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第一話 さよなら、俺の平凡だった青春よ。

普通のオタク高校生である春咲柘魔。

放課後、彼の前に現れた金髪美少女、真手場狂子に出会う事から、彼の学校生活は変ってしまう。

 俺はいつものように、普通に高校生活を送っていた。

 しっかりと授業を聞いて、弁当を食べて、友達と話す。


「だから魔性の妖艶さを持つ映子が一番良いキャラしてるんだって」

「何言ってんだよ、やっぱり一番可愛いのは美里だろ、あの兄への思いを語るシーンなんて泣けただろ」

「お前等何も分ってねぇな、やっぱりあの作品は主人公である真射子が一番可愛い上に美しさも兼ね備えた最強の淑女なんだよ」


 そう、これが俺の日常的な会話。

 オタク友達とアニメの話をする事が、日課になっている。

 二人はこの高校で出会った友人で、たまたまアキバで遭遇したのが切っ掛けで連む様になった。

 それぞれ好きなキャラクターが違うが、それもまた良い。


「おい春咲、伝言で今日の放課後屋上に来て欲しいってよ、この色男」


 またか…今月で何人目だよ。


「春咲!お前って奴は!」

「今月で何人目だよとか考えてるんじゃないだろうな!?」


 人の心を読むんじゃねぇ!

 どうせ浩寺へのラブレターを渡せとか言う事だろう。

 いつもそうだ、俺を呼びだして一番中が良いと言う理由で渡してくれとか頼んでくる。

 そういうのには飽き飽きなんだが、断れば面倒な事態になりかねないので受ける。

 結果的には、いつものパターンだった。

 今日は浩寺の奴がたまたま廊下で会えたから渡せたが、アイツもある意味大変な奴だ。

 浩寺の奴がロリコンだと言う事実は、この学校では俺しか知らない事実。

 別に誰かに話す理由なんてないし、俺が話した所で誰も信用なんてしない。

 そんな事を考えて居る暇があるなら、アキバに行って予約していたフィギュアを買わないと。


「すまない、そこの君」


 放課後の廊下で、突然後ろの方から誰かに声を掛けられた。

 まだ声を掛けられるなら良いが、何故に肩まで掴んでくるのだろう?


「何かご用ですか?」


 声のする方へ振り返ると、そこには見慣れない女性が立っていた。

 綺麗な金髪、そして青い瞳。

 その女性はうちの高校の制服を着ているが、見た感じで一見では、学生のコスプレをしている外国人にしか見えない。


「実は、道に迷っているんだ…今日からこの高校に転入する事になったのだが、諸事情で学校に来るのが放課後になってしまったんだ、職員室に行きたいのだが何故か皆私を避けていて…頼む、案内をお願い出来ないだろうか?」

「えっと…俺で良いのであれば」


 女性は目を輝かせ始め、俺の手を握ってきた。


「ありがとう!これで迷わずに済む!」


 まぁ…フィギュアは予約をしてるから問題ないか。

 どうせ職員室なんて、目の前にある階段を降りて右に曲がればあることだし。

 多分、皆女性が外国人だから英語が話せないと思って避けたんだろうな。

 しっかりと日本語がペラペラで助かったぜ、もし話せないなら俺も涙目で逃げたい。

 その後、俺は女性を職員室に案内し学校を後にした。

 それにしても、綺麗な人だったな。

 あんな美人に手を握られたのは初めてかもしれない。

 いいや、思い出せ!これまでいくら女に期待をさせられて踏みにじられたか!

 俺が愛してるのは、真射子だけだ!

 三次元より二次元だ!

 真射子は俺の嫁だぁ!


「ちょっとタク!学校から出てくるの遅くない?べっ別に一緒に帰りたくて待ってたわけじゃないから!アンタが心配で待っててあげただけだから!」


 校門の入り口に一人の女生徒が見えた。


「夏美、お前別の高校なのになんで毎日俺を迎えに来るんだよ?」

「はぁ?だからアンタが心配だからこうして毎日お迎えに来てあげてるんでしょ?感謝しても良いくらいじゃない?」


 こいつ…何言ってるんだ?

