第十六話 喧しいのは、蝉の鳴き声だけで十分だ。
ついに夏が来た。
そんな柘魔の家では早速来客が一人来ていた。
蝉が鳴き続ける夏。
暑い日差しが窓から差し込み、部屋の温度を上げていく。
俺はこの時期が嫌いだ。
まず暑い、蝉が喧しい、蚊に刺されるの三つが理由だ。
「まって!それズルい!反則反則!死んじゃう!やだ!負ける!」
あと夏と言えば、子どもは外で遊ぶだろう。
なのに姫華は、どうして朝から俺の家に来るんだ?
つかどうやって住所しってきた?
俺一度も教えてないぞ。
最初は蘭華が一緒に来たかと思ったが、いない。
んで、部屋に上がり込んできての、飲み物を要求。
麦茶を出したら、メロンソーダを出せって何様だよ。
まぁそれを言ったら、『お子様だけど何?』って言われたしな。
本当に口の減らないガキだ。
今も退屈だからゲームの相手をさせられてる訳だが、まだ朝の七時半だぞ。
「ああもう!大人げないとは思わないわけ!?子ども相手に何必死になってんの?馬鹿じゃないの?」
「お前の事だ、逆に手を抜いたら抜いたで文句言いそうだからな」
図星かよ、なんだよその苦虫を噛んだような顔。
「あの美人のお姉さんはいないの?」
「姉貴か?お前の隣にあるベッドで寝てる、シーツは捲らないほうが良いぞ、ある意味で夢が壊れる」
今、俺は警告はした。
シーツを捲らないほうが良いと。
これはな、自業自得だぜ。
夢が壊れると言っただろうに。
姉貴は夏になると…布団に水枕を持ち込む癖があるんだよ。
だからいつも全身がびしょ濡れになってる。
前に指摘したが、汗で濡れるのと大して変らないと言われたんだよな。
「だから言ったろ…姉貴は普段から裸で過ごしてるんだよ、昔っからな」
なんで今にも泣きそうな顔してるんだよ。
そこまでしてショックだったのか?
「やっぱり…大人の女性になるには…ワイルドじゃないとダメなのかな」
何をおっしゃっているのか、さっぱりわかりませんがな。
へ?大人の女性になるには、ワイルドじゃないとダメ?
ないない、それはないだろう。
家の姉貴は確かに、裸で寝る所はワイルドかもしれない。
喧嘩も強い、頭も良い、スタイルも抜群とくれば羨ましがるかもしれない。
だけど、ワイルドかと聞かれれば違う気がする。
「別に大人の女性が全員ワイルドってわけじゃないだろ、しっかりと健康的な食生活を送れば問題ないんじゃねぇか?」
「確かに柘魔の言うとおりだ、私の母も子どもっぽいが、全然ワイルドではないぞ、結構家の周りでキャンプをしているが」
また勝手に入ってきたのか。
つか外でキャンプしてるのかよ、結構凄いな。
テントの中で一人泣いてそうなイメージもあるが。
「確か君の名前は…蘭華の妹で…」
「姫華、ひ・め・か!ヒメカ!分った!?」
毎度の事ながら、忘れっぽいな。
いつもの如く、数回も会えば覚えるだろうけど。
そろそろゲームも飽きてきたな、飯もまともに食ってないし。
姫華もどうせ食ってないんだろうな、後で蘭華も来来るだろうし。
今日の気分はフレンチトーストだ。
あと朝食用に買って置いた野菜ジュース、残りは適当でいいか。
朝食は朝食、朝早くから沢山も食えないからな。
「朝食まで作れるの!?どこまでスキル積んでるの!?」
「生きていく為には必要だ、お前の姉さんの朝食から昼食に夕食まで俺が作ってる、教えてくれたのは姉貴だけどよ」
さっきから妙に俺の周りをチョロチョロしてるな。
別に包丁を使ってる訳じゃないから良いが…気が散る。
興味があってうろついてるのか?
