第十五話 自分の目的の為に甘えてくるな、正直ウザい。
姫華と共にファミレスで食事をする柘魔。
何故二人が一緒に食事を取るのか?
その理由は一体。
なんでだ…どうしてこうなった。
とりあえず珈琲を一口…落ち着け俺。
「それでうちのクラスの男子が、私が綺麗になった途端にまたチヤホヤし出して、ホントマジでウザいったらないんだから!」
どうして俺は、モールの喫茶店で姫華と一緒に食事してるんだ。
まぁ元々は、無理矢理連れてこられたんだがな。
生徒会長達から逃げるために、こっそり帰ろうとしたら掴まった。
挙げ句に無視しようとしたら、わざわざ泣き真似までして気まずい雰囲気まで持っていくし。
とんでもないヤツだ。
「パフェ食うのか喋るのかどっちかにしろよ、つか何故に俺なんだ?浩寺のヤツで良いだろ?お前アイツに懐いていただろ?」
「だってメールしたら、今日は部活で忙しいから無理だって、それにアンタが沢山お金持ってるからって言ってたもん」
ようは俺に奢らせる為に連れてきたってわけか。
「んで話戻すけど、クラスの男子がウザったいから無視したわけ、そしたら今度は調子こいてるとか言われるんだよ、ホント意味分かんない、マジあり得ない」
歳上を財布にする、お前の思考回路の方が断然意味がわかんねぇよ。
何?俺はお前の執事か何かか?
俺はお前の保護者ですか?
「女子からも影口叩かれるし…あ、次これ食べたい!この超特大スペシャル・ヘル・オブ・ザ・デビルパフェ!これに挑戦したい!」
なんだよヘル・オブ・ザ・デビルパフェって!?
日本語にしたら…ただの地獄の悪魔じゃねぇか!
しかも写真がシルエットだけとか、舐めてんのか!?
あと値段おかしいだろ!?1万と666円って!?
微妙な数字とか出すなよ!
あと許可なく勝手に注文をするな!まだ説明を読んでる途中だろうが!
「このヘル・オブ・ザ・デビルって何?どういう意味?デビルまでは分るけど…どうでもいっか、早く来ないかな」
俺は見逃さなかったぞ、店員の顔が引きつっていたのを。
明らかにヤバいパフェだってのが理解出来た。
そりゃさっきまで巨大パフェを食ってた子どもが、ヤバそうなのを注文したら困惑するだろうな。
あと、俺と居るのを何も疑問に思わないのか?
「あ、来た来た、超美味しそう!でもなんかグロくない?」
冗談だろ?なんだよこの馬鹿デカいパフェ!?
ヘル・オブ・ザ・デビルの意味が分った気がするぜ。
地獄の部分は、多分ストロベリーシロップで血とマグマを再現。
翼の形をしたクッキーに、ツメと角の形をしたチョコレート。
まさにデビルと言える造形、これは芸術とも言える。
もしこの場に蘭華が居れば、嬉しさのあまり発狂していたかもな。
「なにこれ格好良すぎ!どうしよう、食べるのもったいない!」
「それでは制限時間20分以内に食べきってください、出来ない場合は、1万666円のお支払いをお願いします、その代り、食べきった場合は1万円を差し引いた金額になります」
なる程、制限時間付きのパフェか。
だから値段が微妙なのか。
これで納得が行くって物だな、理解した。
よく考えてあるな。
あと…コイツの反応が蘭華に似てやがる。
「何ニヤついてんの?キモいからやめてくんない?」
「悪いな、お前の姉に少し似てたからつい」
おお…一気に不機嫌顔に早変わりか?