 今、俺に対して偉そうな態度を取っているこの女は、俺の小さい頃からの幼馴染み。

 名前は松宮夏美(まつみやなつみ)、俺の親と彼女の親が仕事仲間で小さい頃から俺達は一緒に遊んでいた。

 小さい頃は本当に仲が良かった、問題が起ったのは中学に上がり始めてから。

 夏美は俺がオタクになり始めた頃、いきなり偉そうな態度を取り始めた。


「ちょっと!何処に行く気?今日は真っ直ぐ帰る予定なんだけど」


 真っ直ぐ帰るなら一人で帰れば良いのに、何故俺を巻き込もうとするんだ。


「俺アキバに予定があるから、お前先に帰ってろよ、俺にお前の予定は関係無い」

「なんで私がアンタの命令を聞かないと行けないわけ?いいから帰るの!ほら早くって!?ちょっと!」


 逃げようとした瞬間に制服のブレザーを掴まれた。

 俺はブレザーを生贄に。逃走を発動!

 夏美に掴まれたブレザーを脱ぎ捨てる事で、俺は上半身をワイシャツにして逃げ出す事が出来る。

 なんてカードゲームの様な事を考えながら、無我夢中で走る。

 鞄はしっかりと握ってる!よし!

 これがあれば問題はない!

 なんせ鞄の中に資金が隠してあるからな。


「覚えてなさいタク!バカー!アホー!」


 叫び声を無視してそのまま走り去る。

 無事アキバに到着した俺は、目的の店へと周りながら、ついでに漫画の新刊もチェックしていく。


「あ、これ新刊来てたのかよ、しかも最後の一冊とか超ラッキー」


 かなりマニアックだから仕入れ数が少ないんだよな。

 欲しかった漫画も購入した事だし、次の店に嫁を取りに行くとするか。

 待っていろよ、愛しの真射子!


「確かここの三階だったよな?…あれ四階だっけ?」


 ここのビルはアニメショップが何故か二つもあるからな、時折わけが分らなくなる。

 そういや近くにサバゲ専門の店もあるらしいし、帰りにでも寄ってみようかな。

 真射子が愛用してるマテバモデロ6ウニカ、取り扱ってるといいな。



「はい、予約をされている春咲…ぷっ、た、柘魔様ですね…ぷぷっ、こちらになります…」


 チクショウ!せっかく気分が良かったのに!

 思いっきりテンションが駄々下がりじゃねぇかこの野郎!

