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覚醒

 ボロボロにやられた黒斗は、悔しさと怒り、悲しみで一杯だった。

 こんな魔術を暴力にしか使えない、チンピラに見返してやることもできない。

 こんなことで、どうやって魔法を否定すると言うのか。

 何も、出来ない。

 何も、成せない。

 様々な負の感情で小さくヒビの入った心に絶望が染み込んでいく。

(こんなところで終わるのかよ……)

 納得なんて出来やしないが、今どうすることも出来ないなら仕方ない。

「魔術ってのはいいな、やっぱ」

「てめぇみたいなムカつく奴をこうやってぶっ飛ばせるんだからな」

 そこに、声が聞こえた。

 絶対に聞き入れられない、最低な意見が。

「魔法ってのは素晴らしい力だな」

 何を言ってる?

 魔術が素晴らしい?

 こんなただの力でしかないものが?

 そんな奴の好きにしていいのか?

 否。

 否!

 否!!

 絶対に、認めてはいけない。

 そんなことをして諦めれば、真奈は帰ってくるのか?違うだろ!

 両親のことは事故だったと、割り切るのか?そんなわけないだろ!

 頭が沸騰する。

 怒りでまた視界が赤く――

 ――待て。

 自分の中から(・・・)、自分の声が聞こえた。

 構わず怒りに身を任せようとするが、またも自分の声が止める。

 なんで止める!?認めてもいいって言うのかよ!!

 ――違う。それじゃ勝てないからだ。

 その言葉に、爆発しそうな感情が少し落ち着く。

 ――勝つってのは暴れることじゃない。

 ――ましてや相手を殺すことではもっとない。

 ――何をすべきか頭を回せ。

 そうだ。

 勝つんだ。

 倒すんじゃない、殺すんじゃない。

 勝つために戦ってるんだ。

 だから、この湧き上がる感情は方向性を変える。

 怒気を狂気に。

 魔の深淵へ深く潜っていくために。

 魔道を、狂い進む(・・・・)ために。

 冷静に狂う。

 今までに得た、全ての経験をつぎ込め。

 打開策を、逆転手を、活路を開け。

 魔力の塊では、隙を作れても決定的な一手には到底なり得ない。

 使える術式なんて数える程度。

 身体強化、通信術式の二つだけ。自分の強化には限界があるし、相手と通信したって何の意味も――

(あ!)

 閃いた。

 出来るかどうかなんて考えは最初からなく。

 頭に浮かんだ術式を構築していく。

 新たな形で、出力していく。


 術式が、編みあがる!


