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第十話 生徒会室って、想像と違うのね。

放課後に生徒会室へと呼び出された柘魔。

生徒会の目的とは一体。

 それは放課後に起きた事だった。

 いつもと変らずに学校生活を送っていた、はず。


「二年、春咲柘魔君、至急生徒会室へ来てください」


 この突然流れた放送、放課後のクラスに居た者達から集まる視線。

 本当にやめてくれよ…まさか、あの富閖野マコトって先輩の策略か!?

 ヤバいって!あの先輩、俺の事ハイドとか呼んでくるんだぞ!?

 完全にぶっ飛んでるってば!普通人の事をあんな風に呼ばないだろ!

 でも行かないとだしな…どうして生徒会室に呼び出されなきゃいけないんだよ。


「失礼します」


 生徒会室の扉をノックして、開くとそこにはあの二人が偉そうに座っていた。

 やっぱりこっち見てる…それになんかもう一人居る。

 超ギャルだよあれ、ギャル過ぎる。

 レッツギャル!メッチャギャル!ムッチャギャル!ワッチャギャール!?

 もうダメ、ギャルしか目に入ってこない。

 それも超褐色系の子、何あれ?本当に生徒会の人ですか?


「待っていました…そこへお座りください、マコト、お茶を入れて差し上げて」


 いやだぁ!この人が入れるお茶怖い!

 なんか変なのとか入れられてそう!


「生徒会長、この男が本当にあのお方の弟さんなんですか?」

「間違い…ないでしょう…あの目付き、写真と同じ…小百合、例の物を持って来て下さい」


 あのギャル…小百合っていうのか。

 てか何年生だよ!?

 生徒会って全員、三年生なのか?

 そしてどうして…長髪のカツラをこちらに持ってくる?

 ま…まさか俺の頭に取り付ける気か?


「う…動かないで…私、男の人にこういうことするの初めてだから」


 俺も同じだわ!女にカツラ着けられた経験なんてねぇよ!

 つかカツラ自体が初体験だ!

 どうして俺にカツラを着けようとするんだ!?

 つか俺にカツラなんか着けてどうするんだよ!?


「お、俺にそんな趣味はない!やめろ!うぉぉ!?」

「大人しくしてハイド、痛い事とか傷つけたりしないから」


 傷つけないって、俺のプライドが傷つくんですけど!?

 俺自身がかなりメンタルが傷つきまくるんですけど!?


「ピッタリ…だけど…なんか違う?会長…これって化粧してないせいじゃ?」

「許可します。徹底的に近づけなさい」


 許可するな!俺の許可もちゃんと取れ!


「動かない動かない…動いたら口紅が鼻に刺さるから」


 クソがぁぁぁぁぁ!

 もう好きにしやがれ!

 その代り覚えてろよ!お礼参りして、それあれじゃん!?

 睫毛上げるやつ!怖い!姉貴やってるの見た事あるけど怖い!

 やめろ!怖い!目に刺さる!


「これでメイクが完了…こうすると確かに瓜二つ…どういう輪郭してるわけ?」


 手鏡で自分の顔を見せられたが、写り込んできたのは見慣れた顔。

 鏡に写っていたのは、まさしく姉貴の顔だった。

 本当に変りすぎだろ!

 顔面整形レベルだろこれ!?

 周りからも似てない似てない言われてたのに!どうしてメイクとカツラで似るんだよ!?


「次はこちらが用意したこの制服に」

「いい加減にしろよ!?一体何をさせたいんだよ!?俺は女装する趣味なんてねぇ!本当にやめろ!」


 叫んで拒絶したものの、結局は着せられた。

 パッドまで入れられ、スカートまで履かされる始末。

 もうやだ…お家帰りたい。

 つか…鏡を見る度に、自分が姉貴のドッペルゲンガーに見えてくる。

 もうそのレベルで似すぎて怖い。


「ハイド…とっても綺麗、流石私のハイド」

「だからハイドじゃないって…つかどうして俺を姉貴に改造するんですか?」

「アナタのお姉様から聞いていませんか?あの方はかつてこの生徒会室で猛威を振るった最強の生徒会長という話を」


 最強の生徒会長だと?

