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支柱

 翌日の放課後。

「おい、白門。聞いたぞ、チャンピオンとキャプリーで試合するんだってな!」

「え、本当なの!?」

「何でそんなことになったんだよ?」

 黒斗はクラスメイトに囲まれていた。どこからか話が漏れたのだろう。

「意見のぶつかり合いってやつだよ」

「それで試合ってどう繋がるんだよ?」

「その辺はいいだろ?」

「いつやることになったの?」

「次の土曜だよ。公開されるから、来たけりゃ見に来い」

「マジか!?絶対行く!」

「あたしも!」

 周りはイベントの様に騒いでいるが、悠治たちはそんな気楽に見ることが出来ない。

「決まっちゃった、ね」

「だにゃ~」

「仕方ない事とは言え、あんまり実現して欲しくなかったね」

 悠治の言葉に絢芽とミケが頷く。

「本当に、仕方なかったのかな?」

 寂しそうに苦しそうに黒斗を見る絢芽は涙を堪えるように少し震えていた。

「仕方は、なかったよ……」

「なんでそう言えるのにゃ?」

 価値観の違いなら、たとえ正反対の人間がいたとしてもここまで対立しないだろうと考えるミケに首を振って答える。

「譲れない何かを抱えて持った価値観だからね」

 実際、ただの価値観ならこうはならなかった。

 たが、この二人は自分の大切な、それこそ今の自分を形成するほどの何かを経ての意見だったのだろう。

 だから譲れない。

 ここで引いたら、自分の何かが壊れてしまうから。

 望まぬ方向へ変わってしまうから。

(本当に、過去に何があったって言うんだい……?)

 止めることに意味は無く、むしろ止めたら一生埋まらない亀裂を作ってしまう。

 だから思いっきりぶつけ合って、吐き出したほうがいい。

 そんなのは理解している。

(でも僕は、友達同士でこんな争い……してほしくないよ)

 悠治の表情は、物憂げなものしか浮かんでいなかった。




「リン、聞いたわよ?あの人と決闘するんだって?」

 魔法科の教室では、竜胆が椿に質問責めにされていた。

「あぁ、キャプチャージュエリーでな」

「ああもう!なんでそんなことになってんのよ!?」

「ほら、早いとこお互い謝って水に流しましょ!」

 急かす椿に、竜胆は首を振ってこれを拒否。

「何でよ!?」

「わたしも白門も、それでは何も解決しないのだ……」

「一時の勢いで言い過ぎて引っ込みつかなくなった、とかじゃないでしょうね?」

 充分ありえる可能性も否定する。

「分かっては、いるのだ」

「?何がよ?」

「現状が良くないものだと。早く仲直りした方が良いのだと」

「……おそらく、向こうもな」

 苦々しい表情で、言う竜胆。

「じゃぁ何で――」

「譲れない一線を、ぶつけてしまったからな」

 そう、二人とも分かっている。

 このままでは周りの友人たちにとっても、もちろん自分たちにとっても良くないことは。

 仲直りして、また楽しく騒げるようにするのが良いことは。

「しかし、それは一番の解決法ではない」

「もしかして、あんたたちそれで……」

 頷く竜胆にため息が出るほど呆れる椿。

 一番の解決方法に二人が選んだものは、決闘。

 つまり、自分の一切合財欠片も残さず相手にぶつけて伝え合う。

 失敗すれば、亀裂は二度と元に戻らない。

 それでも戦うことに決めた。

 何となくお互い理解していたのだろう。

 なあなあで付き合っても、いずれ対立してしまうことは。

(結局、意地の張り合いなのは一緒じゃない……)

 これは竜胆の誇り(プライド)と黒斗の矜恃(プライド)の勝負なのだ。

 だから絶対に二人とも引かない。

 折るわけにはいかない。

 譲れない(プライド)だから。

「はぁ~」

 大きなため息を吐いて一言、

「応援したげるから、頑張んなさいよ?」

「当然だ!」

 自信満々に頷く竜胆にやっぱり呆れて苦笑する。

(まぁ、不謹慎ではあるけど、二人の実力も気になってたしね)