人にパフェ奢らせておいて、その態度はあり得ないと思うけどな。
まるで小さい夏美を相手してる気分だ。
「悪かった悪かった、早いところそいつを片付けてくれ、ただでさえグラタンにパフェと来ての特大パフェだ、俺の財布は魔法の泉じゃないからな」
意味が理解出来ないから、パフェに集中してるのか。
あるいはパフェが、美味すぎるからか。
にしても、随分と美味そうに食べるな。
時間的にはまだ5分ってところだが、早くも半分まで食ってる。
このペースなら、1万円安くなりそうだな。
こうして無邪気にしてれば、まだ可愛げがあるんだが。
「お腹いっぱい!満足満足!じゃあ本題に入るけど、あの浩寺って人、どんな人が好みかな?ズバリ聞いちゃうけど、年下とかタイプ?」
正直言うと、浩寺にとってはドストライクだ。
告白でもされれば喜んでOKを出すだろう。
だけどな…絶対にダメだ。
もしそうなれば、アイツは犯罪者になる。
そこは親友なりの親切心、止めてやらなければいけない。
大切な友を犯罪者にするわけにはいかないからな。
「なに?お前もしかして…アイツに惚れた?」
「ほ、惚れてないし!ただどうなのかって気になっただけだし!」
やっべぇ面白ぇ、超焦ってやがる。
とんでもない相手に惚れたもんだな、お前。
「俺は色恋沙汰には疎いんだ、だから力にはなれない…ところで、ちゃんとその巨大パフェの代金は自分の小遣いから出せるんだろうな?」
さて、どう出るか?
面白い答えを期待してるぜ。
反応とかが蘭華とかと違う、それが特に面白い。
ただのクソガキと思って居たが、案外違うのかもしれない。
蘭華とコイツの家庭環境からして、ある意味は被害者なのかもしれないな。
お互いに格差を付けられて育てられた姉妹。
故に、いつも優位に立たされた妹が増長したって事か。
妹は常に姉を見下す対象にした、両親が常に守っていたからだ。
だが現在は、その守ってくれる二人は居ない。
本当に重罪な親達だ。
「…もちろん、可愛い妹の為に出してくれるよね?お兄ちゃん❤」
…は?
「お前さぁ、舐めてんの?もう少し面白い答えを期待してたんだがな」
なんで通じないの的な顔をするな。
俺と浩寺を一緒にするな。
誰にでも通用すると思ったら、大間違いだ。
この世の全ての男が…この世の全ての男が!
妹萌えだと思うなよ!愚か者めがァ!
まぁ、どうせ小遣いないから出してやるんだけどさ。
「次からはこういうことはするなよ、今回だけはちゃんと奢ってやる」
よくよく考えると、兄妹という状況じゃなければ危ないな。
血の繋がりのない小学生と高校生が一緒に食事、おかしな話だ。
全くもって、おかしな話。
他から見れば、違和感しかない光景だ。
「ねぇねぇ!次ゲームセンターに行きたい!」
「…子どもらしい面が出てきたな、よし、ついでだ、俺もゲーセンに欲しい景品が入荷してる頃だ、ここまで来たついでに取りに行くか」
財布にもまだ余裕はある。
ただ、何故俺がここまで気まぐれが発動したのかが気になる。
ただ単に俺の神経が麻痺しているか、ロリに目覚めたか。
前者だな、後者はありえない。
普段から色々と振り回されてる。
振り回される事にはなれてるんだが、いつもと違う。
子ども相手だからか、とても気楽だ。
「これ取れない!なんで!?絶対におかしいってば!もう500円も入れてるんだよ!?小学生の500円は相当高いんだから!」
ふむ…取れないのも当たり前だ。
まず、アームがかなり弱い。
動いただけでアームが揺れるって、相当ユルユルだぞ。
しかも一番奥のを狙ってる、タグを狙うか何かしても…相当金が掛かるな。
「お兄ちゃん❤可愛い妹の為に、ぬいぐるみ取って❤」
正直…ウザったく思えてきた。
妙に猫なで声で言ってくるのが、スゲぇウゼぇ。
「どうしたの?早く取って、早く取って、じゃないと泣いちゃうよ?」
「頼むから普段通りにしてくれ…調子が狂う、とりあえず猫なで声だけでも本気でやめてくれ」
だからなんで驚きの顔をするんだ!?
もう驚きを通り超して半分絶望的な顔をしてるぞ!?
なんでコイツには通用しないの?って感じはどこから出せるんだ!?
