第十四話 姉妹仲良く?こいつ等には無理な話か。
生徒会長に敵視されてしまった柘魔。
彼を敵視するあまり、静子の行動はエスカレートしていく。
最近、新たな悩みが出来た。
生徒会長の目が光り始めた事。
まず学校に行くと、もの凄いゴミを見る目で見てくる。
廊下ですれ違うだけで、身構えてくる。
トイレに行こうとすると、どこからか嗅ぎつけて尋問される。
「また何か良からぬ事を考えているのではないですか?まさか男子トイレに誰か女子を連れ込んでいるとか」
「誰もそんな事をしてないですよ、つか男子トイレに入らないでください」
こんな感じで、ゆっくりと過ごす事が出来ない。
あと、家に小百合を招待した事も気にくわないらしい。
本人は結構楽しんでいるみたいだがな、今じゃ弁当を交換する程度には仲がよくなった。
かなり進展はしているのではないだろうか、前よりきつく当たられる事もないからな。
「な、何をしているのですか!?早くズボンのチャックを上げなさい!」
「いや…ここトイレだし、チャック下ろさないと出来ないですから…あと生徒会長が男子トイレにいる時点でおかしな話ですよ」
ここまでしても出て行かないなんて、この生徒会長は何者だ?
「おお…意外と立派…私が相手したら壊れるかも、でもハイドに乱暴にされるならむしろ興奮する」
でたぁぁぁぁぁぁぁ!
しかも覗いてるぅぅぅぅぅぅぅ!
この女頭怒れてやがる!汚い物が掛かるだろうが!
お願いですから覗くのやめてください!ほんとマジ勘弁してください!
「何をしているのですかマコト!?そのような不潔な物を見ては目が腐ります!」
「不潔じゃない!これは元々私にもあった!これこそが私とハイドが一つになるための物!ハイドのこれが鍵で私はその鍵穴になる!」
やめてくれぇぇぇぇ!
足を引っ張るなぁぁ!的が外れるぅぅぅぅ!
うわぁぁぁぁぁぁぁ!いやぁぁぁぁぁぁぁ!
あとちょっとで終わるから!ほんとやめて!あとちょっとだから!
もうだめだぁぁぁぁぁ!あと五センチで的から外れるぅぅぅ!
「マコト!いい加減にしなさ…いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
終わった…俺の高校生活終わった。
今の叫び声で生徒がどんどん集まってくる。
引いてるヤツもいれば、苦笑いしてるヤツもいる。
そりゃそうだろう。
フルチン男子に、その足にしがみつく女。
プラスその女を引きはがそうとる女がいれば、怪しすぎる。
てか…普通に女生徒まで入って来てるじゃねぇか!
早く!早くズボンを、ズボンが上がらねぇ!
本当にいい加減にしろよ!こっちは斜め丸出し状態なんだよ!
真面目に離して!恥ずかしいから!
若干笑ってる女子とか居るだろうが!
「お前達、これは何の騒ぎだ?何故女子が男子トイレに…お前等は一体何をしているんだ!?」
最悪だ…よりによって禿山のヤツが来やがった。
「せ、先生!?これには深い訳が」
「深い訳もヘッタクレもあるか!お前等全員居残りだ!保護者も呼ぶからな!オラッ!お前達もいつまでも居ないでさっさと教室に戻れ!」
俺達三人は、生徒指導室に連れて行かれ、何があったのかの説明を求められた。
納得がいかないのが、どうして俺が頭を打たれる必要があるんだ?
俺は被害者だぞ、なんで俺だけ体罰を受けるんだ。
つか禿山!明らかに俺が悪いと決めつけてるだろ!
「春咲、お前は何をしたか分かって居るのか!?か弱い女子に対してセクハラを行うなんて!お前は人間の屑だ!恥さらしだ!退学にしてやる!」
おいおい…そりゃないぜ。
トイレで男子生徒が被害に遭えば、加害者の女子はお咎め無しですか?