 喧嘩最強までなら知ってるが、生徒会最強とか初耳だ。

 そういや昨日、何をしたのか聞こうと思って忘れてた。

 酔っ払ったら手が着けられないし。


「昨日の電話で確信しました、アナタはあの最強の生徒会長、春咲秋恵様の弟…マコトから聞いていた話にも納得がいきます、小百合、アルバムをこちらに」


 生徒会長から見せられたアルバムは五年前のもの。

 姉貴が写っているのも当たり前か。

 しっかし…姉貴変ってないな。

 髪型以外が全部同じだ。

 …生徒会メンバー、全員キャラ濃いな。

 …このカツラ、写真と同じ髪型だ。

 一体いつから用意してたんだよ…。


「…何が目的で、俺にこんな恰好をさせたんですか?」

「ハイドが本当に弟か確認をするため、実際に確認して弟だって証明したから釈放」

「アナタのお姉様はこの生徒会で新たな時代まで創り上げた救世主、そして暗黙のルールを建設しました…私が昨日引き下がったのもそれが理由です、先代の生徒会長の命令は絶対というのがアナタのお姉様が創り上げたルール」


 暗黙のルール…か。

 正直…どうして俺を女装させて確認したのか理解に苦しむな。


「私達はアナタのお姉様のような、素晴らしい生徒会を作る事を目標としてきました…この学校で一番の成績を残したあのお方を、私達は目標としているのです」


 別に目標にしても構わないが…俺、関係なくね?

 俺、弄られ損じゃね?

 酷くね?俺結構傷ついたんだけど。

 あとそろそろ帰りたいんだけど、俺何処でメイクとか落とせばいいわけ?

 制服も返して欲しいんだけど。


「気が済んだのなら帰っていいですか?あと化粧落としたいんですけど」

「…やばっ、メイク落とし忘れてきた…会長どうしよう」


 会長どうしようって、テメェふざけんな!?

 なんだ!?俺にこのまま返れってか!?

 筋肉もりもり過ぎてバレるだろうが!

 生徒会長も若干青ざめてるじゃねーか!?


「だ…大丈夫でしょう…多少筋肉質といえ…どちらかというと細めですし…足もすらっとしてますから」


 今俺のコンプレックスに触れたな!

 俺の気にしてる細腕とか!細腕とか!細足とか!細腕とか!


「そうですか…じゃあ制服を何か袋に入れて貰えますか?後で制服返しにくるので…流石にメイクしたままで男子制服とかきれませんからねぇ」


 流石は姉貴の顔…迫力が違うのか、スゲぇビビってる。

 後で制服返しに行ったとき、この状態で来たら面白い事になりそうだな。

 姉貴連れてきたら、怖さ二倍か。

 …それ以前に姉貴になんて説明しよう…この状態。


「待ちなさい!小百合、急いでメイク落としを買ってきなさい!」

「は、はい会長!」


 小百合とか言う女が生徒会室を飛び出して行った。

 さてと…正直、今すぐ帰りたい。

 帰るにはこの恰好で逃げるしかない。

 逃走に関して、走るスピードは自身がある。

 ましてや今はスカート、もしかすると風の抵抗がないかもしれない。

 多分制服のズボンより足が開くかもしれない。

 となれば…隙を突いて突破する。


「ジキル…悪いが、トイレに行かせてくれないか?」

「私の事をジキルって…思い出したの!?ハイドのお願いならなんでも」

「ダメです!マコト!彼は逃げる気」


 生徒会長が叫んだ時には遅い。

 俺は真っ先に走り出し、扉を突破していた。

 扉の先には先ほどの小百合と狂子、そして蘭華が揉み合っていた。

 放送を聞いて待って居たのか?