お前もう子役で売れるぞ!?デビューしちまえ!
「分った、じゃあ早く取ってよね、お兄ちゃん」
結局その呼び方は変らないのか。
せめて兄貴とかに収まらないか?
真面目になれてないから、マジ勘弁してください。
「え?なんでちょっとしか動かさないの!?それじゃあ取れないじゃん!?下手くそ!ってあれ?なんで動いてるわけ!?」
「アームで本体を持ち上げようとするからだ、この景品なら、入り口付近にあるヤツの腕に引っかければずらせる」
可愛げのないぬいぐるみだな。
なんだよ…ブルブル男爵48世って。
お前どんだけ家系居るんだよ!?
そりゃ犬だからな!5匹や6匹産まれる事はあるわな!
なんか虚しくなってきた。
俺何してるんだろ…たかがぬいぎるみに対して。
「まだ取ってくれるわけ?」
「違う、次は蘭華の分だ。あとでゴチャゴチャ喚かれるより断然良い、これはお前の為でもあって俺の為でもある」
そう、これは防衛手段である。
あくまで防衛だ、好感度アップを狙ってるわけじゃない。
「でもなんか迫っていくかもよ、あの女は単純馬鹿だから」
ごもっともな、ご意見でございます。
「…お前さぁ、幾らなんでも酷すぎねぇか?たった一人の姉さんだろ?それをあの女とか言うか?」
「アンタには分らないよ…私の家庭環境なんて」
こりゃかなり苦戦を強いられそうだ。
姉妹仲を持つとかというより、コイツの性格をねじ曲げないとな。
はてさて、どうしたものか。
変な所は似た物姉妹ってところか。
いや、とんでも姉妹の間違いだ。
一番似てると聞かれたら、俺はこう答えるだろうな。
笑った顔が、姉妹そっくりだって。
瓜二つの笑顔だって。
俺は予想はしていたさ、無論な。
こうなる事はしっかりと、予想出来ていた。
すまん…嘘だ、予想の斜め上だ。
俺があくまで予想をしていたのは…蘭華が喜んで受け取ったあとの対応。
いつものパターンになるのだろうと、思っていたんだ。
「離して!これは私が欲しくて取って貰ったんだから!」
「絶対に譲りません!先輩が最初にとったのものは全て!私の物になるって悪魔聖書にも掻いてあります!」
高校生が小学生の妹から物を取り上げるな!
「おい蘭華、いい加減にしと」
「なんで私を誘わないのよ!?タクがロリコンだったなんて信じられない!」
「なかなか先輩もやるっすね。蘭華の妹の琉美李ちゃんまで引き入れるなんて」
「その名前で呼ばないで!」
超絶にややこしい状況だ。
夏美には揺さぶられるし、蘭華と姫華はぬいぐるみの取り合い。
最後は由実が写真をとって、よからぬ事を考えていやがる。
なんだか一気に疲れてきた。
つか狂子は何処行った?さっきまで一緒に居たはずなのに。
「全員落ち着け!蘭華は妹から取り上げるな!夏美は揺するのをやめろ!あと由実、そのカメラ後で寄越せ!データを削除してやる!」
「ダメっすよ!せっかく面白い写真が撮れたんっすから!」
部屋の中は、俺と由実の声しか聞こえなくなっていた。
怒鳴られれば、驚いて固まるだろう。
別に良い、静かにさえなればな。
だが…夏美と姫華はどうして涙目になる?
何?俺そんなに怖かったの?
そんなに恐ろしい顔してた?
「た…タクが本気で怒った…タクが、タクが本気で…」
な、夏美!?どうしてそこまで号泣する!?
お前、いつもなら逆ギレとかするだろ?
調子が悪いのか?何か変な物でも食べたか?
