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激突

 闘技場の入り口の手前で。

「そんなとこで何突っ立ってんだよ?椿」

 立ちふさがるように椿がそこにいた。

「あたしも、参加させなさい」

「無茶言うな」

「無茶じゃないわ!」

 いきなりの言い分に、黒斗が頬を掻く。

「そうは言ってもな……」

「だって、こんなのおかしいじゃない!」

「あの三人があんたを気に入らないって言うなら、あたしだってそうよ!あの三人、気に入らないわ!」

「それに、黒斗だけが傷付けばいい理由なんて無いじゃない!」

「椿」

 悲しそうに怒る椿の姿に、黒斗は、

「サンキュな」

 ポン

 頭に手を置いた。

「え、なに?」

「だから、俺のためにそんなに怒ってくれてありがとなって」

「さっき絢芽にも言ったんだけどよ、応援してくれるってだけでちゃんと力になってくれてる」

「俺としちゃ、そいつで充分だよ」

「でも……」

 黒斗の言葉が本心なのは伝わったのだろう。しかしそれでも納得のいってない椿。

「だって私は、私には魔術が、ちゃんと戦える、助けられる力があるのに……」

 目に涙を溜めるほどに悔しそうな顔で歯を食いしばる。

「お前がそう言ってくれっから、俺は安心して戦えるんだよ」

「ここで勝とうが負けようが、俺の友達は傍にいてくれるのが分かったからさ」

「そんなの当たり前でしょ!」

 椿からすれば、そんなことで見限るなら初めから友達になどなっていない。

「そういや、椿は俺の事情知らねぇんだっけ。……まぁ、その辺はこの後にでも教える」

「だから今は、見守っておいてくれよ」

「そら、早く行かねぇと見逃しちまうぞ?竜胆辺りが席取ってるだろうから一緒に応援頼むな」

「分かったわよ……」

 渋々頷いて黒斗とは逆方向、観客席に向かう。

「絶対教えなさいよぉお!!!」

 離れた位置から叫ぶ椿に、ニッと笑って

「行ってくる!!」

 通路の出口に、舞台の入り口に入っていった。




 わぁああああああああ!!!

 黒斗の登場に観客が盛り上がる。前回の試合での活躍を見て、今回の期待度が上がったのだろう。

「よぉ、お前ら逃げなかったんだな」

「そりゃこっちのセリフだ、クソ野郎」

「おれらにボコボコにされるためにご苦労様」

「覚悟しろ」

 三人を挑発すると、お返しとばかりに挑発してくる。

「それではこれより、三対一での決闘を行います」

 観客が再び爆発のような歓声をあげる。

「いいですか、この決闘は全て私の判断に従ってもらいます」

「すなわち、勝敗が決した後の追撃をした場合は何かしらの重い罰則を課します」

「最悪、退学もあると考えてください。いいですね?」

 肇の確認に頷く四人。

「試合、開始!!」

 手を振り下ろし、始まった。

「挨拶代わりだ、おらぁ!」

 開始と同時、山本が炎の術式で攻撃してくる。

 避けようと動こうとした瞬間、

「逃がしゃしねぇ!」

 田中が地面に手を着けて叫ぶ。

 足が動かなくなった。

 見ると、足を土が覆っていて固められている。

「ちっ」

 舌打ちして防壁を構築。術式構築はしてないが前回と同様に完全に防ぐ。

「甘い」

 だが、次の瞬間には内側から爆発したかのように防壁が弾けてしまった。

「マズッ!」

 炎を遮るものは、無い。

 黒斗の身体が炎に包まれた。



「リン!今どうなってるの!?」

「椿、用事は済んだのか?」

 頷いて椿が竜胆の横に座る。

「やはり三人相手は厳しいらしいな」

「って、もろに攻撃食らってんじゃない!大丈夫なの?」

「分からん。が、まだ心配するほどではないはずだ」

「どうしてよ?」

「私の猛攻をくぐり抜けたんだ、あの程度なんとかできるだろう」

「自分が負わせた怪我で得意気にしないでよ……」

 呆れる椿だが、説得力を感じたのでそれ以上責めることはやめて、決闘を観戦する。

「無事じゃなかったら、絶対許さないんだから……」




「!おいヤベェぞ!」

 気付いた田中が注意を促す。

 聞いた二人がその場から離れると、

「おぉぉおおおっっら!!」

 炎の中から飛び出した黒斗が山本に向かって殴りかかって来た!