俺何も悪い事してないじゃん。
これはあんまり過ぎる。
生徒会長を見ても、目をそらされる。
あの女に対しても、目をそらされる。
あんまり過ぎる…酷すぎるぜ。
「聞いているのか春咲!?親に連絡がつかないぞ!」
「両親は仕事で海外ですよ、家には姉が居るはずです」
…そうか…姉貴が居た。
姉貴が居れば、この二人は恐怖して真実を話すかもしれない。
確か生徒会は卒業しても、先代達には絶対服従のルールがあるとか言っていたな。
勝ったな…これで俺の勝利は確定だ。
二人共青ざめて居るのがハッキリと分る。
せいぜいこの間だけでも、恐怖を味わえ。
「失礼します、春咲柘魔の保護者ですが」
早いな!?幾らなんでも早すぎるだろ!?
「家の弟が問題行動を起こしたと聞いて来ましたが、説明をお願いします、まさか校内で喧嘩とかしましたか?」
「いえ…喧嘩ではなく、女生徒に暴力を」
うわぁ!姉貴の顔が能面みたいなってる!
違う違う!俺じゃない!あっちだって!
頼むから俺の意思よ通じてくれ!隣の二人を見てくれ!
「なる程…家の柘魔が女生徒に暴力を振る打ったと、おっしゃるのですね?」
「ええ、ご覧下さい、二人共怯えています」
二人が怯えてるのは、俺にじゃなくて姉貴にだよ。
嘘をついた事がバレるのを恐れてるんだ。
「私は弟を信じます。この子は女生徒に暴力を振るうような子じゃありません…むしろそこの二人の方が疑わしいのですが、先生は現場を目撃されたのですか?」
あの禿山が威圧されている。
「見ては居ませんが…男子トイレから悲鳴が聞こえたと」
「悲鳴が聞こえた?もしそれが自作自演だとしたらどうします?男子生徒に襲われていたのなら、普通は被害者を加害者と一緒にしません!それに被害者の方達はもっと怯えて、貴方にすらも恐怖してるかもしれませよ?普通は女性の教師を付けるのではないのですか?配慮が足りない学校ですね」
スゲぇマシンガントーク。
禿山のヤツが、一切口を挟む隙を与えていない。
段々と顔が真っ赤になってやがる。
そして…流石鋭いな、俺の頭に違和感を感じたか。
超ペタペタ触ってくる。
「もしかして殴られたの?このたんこぶ…朝はなかった…どこかぶつけたりした?」
「いや…ぶつけてはいない…ただ」
おい禿山…お前を地獄に落としてやる。
こっちを見ながら顔を横に振る姿が笑えるぜ。
俺も性格が悪いな、ただ俺は結構根に持つタイプだ。
このことは、しっかりと報告させてもらう。
「姉ちゃん…先生が、俺の話を聞かずに殴ってきたんだ…説明をしようとしても、うるさいって思いっきり拳で…」
振動が伝わってくる。
姉貴が怒りに震えている。
俺は嘘を言っていない、全てが真実だ。
本当に説明をしようとしたら、殴られた。
これで、少しは人の話を聞くと言うのを覚えるか。
まぁどうせ、毛根と一緒に大切な物も無くしたんだろうな。
「校長を連れてきなさい!これは立派な体罰よ!それにそこの二人…私の事を覚えてるわよね?以前弟に対してした事…忘れてないわよね?」
「ごめんなさい、私がやりました…春咲君は無実です、最初に始めたのは生徒会長です」
生徒会長を売っただと?