あるいは、腹が減ってつまみ食いのタイミングでも狙ってるか。
フレンチトーストで、つまみ食い出来る部分なんて無いがな。
「コイツをかき混ぜてくれないか?俺はフライパンを温めるから」
ちゃんとかき混ぜてくれよ、そいつが俺達の朝食なんだからよ。
つか卵くらいは普通に混ぜれるだろ。
逆に混ぜれなかったら、驚いて窓から飛び出すかもだぞ。
「これくらい出来るから、えっと…あれどこ?あのグルグル回る機械、二個付いててこう超早く回るあれ」
お前は生クリームでも作る気か!?
家にはそんな設備、用意してねぇよ。
とりあえず箸でのやり方を教えてみたが、先が思いやられそうだ。
既に箸の握り方がヤバい。
あと立てて混ぜてるから、手元が超ふらふらしてるぞ。
ダメだ、見てられねぇ!
「箸の持ち方が違う、さっきも教えただろ、箸はこう添えるようにしてかき混ぜる」
「は?へ?え?こう?」
どこをどうやれば、そんなナイフみたいな持ち方が出来るんだ!?
どこぞの軍人だよ!?
その体制で卵を混ぜるな!あっちこっち飛び散ってる!
もったいない!卵が!特売で買ってきた卵達が!
宙を!宙を舞い始める!
まるで無限の彼方へと羽ばたいていくかのように!
「っていい加減に卵を飛ばしてる事に気づけ!お前全身黄色くなってるぞ!?なんだ!?パン粉でも着けてカラッと油で揚げられるつもりか!?」
「油で揚げられるって意味分かんない、料理したことないから仕方が無いじゃん」
お前のは初心者の粋を超えてるんだよ。
あの夏美ですらもう少しマシなレベルだぞ。
予想より壊滅的って、ある意味天才的レベルじゃないか?
「とりあえず、今度から俺と姉貴がお前に料理をしっかりと仕込んでやる、料理が出来ると出来ないでは大分違うからな」
夏美と同時に教えれば良い、アイツは卵焼きすら焦がすからな。
あの姉貴ですら戸惑う程だ。
初めて見た時は驚いたな、目を離した隙に真っ黒焦げにしてんだからよ。
火事かと勘違いするほどの煙、酷い臭い。
今でもしっかりと覚えてる。
実際に消化器を持って走り回ったからな。
「何ニヤニヤしてんの?マジキモい」
「悪い、昔の事を思い出してよ…手作り弁当とかって、男からしたらかなり評価高いぞ」
「確かに柘魔の言うとおりかもしれないな、それにいつも私達が料理を食べてる所を見てる柘魔は、とても嬉しそうだ…私も料理を作るぞ!」
いきなり何を言い出すかと思えば、狂子も料理を作るか。
そうきたか…良いだろう。
料理を教えてやるとしよう。
といっても、フレンチトーストの続きだが。
二人に教えるといっても、狂子ならまだ問題ないだろ。
「さぁ、何を仕留めに行くのか教えてくれ!」
フレンチトーストから…何故に狩りへと発展する!?
?フレンチトーストにイノシシでも添えるのか!?
まず食材の調達から始まるのか!?
待て、落ち着け俺。
何もいきなり否定をしてはいけない。
彼女はそう、天然なのだ。
だから間違った知識を持っている可能性が高い。
今までだってそういうことが多かった。
だから今回もきっと、間違った知識でそう言っているに違いない。
「朝食は一日で一番大切な食事だ、では狩りに出かけ」
「ちょっと待った。俺が今まで朝食を作って来たが、狩りに出かけた事があったか?」
悩むなぁ!俺は今までどうやってあの短時間で狩ってきたんだ!?
普通に考えてあり得ないだろ!人間技じゃねぇよ!
朝にそこまで余裕があれば、もっと朝食は豪勢になってるわ!
あと姫華もなんで悩んでる!?悩む理由がなくないか!?