 だが、今この姿を見せるわけにはいかない。


「あ、ちょっと!?まだメイク落としてないんだから!」

「小百合!早く捕まえてください!彼に逃げられたら私達が危険に晒されます!」

「な、なんだ!?柘魔がいるのではないのか?」

「ふぇ?先輩じゃない?」


 やはり、まだバレてない。

 このまま、走り去る!

 廊下を走るのは良くないことだが、緊急事態だ。

 一気に廊下を走りながら、階段を飛び降りる。

 ただ…ここで幾つかの誤算が生じた。

 まずその一つと言うのは。


「私から逃げられると思ってるわけ?運動神経に関しては私に敵う相手は居ない、覚悟ォォォ!」


 そう、あの小百合とかいうギャルはかなり運動神経が良かったようだ。

 かなりの猛スピードで走ったはずが、階段で取られた数秒の間に追いつかれた。

 そして驚いたのは、階段から跳び蹴りをかましてきたことだろう。

 羞恥心を捨ててるのか、あるいは姉貴に対しての恐怖心が強いのか、心境は本人しか知らないだろう。

 ただ空中からの攻撃なら避ける事は出来る。


「くそ、避けられた!逃げるな!」


 階段の踊り場と言う狭いスペースで繰り出される連続蹴り。

 避ける事は容易いが、先ほどからパンツが丸見えなんだよな。

 ここで俺は相手に対して煽る事にした。

 俺自身も、錯乱していたのだろう。

 手を叩き、パンッと音を立てた後に指でツーを作った後、指でまるを作り敬礼をする。


「戦いの最中にふざけんな!」


 ふざけんな?それはこっちのセリフだ。

 こんな恰好までさせられてよ。


「さっきからシマウマを見せつけてくるけどよ、もう少し自分を大切にしようぜ?」

「この変態女装野郎がぁ!」


 言いたい放題だな、俺は別に悪いとは思っていない。

 いいや!むしろ俺は被害者だ!

 女装はさせられる!パンツは見せつけられる!その上で変態呼ばわり!

 理不尽にも程があるってものだ!

 ただ相手も運動神経は確かにいいようだ、蹴りも結構重いが、姉貴のに比べればアリにかまれた程度だ。

 喧嘩は楽しいが、狂子と蘭華が来る前に決着を付けたいな。

 …やっぱり逃げるか。


「あ!待て!だから逃げるなっての!」


 再び階段から飛び降り、全速力で走る。

 恐らく同様に飛び降りてくるはず、その隙に出来るだけ突き放す!



 生徒会室から脱走をして、一時間近くが経とうとしていた。

 校内放送が数回、小百合って女が数回ほど廊下を通過。

 このままでは、校内からの脱出は困難極まりない。

 ましてや、他生徒からの発見される可能性だってある。

 恐ろしい事態だぜ、全くよ。

 もし誰かにバレたら…俺の高校生活が完全に終了する。

 とりあえず…姉貴にメールを送って救援を呼ぶしか。


「あれ?秋恵さんじゃないっすか?」


 声のする方を振り返ると、由実の奴が手をふってこちらに近づいてくる。

 まさか…どうしてこのタイミングでお前がくるんだよ!?