ある意味、正解を選んだと言えるな。
だが、あそこまで悪化させたのはアンタだろ。
生徒会長が超涙目だぞ。
「ねぇ、嘘をついてるのが丸わかりよ。私を騙そうなんて数百年は早いわよ、弟の様子を見れば嘘なんて直ぐに分るの、弟に一番の被害を出したのはアナタで、原因を作ったのは現在の生徒会長よね?」
流石姉貴、全てがお見通しか。
当然と言えば当然か。
前科があるんだからな。
その後は、姉貴の怒りが収まらずに地獄が広がって行った。
青ざめる校長と禿山、生徒会の二人は面白かった。
特に禿山が土下座をしている姿は滑稽だったな。
家の姉貴が卒業生だとは知らなかったらしい。
校長は知っていたらしいが、相当青ざめていた。
「それでは用が済んだようなので、帰らせていただきます、次はありませんよ、校長先生」
「は、はい、次からはこのような粗相がないように気を付けます、ほら頭を下げたまえ!君も教室に戻っていて構わないよ、二人には厳重注意をしておくから」
姉貴と一緒に生徒指導室を出ると、頭にアイアンクローを喰らわされた。
「タッちゃん、あまりお姉ちゃんに迷惑を掛けないように気を付けなさい、今回はこれくらいで済んだからいいけど」
「仕方ないだろ…あの生徒会長がトイレにまで侵入してくるんだから、俺だって限界だったんだよ」
俺が教室に戻ると、一気に静まり帰った。
あの事件があって、普通に帰って来たら驚くのは当たり前か。
それでも俺は、冷静に席に着き、授業を聞く。
クラス中からチラチラと視線を感じるが、気にすることはない。
いつも通りに過ごせば良い、そうすれば時間が勝手に過ぎていって、気がつけば放課後になってるんだ。
今までだってそうだ。
何もしなくても、時間は止まることなんてない。
それが世界の法則ってヤツだ。
今日の学校も終わりだ。
ただ、クラスの奴等が俺を避けてる。
このまま、変な噂が立ちそうだな。
最近変な噂が多い上に、更に尾ひれがつきそうで怖いぜ。
「災難だったな、かなり噂が立ってるぜ」
「だろうな…おかげで姉貴を呼ばれた、その後で慰めのアイアンクローだ」
浩寺のヤツから噂を聞いたところ、予想を遙かに超えた物だった。
どうも俺が生徒会長達を無理矢理トイレに連れ込み、変態プレイを強要したと言う噂。
とうとう変態というレッテルまで貼られたか。
やめてくれよ、変な噂流すヤツ。
俺は別に何もしてないのに、これが男女の差ってヤツなのか。
全くもって、酷いな。
「大丈夫か柘魔?休み時間に様子を見ようと思って居たんだが、クラスの者達に止められてな」
「嘘ですよね!?先輩が私以外の女に変な事をしたなんて!?先輩が望むならSMでも何でもしますから!私になんでも!」
「落ち着け!いいか?俺は何もしていない、ただ催しただけだからトイレに行ったら、あの二人が乱入してきたんだよ」
二人は相当心配して来てくれたようだが、いきなりスイッチ入れてくるなよ。
ただでさえ疲れてるんだ、余計に疲れちまうだろ。
つか背中に乗っかるな、重たい。
最近重たくなってきた、それだけしっかりと飯を食べてる証拠だ。
「そうだ狂子、あの生徒会長が狂子の従姉妹らしいが」
「そうなのか?ふむ…これは意外だったな、私に従姉妹が居たなんて…帰ったら母を問いただそう」
「え?マジ?あの生徒会長って狂子先輩の従姉妹なの?」
やっぱり知らなかったパターンか。
「帰りましょうよ先輩!私の先輩を浄化しないと!あ、でも先輩は悪魔だから私の身を使って新たに穢れを」
俺達は蘭華を放置して校門へと向かっていた。
ここである違和感を覚えた、なんか視線を感じる。
校門の外、影からこっちを誰かが見てるのが分る。
なんかあの顔に見覚えがある。
あのクソ生意気な目付き、大きさ的に小学生位か?
「おい浩寺、あそこから子どもが睨んでるんだが…俺にしか見えてないとかないよな?」
「しっかりと見えてるぜ…結構小汚いが、元々は結構な美形少女だ…ありか無しかと言えば、しっかりと綺麗にすれば断然ありだ」
お前の発言は時折恐ろしいよ。
相変わらず、ロリコン野郎って事か。
何で俺が変態扱いされて、コイツが変態扱いされないんだよ。
顔か!?やっぱり顔なのか!?
イケメンなら何でも許されるのか!?
「イケメンはロードローラに引かれて死ね」
「いきなり何だよ?いきなり死ねって酷くねぇか?俺お前になにかしたか?」
何かしたかと聞かれれば、何もしてない。
つかお前、部活いいのか?