頼むから泣き止んでくれ、お願いだからよ。
このままだと俺が悪者みたいだろ?泣かしたの俺だけど。
夏美が泣いたときは、何か望みを叶えてやるのが得策だ。
「夏美、何か欲しい物とかあるか?聞いてやるぞ?なんだ?また夕飯で食べたい物とかあるか?」
「…私もゲームセンターに行きたい…あとぬいぐるみが沢山欲しい」
…夏美は嘘泣きを覚えた。
めんどくさい行動覚えやがって!お前と姫華の方がそっくりじゃねぇか!?
なんだよその嘘泣きスキル!?女優でも目指してるってか!?
別に女優目指すなら目指せば良いが、俺を実験台にするなよ!?
「いえーい!成功!タクを見事に騙せたー!」
「私のスキルのおかげね!私が教えたんだから、後で何か美味しいもの食べさせてね!」
この二人、結構気が合うみたいだな。
って気が合うとかじゃねぇ!まさかまたゲーセンに行く気か!?
俺今日だけで結構使ってるんだが、狂子に集る気じゃねぇよな!?
地道に返してるんだぞ!?俺が!
夏美は自分の小遣いから出させるとして、蘭華はなんとかバイトさせないとダメかもな。
アイツ自身も自立させないと、この先苦労しそうだ。
「今ゲームセンターと言ったのか?是非私も着いて行くとしよう、柘魔に前に取って貰ってからもう一度行きたいと思っていたんだ」
狂子よ…せめて服を着てから出てきてくれ。
小学生がいる上に、ここは今蘭華が使用してる部屋なんだぞ?
せめてタオルくらい巻いてきたらどうだ?
水が垂れまくってるぞ。
まるで汗流した運動後みたいだぞ。
「なー!なー!なー!なんで裸!?意味が分かんない!変態!?変態に決まってる!普通男の人が居る前で裸にならない!露出狂!」
最近こういう事になれすぎていたが、これが正常な反応だよな。
「これが普段の私だが、おかしいのか?何か聞き慣れない言葉も言われたが」
「狂子、とりあえずタオルを身に付けよう、それかしっかりと体を拭いてから服を着る、風邪を引いたらゲーセンに行けないからな」
狂子は俺の言葉を聞いた途端、急いでシャワールームに帰って行った。
そんなにゲーセン行きたいのか。
忙しい日だ、一日に二度もゲーセンに行く事になるなんて。
俺に休息と言う物を与えてくれ。
「ところでどうして春咲先輩を連れてったっすか?そこが不思議なんっすけど?」
「言われてみれば確かに、なんでタクを連れて行ったわけ?昨日浩寺に懐いてたでしょ?」
「…まさか、先輩を狙って!?」
掴み掛かろうとする蘭華を担ぎ上げ、なんとか被害は防げた。
ただ今度はマジ泣きしてるな。
今までは、何を言っても何もしない姉貴が襲いかかればビビるか。
これもまた、良い薬かってヤツか。
姉を本気で怒らせると、どれほどに怖いかってのがな。
「凄い怪力…本当に人間なの?」
別に怪力でも、人間かどうかを疑うのは違うだろ。
俺が人間じゃ無かったとしたら、何に見えるんだ?
逆に不思議になって来たぞ。
俺が人間じゃないなら、なんなんだ?
怪獣か?やっぱり怪獣で良いのか?怪獣バーサーカーだぞ?
「先輩は悪魔だから力が強いの!姫華には到底理解が出来ない事だから黙ってて!」
お前、妹相手だと随分と強気だな。
妹を守る対象が居なくなった途端、威張り散らすか。
そこは俺にとって、関係は無いが。
「あんまし姉さんを刺激するなよ、本気で怒ると結構ヤバいから、俺でも庇いきれないかもしれない」
今もこうして抑えてるが、まさか蘭華がここまで暴れる事があるなんてな。
さっきからもの凄い勢いで叩いてくる、痛いかと聞かれればさほどだが。
ある意味は、小さな抵抗だ。
ここで俺は違和感に襲われた。
蘭華がはいつもなら、何か言ってくるはずなのだ。
それを今は、ただただ無言で抵抗してくるだけ。
「えっと先輩。蘭華、怒りで周りが見えてないみたいっすよ、自分が持ち上げられている事も、先輩に捕まっていると言う事も理解してないっす」
不思議な事もあるものだな。
あの蘭華が怒りで回りが見えなくなるか。
かなり貴重かもな、こんな風な蘭華は。
別に叩かれても、蚊に刺された程度くらいにしか感じない。
適当にやらせておけば、疲れて冷静になるか?
