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第三話:たった一人の迷宮探索・雑魚狩り編



 ゲートで審査を終えた俺は、ケイリオスの学園迷宮、その入口に立っていた。

 もはや見慣れた無機質な壁が広がり、迷路を作っている。


「さてと、今日も頑張るぞ……っと」


 いまいち気分の乗りきらない中、それでも自分を奮い立たせるように呟いた。

 もうここは迷宮の中。下手に叫ぶと階層中の魔物たちが集まってきてしまうので、決意表明は自分だけが聞こえる様な小さな声でだ。

 同学年の中には、もう10階層を超えているパーティもちらほら出始めているという。委員長の選抜パーティもそのうちの一つだ。

 俺もそんな景気の良い進み方をしてみたいものだ。パーティさえいれば、なんて考えてしまうと、どうも気分が乗らない。


 故に、今日の目的は迷宮内のアイテムの回収と、勝てそうな相手を選んでのレベル上げとなっている。

 これも大切な事ではあるのだが、先を目指すと言う事を暫くしていないため、こればかりだとモチベーションも下がってしまうというものだろう。


 けど、愚痴を言っていてもはじまらない。それこそ、第5階層を突破できずにぐだぐだとしてしまうだけだ。

 三年後の学園卒業までに七十階層を突破できないと、迷宮探索の資格は永久に剥奪されてしまう。そうならないように頑張らないとな。


「……よし、行くか」


 深呼吸をして、自分に言い聞かせた俺は無機質な壁に手を添わせ、歩き始めた。

 死角は出来るだけ少ない方がいい。ソロの探索者はこんな小さい所でも意識していかなきゃな。


 こうして俺は、今日の迷宮探索を始めた。

 不測の事態を極力減らすべく、階層に見合わぬレベルでおっかなびっくりと歩いていく。


 ……やがて、どれくらい探索しただろうか。

 そんなに時間は経過してないと思われるが、今日はなかなか下り階段が見つからないな……なんて思い始めた、その時だ。


「(……いるな、中型程度……この階層だとクロウバイツか)」


 歩む方向の先に魔物の気配を感じたことで、俺は脚を止めた。

 パーソナル・アビリティ──略してPAと呼ばれる、俺の技能『生命探知』が反応を示す。

 これは呪術師の俺が誇れる数少ない技能の一つで、五感に頼らずとも、生命の発する気配で魔物の存在を探る事が出来るというPAだ。

 霊族という肉体を持たない魔物に対しては効果範囲が狭く、魔法生物と呼ばれる無機物で出来た魔物はそもそも感知できないなど弱点は多い。

 だが曲がり角などの視界が届かない場所に潜む魔物を感知できるこのアビリティは、ソロの俺にとっては無くてはならないアビリティだった。


「(数は一体。この階層の魔物は生物しかいないから、すぐの援軍もないな)」


 意識を集中させて生命探知の範囲を広める。近くに魔物はおらず、戦闘開始後に手古摺って乱戦へ──という展開はなさそうだ。

 そうときまれば、やる事は一つ。


「(……()るか)」


 早急に経験値になっていただく。あわよくばドロップアイテムも貰う。これしかない。


 俺が探知したクロウバイツという魔物は、迷宮の中でも最も初歩的な魔物だ。

 大きな牙と爪を有す、一回り大きな犬と言う外見のクロウバイツは、見た目に反してそのレベルは最低の1。

 潜命石を使用し、ジョブを得た二年次生達が戦闘の基本を学ぶため、教師の監督の元実技研修として闘う。そんななんとも微妙な立ち位置の魔物である。


 そんなエピソードからクロウバイツは最も探索者達に狩られた魔物と言っても過言ではないだろう。

 今では探索者達に身をもって戦闘の基本を教えるため、『先生』なんてあだ名があるくらいだ。


 かくいう俺もその一人である。

 ソロの俺は階層の推奨レベルよりも高いレベルが要求されるため、二階層に上がる前、先生には随分とお世話になった。

 そしてレベルが7に上がった今でも、ソロである俺にはその経験値は決して無視できないものだ。


 クロウバイツは、曲がり角から俺の方へとゆっくり歩みを進めてくる。

 この分だと俺の存在には気付いていないだろう。


 近づいてくるクロウバイツの気配。俺は音をたてないように剣を抜く。

 呪術師としては杖で後方から支援としゃれこみたい所なのだが、ソロの俺は自分で闘うほかない。

 クロウバイツが、一息で攻撃を仕掛けられる距離まで近づいたその瞬間──俺は、地を蹴って駆けだした。

 角を曲がり、敵の姿を目に収める──気配の大きさから確認していたが、やはり間違いない。クロウバイツだ!


「ヴァウ!?」


 曲がり角の死角から突如現れた俺を瞳に映し、クロウバイツは間抜けな声を上げた。

 牙が邪魔で上手く発音できないのだろう、その鳴き声は驚きにくぐもり、妙な無様さを演出していた。

 もはや狩りすぎてどこか愛嬌すら感じさせるが、油断は禁物。近くに敵がいないとはいえ、闘いが長引けば戦闘音に釣られて魔物が来る事もあるだろう。

 故に、最速で殺す!


「死ねオラァ!」


 自分を奮い立たすため、敢えて汚い言葉で上段に構えた剣を振り下ろす。

 迷宮の素材で作られた武器は、その武器の適性を持つジョブの潜命石に加護を与える。

 呪術師も幸い『剣』には適性を持っていた。後衛職であるため『技』スキルは使えないが、低レベルの雑魚を倒すくらいは、十分だ!