「何で置いていくんですか?これってもしかして、放置プレイですか?先輩が望むなら、いっそのこと亀甲縛りで…琉美李?なんでここに?」
「ルビィ…ああ、蘭華の妹だったか、どおりで見た事があるわけだな」
「もうその名前で呼ばないで!私にはちゃんと姫華って名前があるんだから!元々それはパパとママが家で呼んでた名前でしょ!」
…もう訳がわかんねぇ。
ルビィとかヒメカとか、お前は一体何者なんだ?
日本人なのか?それとも外国人なのか?
それより…どうしてこんなに汚れてるんだ?
顔も少しやせこけてるし、蘭華の時より酷い状態だ。
「アンタが…アンタが家を出て行ってから、パパもママもおかしくなった!気がつけば知らない猫が居るし…私猫アレルギーなのに…猫が居て家にも帰れないし…」
猫アレルギーの娘が居るのに、猫を買ってきたってのか?
まさか…前に狂子が出した金でってパターンか。
金は人を変えるって言うが、本当なんだな。
にしても、この状況はマズイか。
見た感じだと、かなり痩せてる。
同じ事を繰り返してる、やっぱり殴れば良かったと俺は後悔してる。
「蘭華…とりあえず妹連れて部屋に帰ってろ、浩寺は俺と一緒に買い出しに行くぞ、狂子は…」
「私は柘魔と一緒について行く、もしかしたら私の力が必要かもしれないからな、あと家の者にマンションの周りを見回りさせよう、なんだったら今から迎えを呼ぶから待って居てくれ」
そういうと、狂子は携帯を取り出し電話を始めた。
今回は、彼女の好意に甘えた方が良いかもしれない。
あの狂子ですら恐ろしいと言っていた相手だ、何を考えているのか分らない。
もしかすると、襲撃をしてくる可能性だってあり得る。
「えっと姫華ちゃんで良いかな?」
「気安く呼ばないで、キモい」
このクソガキ、見た目が元々可愛いからって調子に乗るなよ。
「姫華ちゃんか、可愛い名前だね。お兄さんは浩寺って言うんだ、よろしく」
「あ、愛神…姫華です…今年で十一になります、今小学五年生です」
イケメン効果スゲぇ。
何だよこの反応の違い、相手明らかに恥ずかしがってやがる。
あと蘭華、対抗心を焼いて俺の腕を掴んでくるな。
別に俺が手を出してるわけじゃないだろ。
逆にお前の妹の方が心配だ、浩寺はロリコンだから。
「私の先輩に気持ち悪いとか言わないで!先輩は凄く優しくて!料理も上手で!私の事を愛してくれてるんだから!」
「はぁ?マジキモい、お似合いと言えばお似合いだけど、正直アンタを選ぶとか趣味悪すぎ…どこがいいんだか」
勝手に姉妹揃って彼氏認定するなよ。
怖いわ、この姉妹。
ここに夏美なんかが来れば、喧嘩になるかもな。
ってそんな事を考えるな!変なフラグを立てるな俺!
ほら見ろ!俺の馬鹿野郎!夏美が凄い勢いで走って来てるだろ!
もう叫んでるぞ!俺達の名前を呼んでるぞ!
「なんか変な女が来た、浩寺お兄ちゃん怖い」
「大丈夫、お兄ちゃんが守ってあげるから」
もう既に仲良くなってやがる、つけ込むのが上手いな。
浩寺のヤツも嬉しそうだ。
「なんでタクの腕にそのデカい脂肪押しつけてんのよ!?タクが嫌がってるでしょ!」
「嫌がってません!むしろ先輩の手が、ああ、私の胸と一体化していくのが分ります!」
現在状況がどんどん悪化しています。
愛神姫華に関しては、俺を生ゴミでも見るかのような視線になっております。
そして浩寺の顔、なんて幸せそうな顔でしょうか。
「アンタ達…気持ち悪過ぎ…頭おかしいんじゃないの?」
ごもっともなお言葉、ありがとうございます。
「もうすぐ迎えが来る…私が電話をしている間に皆で楽しんでいたのか?私も混ぜてくれ!」
検証結果、巨乳はエアバッグになります。
って違う!何故に狂子まで抱きついてきた!?