 俺のこの柘魔と言う名は…両親が着けた名前なのだが、理由が酷い。

 前に一度だけ聞いた事があるのだが、柘はたくましいと言う理由かららしいのだが、全然漢字の意味が違う。

 漢字は両親が好きな字を使ったと言われ、魔に関しては親父が昔好きだった漫画のキャラも同じタクマだったらしい。

 そのマの部分が魔だったことで、俺はこの名前を付けられた。

 完全に親のエゴだけで着けられた。

 昔から、この名前でよくからかわれて酷い目に遭ったが、今でも苦労してる。

 将来絶対に苦労する事なんて、俺の両親は考えずに着けたんだろう。

 あの二人、超一流の仕事に就いてるのによ…変な所だけ抜けてやがる。


「ふぅ…まさか真射子モデルを取り扱ってるなんて思わなかったぜ、良い買い物をしたな」


 今回買った銃は予定外の高出費だ。

 まさかサバゲ専門店の人が真射子ファンだったとは、驚きだ。

 全部オーダーメイドで自作してるなんてな、予備の金持ってきて置いて正解だった。

 どちらにしろ、目的の物は手に入れたから結果オーライというところか。

 次の問題は夏美の怒りをどう静めるか。

 アイツの事だ…多分明日にでもパフェとか奢らされそうな気がする。

 別にパフェぐらいなら奢ってやれる、だがアイツの場合はそんな生やさしい女子とは違う。

 パフェを一つや二つなんて話じゃない、もの凄くデカいのを頼んだ上で必ず残す。

 しかも制限時間制のばかりを選ぶから質が悪い。

 後は俺に食わせるからな…ハァ。


「家に帰りたくねぇ…いっそのことネカフェにでも泊まろうかな」

「おお!これはなんという偶然!君は先ほど私を助けてくれた少年じゃないか!?」


 聞き覚えのある声、先ほどの女性の声だ。

 てことは、先ほどの人が直ぐ側にいるということか。

 俺が後ろに振り返ると同時に手を握られ、振り回される。


「いやぁ先ほどは本当に助かった!本当にありがとう!」

「い、いえ、当たり前の事をしたまでですが」


 女性はしばらく手を握ったまま振り回した後、突然自己紹介を始めた。


「私は真手場狂子(まてばきょうこ)、君の通う北神斗学園三年のクラスに転校してきたんだ、君の名前を教えてもらっても良いかい?いや、是非とも教えて欲しい!」


 マテバ?なんか凄い名字だな。

 てかこの人三年なのか、ということは俺より歳上か、それより日本人なのか!?

 名前完全に日本語だよな!?

 俺にはどう見ても先輩が高校生には見えない上に、日本人にも見えない、ハーフなのか?

 とりあえずこちらも自己紹介をしないと。


「二年の春咲柘魔です…先輩だったんですね」

「ふむ、そのようだな。ん?その手に持っている袋はもしかして銃か?その袋のメーカーは間違いない、君も銃が好きなのか!?」


 なんで銃に食いついてくるんだよ!?

 よく袋を見ただけで分るな!?

 つか勝手に袋の中身を確認しようとするな!

 袋を奪い返し、俺は少し警戒をした。

 この真手場って女、距離感ねぇ。


「おっとすまない、つい興奮してしまって…つい最近までアメリカで暮らしていたせいでついあっちのノリで」


 何そのアメリカのノリ!?

 俺そんなの聞いた事すらねぇよ!


「そうだ!これからお茶でもしないか?君には迷惑を掛けてばかりだらな、私に奢らせてくれ」

「いえ、それは悪いので遠慮しておきます」


 なんだか、俺の勘がどうも訴えてくる。

 この女はかなりヤバいと。

 関わると、絶対に碌な事にならない。

 考えてみろ、今まで女と関わって良いことなんてなかった。

 現に夏美にどれほど苦労させられてきたか、数え切れない程だ。


「おっ俺帰ります!失礼します!」


 俺は買い物袋と鞄を手に握り閉め、その場を早足で去った。

 気がつけばマンション、自分の部屋の前まで来ていた。

 無我夢中で走ったのだろう、ある意味凄い経験をしたのかもしれない。

 オタク人生の中でも初めての経験だ。



 部屋に新しいフィギュアを飾った後に飲む珈琲、最高だ。

 特にキリマンジャロは好きだからなおさら。

 だが、この幸福の時間はいつも壊されるのがオチ。


「開けなさいよ!タク!帰って来てるんでしょ!?分ってるんだから!」


 …夏美が俺の帰宅に気づいたようだな。

 さっきから扉を叩く音と同時に、インターホンが鳴り響く。

 俺と夏美は同じマンションに住んでいる、これも親達が決めた事なのだが。

 男がいれば夏美も安全だろうと言う事らしいが、正直どうなんだろうな。

 今居る高校に進学した時、俺はこのマンションを選んだ理由は学校が近かったから。

 それと家に居ても両親は殆ど海外に居る、だから家に居ようが何も変らない。

 むしろ広い家に一人で居るより、断然寂しくなくて快適だ。


「やっと開けてくれた。さっさと開けなさいよ」


 怒っている夏美が現れた。

 夏美はブレザーで殴る攻撃を仕掛けて来た。

 俺自身に60のダメージって、ふざけるのもここまでにしよう。

 話を戻すと、俺と彼女は学校こそ違う所に通っているのが救いだろう、なんせ夏美は女子校だからな。

 もしうちの高校に来られたりしたら、考えただけでも恐ろしい事になる。


「どうせいつも見たいに上がっていくんだろ?そんで飯食ってテレビ見て夜中に帰る」

「当たり前でしょ、私の事を騙したんだからもてなすのが礼儀ってものよ!早く私の分のコーヒーを入れて、分ってるだろうけどブルマンにして!砂糖とミルクは多め!」


 ハァ…いつもこうやって俺に珈琲を入れさせる。

 最初の頃は自分で珈琲豆を用意してくれてたのだが、気づけば俺が事前に用意するルールが出来ていた。

 俺はアイツの召使いになった覚えは無いと言うのに。

 ため息をつきながら珈琲を入れていると、本日二人の訪問者がやってきた。

 夏美と違い、インターホンは連打されない。


「ちょっと、こんな時間に誰?まさかまた私に許可なくアニメグッズ注文したの?」


 なんでお前の許可が必要なんだよ?

