【2】双剣の使い手2
「まだまだ……ね」
目の前の女性は口元を緩やかに上げて微笑む。
「今日はいけそうな気がしたのに!」
私は悔しさでいっぱいだったが、半分はやはり敵わないといった事実を噛み締めていた。
「でも、いい筋してるわ。私が教えてまだ数ヶ月だもの」
そう言葉をかけられると私は安堵した気分になる。
というのも、教えてもらう前はすぐに剣術を習得してみせると私は豪語していた。しかし、稽古を受ける度にその自信は失速していく。
初めの頃などは鞘で滅多打ちをくらい、精気を口から出しながら壁にもたれかかり、心身ともに打ちのめされた。
それを幾度か繰り返した後、やっと指南役の攻撃を防ぐことができた。そして、剣を交えるようになり攻めに転じることもできるようになり、現在に至る。
何度倒れかけそうになったことか。
それでも、時折投げ掛けてくれる励ましに奮起し、意気込む気持ちに満ちてくる。
降下していった自信もみなぎってくれば、それはもちろん振るう剣にも表れる。
そんなわけで、指南役の想像をはるかに上回り、私の腕前は上がっていった。
剣を教えている女性はレイアという、一国の王子の護衛も務める腕の立つ剣士だった。と同時に王子に剣を学ばせる指南役でもあったのだが、とある理由をきっかけに私にも教えていた。
私の名前はノア――。
生まれた土地を離れることとなり、はるばる今いるディーグル国にやってきて住んでいるのだが、事情はそれだけではない。
「いい? あなたに教えている剣術は王子に教えているのとは違うもの」
レイアは諭すようにそう告げた。
「違う剣術だけど、王子が習得しているそれにも匹敵するものよ。これを教えるのは、あなたも私と同じ、生まれた地を失い全てを失った者として、あなたにはこれから真っ直ぐに歩み続けて欲しいから」
私はそれを胸に刻み込むようにしてうなずく。
剣術にもいくつかの流派が存在して様々な心得があり、その信念を持ち続けるために技術的な強さ以外のことも教わることとなる。
レイアが伝授するのは、剣術の使い手自身が森羅万象に通じる心を持ち、自分の居場所を確立し道を切り開いていくというものだった。
もちろんそれも大事だったが、私には別の気持ちも渦巻いていた。
もっと強くなりたい……魔力がない今の私だからこそ。