「術式展開!!!」

 叫ぶと同時に薄くて白い結界がドーム状に黒斗の数メートルに形成された。



「なんだ……あの術式」

「見たことないわねぇ……」

 特等席の二人が、目を見開く。

「まさか、今この場で新しい術式を構築(・・・・・・・・)したと言うのか?」

「あらまぁ、さすがの私も、ちょっと鳥肌立っちゃった」

 その事実に戦慄する。

 それもそのはず。

 オリジナルの術式は、研鑽と研究で時間を掛けて失敗を重ねて作り上げるものだ。

 決して満身創痍の中、出鱈目に組んだところで成功なんかするはずがない。

 つまり、あの状況で黒斗は狙ってあの術式を構築したのだ。

「……」

 さすがの二人も押し黙って、試合を観る。

 その一挙手一投足すら見逃さないように。



「オリジナルの術式……」

「え?」

「にゃ?」

 悠治の言葉に二人が反応する。

 ちなみに、黒斗が攻撃を受ける度、ピンチになるたびに絢芽は悲鳴を上げていた。

「でも、オリジナルって相当難しいんじゃ……」

「うん、けど黒斗くんは今この瞬間創り出したんだ、勝つために」

「にゃ~、すごいことだにゃ~」

 冷や汗すら流しながら、黒斗を注視する悠治。

「二人とも、よく見ていたほうがいいよ」

「僕たち、もしかしたらとんでもない人と友達になったかもしれないよ……」

 悠治に釣られて二人も黒斗を観る。

 特等席の二人と同じように。




「んだ?そりゃ」

 いきなりの結界に警戒していたが、さすがに焦れたのか魔力を組んでいく。

「田中ぁ!」

「言われねぇでも!」

 山本が声を掛けて二人で同時にアタックする。

 正面から広範囲の炎を。

 背面から岩の棘を。

 それぞれ黒斗にぶつける。

 いい加減これで沈むと考えていたのだが、

「なっ!?」

「んだそりゃ!?」

 流れるような動きで後ろの棘を躱して回り込む。

 棘を盾にして炎を防ぐ。

 ボロボロでフラフラなはずの黒斗は、しかし完璧に攻撃を避けていた。

 鮮やか過ぎて三人が目を白黒させる。

「な、にをした?てめぇ!」

 まさか今の黒斗に躱されるとは思ってもみなかったのか、激昂して攻撃を激化させる。

 炎弾や広範囲放射、土の攻撃や拘束。

 鈴木も一緒になって連撃を重ねていくが、ただの一発も掠りすらしない。

「どう……なってる?」

 混乱が頭を支配し、数秒の間鈴木の攻撃が止む。

 次の瞬間には、黒斗の拳が鈴木の腹にめり込んでいた。

「ぐはっ」

 倒れてそのまま気絶する。

「どうなってやがるぅ!!!?」

 混乱した頭を振りかぶるように、田中が手を着いて全力で魔力を組む。

 手が黒斗の張った結界に入っているが、気にしない。

「いっけぇ!!俺の最強魔法だ!!」

 手を着いた場所から、黒斗を閉じ込めるように岩がドーム状に盛り上がっていく。

 囲んだら、それを崩した上にさらに追撃をする技だ。

 例え防御したところで、追撃がその防御を突破する。

 だが、なぜか一部、自分が手を着いてる箇所の地面が盛り上がらない。

 はっ、とした時には、遅かった。

「構造が雑だって言ったろ?しかもこんな大技、簡単にディスペルできる」

「けど、この技は今までの術式とは構造が……」

「あぁ、けど理解した」

「そのための術式だ」

 田中も殴りつけ、気絶させる。

「なんだよ………何なんだよてめぇは!?その術式は!?」

「教える義理はねぇな」

「くそがぁ!!」

 無茶苦茶に魔法を乱射する山本だが、そんな雑な攻撃が当たるはずがない。

 なにせ、結界内の全ての情報が(・・・・・・・・・・)瞬時に伝わってくる(・・・・・・・・)のだ。

 そんな遅い攻撃が届くことなど、最早ありえない。

 情報伝達と反応速度上昇の術式を組み合わせて、反応する範囲を身体の皮膚感覚だけでなく、周囲の空間にまで広げる。そして限界まで上げた反応速度と腕力以上に瞬発力を上げた身体強化で超反応を実現。

 空間に入った瞬間には対象の動きだけではない。

 魔力の流れや術式の構造。全ての情報が頭に流れ込んでくる。

 つぅ、と黒斗の鼻から血が流れてきた。

 脳の酷使で血管が切れてしまったのだろう。

 瞬時に大量に流れ込んでくる情報をさらなる刹那の時間で処理し続けるのは難しいなどというレベルではない。

 加えて肉体強化を使っているとは言え、処理した情報を行動として還元する必要がある。

 その上、術式が繊細で少しでも乱せばまともに情報が入ってこない。

 体力、精神力、魔力全てを削岩機で削るような代物である。

 長く続くはずはないし、維持するだけでも相当に苦痛を伴うだろう。

 だが、解かない。

 何が何でも維持し続ける。

 倒れず、進み続ける。

(勝つんだ)

 全てはそのために。

(絶対に、勝つってんだよ!!)

 歯を食いしばって、拳を握り。

 攻撃を躱して、一歩一歩近付いていく。

「く、来るな。来るなよぉおおおおお!!!!」

 その執念とも言えるプレッシャーに恐怖したのか、今まで以上に乱射する。

 だが、当然命中なんてしない。

「ひぃ!」

 そのうち、足をもつれさせて尻餅をついてしまう。

「わ、悪かった……許して」

 命乞いすらする山本を哀れみの目で見ながら。

 結界に使っていたものも含めて全魔力を手に集中。

「う、うあ」

「よぉく覚えとけ……」

 目に涙すら浮かべて、しかし恐怖で動けない山本に向けて拳を振り上げる。

「これが、魔術っていう名の」

 その拳を振り下ろす。



「最低な暴力だ!!」



 ドッ!!ゴォオン!!

 地震かと思うほどの衝撃が奔る。

 どうなったかと、観客が見守る中、

「先生、判定は?」

 気軽に聞く黒斗。

 当然ボロボロで、か弱い声だったがすっきりした顔で立っていた。

 その下で。

 気絶した山本と、その足元にあるヒビ。

 最後の攻撃、おそらくわざと外したのだ。

「魔法科チーム全員気絶により、勝者、白門黒斗!!」

 その事実に小さく笑って、肇が勝利宣言をする。

 再び会場が大爆発。嵐のような拍手と歓声に包まれながらさすがに疲れたのか、座り込む。

 その瞬間。

 バン!

「ぐぁ!」

 こめかみの辺りを攻撃された。

 座標指定の空気爆破。

 鈴木である。

「鈴木くん!やめなさい!!」

 止めに入る肇だが、油断したのか鈴木の術式で遠くに飛ばされる。

「お前は……許さない」

「おいおい……マジ、勘弁だぜ」

 先ほど黒斗が座り込まなければ、そこにあったのは左側の肺だ。

 間違いなく、心臓を巻き込んで破裂していただろう。

(くっ、ずっと感じてた粘っこい気配はこれかよ!)

 その正体は、不快になるほどの殺気だ。

 今、この場に邪魔できるものはいない。

 狙われている黒斗も疲労で動けない。

(詰んだ、ヤベェ……!)

 焦る中、しかし動けない。

 奇跡なんて起こるはずもなく、目の前で特大の威力を持っているであろう術式が構築され、

「死ね」

 魔力が放たれた。

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