 再びため息をつきながら、ドアスコープを覗き、扉の外を確認する。

 そこには何故かマテバ先輩がケーキの箱らしき物を片手に立って居た。

 …何故ここを知ってるんだ?

 首から汗がつたい落ちるのが分る。

 会ったのは今日が初めて、それも学校とたまたまアキバで会っただけ。

 それなのにどうして、俺の家を知ってるんだ…それも部屋の場所まで。

 正直俺は恐怖していた。

 この人は一体何がしたいのか?目的は一体なんなのか?


「どうしたの?早く出たら?」


 人が緊張してる間にお前はなんでパソコン弄ってるんだよ。

 お前絶対俺の検索履歴調べる気だろ!?

 再びインターホンが鳴り、夏美の奴が返事をしてしまった。

 これで完全に居留守が使えない。

 俺はドアスコープを覗き込んだ、すると何故か外が真っ暗になっている。

 まさか…手で塞いでるというのか?

 あの先輩は何がしたいんだよ!?


「落ち着け俺…落ち着け…後ろには夏美もいる…きっと大丈夫、大丈夫だ…場合によっては夏美を先に逃がせば」

「さっきから何してるの?すみません、今開けますから」


 俺が呼吸を整えてる間に、このバカは勝手に扉を開きやがった。

 だが同時に腰を抜かす夏美を見て、俺は直ぐに何かおかしいと悟った。

 扉が開き姿を現した先輩、右手にはケーキの箱、左手には銃が握られている。

 まさかドアスコープに、銃口を押しつけていたのか!?

 本当に何がしたいんだよこの人!?


「やっぱり居るんじゃないか、ん?君は一体?」

「じゅじゅじゅ銃!?いやぁぁぁぁ!殺される!助けてー!」


 腰を抜かしながら四つん這いで逃げる夏美。

 俺も少し後ずさりをすると、先輩は堂々と部屋の中へと入ってくる。

 終わった…俺の人生もここまでか。

 いや…まだ抵抗もしてないのに終わってたまるか!

 俺は何の為に体を鍛えてたんだ!

 学校で俺が体を鍛えているのを知っているのは、浩寺だけだ!


「来るなら来い!俺はそう簡単に倒せな」

「これはすまないことをした、安心してくれ、この銃は本物ではなくただのモデルガンだよ」


 へ?モデルガン?


「つい悪ノリが過ぎてしまって、あっちではよく友人に仕掛けていたんだが癖になっているようだ、ハハハ」


 え?てことは、俺の覚悟は意味がないと言う事?

 俺、何の為に死を覚悟したわけ?

 つかなんでこの人、モデルガンなんて持ち歩いてるわけ!?

 全然理解出来ない!俺赤っ恥じゃん!

 つかこの先輩、理解以前に行動自体が意味分らん!


「そうだ!これを渡そうと思ってね、さっきの無礼と御礼のケーキだ」

「なんで…なんで俺の家知ってるんですか!?なんでモデルガンなんて持ち歩いてるんですか!?何でこの時間に来るんですか!?もうすぐ夕飯の時間ですよ!?」


 混乱する頭の中で疑問が沢山溢れ出してくる。

 俺はそれを全て、先輩に向けて叫んでいた。

 驚きの表情を向けてくる先輩、だが直ぐに得意げな顔に変る。

 次の瞬間、更に背筋が凍る事実を聞かされた。


「ああ…君に会おうと思ったのだが学校では先に行ってしまう、だから今日もう一度会ったときに発信器を付けさせて貰った、これのおかげで君が何処にいるのか分ったのさ」


 おい…それって軽く犯罪になるんじゃないのか?