これはもう既に天然を超えてるのではないだろうか。
「材料はいつも冷蔵庫に入れてあるだろ…ちゃんと昨日のうちに買ってあるんだよ」
「そうだったのか…私の家では、母がよく狩りをして持ち帰ってくる事が多くて、なる程、柘魔は野生では狩らないのか」
あの人、結構凄い事してるんだな。
ただの子どもっぽい人かと思ってたが、狩りまでするのかよ。
「狩りをしないのなら、何を使って料理をつくるんだ?」
見て分るだろ。
つかさっきから話をしていただろ、フレンチトーストだよ。
どうみてもフレンチトーストを、作ってる最中だろ。
百歩譲って、スクランブルエッグとトーストなら分る。
だがこれはどうみても料理の途中で、完全に話を聞いてただろ。
なんだその右手に握られた卵。
あと左手には牛乳、完全に話聞いてただろ!
しかも超目が光ってるぞ!何!?そんなに料理がしたかったの!?
そこまでして料理がしてみたかったの!?
別にいいさ、料理くらいはいくらでも教えてやるが。
その眼差しをやめてくれ…ピュア過ぎて、どう反応すれば良いのか困る。
「それじゃあ…始めるとしようか、朝食作りを」
料理を作るのに…どうしてここまで体力を使わないといけないんだ。
朝食も終わり、ぞくぞくと俺の部屋にいつものメンバーが集まり始めていた頃。
それは、突如として起こり始めた。
「三人の子どもの頃の写真が見たいっす!」
由実の口から放たれた言葉、俺と姉貴と夏美の写真が見たいということらしいが。
写真は全て、実家にあるんですが。
つかどうして突然写真が見たいとか言い出すんだよ。
絶対に何か企んでやがるな。
あと蘭華と姫華の喧嘩を止めろ、何時間も睨み合いを続けてるんだぞ。
「いきなりどうしたってんだよ、何故俺達の写真が見たいんだ?理由を十文字以内で答えてみろ」
「興味っす!」
とても元気なお返事ですねって、違うわ!
なんだよ興味って!?まぁ普通だけどね!
だが俺達の写真なんてみても、面白いものなんて一切ないぞ。
「私達の写真は別に見てもいいけど、実家に置いてるから取りに行かないといけないわよ?」
「私は気にしないっすよ、むしろ先輩達の家に行く価値はあるはずっす!」
「行きたいです!先輩のお部屋を堪能したいです!先輩のベッドで先輩と色んな事がしたいです!」
蘭華を部屋に連れて行きたくねぇ。
真面目な話、何かされそうだ。
彼女の事だから、何かする事は間違いない。
既に犯罪予告をしているようなものだ、姉貴に技を掛けられてるんだからな。
あと三十秒ほどたったら、止めるとしよう。
ここで未だに、由実の写真を見たがる理由に納得していない自分がいる。
コイツは何か企んでる、きっとそうだ。
とそんな事をずっと考えて、彼女を警戒している間にも。
「広いです!先輩の部屋が私の部屋と同じくらいあります!」
「うわぁ…ガチでオタク部屋じゃん…キモい、てか不潔、変なウィルスとかいないよね?」
「やっぱり金持ちじゃないっすか!なんでこんな立派な家を出たっすか?あの部屋より断然過ごし易そうっすけど」
どう考えても、学校から遠いだろ。
電車を三本も乗り継ぐんだぞ、効率が悪すぎる。
それに比べてあの部屋は、普通に歩いて登校が出来るから断然楽だ。
あとアキバも近いから、今までよりグッズも買いやすい。
「学校が遠いからだよ、ここまで来るのにどれくらい掛かったのか忘れたのか?確かにデカい家だが、一人で管理するのも大変なんだよ」
「私も仕事で海外に居たから、それに夏美ちゃんも一人にするわけにいかないしねぇ」
そう、夏美を一人にするのは危険だ。
食事も作れなければ、色々と問題を起こすから。
両家の親がそれを知ってる、だから幼馴染みの俺が任せられた。
最初は相当荒れてたが、今ほどじゃない。
両親が居ないストレスに対しては、俺と浩寺が対応してきた。
だからこそ、今の状況が安定してると言える。
「これが先輩達っすか、小さい頃の二人は結構そっくりっすね」
「そう?私は小さい頃から二人見てるけど、そんな似てると思えないんだけど」
確かに、今に飾られてる写真は若干に似てるかもしれない。
俺がまだ赤ん坊で、姉貴がまだ園児の頃の写真だ。
つか蘭華の奴がいない…まさか俺の部屋に残ってるのか?
