第十三話 食事は大勢で取ると美味しく感じる不思議。
日課になりつつある小百合の弁当。
そんな彼女から生徒会長から呼び出されている事を聞かされる柘魔であった。
毎度思うが、凄い量だな。
ここ最近、小百合が持ってくる弁当の頻度が上がってる。
最初の頃は五日に1回程度だった。
それが、ここ毎日教室まで持ってきている。
しかも量が一人で食べきれる量じゃない。
プラスして姉貴から持たされてる弁当、カロリーが高い物が多いんだよな。
「前にも行ったけどよ…流石に多すぎだって、あと弁当持ってきてるから」
「べ…別に好きで作ってるんだからいいじゃん…アンタが断ろうと、私はこれからも作ってくるから…それにいつも回収すると空になってるし…」
そりゃ浩寺と一緒に食ってるからだ!
重箱を一人で食うとか、俺は大食いチャレンジャーか!?
「今日の弁当は結構自信作…だから…あと生徒会長が今日の放課後会いたいって」
そうだ…弁当箱を返却したら速攻帰ろう。
それには、小百合一人の時に接触しないと行けないが。
どうしてものか。
小百合が誰かといるとすれば、生徒会長と変人先輩だ。
特に変人先輩は危険だ、理由はしらないが俺をハイドと呼ぶ。
どうもジキルとハイドの意味らしいが、理由は…多分喧嘩姿を見られたからかだな。
「愛妻弁当は羨ましいねぇ。狂子先輩の母親に頼んで、一夫多妻制の制度でも作って貰えよ」
「やかましい…早弁した後に俺の弁当をつまみ食いするヤツに言われたくねぇよ…こっちは結構頭抱えてるんだ…」
余裕こいた顔しやがって。
お前は確かにモテる、だがそれは普通の女子だ。
俺の場合、モテてるというより、依存や取り憑かれてる気分だ。
まだ小百合なら可愛い方だ、蘭華のレベルとなるとヤバい。
勝手に布団に潜ってくる狂子だが。
「だけどよ、あの小百合って子…結構料理上手いよな!栄養バランスとかも考えてある、アレは尽くすタイプだな、付きあっちまえよ」
他人事だと思いやがって。
「俺、黒ギャルとか苦手なんだよ…どっちかというと清楚系とか淑女が好きなんだよ」
「じゃああの生徒会長か?」
ダメだ、あの会長はアカン。
コイツは知らないだろうが、俺は一度強制的に女装させられた。
あれ以来あの生徒会長は、清楚系とは認めない。
つかどうして俺の周りにはまともなヤツが居ないんだ。
「だけどモテるってだけでかなり凄いぜ、お前の周り美少女揃いだろ?その上に秋恵さんもいるだろ?周りからしたら恵まれてるだろ」
「あまり嬉しいフォローになってねぇ…とりあえず昼飯に全部食うの手伝え!」
それから刻々と時間が過ぎ、気づけば頭を抱えながら放課後を迎えていた。
ここである失態に気づく。
放課後前に、弁当を返却するべきだったのでは?
頭を悩ませ過ぎたか。
完全に失敗だ。
「私の愛するハイド、こんな所で会えるのはきっと運命」
「おい!?ここ男子トイレだぞ!?アンタそれでも生徒会の人か!?」
どうしてこの女がここに?
つか個室を覗くな!恥ずかしいだろ!
「今そっちに行くから。このまま落下すればエロ漫画的なハプニングが」
やめろぉぉぉぉぉ!
トイレの個室に侵入しようとするなぁぁぁ!
確実に事故へと繋がる!
そんな漫画みたいな展開なんてねぇから!
正直俺も起きたら嬉しい気もするが、絶対にやめてくれぇぇぇ!
うわぁぁぁ!落下してきたぁぁぁ!
しかも頭から来たぁぁぁぁ!
強い衝撃と激痛、ほんの一瞬の事に思えた。
気絶していたのはものの数分程度か。
今現在、俺の視界にはいるのは…トイレの壁。
それから若干、視界が赤い。
「痛ぇ…無事か?って、気絶してるのかよ…そりゃ石頭に衝突すれば仕方がないか…これ完全に流血してるな?」
最悪だ…ヘアピンが刺さってやがった。
これって普通に刺さる物なのか?