 決戦の土曜日を少しだけ楽しみにしながら。




「……あなたは何度言わせれば気が済むの?」

 放課後、木枯寮での夕食時。

 黒斗は楓から説教を受けていた。

「……何で問題解決のために開いた食事会で、新たな問題を作るの?」

「め、面目ありません」

 正論には返す言葉がない。

 だが、今回は大人しくし続けるわけにはいかなかった。

「でも、遅かれ早かれこうなってたんす」

「だから、逆にここで良かったって思います」

 魔術を大切に想う者と憎らしくさえ想う者だ。

 しかもその想いは譲れない。

 必然ではあったのだ。

「……確かに、そうかもしれない」

 その意見には少なからず賛成なのか肯定する。だが、

「……けど、何も連日やらかす必要はないでしょう?」

「……昨日のこと、忘れたとは言わせない」

 キッ、と睨む楓。

「はい、そうですね」

 自分以上の正論に、降参するしかない黒斗。

 実際、学校では一年が騒がしくなってる(・・・・・・・・)らしい。

 被害者はまだ出ていないが、普通科の人間が脅えるのも魔法科の生徒が興奮するのも無理はない。

 風紀委員への相談件数も昨日の今日で増えたという。

「……あなたは間違ってない。だから本当に厄介な問題児」

「けどこれに関しては……」

「……分かってる。だから止めはしないわ」

「……大真面目なのね?」

「はい」

 力の()もった目で真剣な様子で答える黒斗に、折れる。

「……大怪我は、しないこと」

「一応、俺たちが競うのはスポーツっすよ?」

「……スポーツでも、魔法競技なのよ。危険性は絶対になくならない」

「分かってますよ。これでも元選手なんすから、禁止行為くらい守りますって」

「……信じるから」

「任しといてください」

 黒斗の目には、見たこともない炎が燃えているような迫力があった。

(……気まずい)

 他の三人は一言も喋らず食事を続ける。

 食卓の空気は、居心地の悪いものが流れていた。

 同時に三人の胃はキリキリした感覚が離れなかった。



 そして迎えた土曜日。

「こんな場所があったんすね……」

 黒斗と竜胆、そして審判役の肇は、バス一つ分隣の場所にある闘技場に立っていた。

「えぇ、しかもちゃんとしたコロッセオ形式なんですよ」

「あまり大きくないとはいえ、よくこれだけの人が集まったものだな」

 観客は満員御礼、とまでは行かなくとも半分以上の人がいた。

「二人とも、噂はかなり広まっていますからね、この試合の注目度は近年稀に見るほどですよ」

 二人としてはお互いの全てをぶつけ合うだけなので、観客の有無は関係ないのだが、やはり少しテンションが上がっていた。

「この雰囲気、懐かしいな……」

「大会の時か?」

「あぁ、あの時はこれの何倍もいた」

「そりゃすげぇな」

 これだけの観客の前で全く自然体な竜胆に素直に関心する。

「貴様はどうなのだ?」

「俺はここまで人がいるのは初めてだな」

「その割には緊張していないように見えるが?」

 聞く竜胆に、不適な笑みを浮かべた。

「ったりめぇだろ?そんなのどうでもいいくらい今高ぶってんだからよ」

「奇遇だな?わたしも同じだ」

 軽口を通して闘志を高めあう二人。

 準備万端な様子を見て、肇が口を開く。

「これより、一学年魔法科主席、真壁竜胆と」

「同学年普通科Bクラス特待生、白門黒斗の」


「キャプチャージュエリーによる決闘を行う!」


 わぁぁぁあああああああああ!!!

 歓声の中、開会を宣言した。

次回はバトル、なんて言っておいてごめんなさい!

今度こそみっちりバトルやりますので、どうか!どうかお付き合いお願い致しまするぅ!

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