あと狂子もいない…二人して、俺の部屋に入り浸ってるとかか?
蘭華がとどまる理由は想像出来るが、狂子がとどまる理由は…一つあったな。
俺の部屋にはエアガンが何丁か置いてある。
あとプラモデルも数十体は置いてる、多分それを眺めてるか。
狂子なら銃をきっと眺めているはず、問題は蘭華だけ。
アイツを放って置くと、何をしでかされるか。
「ず、ずるいぞ、私にも柘魔のベッドで寝る権利はあるはずだ」
「ここはもう私の陣地です、あと銃を沢山持ち込まれるとスペースが無くなります!」
俺は目を疑うしかなかった。
どうして二人して、下着姿なんだ。
特に蘭華!俺のパンツをどうして大事そうに握ってる!?
あと人のワイシャツとかを着るな!中学のヤツだぞそれ!
今でも一応着れるから、家にとって置いたけどよ。
狂子もだ!どうして下着姿なんだ!?
状況的に意味が分らなすぎるぞ!あと俺のカスタムした銃を持ちすぎだ!
それとなんか窓の外に居るんですけど!
人の部屋のベランダから…ベランダから見覚えのある顔が覗いているんですけど!?
息を吐きかけて窓を曇らせた挙げ句、そこで文字を書く行為にまで及んでるんですけど!
「素晴らしいじゃないか柘魔!まさか君にこんな才能があるとは思わなかったぞ!?美しい程にカスタマイズされた銃達、どれも綺麗に塗装も施されている」
銃は良いから窓を見ろ!
キレてます!滅茶苦茶キレております!
今にも窓を叩きわりそうな勢いなんですが!
警察!?警察を呼べば良いのか!?
窓割られてから、あの生徒会長が関わってきそうで嫌だ。
ここは一番何が正解なんだ、銃を構えて対応するか?
あるいはこの家から飛び出して、注意を引くとか。
ダメだ…既に何か行動を始めてる。
…戻って行く?
つか家隣かよ!?初めて知ったぞ!?
「ふ…二人は、服を着て下に…俺は少しここで、用事があるんで」
「どうしたんだ?顔が酷く青ざめてるぞ?どこか体調でも悪いのではないか?」
今は体調が悪いんじゃなくて、状況が悪いんだよ!
来たぁぁぁ!なんかスク水姿で来たぁぁぁ!
背が小さいのも加わって、全然小学生にしか見えない不思議!
あと手にハンマーとガムテープ持ってる!完全に犯罪者じゃねぇか!?
割る気だ、完全に窓を割る気でいる。
あとなんでスク水!?五年三組とか書いてあるぞ!?
「見てください先輩!私、先輩の為に…やっぱり恥ずかしいです!」
俺を見ないで窓を見ろ!
お前、今完全に狙われてるぞ!
相手が鬼みたいな顔してる!ブチ切れムッカムカ状態だ!
「窓だ…窓を見てみろ…」
「窓がどうかし…変態です!窓の外に変態がいます!」
「変態だと!?ここは私に任せて二人は下に行くんだ!私はこのトンプソンで迎え撃つ!」
アカン!そのトンプソンは勘弁して!
俺が一生懸命に塗装した自信作なんだよ!
木製グリップを赤色に変えた上に!彫刻刀でデザインまで彫ってるのに!
制作だけで三ヶ月以上は欠けたんだぞ!
それに殆どサバゲ用に作ってない!せいぜい鑑賞が良いところだ!
あと普通に人へ銃を向けるなぁ!注意書きに書いてあるだろ!