蘭華の事だからならないかもな。
「準備が出来たぞ!さぁ!出発しようじゃないか!」
狂子も戻って来たか。
あとは蘭華を正気に戻さないといけないが、あの手を使うとするか。
あまり使いたくはないんだけどな。
「…蘭華…デ」
「デート!?先輩が私と!?行きます行きます!今すぐ行きます!先輩となら何処へでも行きます!」
チョロいと言うか、何と言うか。
反応が早すぎる。
俺まだデまでしか言ってないしよ。
それでも、こうして正気に戻せたから問題なし。
凄い冷たい視線を感じるが、気のせいであってくれ。
…全然気のせいじゃなかった、姫華が冷たい目で睨んでやがった。
「結局、誰と付き合ってるわけ?もしかして全員と付き合ってハーレムとか考えてる?」
ハ…ハーレム?
いきなり何を言い出すんだ、この子ども。
逆に言うと、全くあり得ないだろ。
現実的に考えて、日本では一夫多妻制は禁止だ。
ハーレムとかが出来るのは、二次元だけでの話。
いや、国によってはあるだろうが、日本ではまずない。
第一に、俺二次元にしか興味ないし!
真射子一筋だからな!
「ハーレムか…ふむ、母に相談をしてみよう」
しなくていいよ!むしろするな!
あの人に言ったら本当にやりそうだから!
携帯を取り出さなくていいから!
ああもう、本当に電話かけ始めちゃったよ。
絶対後からややこしくなるヤツじゃねぇか!
蘭華もスイッチ入れたらかしがみついてるし!
こりゃしばらくは離してくれないな。
こうなる事が分ってたから、あまり使いたくない手なんだよ。
「えへへ、先輩とデート」
「まだ誰もデートなんて言ってねぇぞって、聞こえてないか」
「アンタ!いつもだけど!タクから離れなさいよ!本当はタクにそういうことをして良いのは!私がタクとプロレスしてる時だけなんだから!」
確かに俺とお前はよくプロレスをしてたさ、ストレス発散になるからな。
でも、なぜそれを引き合いに出した?
「マジっすか!?実は二人共、そこまで内密な関係に!?」
お前は何に反応してるんだよ!?
ただのガキの遊びだろうが!
何をどうしてどのように反応したらそうなるんだ!?
天才か!?あるいみでの天才か!?
新聞の為なら脚色しまくるあのマスゴミってヤツか!?
お前はついにマスコミ精神から、マスゴミ精神にレベルアップしたのか!?
そのうちアレか!?カメラで変身するか!?
ベルトに写真でも入れて、変身とかするのか!?
「もちろん、私とタクは幼馴染みだから小さい頃から一緒に遊んできたんだから、特にタクのコブラツイストは凄くて私なんど意識を失いかけたことか」
「コブラツイストで意識を失いかけた…それって一体どういった体むぐっず!」
おっと危ない危ない。
これ以上は小学生には早い。
由実の口より先に、俺の手が動いてくれて助かった。
しっかしコイツも、油断も隙もないな。
普通小学生の前であんな事を言い出すか?
あと明かに勘違いしてやがったよな。
全く別の意味に捉えてやがったよな?
