー1つ、あと同じくオムライスで」
俺達は別の席に移動し、注文をした物を待つ事にした。
ここでとても幸いだったのは、夏美を置いてきたことだ。
もし夏美がいたなら、あのメイドに対して、酷い悪態をつきまくる事だろう。
アイツならやりかねない。
「やっぱりキャリーさんに報告するのか?」
「報告はするが…辞めさせるような事はしないと思う、これもまた、1つの課題と言う事になるだろう、飲食店の経営と言う事の」
結構向いてるのかもな、店の経営に。
しっかりとメモに取って、メニューの値段もしっかりとチェックしてる。
だが…やっぱり周りからかなり目立つ結果になるのか。
メイドが下がってから、妙に殺気だってるんだよな。
あと狂子が経営者の娘と言う時点で、俺にまで集中してる。
俺関係なくね?ただ一緒に居るだけだろ。
居るだけで対象になるのか?無差別か?
「母は日本の文化が好きで、父が海外に行く時に日本に残ったんだ…そして、私の祖父母の会社を継ぎ、今は母が社長をしている…いずれ、私もそれを継ぐ為に、こうして社会勉強も必要だと言われてしまった」
社会勉強も必要、あの人もたまには良いことを言うんだな。
俺も来年までにどうするか考えないとな、大学に行くのか、就職するのか。
前にキャリーさんは、狂子と結婚しろとか言ってきてたな。
普通に考えたら、とてもいい話なのは確かだろう。
言わば就職にも困る事はないと言うこと、だがそれでいいのだろうか。
今の状況で、俺が狂子と結婚しますとか言ってみろ。
蘭華に刺される可能性だって出てくるんだぞ。
それに俺は二次元が一番好きなんだ、三次元に対して…三次元に対して…。
「どうかしたのか?なんだか顔が暗いぞ?」
「いや…少し考え事をな…高校を卒業した後、どうするかを考えてた」
俺の言葉に対して、彼女の口元がつり上がるのが分った。
何か良からぬ事を考えているのか、それとも話自体に興味を持ったのか。
「それなら簡単だ、私の所に来れば良い。母は柘魔の事を非常に気に入っているから、直ぐに採用してくれると思うぞ、何だったら、私の元に永久就職するのはどうだろうか?」
まさかの本人から言うのかよ。
それも良い笑顔で、自信満々か。
「まだそういうことは考えてねぇよ…ただ言ってくれるのだけは嬉しいかもな」
「つまりそれはOKと取っていいのだな!?私は嬉しいぞ!」
勝手に決めるな!お前は蘭華か!?
俺はあくまで、言ってくれるのが嬉しいと言っただけだぞ!
誰も、じゃあ結婚しようとか言ってない!
あと俺達はまず、付き合うという初歩段階まで行ってないから!
初めて会った日に告白されたよ!確かに告白された!
だが直ぐに断ったはずだ!あったばかりだからな!
「母にも早く報告をしないと!」
「待て待て!俺はOKを出してないぞ!早とちりしすぎだ!」
俺は何度も否定の言葉を述べたが、彼女には何処吹く風なのか、聞こえてはいない様子だった。
これは困った事態になってきたぞ。
完全に自分の世界に入り込んでるよ、しかも夢見る乙女みたいな顔して。
もしこの話がキャリーさんにでも知られたら、強硬手段に出るやもしれない。
「柘魔、君も気づいているんじゃないか?」
そういいながら、懐から一枚の写真を取り出し、テーブルに
置いた。
写真に写っていのは、小さい少女。
「これは私が幼い頃の写真だ…そして、君の写真を、あるルートから入手させて貰った」
とあるルートって、どんなルートだよ。
映画見たいな展開に向けてきてるが、金の力で手に入れたんだろうな。
てかどうして俺のガキの頃の写真…理由が分った気がする。
前から行っていた、自分が憧れていた少年の話。
彼女は、俺がその少年だと言っていた。
可能性は確かにある。
以前、熱が出たときにガキの頃の夢を見たことがあった。
あの時に出てきた少女がまさに、この写真に写っている子と全く同じ。
「私は今でも、ハッキリと鮮明に覚えている…あの時の少年は、この少年で間違いなかったと…そして、やはり君がそうだと辿り着いた」
「…確かに、この写真に写ってるのは俺で間違いはない」
ある意味、これも運命とか言うヤツなのかもな。
小さい頃に助けた子と、こうして友人として接して居る事が。
そう考えると、とても不思議な気分になる。
こんな事は、漫画や映画だけかと思って居た。
時間的にも、十年近くも経つからだ。
「もう一度言わせてくれ…私と、結婚を前提に、付き合って欲しい」
こういうのは、普通は逆に俺が言う物だと思う。
あと俺は二次元にしか興味がないと話していたはずだが…やっぱり通用もしないのか。
「前にも…言ったが…俺は二次元にしか興味が」
「そんな事は、私には関係ない…柘魔はいつもそうだ、二次元にしか興味がないと言っているが…ただただ私達から逃げる口実にしていないか?」
…逃げる…口実?