 とりあえずここは、安定の逃げるか。

 俺が廊下を曲がろうとした瞬間、向かいから小百合が歩いてくる。

 そして逆からは由実が近づいてくる。

 この中で出てくる選択肢は二つ。

 由実を捕まえて隠れる。

 廊下に飛び出して、再び追いかけっこをするか。

 前者にするか。


「え?秋恵さ、むぐっ!」


 彼女の口元を抑え、理科室に逃げ込む。


「落ち着け由実、俺だ…訳があって追われてる、恰好の事には絶対に触れるな…手離すが大声だすなよ」

「…ぷはぁ!…先輩、どうしたんっすか?もしかして女装にめざめたとかっすか?」


 コイツ…触れるなって言ったのに…。

 だが蘭華に見つかるより断然マシか。


「生徒会で改造された…姉貴の弟かどうか確認をするためらしい…信じられるか?」

「信じるも何も、驚きしかないっすよ…殆ど女性にしか見えないっすもん、それもまんま秋恵さんじゃないっすか、整形でもしたっすか?」


 言えてる…本当に整形レベルで違う。

 多分性別で雰囲気が違ってくるのだろうが、パーツ自体が元々同じなのかもしれない。

 これは驚きの事実だろう。

 正直俺も驚き過ぎて、頭混乱したレベルでそっくりだ。

 双子と言っても通用するだろうな。


「胸に何詰めてるんすか?スカートの下も変えてるっすか?やはりブラとかも」

「黙れ、アイアンクロー喰らわせるぞ?今の俺なら通常の三倍の火力を出せる気がする」


 いや、マジの話で火力三倍出せそう。

 多分姉貴の雰囲気があるから、火力が相当出せるんだろうな。

 あれだ、フ○ーザ的な感じで第二形に変化とか。

 もしかしたら今の俺の戦闘力は、53万くらいあるんじゃないか?

 扉とかを素手で貫通とか出来たり…。


「先輩…何をする気っすか?まさか扉をぶっ壊すとか」

「いや…なんか姉貴の格好してたらいけそうな気がして…無理かな?」


 ん?なんで由実、顔を赤くしてんだ?

 まさか理科室が寒すぎるとかか?

 だが別にそこまで寒くはないよな?夏だし。

 だけど妙に顔が赤いのが気になる。


「どうかしたか?顔が赤いぞ」

「なんというか…今の先輩、可愛いっす…女子として羨ましいくらいっすよ、なんでそこまでのレベルになるっすか!?やっぱり遺伝っすか!?ずるくないっすか!?」


 ちょっ!大声だすなよ!

 生徒会の奴等に見つかるだろうが!


「ハイドみ~つけた、もう逃がさない」


 突如背中に何かが張り付いた。

 驚き過ぎて声が出なかったが、変わりに由実が悲鳴を上げた。

 びっくりした俺は理科室を飛び出し、廊下を爆走する。

 背中にはしっかりと何かが張りついてる。


「逃がさない、このままどこまでも着いていく」

「お前は悪霊か何かか!?いい加減に離れろぉぉぉぉぉ!」


 気がつけば再び階段を掛け上がり、廊下を曲がる。

 すると前方に蘭華が居たので、華麗にUターンを決める。

 多分気づかれたかもしれない。

 だって後ろから蘭華の声が聞こえてくるから。

 追いかけてきてるんだろうな、つか股が超涼しい。


「ヤバい…疲れてきた…もう体力が限界だ…」


 畜生…なれない恰好のせいで体力を使いすぎたか。

 俺は体力が底を尽き、転んでしまった。

 よくここまで逃げたものだ…自分を褒めてやりたいよ。

 だが…どこまでも逃げてやる。

 体力が尽きても…体が動くなら逃げてやる。

 そう…ターミ○ーターのラストのように、体を引きずって進んで行く。


「絶対に逃がさない…子ども沢山作ろう」


 いぃぃぃぃやぁぁぁぁだぁぁぁぁ!

 俺には、ロリに対する趣味なんてねぇんだ!

 狙うなら浩寺の奴にしてくれ!俺は嫌だ!


「ねぇ…何あれ?」

「三年の富閖野先輩だよね?生徒会の」

「でもあの張り付いてる人誰?あんな人ってうちの学校に居た?」


 やべぇ…見つかった。

 顔までは見てないが…声からしてクラスの女子じゃない。

 だが、今の光景は異様でしかない。

 小さい女を背負った女、それも地面を這いずっている光景。

 あ…今誰か写メ撮ったな。


「先輩!先輩!先輩!離してくださいこの泥棒猫!先輩は私のものなんです!」

「違う!ハイドは私の半身!お前こそ私からハイドを引きはがそうとする愚か者だ!」


 背中が軽くなった?

 もしかして剥がれ痛ぇ!