夏美も気付よ、何さらっと話してるんだよ。
「すまない柘魔…母に聞いてみたのだが…変えたいなら大統領になれと言われてしまった…」
案外まともな事を言うんだな、あの人。
子どもっぽい人かと思っていたが、常識は持っているのか。
「準備が出来ているのなら行こう、早くゲームセンターに行きたくてウズウズしている!それに母からプリクラというのを教えてもらってな、それもやってみたいんだ!」
狂子の母×プリクラ×知識。
そこへ、娘への前科が複数。
全て掛け合わせると、イコール嫌な予感に繋がる。
この法則を、俺はKの法則と名付けり事にした。
最初はMの法則と名付けようとした。
だがしかし、その名を付けると明らかに違う意味になってしまう気がしたから。
「プリクラ、いいじゃないっすか!せっかくっすから皆で撮るっすよ!考えたら真手場先輩は来年で卒業っすよ!」
…そうだ。
狂子は三年、俺は二年、蘭華と由実は一年だ。
確かに彼女が同じ学校にいるのは、今年が最後。
来年には卒業してしまう。
なら思い出を早いうちに、沢山作ってしまうほうがいいだろう。
一日、一日を大切にすると言う様に。
俺はこの真実を知ったとき、時間があまりないと思い始めていた。
彼女が高校を卒業したとしたら、進路をどうるすのかすら聞いていない。
もしかすると、親の元で働くかもしれない。
将来なんて、誰にも分らない。
もしかすると、蘭華が他に惚れる男が現れる可能性だってある。
俺だってもしかすると、二次元から三次元に興味がでるかもしれない。
本当に、人生は分らない。
そんなこんながあり、ゲームセンターに到着したわけだが。
「プリクラを撮るなんて久しぶりねぇ、最近のって結構進化してるんでしょ?もう、タッちゃんは恥ずかしがり屋だから全然一緒に撮ってくれなくて」
なんで姉貴が、なんで姉貴が、なんで姉貴が。
普通にゲーセンで遊んでるんだよ!?どうした社会人!?
「この女の人誰?女優とかモデル?誰の知り合い?もしかしてあの男の?あの人も同じく惚れてるの!?」
「違うっすよ、あの人は春咲秋恵さん、先輩のお姉さんっす」
今度はなんだその顔?絶望か?驚きか?どっちか分らない顔をするな。
仕方がないだろう、事実なんだから。
痛い!蹴るな!脛を蹴るな!
よりにもよってつま先で蹴るんじゃねぇ!
結構痛いんだよ!体鍛えてても痛い物は痛いんだよ!
「お前は全自動脛蹴りマシーンか!?さっきから隙あらば蹴り入れやがって!見てみろ!ズボンに思いっきり靴の跡がついてるぞ!?」
「ああ!私の先輩の足が真っ青になってます!大変です!直ぐに治療をしないと!私が先輩を連れて行きます!」
引っ張られる、蘭華に引っ張られる。
蹴られた足を引っ張られる。
痛いから強く掴むのをやめてくれ、結構痣になってるから。
「それ以上触るのはマズイっすよ!先輩が涙目になってるっす!我慢してるっす!」
我慢してるさ、かなり痛いからな。
蘭華が思いっきり痣を、親指で押してる。
めちゃくちゃ痛いに決まってるだろ。
あとこの痣作った張本人はどこへ行った?
俺がキレてから姿が見えないぞ?
まさか逃げたとかか?
「ちょっとヤバいって!あの子、なんか絡まれてる!明らかに不良な感じの三人に絡まれてるから!」
面倒事を呼び込むのは、コイツだけじゃないってことか。
てか絡まれてるってどうしてだよ!?
なんで絡まれてるんだよ!?
一体いつ何処で絡まれてるんだよ!?
迷惑掛けるのも大概にせいや!
「だから謝ってるでしょ!」
「おい、これ謝罪で済むレベルじゃねぇんだよ」
「ズボン、クリーニングに出さないといけないよな?とりあえず財布、お兄さん達に見せてくれる?」
本当だ…ガチで絡まれてやがる。
よくもまぁ、こんな連中に見事絡まれてくれちゃって。
様子を見るって訳にもいかないし、一度仲裁に入るしかないか。
せっかくの楽しい思い出作りが、喧嘩で終わるのは悲しいがな。
話し合いで済ませられないか?