だが相手も凶器を所持している、つまりは正当防衛になるのではないだろうか。
「入って来ます!窓を割って入ってきます!先輩怖いです!」
「今この状況でしがみつくな!相手を余計に煽るだけだ!あと普通に窓を割って侵入してくるな!これ器物破損だぞ!?」
チクショウ!何故窓を割られないといけないんだ。
「そうだぞ!人の家の窓を割るなど、人としてしてはいけない行為だ!」
アンタも前にやったけどな!
人の部屋に侵入した上で、ベッドに裸で潜り込んできたからな!
ちゃっかり自分のやった事を忘れてるな!いつもの事だけどよ!
てか相手も相手だ!ハンマーを持ちながらこっちに来るなって!
「ハイドは私のものだぁ!今すぐ離れろぉ!」
やめろぉ!ハンマーを振り回すなぁ!
俺のコレクションに当たるだろうが!
「落ち着け、頼むから落ち着いてくれ、目的はどうせ俺だろ?そんな物騒な物はとりあえず下ろして、ゆっくりと話し会おう」
そうそう、ゆっくりと武器を下ろせ。
危ない物は全て下ろして、手をゆっくりと上げ…水着は脱がなくて良いんだよ!
どうして変な所で躓く!?
誰も水着を脱げなんて言って無いぞ!俺は武器を下ろせとしか言ってない。
てかこの状況を誰かに見られでもしたら、とんでもない勘違いをされる。
絶対にそれだけは避けないと、とりあえず二人に服を着せて。
いやまて、大体はここで誰か来る場合が多い。
そして勘違いをされてしまう。
ならば、勘違いされる前に別の手段を取るしかない。
「見てください!この先輩、マリ○ン・マ○ソンにそっくりですよ!こっちはロブ・ゾ○ビの恰好してます!」
何人のアルバムを勝手に見てるんだよ!?
しかもそれ俺の黒歴史じゃねぇか!?
どっから見つけ出してきた!?押し入れの奥に封印しといたはずだぞ!
まさか引っ張り出してきたのか!?
「これは…○レディに、マ○ケル、どれも再現度が高い…こっちはデッド○ールとデス○トローク!?それにロボまで、ハイドは結構マニアック」
「おお!これはターミ○ーターか!?こっちはラ○ボーだと!?君はどこまで私を喜ばせれば気が済むんだ!?今度はゴッド○ァーザーか!?」
皆詳しいな!?どうしてそこまで詳しいんだよ!?
つか死にたくなってきた。
頼むからやめてくれ、若気の至りなんだよ。
今こうして思い返すと、相当恥ずかしいんだ。
ある意味中二病を発動してたんだよ。
毎月の小遣いを結構それに使ったんだよ、頼むからやめてくれよ。
地味にダメージがデカいんだよそれ。
それと写真を抜き取るのもやめてくれ!
もういいや!持ってけ!好きなの持ってけ!
「ハイドコレクションが増えた、そしてここがハイドの家、ついに見つけた…あの裏切り者めぇ!私を差し置いてハイドの家に行くなんて!」
裏切り者って…多分小百合の事を言ってるんだろうな。
弁当の交換した時にも言っていたような、最近敵視されてるって。
やはりこういうことだったか。
「やっぱり私とハイドは運命で結ばれてるある、このプラモデルもそう、特撮のグッズもあるところが一緒、アメコミ関連も一緒」
「違います!先輩は私と結ばれてるんです!見てください!あのバフォメットの像を!それにベッドは魔方陣が描かれてるんですよ!」
そりゃ真射子関連だからな。
真射子の持つ銃は大体が悪魔も関係している事が多い、だからこそ悪魔関連を集めてしまった。
バフォメットだってそうだ、真射子の使い魔的存在なんだよ。
「…ハイドがあのアニメが好きなのは知ってる、私も同じくあの作品の大ファンだから!衣装だって私サイズに自作したのを揃えている!」
スゲぇ!真射子の衣装を自作とかスゲぇ!