とりあえずここから出ないと…体小さいのに、きわどいの履いてやがる。
重さ的には軽いが、男子トイレから抱えて出るのも怪しいよな…。
放課後だからか、人自体は少ないのが救いか。
「頼むから誰も来るなよ…この状況はマズすぎる」
誰も居ない、行くなら今か。
「それでさ、家の妹がよ」
「いいじゃねぇか、お前の妹可愛いんだから…家の弟達ときたらよ…」
どうしてこのタイミングで来るんだ!?
俺がトイレから出た瞬間だ!俺に何か恨みでもあるのか!?
取り乱しすぎた、運が悪すぎただけだ。
考えてみろ、流血した男が女を背負ってるだけ。
かなり怪しいな、バリバリ怪しい。
下手をすれば、教師の方へ連絡が言ってしまう。
ここはいつもの…走って逃げる。
そう、俺は走った。
保健室目掛けて、死にものぐるいで走った。
途中、目に流れた血が入ってきたが、走る続ける。
走り続けている間に、俺は保健室の前まで来ていた。
「やっと到着した…やっと開放される時が来た」
扉を開けるも、誰もいないようだった。
仕方ない…とりあえずベッドに寝かせるか。
そう思った俺は、ベッドのカーテンを開けた。
すると、視界には見慣れた人物が写り込んできた。
褐色の艶やかな肌。
その肌は彼女の金髪をよりいっそう引き立てる。
特に美しいのは、ピンク色の下着が見事彼女自身を引き立ててる事だろう。
ここで俺は、黒ギャルも悪く無いとおもってしまった。
「な、ななッ!なんでアンタがここに居るわけ!?てか出て行ってよ!変態!痴漢!暴行魔ゴリラー!」
「すいませんでしたー!」
俺は急いで保健室から飛び出した。
今日はとことんツイてない日のようだ。
タイミングが悪すぎる、何故このタイミングで小百合が居る。
しかも着替えてると来た。
なんだよこのエロ漫画的展開!?
…俺暴行魔とか言われてね!?
新しい犯罪歴つけられたんだが!?
確かに俺が悪かった…確認もせずにカーテンを開けた。
だけどよ…暴行魔ってひどくね?
つかアイツ、暴行魔ゴリラーって、映画の名前じゃねぇか…。
俺ゴリラの脳移植されてねぇよ。
「な…何しに来たわけ?私達…まだ、手も繋いでないのにって!?マコト先輩!?それにアンタ頭から血が!?」
うぉびっくりした!?
いきなり話かけてくるなよ。
「とりあえず入って、詳しい事は後で聞くから早く手当しないと」
彼女はそう言いながら、俺の手を引いて保健室の中へと連れて行った。
頭に刺さったヘアピン自体、そこまで深くは刺さっていないことが幸いだと言われた。
消毒が結構染みたが。
くそ…あの変人と小百合の下着が頭から離れない…。
「ちょっと!傷口から血が噴き出してる!タオルで抑えて!」
どうやら、俺は二次元以外でも興奮するようになってきたようだ。
…ガッデム!
一体俺の体で何が起ってる!?
今までは二次元にしか反応しなかった…特に真射子にしか。
なのに…なのになんで…鼻血じゃなくて頭から血が噴き出すんだ!?
「ところで何があったの?頭にヘアピンが刺さってたけど…もしかして、マコト先輩に手出したんじゃ」
「違う!逆にトイレで襲われたんだよ!個室の壁をよじ登ってきた上に、俺の上に落下してきた…それでこの有様ってことだよ」
なんで俺を軽蔑した目で見るんだよ。
俺は被害者だってのに。
扱いが酷い気がする、気のせいじゃないよな?
