腹減った
思いついたのでとりあえず書いてみた、その2です。
・・・・・・・・・腹減った・・・・・・・・・脚に力が入らなねぇ、そろそろやばいか・・・・・。
一昨日に教会の炊き出しで野菜クズの煮込まれた薄っーいスープと硬いパンの欠片を二つ程食べてからは
スラムのゴミ捨て場でなんかの骨の欠片をしゃぶったのと腐りかけの野菜のきれっぱしを口にしただけだ。
次の週末まで教会の炊き出しはないし、街の防壁のレンガ運びの仕事もしばらくはないみたいだ。
魔物が増えてきてて日雇いの大人たちは畑の見回りの方に行ってるみたいでスラムの子供が出来る仕事なんて
今は何もない。
・・・・・・・・・「はぁ~・・・・・」しょうがねぇなぁ、山の方に行ってなんか食える物探さないと炊き出しまで
持ちそうにないか。
そろそろ木の実か山イチゴがあるかもしれないし、それがなくてもなんかしら食える野草があるだろうし・・・・・
ちょっとばかし山犬やゴブリンが怖いけど増えたっていっても畑の方に行くだろうしな・・・・・。
あいつら草とか食わないから奥まで入らなきゃ山裾なら大丈夫だろう、きっと・・・・・。
ああ、俺の名はガキ、そう呼ばれてる。平たく言えば名前のないスラムの孤児だ。
8歳くらいらしい、いや 記憶があいまいでよく判らないってのが正直な所だ。
親は当然いない、孤児ってやつだからな。父親なんかは顔も名前も知らない、気づいた時には
母親と二人でスラムに居た、が その母親も二年程前に死んでしまった、病気とほとんどの食べ物を俺に食わせてた所為だ、ガリガリに痩せて、朝起きたら冷たくなってやがった。
笑えねぇ、当時6歳程度のガキにはどうしようもない、それこそ墓すら作れず住んでたボロ小屋の地面を必死で掘って母親を埋めて、自分が持ってた唯一の宝物のちょっと綺麗な石を積んで花を置いて、そしてそれが精一杯だった。
生き延びて稼いでいつかまともな墓を作ってやる、だからまだ死ねない、なんか食う物を探さなきゃな。
腹が減って足がふらつくけどしょうがない、スラムから北に向かえばでこぼこの草っぱらを越えて
二時間程で山裾につく。
ふらふらと足を引き摺るようにして何とか山裾にたどり着いたのはいいけど、もう昼を過ぎてる。
急がないと帰る頃には夜になっちゃう、流石に山で夜を過ごすのは怖いし、危なすぎる。
早いとこ 食える物を見つけないと・・・・・。
一番嬉しいのは山イチゴか、名前は知らないけど木に生ってて赤くて甘いやつ。
だけどまだやっぱり時期が早かったのか、小さい青い山イチゴを少し見つけただけだった。
それでも何もないよりはましだし、多少は減った腹を誤魔化せる。
もうちょい下草の濃い辺りに行けば食べれる木の根がたまにあるんだよなぁ・・・・・。
その時の俺はただ腹が減っていて、いつもなら入らない暗い緑の濃い所へと少しづつ進んで行ってたのに自分では気付かずにいた。
右側は緩やかだけど沢に続く崖になってて食えそうな物は見当たらない。
左側は立ち枯れた木があって他の場所より下草が濃い、ここら辺りになら食える野草があるかもしれない。
柔らかい先っぽならなんとか食える野草を見つけて苦渋いのを我慢して飲み込む。
もう少し腹に溜まるものがないか、食い物以外のことなんて考えられなくなっていた俺はただ夢中だった。
そうして下草を掻き分けて、蔓に幅の広いギザギザの葉が生えている食べれる木の根のやつを探してた俺は
ずっと地面の方ばかり見ていた所為でそいつに気付くのに遅れてしまった。
フッ フッ フッ っとその鼻息が聞こえた時にはもう逃げるには距離が近すぎた。
山犬だ! でかいっ 口から涎を垂らしつつ俺をじっと見ている、あ~ アレは絶対俺を喰う気だ。
おっ俺なんてガリガリで喰う所なんてないって、来るなっ こっち来んなってば~ ああああああっ
じりじりと近づいて来た山犬は一瞬姿勢を低くした後に、俺に向かって飛び掛ってきて
そして、俺は山犬を避けようとして身体を捻り逃げようとした。
踏み出した足にはなぜか地面に着く感触はなく身体は傾いていく。
結果的に俺のその行動は成功し山犬は俺の頭の上を跳び越して行った、なんで上?って思ったさ。
崖側に踏み出してしまったのに気付いて(ああ、なるほどねぇ)なんて思いつつ
崖をゴロゴロと転がって落ちて行き、何度かガツンッゴツンッと途中の木やむき出しの岩にぶつかって
やっと止まった、身体中が痛い、頭を思いっきりぶつけた様な・・・・・・。
・・・・・・・なんか顔に垂れてきてる・・・・・・ 額の右? から冷たくはないけどドロッとした感触が
瞼の上を通って頬から首筋へと伝わってくる。
ぼんやりとしつつ、左目を開けると ズキンッと後頭部が痛い。
アレッ? 俺どうしたんだっけ? えっと・・・・・そうか山犬に飛び掛られて・・・・・
ここは・・・・・ 山の斜面? 木に引っ掛かってるのか って事は飛び掛られて押し倒される形になって・・・・・
下ばっかり見て茂みの濃いところに入ってるうちに半端なとこまで登ってたみたいだな。
そんで押し倒されて脇の方の沢に繋がってる崖っぽい所に落ちて途中で引っ掛かったのか・・・・・・。
手の甲で右瞼にかかってるドロリとしたものをぬぐう。
やっぱり血か・・・・・、泥や汗と混じってベッタリとしたそれを見た時、ごく当たり前の事の様に
呟いちゃったんだ。
「なんか・・・・・・ケチャップ・・・・・みたいだなぁ、美味しそう・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・ えっ? け・・・・ちゃっぷ・・・・・ケチャップって?
ズキンッ こめかみが呼吸に合わせてズキンッ ズキンッと痛む。
(あ、あれ・・・・・だよな、トマトで作る 赤くてドロッとしてる・・・・・・)
(トマトってトマトって、えっ?)
(なんで、今まで、そんな事忘れてたんだっ?)
ズキン ズキン ズキン ズキン 鼓動に合わせて痛みが酷くなり
そして俺は気を失い、失神するまでのその一瞬で自分に起こった事を思い出した。
裸足、ボロボロの布を巻いて紐でしばっただけの服、ガリガリの身体
三白眼と、ある意味定番の外見の主人公です。