ただでさえファンの間でも再現が難しいのに、それを作ったのか。
「この水着もそう、私のお手製、もちろんハイドの為に!今ではない旧スク水にしてみた!下をずらす事でそのまま」
「はいストップ!それ以上はNGだ!あとアンタには聞きたい事が沢山ある、まずは一緒に下に来てもらう」
とりあえず、連行に成功か。
このマコトとか言う女、本当に恐ろしい。
下手すりゃ、蘭華の行動が全然可愛く思えてくる程にだ。
ハンマーを持ち出してくるわ、スク水で侵入して来るわで。
本当にとんでもない女だ。
目的の為には手段を選ばない、映画だけの世界で止めてくれよ。
「窓を割って侵入してきたわけねぇ…後でしっかりと弁償してもらうわよ、でも隣の家は確か、老夫婦しか住んでいなかったはずだけど」
「隣の家は私の祖父母の家、今日はたまたま来たらハイドを見つけた」
頬を染めながらもじもじするな!反応に困るだろうが!
あと水着をずらすな!目のやり場に困るんだよ!
てかかりんとうをどこにしまってるんだよ!?
普通水着の中に入れとかないだろ!
それもとんでもない所に入れやがって、食べる気失せるわ!
見てみろ!皆引いてるぞ!
「大丈夫、今日買ったばかりだから」
「そういう問題じゃないの、衛生面を考えなさい、なんで水着の中に入れてくるの?そんな事されたら食欲が無くなるのも当たり前よ」
あ…姉貴のアイアンクローだ…。
しかも俺とかにふざけてやるレベルじゃなくて、ガチの方の技。
『悪魔の死爪』、俺でも受けたくない必殺技。
姉貴が一番得意とする技で、大抵の敵はアレで仕留めてきたらしい。
下手をすれば、相手の頭をかち割れる程の力があるかもしれないな。
考えただけでも恐ろしい。
「と、止めた方がいいんじゃないの?あのままだと殺されるかもしれないよ」
「問題はないだろ、姉貴は喧嘩のプロだ、加減するくらいはお手の物だ」
「でもかなりヤバそうっすよ、富閖野先輩の顔が青くなってるっすよ」
…そろそろ、止めないとマズイか。
窓を割られた事に怒り過ぎてる。
そのせいで、力加減が狂ってるな。
このまま放置したら、本当にかち割るかもしれない。
「やり過ぎだ姉貴、それ以上やると部屋がシャイ○ングのエレベーターみたいになるぞ」
「…分ったわ、今日はこれくらいで勘弁してあげるけど、次窓を割ったりしたら、ストマックにも同時に喰らわせるわよ」
胃にあのクローだと…殺人級の行為だな。
ただえさえあの技は、恐ろしい技だというのに。
下手をすれば、内蔵破裂を引き起こす可能性だってある。
もし俺だったら、耐えられなくて発狂するだろうな。
あの言葉は例え脅しだとしても、聞きたくはない言葉だ。
それにしても、夏に突入しても早くないか…水着を着るのって。
まだ始まったばかりだぞ、六月だってのに。
蝉もやっと鳴き始めて、五月蠅くなってきた頃だってのによ。
そろそろプールや、海に行くのにももってこいか。
夏休みまで、まだまだだけどな。
どうせ夏美が海に行きたいと騒ぐんだろうし…アイツが一番元気な時期だしな。
この時期が一番喧しくて、騒ぎまくるんだよ。
「ところで私達は、何故柘魔の家に来たのか思い出せないのだが、誰か覚えていないか?」
写真を眺めながら言うのやめてくれません、恥ずかしいから。
「あ!それタクがコスプレしてた時の写真!探してたのにタクが隠して見つからなかったんだよね!懐かしい!」
やめてくれ!恥ずかしい事をするな!
あとなんでお前がその写真を探してる!?お前に見せた記憶なんてないぞ!
それと姉貴も笑いながら眺めるな!アンタも同じ事をしてただろ!
狂子の言った通り、由実は一体何が目的で来たんだよ!?