 いや、どうなんだろう…盗聴器は犯罪だが…うーん。

 考えたらそれどころじゃねぇ。


「これって軽くストーカー行為ですよ、分ってますか?」

「確かに、考え方次第ではそう捉える事も出来るか…しかし、男なら広い心を持ち!女の過ちを笑って許せるようにならなくては真の漢とは呼べないのではないか!?」


 何言ってんだこの人…?

 全然会話が成立しない、それでいて何故に部屋に入ってくる?

 どうして俺のベッドに腰掛けてケーキを開け始める?

 夏美に関しては何故、ベッドの下に潜んだ…せめてベランダに行けよ。

 あっやめて、俺の秘蔵本見つけないで。



「君は何が好きか分らなかったから適当に選ばせて貰ったよ…そういえば他にも誰かが居た様な気がしたが、気のせいか?」

「ハァ…夏美、出て来ても問題無いぞ、高校の先輩だ」

「高校の先輩?だって銃持ってたでしょ!?なんでそんな平然としていられるの!?頭おかしいんじゃないの!?」


 頭おかしいとか、そこまで言うか!?

 言われても仕方ないか。


「先輩、銃貸してください」

「構わないぞ、これは私の愛銃マテバ2006Mを私独自モデルに改造したものだ、あまり乱暴にはしないでくれよ」


 先輩…名字と同じくマテバが好きなのか?

 俺は先輩から借りた銃を夏美に見せつける。

 するとびっくりしたのか頭をベッドにぶつけ、悶絶しつつも這い出てくる。

 考えたら最近ベッドの下掃除してなかったな。


「ちゃんと掃除してよ!埃まみれじゃない!」


 人の所為にするんじゃねぇよ。

 お前が勝手に人のベッドの下に潜ったのが悪いんだろうが。


「私部屋に戻ってシャワー浴びてくるから…それからアンタ!先輩だかなんだか知らないけど!タクに変な事しないでよ!」


 夏美は自分の部屋に帰って行った、と言っても直ぐ隣だが。

 これからどうする?

 今、俺は先輩と二人っきりきりだ。

 どうしよう…真面目にどうしたらいいんだ?

 ただのオタクにこの状況は荷が重すぎる。

 まてよ…俺は二次元にしか興味がない。

 だから別にやましい事が起るとは…。


「そういえば君の事をなんと呼べば良いだろうか?」

「柘魔で良いです先輩」


 考えろ、考えるんだ俺。

 先輩が何処に住んでいるのかもしらないのに、それ以上に知り合った日に家に来るなんて普通ないだろ。


「それじゃあ柘魔と呼ばせて貰う。ところで君はジャパンで言うところのオタクと言う物なのか?」

「ですね、俺は二次オタですから」


 先輩は珍しそうに部屋の中を見て回り始めた。

 あまりジロジロと見られたくないが、多分何言っても聞いてくれないと思う。

 自然に帰るのを待つか、追い出すのもなんか気が引ける。

 そうだ!別に話題を振ればいいんじゃないか。

 なんでアメリカに居たのかとかを聞けばいいんだ。


「先輩は何故アメリカに居たんですか?」

「私がアメリカに居た理由を聞きたいのか?ふむ、あれは十年以上前の事だ、私の父は日本人で母がアメリカ人なんだ、それで父の仕事の都合上でアメリカに行くことになってしまったんだ、そして最近父の仕事も安定してきて、会社の方から帰還命令がやっと出て帰ってきたと言う事さ、私は元々生まれはジャパンだしな!」


 なる程、先輩はハーフだったのか。

 そして日本で生まれた、日本がペラペラなのもこれで納得だ。

 てかなんでさっきから日本の事をジャパンに変えるんだよ!?