あと早く帰りたい…目が覚めたら襲い掛かってくるに決まってる。
いつだってそうだ…気がつけば襲い掛かられる。
安心して日常生活が送れない…どうしたものか。
「今確認してきた…頭にこぶが出来てたから本当だと信じるけど…本当に手だしてない?」
「出してないっての…出してたら蘭華とかどうなるんだよ…正直俺は二次元にしか興味ないんだ…だから基本手はださない…そんな事をしたら姉貴に殺されるからな」
小百合も姉貴の恐ろしさは知ってる、一度経験してるからな。
「お姉さんはやっぱり怖いの?」
「怖いなんてレベルじゃねぇよ…怒らせるなら寿命がいくつあっても足りない…あと言っておきたかったんだが」
ここでしっかりと伝えておかないと。
そうしないと、多分彼女自身もかなりの負担になってるかもしれない。
特に財布に関して。
「実はだな…毎日弁当を作ってくれるのは嬉しいんだが…多すぎるんだ」
やっぱり思っては居たが、落ち込んでるな。
正直罪悪感が凄い。
ここまで悲しい顔をされると、なんと声を掛ければいいのだろうか。
本当に困ったぞ。
なんか今にも泣きそうな顔になってきてる。
考えろ、考えろ俺!
「弁当は凄く美味いんだ!でも量を少し減らして欲しいって話だ、いつも感謝をしてるんだが、お前も色々と負担になってるんじゃないかって心配になるんだよ」
もう少しまともな返しはないのか!?
「私の事を…心配してくれてるの?迷惑とかじゃなくて、私の体とかを心配して?」
「そうだよ…俺も料理をするから分る、あれはかなり大変だ…それも仕込みから入ってるだろ?だとしたらなおさらだ」
無事、理解はしてくれたようなのだが。
何故…何故に泣きながら、抱き締められなきゃならない。
もう状況を考えるのもめんどくさい。
こうやって抱き締められる事になれたんだろうな、俺自身が。
姉貴からは昔から抱き締められてた、今では狂子や蘭華にまで抱き締められる事が多い。
予想外なのが、この小百合から抱き締められた事だ。
「正直…私自身が、どうしてこうしてるのか分らない…でもなんだか、落ち着く…どうして?アンタ何かした?」
いや…俺別に何もしてないんだが。
むしろされてる側なんですが。
もしこの状況を蘭華に見られたら、確実に喧嘩にまで発展する。
どう引きはがそう。
「何をしているのですか?小百合」
「せ、生徒会長!?こ、これはその、なんと言いますか」
「小百合…私を裏切ってハイドを奪った、許さない」
いやだぁぁぁぁぁぁぁ!
また新たな修羅場作るなぁぁぁぁぁぁ!
空気が重い。
小百合とマコト先輩の睨み合いが怖い。
てかなんでお互いに俺の隣に座る、良いじゃん三人並べば。
袖引っ張るのやめて!制服伸びるから!
あと地味に胸とか押しつけるのもやめて!
特にマコト先輩に関してはむなしくなるから!
「では本題に入ります。春咲柘魔さん、アナタは最近真手場狂子の家に行ったという話を聞いたのですが、本当ですか?」
いや…確かに行ってきたけどさ。
何故にそこまで高圧的なの?
俺、何か悪い事でもしましたか?
ただ単に勉強を教えてに行ってただけなんですが。
狂子だけ成果が出なかったわけだけどさ。
「これは立派な不純異性交遊と判断しますが、異論はありますか?」
「あるに決まってますよ。とりあえず、この二人の状況はどう判断するおつもりですか?」
…黙り込むなよ。
「愛神蘭華が毎朝、アナタの部屋から出てくるところが目撃されていますが、まさか同棲を」
「今日、富閖野マコト先輩が男子トイレに侵入してきたのですが…生徒会はどういうことを基準に、校則を考えているのですか?」
「愛があれば全て許される。これは私とハイドに課せられた試練」
アンタが行ったのは立派な犯罪ですから。
既に校則を破りまくってますから。
男子生徒に無理矢理女装させるのもどうなんですかね?
男子トイレに侵入するのはどうなんですかね?
一般性とに蹴りを入れるのはどうなんですかね?