「ああ、私が欲しかったのはこれっす、秋恵さんの写ってるこの雑誌」
由実の手に握られていたのは、ファッション雑誌。
結構古いヤツだが…姉貴なんて乗ってたか?
ただ俺が忘れてるだけか、あるいは知らないだけか。
見たところ綺麗に保管されていたようだが、明らかに古い。
まぁ両親の事だ、姉貴が写ればなんでも取ってるんだろうな。
昔から、そうだったからな。
出来の良い姉と、出来の悪い弟じゃそうだ。
二人共、世間体を気にした上で、優秀な方を優先してきた。
写真だって、殆どが姉貴がメインの写真ばかり。
俺が写り込んでいるのは、姉貴が一緒に撮ると言ったものだけだ。
「ここっす!このファッション誌の写真で、秋恵さんが小学生モデルとして出てるんっすよ!うちの部で参考資料で何か持ってこいと言われてて困っていたところ、家の一番上の兄が知り合いで、しかもこの情報を教えてくれたんっすよ!」
あの人か、名前忘れたけど。
前に由実の家に行ったときに、風呂を借りた時に乱入してきたが、見た事あると思ってたんだが。
まさか姉貴の知り合いだったか。
だから見覚えがあったのか。
全然覚えてないが、小学生の時の知り合いか何かか?
「私の知り合い?名前はなんて言うの?」
「名前っすか?…あれ?家で兄しか呼んでないから…下の名前、知らないっす」
兄の名前くらい覚えとけよ。
「とりあえずお借りするっす、これが一番の目的だったっすから」
今日もまた災難だな、窓を割られる。
更に隠しておいた黒歴史まで見つけ出された、挙げ句に持っていかれるんだもんな。
もう見つかったから別に良いけどよ。
だが妙に引っかかるんだよな、由実がこれだけで引き下がるのか?
何かを隠している気がするが、いきなり疑うのも悪いしな。
普通に部活で必要な物を手に入れようとしただけかもしれない。
「由実、なんで先輩達の写真持ってるんですか?ズルいです!私にも同じの下さい!むしろ私と先輩とのツーショットを撮ってください!」
「…見せてみろ」
蘭華から写真を受け取り、確認をすると、俺は絶句した。
俺の部屋で起っていた事が、一部始終撮影されている写真の数々。
それも全て、タイミングが勘違いされるような物ばかり。
本当にプロのカメラマンじゃないかと思える。
コイツ、なんて所をカメラに納めてるんだよ。
怒りに震える俺の手は、由実の頭を見事に捉えた。
「テメェ…信じた俺が馬鹿みたいじゃねぇか…覚悟は出来てるんだろうな?お?」
「いだだだだだっ!マジ勘弁!マジ勘弁してほしいっす!てか信じたってなんすっか!?私は何も言って無いっすよ!」
問答無用だ…きっちりと締めさせて貰う。
あと…もう一人もだ。
「痛い!でもこれこそハイド!この凶暴性がまた良い!」
知ってるぞ、俺の部屋から写真以外にも持ち出してるの。
特に俺の衣服を水着の中に隠してるだろ。
蘭華がふざけていた衣服が一部足りない、そう思ってたら膨らんでるんだよ。
水着の腰の辺りが。
せいぜい持ち出したとして、使ってないパンツ辺りか?
「確かに持ち出した…でもこれも愛の為に!」
俺はそのまま、富閖野マコトを投げ飛ばした。
しっかりと加減はしていたさ、ソファに放り投げる程度で止めた。
問題は由実の写真を処分すること。
もしかしたら編集で、ヤバい風に加工される可能性があるからな。
まずは、話をするとしよう。
青ざめてもダメだ、これは見逃すわけにはいかない。
「誰か助けて!殺されるっす!」
「大丈夫よ、殺されそうになったら一応は助けてあげる」
よし、許しが出た。
話合い、開始だな。
実家にてマコトの襲撃を受けた柘魔達。
マコトの攻撃は防げたものの、黒歴史は見つかるで災難な柘魔。
そんな中で次回、狂子と柘魔の仲が急接近する!?