そこは相手次第か。
「落ち着けよ兄さん方。相手は小学生だ、だが悪い子とをしたならしっかりと謝らせる、でもよ、親じゃなくてガキ本人から金巻き上げるって、どういった了見だ?」
よしよし、その調子だ。
ゆっくりと後ろに下がれ。
そのまま俺の後ろに隠れて、姉貴達に保護されろ。
「逃げんなよ、クソガキ、抑えてろ」
「痛い!痛いってば!キモい!死ね!」
「ぐあっ!このクソガキ!噛みつきやがった!」
やるな、上手い事こっちまで逃げてきた。
あの状況で噛みついたのは正解だ。
もし俺だったら、更に金的も加えてただろうが。
ここまで逃げてきただけでも、上出来すぎる。
あとでご褒美に、またパフェでも食わせてやるか。
その前に、これを終わらせないといけないがな。
「とりあえず、話し合いからしようや、どっちがさきにぶつかった?お前等か?それともアイツか?」
「ガキに決まってるだろ!見ろよこのズボン!コイツはよぉ、アメリカから輸入した特別品でよ、10万だ!10万!」
10万のジーンズか。
見た感じ、そんな高そうにも見えないけどな。
「弁償しろよ!10万と迷惑料も兼ねて20万!それで見逃してやる」
ぼったくりも良いところだな。
別に睨まれても、そこまで怖くないな。
甘く評価してもチンピラ程度だ。
それよりも、こいつ等の顔に見覚えがあるな。
コイツの鼻にある傷。
隣の奴にある手の傷。
三人にある傷、どれも見覚えがある。
…思い出してきた、と同時に怒りが込み上げてきたぞ。
「誰が誰だか、細かい名前は覚えてねぇが…随分と懐かしい顔ぶれが揃った物だな、随分とやんちゃになりやがって、髪まで派手に染めてよ」
理解出来ないと言った顔をしてやがるな。
じゃあよぉ…懐かしいものをみせてらどうなるか。
試して見ようじゃないか。
これが大吉と出るか、はたまた大凶と出てくるか。
お前達の記憶次第、たっぷりと見ていけ。
しっかりと思い出せ、あの事件を。
「どうかしたか?そんなに青ざめたりして、ただ暑いから髪を上に、上げただけだろう?何をそんなにビビってるんだよ?なぁ?」
ああ…懐かしい。
この感覚…ピリピリと伝わってくる感覚。
たまらない…恐怖してる目が特に。
喧嘩の後で何が好きかって言えば、敗北した相手の恐怖する目だな。
残念なのは、無駄に喧嘩をすると学校へ通報されることだけか。
「覚えてるだろ?この額の傷…お前等が俺にくれた、勲章だ…俺はいまだにだ、いまだに魘されてるよ、あの日、お前等が、夏美を階段から突き落とした事件が夢に出てよ」
「し、知らなかったんだ!頼む春咲!殺さないでくれ!ほら、俺達はただガキが謝らないから」
「私謝ったから!それにもともとそっちがよそ見しながら飛び出してきたんでしょ!私だって凄く痛かったんだから!」
こいつ等の反応を見てたら分る、姫華が正しいみたいだ。
なんせこいつ等、嘘をつくのが下手すぎるんだよ。
鼻の穴が、広がってやがる。
「だそうだが?お前等は」
「うああああああ!た、助けてくれぇぇぇ!」
「お、置いていくなぁぁ!」
二人逃げたが、一人は腰を抜かしてやがる。
「そうだそうだ、お前だったな、俺の額に釘で傷を付けたのって…俺の理性がある前にどっかへ消えろ、雑魚」
尻尾巻いて逃げて行くってのは、まさしくこの光景だな。
結局は、怪獣が出る幕は無かった。
一番安全で、良い締めくくりだ。
誰も怪我することなく、俺は楽しめた。
後は…今会った事を全て忘れて。
楽しく思い出は…無理か。
無理だとしても、せっかく来たからには、遊ばないと損ってものだ。
狂子が三年であり、あと一年しか学校に居ない事を忘れていた柘魔達。
そして沢山の思い出を作る事を考えた柘魔だったが。
次回からついに、彼らの元に夏が来る。
だが夏がきても、常識なんて通用しない連中の大騒ぎが、夏と共にヒートアップする?