「男子生徒のズボンを脱がそうとするのはどうなんですか?現在進行形で上級生が死に物狂いで脱がしに来てるんですが?」
「ま、マコト!?何をしているのですか!?やめなさい!はしたない!」
この女、本当に油断も隙も無い。
既にチャックとベルトを解除されてしまった。
いつもならかなり自営をする。
前回は立っていたことで、自衛が難しかった。
だが今回は、椅子に座っている事で自衛がしやすい。
問題は…こっちにまで身を乗り出して、よじ登ってくることだ。
最悪なのが、足を首に引っかけて逆立ちする事。
そこまで強く締めてこないのが救いだろう。
俺がこれをほどかない理由、ある意味有利に立つため。
この状況なら、相手も言い訳やらで攻撃が出来ない。
「小百合!はやくマコトを止めてください!」
「わ、わかりま…パンツが…恥ずかしくて、手が出せません!」
なる程、小百合はかなり純情というわけか。
さっきからチャックが全開になった時点で、両手で顔を覆ったからな。
「こんな状況ですが、質問です…生徒会長は何故に狂子先輩に対してキツい対応をするんですか?」
今、生徒会長はある意味、正常な判断は出来ないだろう。
だから、あえてそこを突かせてもらうことにした。
初めて会った時から、狂子に対して取る行動が気になっていたからだ。
まるで長年の敵を見るかのような感じ。
二人の間に何かあることは間違いない、だからこそ知りたい。
いつまでも突っかかってこられるのも困るからな。
「その物言い、真手場狂子本人からは何も聞いていないようですね…彼女の母親である、キャリー・真手場からも」
「何も聞いてませんが?それ以上に狂子先輩が生徒会長を覚えていないようです」
生徒会長はしばらく口を閉じた後、唇をかみしめているのがはっきりと見えた。
強く噛みすぎたのか、血が静かに口元から垂れていく。
「あの女は…真手場狂子は…私、南静子の従姉妹にあたります…彼女は昔から才能に恵まれて、私はずっと比較されて育ってきました…」
生徒会長と狂子が従姉妹同士?
つか今初めて生徒会長の名前知った。
まさか二人が従姉妹同士だったなんてな、そりゃ予想が出来ない。
てかなんで狂子は従姉妹を忘れてるんだよ。
もしかして全然会ってないとかか?
それか生徒会長が知っていて、狂子の方が存在を知らないと言う可能性もある。
元々狂子は子どもの頃に海外に行っていた、だから会うこともなかったと考えるのが妥当か。
「それが何ですか!?今回のテストの成績は!?英語以外赤点なんて、私が知っている真手場狂子は、もっと勉強が出来て、言葉遣いも上品で、まるでお姫様のようで…うへっ」
今、一瞬何か見てはいけない物が見えたぞ。
確信したぞ、この女は蘭華並に何かを秘めている。
狂子に対してのきつい態度、アレは何か大切な意味がある。
軽蔑をしているのではなくて、何か目的があるということ。
「おほんっ!私もお聞きしたいのが、何故真手場狂子、愛神蘭華、大島由美がアナタへ執着するのかを話して頂けますか?」
狂子が執着するって言うより…ただ単に友人として過ごしてるだけなんだが。
前に理由が不明だが、告白された時は驚いたが。
蘭華が執着するのは…前に本を取ってやったときからだっけか。
今では、一人暮らし出来るようにはなってくれたが、料理を教え込まないとな。
由実は別に執着してるわけじゃ…写真撮る為によく突いてくる。
「何か言えない事があるのですか?」
「三人は執着してるというより、友人として接しているだけですが何か問題なのでしょうか?まさか異性による友情がないとかいいませんよね?」
「異性はいずれ異が外れて性に結びついてく、私とハイドのように」
黙っとれ!
「二人も彼にどうして執着するのです?特にマコト、アナタはどうしてそこまでして彼の下半身に執着を」
「静子、私とハイドは元は一人の人間だから仕方が無い事」
「私は…私は…責任を取って貰う為に…私…恥ずかしいけど、初めてを奪われたから」
おいコラッ!表現の仕方を考えろ!
それも涙目で訴えるとか本当にやめてくれ!