 踏んでる!このアマ!人の背中を踏みやがった!

 地団駄までしやがって!ふざけんなっての!


「馬鹿!先輩の赤ちゃんを産むのは私なんです!プロ野球チームが出来るぐらい産むんです!ソロモン72柱ぐらい産むんです!私と先輩は悪魔になるんです!」


 お前、一度病院行って来いや!

 どうやったら人間がそんな子ども産めるんだよ!?

 72人とか化け物か!?

 それに俺は悪魔になるつもりもない!名前に同じ魔がつくけどよ!

 あと子ども産むとか言ってるけど、俺二次元にしか興味ないから!

 今の恰好からしてお前等、危ない人にしか見えないから!


「人間が子どもを72人も産むなんて不可能、悪魔になると言っても何になる気?」

「私は先輩が、いえ、柘魔が望むのであればエキドナでも!リリスでも!グレモリーでも!ジャヒーでも!タローマティでも!」


 …もう限界だ。


「悪魔博識蘭華ちゃ~ん?いい加減その女を退けろ…さもないとアイアンクローの進化版、俺お手製のデモンズクローを決めてやるぞ」

「退けます!今すぐ退けます!だから!だから私に決めてください!いっそのこと抱き締めながら締め上げてください!」


 やっと開放された…。

 ただ蘭華の要望は聞かない、むしろ聞いたら駄目な気がする。

 まさか蘭華の奴、Mに目覚めたとかじゃないよな?

 それはそれで困る。

 ただでさえ家に居候してるんだ…それも暴走までする。

 加えてMに目覚められたら、手が着けられなくなりそうで怖いじゃないか。


「こ…これはどういう状況だ?蘭華と子どもが喧嘩をしている…更に女生徒に踏みつけられたような跡が…」

「真手場先輩、これっすよ…この女生徒が春咲先輩っす、大分弱ってる様子っすけど…生きてるっすよね?」


 生きとるわ!勝手に殺すな!

 だがこれは好機じゃないだろうか?

 今、相手は一人。

 対してこちらは三人に増えた。

 あまり見せたくはないが…ここまで来たら諦めるしかないな。

 なんとか立ち上がり、二人の前に姿を見せる。


「本当に…柘魔なのか?どう見ても秋恵さんにしか見えないが」

「そうなんっすよ!先輩のお姉さんにしか見えないんっすよ!先輩の肉体は一体どういう構造をしてるんっすか?」

「お前に言われたくねぇよ…それよりだ、俺今から逃げるんで、また後で」


 この場から逃走しようとした瞬間だった。

 突如後ろから殺気を感じ、しゃがむとカツラすれすれに何かがぶつかりそうになる。

 勢いで後ろを振り向くと再び、シマウマが視界に写り込んできた。

 このシマウマは、小百合か。

 学習をしていないのか?あるいは見せたがりなのか?