 普通に日本って言えばいいんじゃねぇのか。


「だけど…私がジャパンに帰ってきた一番の理由は…私が幼い頃に助けてくれた少年がいたんだ…昔の私はか弱かった故に苛められていて…ある日いつものように空き地で苛められているところを助けて貰ったんだ…それから私は、あの少年のように強く鳴りたいと思って…成長しているであろう彼にもう一度会って礼を言いたいと考えてジャパンに帰ってきたんだ」


 なんか漫画やドラマみたいだな。

 昔憧れた男に会いたい、妙に応援したくなる。

 つか小さい頃の先輩か…若干気になる。


「ところでだ柘魔、君に聞きたい事があるのだが」

「なんですか?今日買った銃ならそこの棚に飾ってありますよ」


 俺は暢気に珈琲を入れていた。

 先輩の顔を見ずに、ただただ珈琲を入れていたのだ。

 せっかくケーキを買ってきてくれたのだ、珈琲の一つも出さないのは失礼かと思ったから。

 なのに、先輩の口からは思わぬ言葉が出てきた。


「柘魔…私と付き合わないか?」


 空気が凍りつく。

 カップへと注いでいた珈琲が溢れ、シンクの中へと流れていく音だけが響いていた。

 今…先輩の口から出てきた言葉。

 私と付き合わないかと言う、突然の告白。

 俺の人生では今までこんな事は一度もなかった。

 思わせぶりな事を言って、結局はパシリにされる事がオチだったのに。

 多分、先輩は期待した顔をしていたのだろう。

 なのに、俺の口から出た言葉は。


「……すみません」


 そう、断りの意味を込めた謝罪。

 俺は正直、女性と付き合う気はない。

 興味があるのは二次元だけだ、真射子にしか興味がない!」


「……そうだな!いやぁ突然おかしな事を言い出して済まなかった!ほんのジョークだよアメリカンジョーク!出会ったばかりの女に告白されても困るだろうしな」


 そういうと先輩は立ち上がり、急ぎ足で部屋を後にした。

 ……考え過ぎか。

 あの先輩の事だ、本当にジョークで言ったのかもしれない。

 気になるのは…直ぐに帰ってしまったこと。


「もう少し上手い断り方があったかもしれないな…明日学校休もうかな」


 俺はその日、ベッドの下を掃除して眠る事にした。

 明日、学校で会えたら謝る事にしよう。



 相変わず社会科の時間は退屈だ、段々と眠気が襲ってくる。

 だが…今日はあまり良い日にはなりそうにない。

 昨日俺が先輩と居るのを見た奴が数人いて噂になってる、そして友人二人からも詰め寄られた。


「どういうことだよ!?お前二次元にしか興味がないんじゃなかったのか!?金髪美女と歩いてたって嘘だろ!?」

「おっ落ち着けって、それにはちゃんとした理由があってだな」

「理由だと!?この期に及んでまだ言い訳をする気か!?見苦しいぞ!この裏切り者の浮気者がぁ!」


 その後は二人からポカポカと殴られたが、二人ともどちらかと言うとガリガリだからあまりダメージが入らなかった。

 子どもの頃から体を鍛えて来た俺とアイツ等じゃ、やっぱり差が出るもんなんだな。

 相手の方がダメージを負うんだもんな。

 ……どうやって先輩に謝るか…。


「春咲!俺の授業は退屈か?このノートに書いてあるのは俺に対しての謝罪か何かなのか?」


 やっべ!先生に気づかれた!


「こっこれはですね…すみませんでした…」


 ……駄目だ、なんか今日は上手くいかない。

 友人達には裏切り者扱いされるし、先生には怒られる。

 今日はついてない日なのか?


「なんか元気ねぇな春魔、お前昨日金髪美女と一緒にアキバに居たらしいじゃねぇか、ついに二次嫁に飽きたか?」

「違ぇよバカ、俺は真射子一筋だって知ってるだろ?それにあの人は昨日転校してきた三年の先輩だ、多分三年の教室が騒がしくなってんじゃねのか?」


 驚きの顔で見つめてくる浩寺、だが直ぐに笑い始めた。

 どうやら俺の話を信じてくれるようだ。

 流石に子どもの頃からの付き合い、俺の事も分ってると言う事か。

 さてと、問題は学校中に回っている噂をなんとかする必要がある。

 確かに昨日一緒に居たこと自体は事実だ。

 だが、もしそれが尾ひれがついて話しが回れば…厄介すぎる。


「はっ春咲!お前に三年生のお客さんが来てるぞ!てかあの人噂になってるお前の彼女じゃ!?」

「ハハハッ!お前凄い事になってるじゃねぇか!夏美が知ったらブチ切れ確定だな!」


 他人事だと思いやがって…。

 とりあえず先輩が呼んでいるなら仕方ない、正直に昨日の事を謝罪しよう。

 待て!尾ひれがつくにしては早すぎだろ!?