明らかに違う意味に聞こえるだろうが!
完全に犯罪者を見る目だよ!
まるでゴミでも見るかのような蔑んだ目!俺は無実だぁ!
それに元々小百合の蹴りから始まったんだ!俺はそれを避けただけだ!
「よく理解しました。アナタは相当な危険人物として認識させていただきます、春咲秋恵先輩の弟と言う事で期待をしていましたが…野蛮な人間だったなんて」
確かに俺は野蛮ですよ。
そこはしっかりと認めます、喧嘩もするし、短気だ。
でもよ、この状況でその対応はおかしくね?
実際迷惑してるの俺の方だし。
なんでそっちが被害者面してるわけ?
もういやだ、この人話聞くタイプじゃない。
見てて分る、自分の意見が絶対に正しい主義だ。
「待ってください生徒会長!確かに私は、乱暴な事をされましたが、今日私の事を気遣ってくれたんです!」
乱暴な事ってあれか?喧嘩か?喧嘩した時のあれか?
お前が元々仕掛けて来たんだろうが!
「小百合、アナタが最近お弁当を渡している事が、校内でも噂になっています…このままでは我々の信用にも関わります、特にマコト、アナタが一番の問題です…どうしてそうまでして彼に拘るのですか?何処に惚れ込む要素があったというのですか?」
そうだ、俺もそれ凄く知りたい。
一体俺の何処に執着すると言うんだ?
俺の何処に何があるんだ?てかどうしてジキルとハイドなんだ?
もう既にそこからが謎過ぎるんだよ。
「前に男子生徒二人を持ち上げている姿を見て、彼が私の探していたハイドだと気づいた」
「たったそれだけの理由で?何か弱みを握られたとか、落ち込んでいる所につけいられたとかではなくて?」
「いい加減にしてくれ!俺は誰一人として手を出していない!勝手な言葉とか並べられても困るんだよ!確かに俺はアンタから見れば野蛮かもしれない!でもな!断じて手を出していないと誓える!」
事実、手なんて出してない。
むしろ手出されてるのは俺の方だ。
今この状況で、どちらか手を出してるかなんて一目同然だ。
被害者は完全に俺!ズボン脱がされてる時点で俺!
自衛まで開始してるんだぞ!いい加減に止めろよ!
小百合も隣で見てないで止めろ!顔覆ってるが、隙間からしっかりと覗いてるのが丸わかりだぞ!
「それを証明する物があるのですか?証言は本人達ので十分取れます、他にも彼女達からも聞き出せばいいのです」
「そうかよ…完全に俺の疑いは晴れないと言う事か…よく分った、じゃあ好きにしろよ…俺を煮るも焼くも好きにな」
否定しても、意味がないことが分った。
だとしたら、抵抗せずになりようになれだ。
「じゃあ今からハイドの子を孕む」
「いい加減にしなさい!アナタはもう帰って貰って結構です!これ以上居座られるとこちらの身が持ちません!」
人を連れてきておいてそれはないだろう。
「そうだ小百合、弁当箱返すから着いて来てくれるか?」
生徒会室を追い出されるなら、ついでに弁当箱を返すのに丁度良い。
教室まではそこまでも遠くない、ただもう一度しっかりと話がしたかったからだ、
多分だが、彼女自身は俺自身に好意とかを抱いている訳じゃないだろうかと思っている。
仕方なく、俺に合わせているのではないかと。
もしそうならば、しっかりと謝罪をしないといけない。
あと、今日下着姿も見てしまったからだ。
彼女自身も相当気にしているはずだしな。
「悪いな、本当は洗って返すのが良いんだろうが」
「いいよ…その弁当箱一つしかないし、返して貰わないと明日の分も作れないから」
俺…量が多いから、少なめで良いって言ったよな?
てか負担が大きいから作らなくても良いんですが。
俺、いつも自分の弁当持ってきてるんですが。
だけど、作ってくるなって言うと泣かれそうだしな。
どうやって断れば良いのだろう、答えが見つかりそうにない。
もうやけくそだ、こうなったらストレートに言うか。
「なぁ…実は弁当なんだが」
「見つけましたよ先輩!どうして私の嫌いなピーマンを入れるんですか!?それもなんで中に大好きな肉を詰めるんですか!?おまけに青椒肉絲もピーマンの比率が多かったです!」
どうしてお前はこのタイミングで来るんだ!?