何を言っているんだ…理解が出来ない。
俺は二次元にしか興味を持ったのは…中学生の時だ。
たまたま深夜番組で、真射子を見てから、あの美しさに惚れ込んだ。
そこから俺は、あのアニメに没頭して、オタクへと進んで言った。
アニメに没頭しなければ、今の俺は居ない。
逃げの口実にしてるなんて…まるで、俺自身を否定されている気分だ。
「もう逃げるのは辞めにしないか…私は、君の本心が聞きたい…どうしてアニメを理由にして逃げるんだ?一体何を恐れていると言うんだ?」
「俺が恐れてる…?一体何を恐れてるって言うんだよ…?」
実際、狂子の言っている事は当たっていた。
確かに俺は恐れている事がある。
俺と夏美が幼い頃に、怪我をさせた事が未だにトラウマになってる。
今はこうしているが、正直言うと怖いくらいだ。
また…夏美を傷つける結果に繋がるんじゃないかと。
こうして考えてると…本当に俺は逃げてばっかりだな。
喧嘩が強くても意味がない…姉貴に何度、言われた事か。
「君が何を恐れてるかなんて、私が知ってるはずもないだろう…ただ、前から何かを恐れているのを感じてはいたんだ…秋恵さんでもない、他の何かに対しての恐怖だ」
他の何かに対しての恐怖、まさに夏美との事で間違い無い。
「出来る事なら、話して欲しい…私の勝手だということは、理解している…ただ私は、君の力になりたいんだ」
「…力になりたいなら…そのことに触れないでくれ…話せば長い事になるし、あまり人前で話したくない…それに…どうせ話すなら、蘭華達も居た方が…話がこじれずに済む」
これくらいしか、俺は言うことが出来なかった。
とにかく、この話題から離れたいと、心底思っていたからだ。
「そうか…すまない」
悲しそうな顔をする狂子。
対して俺は、何か言葉を掛ける事すら出来なかった。
俺の頭の中にはいくつもの、夏美との記憶。
特に覚えてるのは、俺と夏美、両方の親から言われた言葉。
俺が責任を持って、ずっと夏美の世話をしろと言われたことだ。
夏美が怪我をしたのも全部俺が悪いと言われ、ずっと世話をして、懺悔しろと。
姉貴は直ぐに庇ってくれたが、両親に敵うはずもなかった。
直ぐに俺はそれを受け入れて…泣いていた。
「帰るとしようか…そうだ、帰りにDVDを借りよう!実は柘魔と見たい映画があったんだ!ホラー映画なのだが、母が是非二人で見ろと言ってきてな」
「そうだな…じゃあ、俺がおすすめする映画も借りていくとするか」
彼女の顔に笑顔が戻りつつも、少し不満そうな物が見え隠れしているのを、見逃さなかった。
俺が話さなかった事に対して、少し怒っているのかもしれない。
後々、本当に話さないとダメだな。
柘魔が自分を救ってくれたと確信した狂子。
彼女は柘魔が恐れている事を追求していき、後に話す事を約束させる。
次回、ついに柘魔達の学校で学園祭の準備期間が始まる。
柘魔達は問題なく、学園祭準備を終わらせ、学園祭を迎えられるのか。
それとも、いつもの如く、トラブルが起ってしまうのか。