今までここまでしてくる事は…あったか。
ベッドで寝てると裸で侵入してくるからな。
最近だと、姉貴が居るからなくなったが。
それでも侵入してくる根性は凄い。
鍵を閉めても、気づけば合い鍵を作り。
玄関が不可能だと知ると、窓を開けて侵入してくる。
「ちょっと、アンタ達…男の趣味悪過ぎない?なんでそんな根暗みたいな男が好きなの?普通はこういう人がいいでしょ!?」
「べべべ、別に私はタクが好きとかじゃなくて!タクの周りに頭のおかしい連中が集まるのを防ごうとしてるだけで…私がタクの保護者みたいなものだから!」
「私は柘魔が好きだぞ、不思議とこうしていると落ち着くんだ。それに私が憧れている少年にどことなく似ている」
「先輩は私の救世主なの!だから私は先輩が望むなら奴隷にでもなるって誓ったの、子どもには分らないと思うけど、パパ達から愛されてる姫華には分らない大人の愛だからね」
おいおい…高校生が小学生を泣かせるなよ。
あと色々と蘭華の言葉が酷い。
実の妹に言うか?自分が奴隷とか。
ある意味トラウマ級の言葉だぞ、俺の姉貴が言い出したら立ち直れないぞ。
「キモいキモいキモい!死ね!アンタなんか姉じゃない!」
どうするんだよ、新たな被害者が誕生したよ。
ホラー映画並だぞ。
「もういいや…浩寺、お前夏美と一緒に留守番してろ、俺は蘭華と狂子連れて買い出し行く」
こうなったら、蘭華には買い出ししてる間に説教してやる。
あと狂子にもだな、あまり人前でこういう行為をしないように説明しないと。
それから、俺達は別れ買い出しに出かけた。
蘭華を途中連れ出した理由は幾つかあるが、一つは姫華の衣類が必要と判断したからだ。
あの様子だと、かなり衰弱しているはずだ。
猫アレルギーなのに、家に猫が居る。
確かに帰る事は出来ない。
見た感じで、多分家の衣服にも猫の毛が付着でもしているだろう。
あと、俺と浩寺だけで子ども服を買うと怪しまれる。
だから二人についてきて貰う事にした。
多分、蘭華なら洋服サイズも分るだろうし
「見てくれ、これなんてどうだろう?この迷彩ならあの子に」
絶対着ないと思う。
だってジャングルに行く時みたいだもん、帽子までセットで。
あと蘭華、お前はどれだけ妹に対して憎しみを持ってるんだ?
それもう洋服じゃなくて、ただの水着だぞ。
コイツは予想外だった。
由実が居れば一番良いのだが、アイツは部活の招集で来れないしな。
あまり気乗りはしないが…俺が選ぶしかないのか。
とりあえずは…パーカーにジーンズでも履かせて。
「なんで私達と同じ服にするんですか!?これは私と先輩が愛し合っている意味を示しているんですよ!?」
示してねぇよ!俺が最初にこの恰好をしてたんだよ!
黒パーカ-にジーンズを履いているヤツは、皆兄弟みたいな言い方するな! 困ったな…俺、小学生とかの服装とかしらねぇし。
…とりあえず、ピンクのパーカーにデニムのスカートで良いか。
後は…後は…このデカいハートがプリントされてる服にしておくか。
あと、必要なのは…必要なのは…下着か。
そこら辺は二人に任せておくとするか、蘭華には釘を刺しておく必要があるが。
ちゃんとまともな下着を買うようにだ。
「二人共、大体の洋服は決まったから、後は下着を頼む、俺は夕飯の材料を買うが、何が食べたい?」
「私お肉が食べたいです!焼き肉!焼き肉が良いです!」
「そうだな、私も蘭華と同じく焼き肉を希望しよう」
焼き肉か、多分あの家には道具も揃ってそうだし、肉と野菜を買えば良いか。
そうだ、タレも忘れずに買わないと。
早く買い出しを終えないと、夏美が苛ついて暴走しそうだ。
「何この服?趣味悪過ぎ!これも!これも!これも!なんでこれに関しては水着!?あと動物パンツとかマジであり得ないんですけど!私はもっと大人らしいのが良いの!」
気に入らないからってよ、ポンポン投げ捨てるな。
こっちはアレルギーが辛いから気を遣って買ってきたのに、お前の好みなんて分るか!