タイミングが悪すぎるんだよ!あとピーマン残さず食ったんだろうな!?
「何それ…私に弁当作らせておいて…自分は他の女に弁当を作ってたっていうの?酷い、そうやって私に貢がせて馬鹿にしてたんだ…私をピエロにして皆で笑ってたんだ…」
もういや!予想の斜め上過ぎる展開が辛い!
泣き出しちゃったし、蘭華はお構いなしに叩いてくるし。
この状況をどう打開するべきか…ん?
兄か視線を感じた俺は、廊下の方をじっと見つめていた。
覚えのある気配。
俺はタイミングを計り、上履きを投げつけた。
「あだっ!あああああ!私のカメラが!?新調したばかりなのに!?」
やっぱり由実のヤツか。
アイツも最悪のタイミングで登場しやがるな。
しかもこの現場をカメラに収める気だったな。
お前等打ち合わせでもしてきたのか?
つか小百合をなんとか落ち着かせな…痛い!
痛い!蘭華の攻撃が激化してる!
テメェ!何噛みついてるんだよ!?お前は犬か!?
「粗野って私をほったらかして…どうせ私なんて都合の良い女なんだ…」
「落ち着けって、蘭華に弁当を作ってるのにはちゃんとしたリ湯があるんだよ、そうだ、今日家に来て飯でも食っていかないか?その時にゆっくと説明してやるから」
テンパり過ぎたな。
まさか俺の方から誘う事があるなんて。
まぁ、いつも弁当を作って貰ってるからたまには良いか。
礼も兼ねて、蘭華の事も話しておいた方が良さそうだしな。
俺の見たところ、生徒会では小百合が一番まともそうだ。
純粋過ぎるのが気になるところだが。
今日の夕飯はハンバーグ。
姉貴がソースを作り、俺がハンバーグを作る。
その間、小百合と由実と蘭華と狂子と夏美が部屋に待機しているわけだが。
姉貴超機嫌悪ぃ。
そりゃそうだろう、理由は知らないが裸エプロンで待機してたんだ。
狂子以外が引いていたからな。
一体どこから持ってきたんだよ、フリル付きのエプロン。
いつも料理作るときも素っ裸で作ってるだろ。
「タッちゃん、お友達を連れてくるなら事前に連絡をしてくれないと困るんだけど、せっかくの新妻風を演出していたのに」
弟に対して何をしているんだよ、そしてエプロンが小さい。
殆どピチピチだろうが!血が止まったらどうするんだよ!?
今こうして洋服を着てくれてるだけでも良いが、後ろの視線が痛い。
絶対に勘違いされた。
なんか学校で変な噂とかたてられたらどうしよう。
誰がそんな所まで予想が出来るんだよ、
つか元々ここ俺の部屋だし。
姉貴は居候も同然だ。
つか働けよ!余計な物買いすぎなんだよ!
昼間何してるんだよ!?専業主婦か何かですか!?
「ソースが出来上がったわよ、ところで、あのギャルって生徒会に居た子よね?どうして家に来たの?」
「俺が招待したんだよ、毎日弁当を作ってきてくれるんだ」
たまには礼も兼ねて、こちらも何かしないと悪いからな。
元々、俺の部屋は人を招く様な部屋じゃないのは自覚してるけどよ。
引かれる事も覚悟してた、これを見せれば諦めると思ってたんだ。
なのに…なのになんで…引いてないんだ。
むしろ興味津々に辺りを見わたしてるんだよ!?
おかしいだろ!?普通は思いっきり引くところだぞ!