「ギャフッ!」


 しかし強襲がクロウバイツの正面からであったためか、クロウバイツは振り下ろしに対し、四足で左へと飛び退いた。

 結果、振り下ろしはすんでの所で頭を外れ、身体を切り裂くのみとなってしまう。

 与えたダメージは大きいが、予定が狂ったな。剣士の『唐竹割り』のスキルだったら同じ部分に当たっても生命力(HP)を0に出来たと思うんだが。

 とはいえ無いものねだりをしても仕方がない。それはソロで探索している今、痛いほど身にしみている。

 振り下ろした剣を構えなおし、飛び退いたクロウバイツに追撃を加えんと走る。


 だがクロウバイツもまた戦闘態勢を整えていた。

 即死を免れたとはいえど、俺とクロウバイツの実力差は圧倒的だ。にもかかわらずクロウバイツが襲ってくるのは、彼らの中で生きようとする意識が低いからだと言う。

 生物である限りは程度に差はあれど、死と言うのは避けるべきものだ。力の差を悟れば、逃げ出したりするのは当然だ。

 しかしクロウバイツは──迷宮の魔物(・・)はそれをしない。倒すと魔力になって消えていく彼らは、俺達生物とはそもそもの作りが違うのだろう。


 ……だからこそ、遠慮なく殺せる。

 戦闘態勢を整えたクロウバイツは、俺に向かって突進してきた。

 その名前の一端にもなった(クロー)を振りかざし、大型犬が跳ねる。

 俺はそれに対し、真正面から剣を突き出した。


「カ……ギュイ……」


 防御力(DEF)の低いクロウバイツの脳天に、剣が深々と突き刺さる。

 作りが違うとはいっても、その身体の出来方は生物の原則と基本的には変わらない。

 頭を破壊されれば死ぬ。頭を剣が貫いている今、その生死を確認する必要は、もはや存在しなかった。


 クロウバイツを貫いた剣を引きぬくと、湿り気のある音と共にクロウバイツの身体が地面へと横たわる。

 少しばかり後味の悪い絵面だが──それも僅かな間の事。

 完全な死を迎えたクロウバイツの身体は魔力の玉を放出しながら、だんだんと透けていく。

 その一部は俺の元へと吸い込まれ、クロウバイツの身体はいつの間にか消えていた。


「……ん?」


 普段であれば今のクロウバイツという存在はこれで終わりを迎えるのだが、今回は少し違ったようだ。

 迷宮の床を乾いた音が叩く。俺が音の発生源へと視線を移すと──掌くらいの長さを持つ爪が落ちていた。


「おお、ドロップアイテムとは幸先がいいな」


 ──ドロップアイテム。床に落ちた爪を拾い上げながら、俺はそう呟いた。

 迷宮の魔物は今見た通り、その身体を魔力で構成しているため、死ねば死骸を残さずにその姿を消していく。

 だがこれには例外があり、それこそがこのドロップアイテムなのだ。


 迷宮の魔物は死ぬ際に魔力となって消えていくのだが、時たまこうして身体の一部に強い魔力が集まり、物質として残る事がある。

 それがこのドロップアイテム。ドロップアイテムは様々で、モンスターの種類以上に多くのものが存在する。

 そのうち一つが、このクロウバイツの爪だ。クロウバイツを象徴する爪に魔力が残留し、アイテムとしてドロップしたというわけだ。

