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【26】岩窟に訪れる朝

 魔物はあちこちで目撃された情報はあったものの、それも最近ではすっかりなくなっていることをニルカによって教えられた。


 行方知れずの守護獣か……。


 私は岩に囲まれた空を見上げると外は薄暗くなってきていた。広場も陰ってきて表情を確認するにはなんだか頼りない。


「火を起こすごろん」


 枝や乾燥させた草をかき集めてきただろう小さな山は広場の中心に置かれ、火をつける。


 ボタルンの石を打ちつける様はかなり手慣れている。


 もくもくと煙が上がり始め、しばらくして橙の揺らめいた炎によって岩窟の中は明るく灯された。


 温度を感じさせないニルカの顔が照らされる。


 後ろに影を作りながら、神妙な面持ちだったニルカは他愛もない話へと話題を変えた。


 柔らかな表情でボタルンを見やり、時間も忘れるぐらいにお互いに昔話やら近況で盛り上がっていた。


 私は蚊帳の外状態だったけど、もしかしたら守護獣の手がかりになるかもしれないと会話を聞いていた。だけどただ眠くなっていくだけだった。


 ふぁ……、と口を大きく開いたところをニルカに見られてしまう。


「眠くなってきましたか?」

「ああ……うん」


 ニルカが城でどんな風に過ごしていたかとか、私がレイアの元で剣の修業をしていてそうなったいきさつだとかはともかくとして、それ以外の内容はあくびが出てくるだけだった。


「ちょっと休むよ」


 そのまま倒れ込むように上半身を敷物につけようとしたけど、待っててごろんとボタルンがまた何かを引っ張り出してきたんだ。


 敷物と同じく草で編み込まれたお手製の掛け物を、私にひらりと掛けてくれた。


 お世話係さながらの気配り心配りである。


 青々とした草の香りがとても心地良い。


 少しうとうとしていたものの、優しい匂いに包まれたおかげかさらに眠気に襲われてきた。


 目を閉じゆっくりと眠りに落ちていく中で、ニルカとボタルンの話し声が聞こえてきた。


 きっとまだ積もる話があるんだろうな。


 すうっと意識が吸い込まれていくのを感じながら、私は次の日の朝を迎えることとなった。



 どれくらいの時間が経ったんだろう。目を覚ますと空は朝焼けの色をしていた。


 あっという間にも感じるのも、気が張って疲れていたせいもあるかな。慣れない場所でも意外と熟睡できるものだ。


 でも、頭がまだぼんやりして睡眠を欲している。


 岩窟の外からは鳥のさえずりが聞こえてきて、いやがおうでも一日の始まりを告げられる。


 目を擦りながら辺りを見渡すと、火が消され残された灰の脇でボタルンとニルカが静かに寝息を立てていた。


 起こしちゃいけないよね。


 壁を見るとニルカの剣がベルトにつけられたまま立てかけられている。


 私はそっと立ち上がって、その剣のあるところに近寄ってみる。


 ニルカは同じ技を使えると言っても、その威力は私が放つそれよりも強力なものだった。


 ラウゴ村で一撃で相手を仕留めたのだから。もし私が同じ技を繰り出しても同じようなダメージを与えられなかったかもしれない。


 それは腕力や体格の差のせいもあるかもしれないけど、もしかしたら使っている武器に違いがあるのかとも思えた。


 単純に私が使っている剣よりも刃が長く、技が大きくなると考えれば納得がいく。


 でも、興味はさらに特徴的な形の柄に向けられ私は思わず剣に手を伸ばしてみる。


 指が鞘に触れたか触れないかの瞬間、


「何してるんです?」


 びくうっとして背中に戦慄が走る。


 振り向くとニルカの顔が私の至近距離まで近づいていた。


 わずかな音も立てずに背後に忍び寄り低い声でささやかれたら、それは恐ろしさ以外の何者でもない。


 冷徹なニルカの姿に血の気が引いてしまいそう。


 時折見せる、優しい表情とはかけ離れた凍りつかせるような目つきに私は固唾を呑む。


 口がぱくぱく開いて、


「どんな剣を使っているのかなって気になって」


 やっと言葉を発した。


 こわばった頬を緩めたニルカは緊張をほどくように息を吐き出した。


「どこでも手に入れられるような普通の剣ですよ」


 身体の力を抜いた様子に私は安堵したけど、ニルカは視線を逸らしたままだ。


 まずいことしたかな……。


 そして、ニルカは私が触ろうとした剣が差されたベルトを肩からかける。


「油断して剣を置いてしまったのが間違いでしたね。これが敵だったら……」

「な、に言ってるの? そんなわけないじゃない」


 やっぱり思わぬ誤解を与えてしまったって、ため息を吐かれて気づく。


 本当にそんなことない、断じてない。


 どうしてそんなに怪しむような目を向けるの?

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