「アンタ誰?なんでタクの家に居るわけ?まさか痴女!?」
「だ、誰が痴女よ!?私はまだ…まだ…うう…」
年下を泣かせるなよ。
「ダメじゃないっすか、この人家の高校の生徒会なんっすよ」
「アンタ達の高校ってどんだけヤバい高校なのよ、生徒会にこんなのが居るって」
「ほらほら、夏美ちゃん、年下を苛めてないでこっちを手伝って」
ナイス姉貴、流石最年長。
これ以上夏美を増長させないようにするためにこっちにこさせた。
ただ…矛先がこちらに向くのが気にくわない。
どうせつれてきた俺に悪態をついて、学校の愚痴、最後に我が儘に発展する。
学校できつく当たられる寄りマシか。
どちらにしろ、晩飯が出来上がる。
盛り付けをして、テーブルに運べば夏美も大人しくなる。
「出来上がったわよ、ソースはデミグラスに和風、激辛スパイスソースと焦がしニンニク醤油、好きなのを選んで食べてね」
「凄い…まるでレストランの料理みたい…」
「柘魔と秋恵さんの料理は絶品だ、私の家のシェフ達に見習わせたい程の腕をしている」
「いつも夕飯をご馳走になってるっすけど、正直これを食べると実家で食べる夕飯が貧しく感じるっす」
褒めすぎだろ、本場のシェフに勝てねぇよ。
それに料理が美味いのは、姉貴が元々料理上手だからだ。
俺はそれを見て、仕込まれただけ。
だとしても、褒めて貰えるのは嬉しいな。
「先輩のハンバーグ美味しいです、私への愛を感じます、このままベッドで私をデザートに」
「それはないから安心しろ」
蘭華のヤツ、油断も隙もないな。
せっかくの美味しい食事も台無しになりそうだ。
小百合のヤツも機嫌が、なんか超泣いてる!?
どうした!?やっぱり食事中の下ネタには抵抗が無さ過ぎたか!?
もしかして口に合わなかったのか!?
姉貴特製の激辛スパイスソースが辛すぎたのか!?
「美味しい…美味しいよぉ…ズルいよ、大島も愛神も…いつもこんな美味しいご飯食べて…愛神はいつもお弁当に入れて貰えて…私なんて、いつも一人で夕飯食べてるのに…」
その後も、小百合は涙を流しながらに食事をとり続けていた。
彼女の姿を見ていると、幼い頃の姉貴を連想させる。
幼い頃、俺によく夕食を作ってくれて、一緒に食べていた。
時折、両親の事を泣きながら食べて居た事を覚えている。
そんな記憶が、彼女を見ていると蘇ってきた。
さてと、小百合のクラスは確か一年のD組だったな。
「ちょっと!なんで一年のクラスに来てるわけ?弁当の催促でもしにき…なにこれ?」
「いつも作らせてるから、たまには俺が作っても良いかと思ってよ…昨日も夕飯を美味そうに食べてくれたのがうれしくてさ」
今日の朝、気がつけばいつもより多く弁当を用意していた。
夏美の分に蘭華の分、狂子の分と俺の分で終わるのだが。
五つ目の弁当箱が一つ増えていた。
俺はそれに疑問を持つことなく、おかずを詰めた。
小百合の弁当を参考に、栄養バランスを考えた内容。
ただ少し、昨日余分に作っておいたハンバーグを入れたけどな。
「馬鹿じゃないの!?私が作ってるのは、私の自己満足であって…別に…見返りとか求めてたわけじゃ」
「じゃあ俺も自己満足だ、俺はただのお節介焼きだからな、蘭華の弁当を作るのは事情があるからだが、お前のは俺がそうしたいからだ、これでお互いに文句はないな?今晩も夕飯が食いたくなったら家に来いよ…いつでも歓迎してやる」
俺は彼女の弁当を渡して、教室を後にした。
後に俺は、校内で三股を掛けている。
夕食を食わせて恩を売る男。
歳違い喰い男と噂が立っていると浩寺から聞かされた。
どうも俺の親切心とかって、裏目にでるんだよな。
狂子と生徒会長が従姉妹同士であるという事実を知った柘魔。
そして小百合を自分の家に招き、夕飯を振る舞う事で二人の仲は少しだけ接近した。
だがこの状況をあまりよく思わない人物が本格的に行動開始する。