「この水着とか、アンタが選んできたんでしょ!変態!マジキモい!死ねばいいのに!」
勝手に決めつけて、挙げ句に死ねですか。
このガキ…本当に一回お灸を据えてやろうか?
だがそれでは大人げ無い、しっかりと話をしないと。
俺の話を聞いてくれれば良いが、敵意丸出しだ。
つか浩寺懐かれすぎだろ!イケメン効果ヤバっ!
「いい加減にして!どうして先輩の事を傷つける事ばかり言うの!?先輩は凄く心配して考えてくれてるんだよ!洋服を見ている時も真剣になって考えてくれて」
別に真剣に考えてねぇよ。
妹が居るわけでもない、居るのは姉だ。
だから、昔姉が来ていた服を真似ただけに過ぎない。
姉貴とこの子は違うから、好みが分かれても仕方が無いが。
流石に死ねとかキモいと言われると、堪える物がある。
肉持って帰るぞ!?高級和牛を用意したんだぞ!?
まぁ…俺が食べたかったという理由からだが。
「悪かったよ…今度は自分の姉と一緒に買い物に行って、自分が着たいヤツを買ったらいいさ、とりあえずはアレルギー反応を抑える為にシャワー浴びて着替えてこい、辛いよりは断然マシだろ?」
睨めばいいさ。
キモいと思えば思えば良い。
足さえ蹴らなければ、大分マシだったがな。
よりにもよって、脛部分を蹴りやがった。
それでも…風呂に入りには行くんだな。
「すみません先輩!私の妹が…このお詫びは体で払います!私の寝室に行きましょう!」
「いらない、あと妹の行動を利用するな、俺は晩飯の用意を始めるから浩寺と夏美は手伝え」
二人は嫌そうな顔をしてきたが、二人を野放しにするわけにはいかない。
浩寺はロリコンだから、もしかしたらだ。
夏美は普通に野菜の切り方の指導、高校生にもなってまともに出来ないのは心配だ。
普段は食事は俺と姉貴が作ってる。
甘やかし過ぎたのが、裏目に出てしまったようだ。
性格上は、褒めたり甘やかしたりすれば大人しくなる。
だがそれが間違いだった、包丁を取り出された時に張り倒すべきだったったんだ。
ここまでにした責任もあるから、こうして更生させないといけない。
「涙が止まらない…タマネギってってこんなに染みる物なの?もうやだ!タクが苛める!最低!馬鹿!阿呆!童貞!」
童貞は関係ないだろ!?
「落ち着けよ夏美、春魔は確かに童貞だが、お前もバリバリ処女だろ?」
どーゆーフォローしてんだお前?
タマネギが浩寺の顔面に押しつけられるが、当たり前だ。
そこらの女子なら、少しおふざけ程度で済むだろうが。
お前は忘れているぞ、相手があの夏美だと言う事を。
冗談が通じない夏美。
あと夏美、どうしてタマネギをみじん切りにしたんだ?
焼き肉をするのにみじん切りで入ってた事があるか?
タレやチャーハンを作るのとは違うんだぞ!
それからお前がみじん切りをマスターしてる事に驚きだ。
「マジ最低!普通女の子にそんな事言う!?もうやだ!今すぐここで自害してやる!」
タマネギ切った包丁を振り回すなよ。
あと自害するな、迷惑だろうが。
「離してよタク!変態!痴漢!レイプ魔!」
「その包丁を手離したらな」
完全に油断してたが、浩寺が近くで良かった。
夏美が攻撃を仕掛ける時に、こちらまで近づいてきたからな。
ホールドするのに、そこまで手間が掛からずに済んだ。
「一体なんの騒ぎだ?」
「あ!ズルいです!私も先輩に拘束された挙げ句に、耳元で愛の言葉を呟いて欲しいです!」
一体どうすればそういう判断になるんだよ?
あとそんな言葉を呟いてる状況に見えるってのか?
どんだけお気楽に考えてるんだよ!?