 どうでも良いことだが、とても罪悪感に狩られてきた。

 相手も気づいたのかスカートを抑えてきたが、前者のほうだったか。


「死ね変態野郎!」

「だーかーらー!お前が見せて来てるんだろうが!」


 二度目の蹴りを避けつつ、逃げる手段を考える。

 現在、俺は姉貴と同じ姿でいる。

 つまりは攻撃力はアップしているはず。

 もし相手を殴れば、俺は絶対に後悔する。

 蹴りを入れても同様後悔する。

 暴力は無し、攻撃はあくまで防御手段だけ。

 最悪、腕を軽く捻り挙げて黙らせる。


「ここは私に任せてくれないか?状況は知らないが、柘魔が危険にさらされてるなら、黙っていられない」

「それじゃあ私も手伝うっすよ、パンツの写真を撮ればお小遣い稼ぎになるっすから」


 そう言うと狂子は腰から銃を、由実はカメラを構えだした。


「じゅ、銃!?お前!そんな危険な物を持ち込んで!犯罪だぞ!?」

「犯罪?アメリカでは普通に持ち歩いていたのだが…柘魔、学校にこれを持ち込んじゃダメなのか?」


 そりゃ常識的に考えてだめでしょう。

 まず学校に不要品を持ってくる時点での話だが、今は感謝するか。

 おかげで小百合の後ろに回り込む事が出来た。

 あとは、腕を軽く捻りあげるだけ。


「痛い痛い!やめて!暴力反対!サイテー!」


 暴力反対って、どの口が言うんだよ。

 散々人に蹴りを入れてきたくせに。


「先輩先輩、しっかりと抑えてくださいっす!これからパンツの写真を」

「いやぁ!やめて!離して!お嫁に行けなくなる!」


 由実の奴がカメラをスカートの下に忍ばせ、シャッターを押した。

 悲鳴を上がるが、俺は手を緩めていない。

 逃がしたら攻撃を受けるかもしれないからだ。


「由実…お前がカメラで撮ったのは、俺のトランクスだ」

「うぇ!?マジっすか!?うわぁ…本当にトランクスしか映ってないっす…超早業っすね」


 若干引き気味で言う由実。

 まぁ…男のトランクスの写真なんて面白くもないよな。

 今日のトランクスは無地な訳だし…漫画みたいなハート柄でも履けば良かったか?

 しかしだ、これはあくまでも小百合に対して情を掛けたに過ぎない。

 真射子が言っていた、どの男も女を守れるようになるべきだと。

 例えそれが敵だとしても、相手が抵抗出来ない状態ならなおさらだと。


「え?パンツ…撮られてないの?」


 涙声…もしかして怖かったのか?

 俺も相当、感覚が麻痺して来ちまったか。

 狂子と蘭華との生活、アレが原因だな。

 普段からパンツとか見せられてるし…裸まで見慣れてるからな。

 本当に困りものだ…一番の元凶は姉貴なわけだが。


「行けよ…生徒会長に言っとけ、俺にこれ以上関わるなって」

「その必要はありません…私達はこれ以上アナタに関してはこれ以上何かをする事はありません…これでよろしいでしょうか?」

「そうねぇ…あとは私の大切な弟?今は妹でも良いけど、土下座くらしても貰わないと気が済まないと言うか、全校生徒の前でスライディング土下座&毎日タッちゃんへの挨拶を欠かさないというなら、許してあげてもいいかしらね」


 俺達の前に姿を現せた生徒会長。

 その隣には、我が姉が君臨していた。

 俺…まだ連絡すらしてないんだが。


「生徒会もすっかりと墜ちたものね、まさか先代の生徒会の弟に手を出すとは思ってもみなかったわ」

「こ、これに関しましては…申し訳ございません」

「このお方が本物の春咲秋恵様…なんと神々しいお姿」


 神々しいって…家では全然違うぞ。

 素っ裸で生活するわ、人がテレビを見てれば目の前で牛乳飲むわ。

 ケツ掻きながらポテチ食うわで想像をぶっ壊すぞ。

 何より一番の悩み、それは裸エプロンで料理をしてくるところだ。

 酷い時はその恰好で食事まで取るからな。


「姉貴…一体どうしてここに?」

「女の勘よ、というのは冗談で、狂子ちゃんから連絡が入ってね、タッちゃんが生徒会に呼び出されたと聞いて直ぐに駆けつけたの」


 そういうことだったのか。

 姉貴が来たと言う事は、相手には勝ち目がない。

 なんせ昨日の電話で、あれほどビビっていたからな。


「タッちゃん、今日のところはその姿で帰りなさい…私の鍛え方が足りなかったようだけど、一応は罰ね…あとは三人とお話があるから、お姉ちゃん少し帰るのに時間掛かるから、夕飯は食べておくのよ」