 なんで彼女になってんだよ!?


「呼びましたか?先輩」

「急に呼び出してすまない、どうしても話がしたくて、今から少し屋上で話さないか?ここだと人目がついてな」


 教室内がざわつき始めた。

 そりゃそうだろう、相手はハーフの金髪美女。

 対して俺は平凡なオタク、釣り合うはずがない。

 女子からの興味津々の視線と男子からの敵意と殺意の眼差しが痛い。

 俺の学校生活、終わったかも。


「ほら行ってこい!先輩、こいつかなりのオタクですけど、悪い奴じゃないんでよろしくお願いします、それから俺はコイツの親友、徳江浩寺って言います、以後お見知りおきを」

「浩寺か、分った覚えておこう、さぁ行くぞ柘魔、早くしないと休み時間がタイムアップしてしまうぞ」


 先輩に連れられ、俺は学校の屋上へと連れて行かれた。

 ずっと先輩は笑顔を作り、屋上に到着しても笑顔を崩す事なく俺の方へ振り返ってきた。

 俺は先輩の笑顔を見た瞬間、ドキッと来てしまった。

 こんな感覚は俺が真射子を初めて見たとき以来か。


「昨日はすまないことをした、いきなり会った日にあんな事を言い出してしまって」

「俺の方こそすみませんでした、もう少し…えっと」


 言葉に詰まってしまった。

 どうしてこんな大事な時に。


「フッ、アハハハハハ!いやぁ、君は見ていて飽きないな。昨日、あの後もう一度考えた…まずは、私と友達になってくれないか?今私が一番信用出来るのは柘魔、君だけだ…昨日は私が話しかけても避けていた者達が群がってきて疲れてたんだ…だから少しでも気軽に話しが出来る相手が欲しいんだ」


 心を許せる友人が居るというのは、とてもいいものだ。

 俺には二人居る、浩寺と夏美だ。

 対して先輩は日本に来たばかり、故に友達と言うのが居ない。


「俺で良いのであれば、喜んで友達になりますよ」

「信じていたよ、君がそう言ってくれる事を!thank you!」


 先輩の声はとても大きく、校庭までまで響いていただろう。

 驚いたのは、やはりアメリカに居たからなのか、ハグをしてきた事だろう。

 俺はこれまで、家族以外の女性からハグなんてされたことがない、これもアメリカスタイルなのだろうか。

 ただ…悪い気もしない。

 ほんのりとシャンプーの香りがする…この感じ…懐かしい。


「先輩…流石に恥ずかしいので離してください」


 なんとか離してもらうが、俺自身が顔が赤い事に気づいた。

 まさか三次元でこんな事が起るなんて。

 落ち着け、落ち着くんだ俺。

 俺は三次元じゃなく二次元を愛してるんだ!

 友人と恋愛は別だ!

 そう…友人は三次元だからこそ叶うが、恋は二次元で十分。


「今日の帰りに何か食べて帰らないか?その後にジャパンのガンショップを巡るんだ、そうだ!ネカフェとか言う所にも行ってみたいな!あとジャパンのゲームセンターにも行きたい!」


 無理無理無理!

 そんな一日で回れない!

 つか放課後にそれ全部行くとか不可能だから!

 ただでさえ学校が終わるのが三時過ぎる、ここから飯食ってのガンショップ巡りなんてしてたら夜になる。


「先輩、一日で回るのは無理なので休みの日とか、日を改めないと」

「……では、今日の予定では帰りに食事をして、ガンショップ巡りにしよう、明日はゲームセンター巡り、次の日はネカフェに滞在だ!」


 駄目だ、この人には何を言っても通用しそうにない。


「決まりだ!クラスルームに戻って体力の温存をするぞ!」


 こうして、俺の平穏は変ってしまうのだった。




浩寺、夏美以外に歳上の友人が出来た柘魔。

彼は放課後に先輩と食事にガンショップ巡りの約束をしたのだが。


今回から書き始めさせていただきます、「俺の周りには変な奴しか集まらない。」

投降頻度が安定しませんが、よろしくお願いします。

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