状況的に考えて、それは明らかに無いだろう。
片手に包丁を持って振り回してるんだぞ。
いつもこうして夏美が暴走するのを止めていたが、二人に見せるのは初めてか。
「ダメだダメだ!ナイフの持ち方がなっていない!ナイフを使うのであれば、グリップをもっとしっかりと握る!」
「うるさいうるさいうるさーい!皆で私を馬鹿にして!もうやだぁぁぁぁ!うわぁぁぁぁぁぁ!」
「悪い!少し夏美を落ち着かせてくるから!先に肉焼いててくれ!」
夏美を連れて別室に移動したは良いが、このまま固定して体力が尽きるのを待つか。
それまでに、肉が残っていれば良いが。
痛ッ!腕に噛みつかれた!
包丁で攻撃されるより断然良いが、お前は動物か何かか!?
だけど、小学生以来だな…夏美に噛みつかれたのって。
昔は力で負けると判断して、噛みついてきたっけ。
その行動自体、姉貴が褒めたせいで膨張したけど。
「…大分噛みつく力が強くなったな…ある意味、成長しているのやらしてないのやら、お前は本当に変らないヤツだよ」
無言かよ…。
別に無言で良いが、返事の代わりに力入れるな。
「とりあえず…包丁を置かないか?そうしないとまともに話合いも出来ないし、お前も苦しいだろ?」
予想してたが、拒否してくるよな。
腕に噛みついたまま、首振るなって。
今回の件は、完全に俺のミスが原因だ。
もう少しお前に配慮すべきだった。
切らせるなら、ピーマンにしておくべきだったんだ。
本当にそれぐらいの配慮が欠けていた、と言いたいが。
一番悪いのは浩寺だな、刺激する発言さえしなければ良かったんだ。
後で浩寺には謝罪をさせるとして、焼き肉までに夏美を落ち着かせるにはどうしたものか。
「落ち着いて聞け…俺達がいつお前を馬鹿にした?確かに浩寺の行った発言は無神経だ、蘭華の言葉も場違いだし、狂子も少し違う、だけどよ、お前を馬鹿だの阿呆だのって言ったか?言ってないだろ?」
三人は的外れの事しか言わない。
特に浩寺の言う事は、的外れどころか神経を逆なでする事を言った。
あれには俺もどうかと思う。
だから後で、一発ぶん殴ろうと考えている。
「俺がお前に酷い事言った事あるか?まぁ何かしでかした時には言うが、それ以外では言わないだろ?後で浩寺にもしっかりと言っておくから…痛ッ!」
「…ご、ごめん!私、興奮し過ぎて…周りが見えなくなって…どうしよう…タクの腕から血が…私が、私がもう少し冷静になれば…どうしてこうなっちゃうの?」
流石に血が出る程噛まれるとは思わなかった。
だが、夏美も今ので正気を取り戻したみたいだな。
「今のお前は冷静そのものだ、これくらいの傷なら別に大した事もないさ、包丁は回収させてもらうからな」
床に落ちた包丁を手に取り、俺は部屋を後にしようとした。
すると、背中の方に全身を預けるかの様に夏美が抱きついてきた。
おいおい、蘭華と狂子、あと小百合たち以外にお前もかよ。
それも泣いてるのか?確かに噛みついて血が出りゃ怖いかもな。
「なんで怒らないのよ…怒ればいいでしょ…噛みついて、血が出るまで噛んだんだから…殴れば良いでしょ!」
殴れば良いか。
逆に殴れと言われると、殴りたくなくなるんだけどな。
「俺がお前を殴ったところで、何が解決する?傷が消えるどころか、お互いに増えるだけだろ?それより、口を濯いでこいよ、血がついたままじゃ、せっかくの美味い肉の味が台無しになるぞ」
「…馬鹿。言われなくてもそうするから…だけど、本当にごめん…」
馬鹿で結構、しっかりと自覚してるからな。
さてと、夏美も行ったことだし、傷の手当てでも。
あらら?これはまさか、聞かれていたパターンか?
つか風呂入ったら大分変ったな。
しっかし、相変わらずの仏頂面だ。
「三股とか最低、マジで死ねばいいのに…屑男」
いい加減にしろよ、このガキ。
肉持って帰るぞ。
蘭華の妹の本名が姫華という衝撃の真実を知る柘魔達。
そんな彼らも徐々に親睦が深まったり、溝が広がったり。
次回、柘魔に思わぬ自体が起る?