 ちなみにクロウバイツは、たまに牙の方を落とす事もある。運が良ければ両方落ちる事もあるらしい。

 

 ドロップアイテムの使い道は、割と多く存在する。

 素材として優秀な事が多いため、換金する事も出来るし、鍛冶屋に依頼して装備を作成する事も出来る。

 この『クロウバイツの爪』だと、短剣を作る事が可能だ。


 一応俺も持っている。クロウバイツの爪を棒に固定し、クシ状に並べた『クロウバイツの爪剣(そうけん)』がそうだ。

 ……まあ、持ってはいるのだが──正直、使った事は無い。クシの部分で剣を絡め取るソードブレイカーの役割を期待した設計らしいが、この低階層じゃ暫く刃物を扱う敵は出てこない。

 出てくる頃にはクロウバイツ素材の武器なんて時代遅れも良い所だし、そもそも作るためには爪が何個も必要だ。

 そんな事から、このクロウバイツの爪剣は作成難易度の割に使えない武器だとされている。

 短剣に一番強い適性を持ってるレンジャーなんかは、あると使う事もあるらしいんだけどな。

 まとめると、作る価値はあんまりない武器と言う事だ。


 ……そんな駄目な武器を何故俺が持っているかって?

 クロウバイツを大量に狩らざるを得なかったので、気がつけば大量に爪が貯まっていたからさ。

 今となってはこんな無駄なモン作らず、換金した方が良かったかもしれないとも思うが……まあ良いか。


「おっと、階段まで見つかったか、こりゃいい」


 クロウバイツのやってきた方向には、下の階層へ降りるための階段があった。

 パーティに比べてソロの俺は魔物一体あたりで得られる経験値が多いが、それでも流石にこの階層じゃそろそろその恩恵も少なくなってきた所だ。

 サクサクと5階層まで進めて、レベル上げはそこでしよう。

 そうきめていた俺は、躊躇い無く階段を降りた。


 クロウバイツを無傷で倒せるとは俺も成長したな。

 けれど……このペースじゃあ10階層にたどりつくのは何時になる事やら。

 先を思うと気分が重い。(LUK)が逃げると言う噂もあるが、俺のLUKが低いのはその所為なのかね……


 まあいいか、とりあえず幸先は良いんだ、あわよくば6階層まで進むぞ。

 目標を少しだけ大きくした俺は、決意を新たに次の階層へと進むのであった。








 地味な用語辞典


『生命探知』 パーソナルアビリティ

レーゼ=ゼフィスの持つPA。効果範囲内の生命を感知する事が出来る。

効果範囲はある程度増減が可能で、発動中は僅かな疲労度を消費する。

ON・OFFも切り替える事が可能なのだが、ビビリのレーゼは常にこれを発動しているため、スタミナの消費がやや早い。

曲がり角など死角の多い場所で、必要な時だけ使うのが効果的な使用方法だろう。



現時点の戦力

レーゼ=ゼフィス ♂ 

呪術師:Lv7


【スキル】

ポイズンプール:Lv2

????

【P・A】

生命探知:Lv4

????

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