 俺には分るぞ。

 姉貴のキレ具合が、ハッキリと伝わってくる。

 ブチ切れムッカムカの状態だ。

 下手に刺激でもしたら…全滅確定。

 ここは従うしかないか…喋らなければ、きっと男だとバレない。

 だって今、姉貴そっくりの格好だしな。

 バレない自信の方が強い。


「分ったよ…あまり遅くなるなよ」


 その日、俺達は学校から帰り、珍しく蘭華と狂子が夕飯を作ると言うのでご馳走になることにした。

 どうしてそんな事を言い出したのかは知らないが、蘭華の料理は結構美味しかった。

 問題は狂子の手料理、暗黒物質が誕生してしまった。

 彼女曰く、ムニエルを作ったらしいのだが、これはどう見てもムニエルの姿をした炭にしか見えない。。

 今度料理を教えるか。

 あと夏美が部屋に来て馬鹿にされたのも、イラッとくる。

 確かに見た目が違い過ぎる、だからって転げ回る事は無いだろ。

 こっちは元の姿に戻りたい、なのに姉貴からメールが来て返るまでこのままで居ろと言われてるんだ。

 その後、姉貴が帰ってきたのは十時近くになってからだった。

 次の日、学校ではある噂が立っていた。

 放課後の校舎に、謎の美少女が現れたとかいう話らしい。

 しかも写真が結構出回っているが、明らかに俺の写真だ。

 全力疾走してる姿に、隠れてる姿、他の生徒からもバレない様に振る舞う姿まで。

 写真撮られていたのか…クソが。


「春魔、これって秋恵さんだよな?どうして校舎に?」

「訳ありだ…それ以上追求するなら、姉貴が襲来してくるぞ」


 青ざめる浩寺、ある意味滑稽だな。

 しっかし、バレてないのが幸いか。

 もしもバレてたら、笑いものにされるだろうな。


「は…春咲君?お客様が来てるけど」


 お客様?

 狂子なら教室に入ってくる。

 となると、蘭華か由実辺りか?

 入り口の方を振り向くと、そこには意外な人物が立っていた。

 褐色系の肌、少しきつめの目付き、小百合だ。

 なぜここにいる?まさか昨日のリベンジとかか?

 いや、決めつけるのはよくないな。

 もしかしたら、昨日の謝罪かもしれない。


「な、何かようか?」

「…これ!早く受け取って!」


 目の前に突き出されたのは、弁当箱か?

 結構デカいな…あの正月とかのおせち料理を入れるヤツじゃないのか?


「せ、せ、責任を取って貰うから!」


 責任?俺何かしたっけか?

 まさか腕を捻り挙げたって理由で、傷物にしたなんて言い出す気か?

 ありえる…最近はそういう連中ばかり集まってるから。

 つか大声で責任とって貰うとかいうな!

 周りの視線が超痛いだろうが!ざわついてるだろうが!


「責任って…俺何かしたか?昨日の一件なら、お前が先に攻撃をしてきたから」

「ぱんつ…私の…私のパンツを何度も見ただろ…恥ずかしかった…今まで男に見られたのなんて、初めてだった…私の初めてを奪ったんだから!ちゃんと責任を取れって言ってるんだ!これ受け取れ!」


 そう言って、小百合は走って言った。

 今までは核兵器並のを落とされてきたが、今回は隕石レベルだ。

 ハァ…また余計な誤解が発生してきた。

 狂子と蘭華に二股を掛けてるやら、幼馴染みが居て三股疑惑。

 そして今回は無責任男の噂でも立てられるのか?

 学校中退しようかな…真面目な話。


「また厄介事が起きたか?お前も大変だな」

「全くだ…この弁当一人で食い切れるかって」


 かなりの量が入った弁当箱。

 昼に食べるが、本当に食べるのが大変そうだ。


「…あの女、確か一年の錦山小百合(ニシキヤマコユリ)だよな?これで生徒会二名から目を付けられたわけか、頑張れよ春魔、ハーレム目指せ」


 俺は浩寺の溝に、一発だけ重いブローを入れ椅子に座った。


まさかの生徒会の一人から責任を取るように言われてしまった柘魔。

彼は混乱し、頭を抱え始めるのであった。

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