 だが、離れたおかげで対処が間に合う。

 その拳は地面に打ち付けられ、小さくヒビを入れることとなった。

「チッ、やっぱ防ぎやがった」

 舌打ちする山本は、悔しいがこの結果が見えていた。前回は肉体強化で火傷の一つも負わなかったのだ。多勢とはいえ、今回楽にダメージを与えられるとは思ってない。

 しかも今の黒斗の攻撃には、一撃いいものをもらえば即終わるだけの威力があった。

 黒斗の接近には十二分に気を付けなければいけない。

「ちぇ、術式構造が雑な割りには感度がいいな」

 黒斗は黒斗で歯噛みしていた。

 今の一撃で一人仕留めらなかったのは痛い。

 さっきの攻撃は防壁の更に内側に(・・・・・)身体に密着させるように防壁を張ってたのでダメージもなく、自分を拘束していた術式の解析も出来たので完全な失敗というわけではないのだが。

「意外と連携出来るし……」

 このチームワークで三対一は正直荷が重い。

 が、勝てないわけではない。

(厄介なのは、まだ術式が分かってない残り一人……鈴木だっけか?)

 鈴木は最初静かな奴、という印象だったが対峙している今は違う。

 不気味なのだ。

 敵意や害意を向けてきている山本と田中とは、その粘度というか、濃さが違う。

 どこか淀んだ気配を感じる鈴木に、黒斗の警戒度が増していく。

(こいつは、早くどうにかしねぇとヤバいかもな……)

 身体強化の術式を組んで、

 限界まで速力に注ぎ込む!

「なっ!(はや)

 一瞬で鈴木の懐にもぐりこむ。

「一人いただきだ!」

「だから、甘い」

 欠片の動揺もなく、鈴木が一歩下がる。

 ボン!

 その瞬間、強い衝撃を受けて黒斗の身体が後方に飛んだ。

「がっ!これ……」

(まさか、空気制御だぁ!?)

 空気が爆発したかのような攻撃を食らい、なんとか大まかな予想を立てていく。

「まだ甘い」

 嫌な予感に体制を立て直さずに全力で左へ飛ぶ。

 ボン!

 黒斗が飛ぶ直前にいた場所の地面が吹き飛んだ。

「くそ、厄介な」

 鈴木の術式は座標指定で狙いを定めて、発動時間は構築準備を合わせても十秒もない。

 解析のための時間が圧倒的に足りないのだ。

 その上、

「俺たちを忘れてんじゃねぇ!」

「食らいやがれ!」

 山本の炎による広範囲の攻撃と、拘束や死角からの攻撃を仕掛けてくる田中の攻撃もある。

 攻略の糸口が中々見つけづらい。

 かと言って、考えなしにごり押ししたところで黒斗の魔力量では高が知れている。

(一か八か、仕掛けてみっか)

 これで一人倒せなくても、ダメージさえ与えられればいい。

 そう考えて、魔力を組む。

 集中するために数秒間その場で停止。

 その隙を逃すわけも無く、全員で一斉に全力攻撃する。

 避けられない密度の攻撃を、高くジャンプすることで避ける。

「今度こそぶっ潰してやる!」

「狙い撃ちだぁ!」

 逆に逃げ場を失った黒斗に更なる追撃を行う。

 今度こそ命中するかと思いきや、

「かかったな」

 空中を蹴って(・・・・・・)、その追撃すら躱す。

 同時、山本の近くに着地する。

「ヤバッ!」

「山本!」

 焦る二人に、黒斗が反撃の拳をお見舞いする。

「っら!」

 バキッ!

「がっ!」

 思いっ切りぶん殴られて数メートル後ろへよろける。

「てめぇ!」

「んだよ?反撃すんな、なんてアホ極まりないこと言わねぇよな?」

 激怒する山本をからかうように笑う黒斗に、周りが見えなくなるほどキレそうになる。

「落ち着けバカ」

 山本が無茶苦茶やる前に、鈴木が軽く小突いて止める。

「あぁ!?」

「キレたら勝てなくなる」

「チッ!」

 強く舌打ちして無理矢理自分を押さえ込む。

 冷静とはお世辞にも言えないが取り返しがつかなくなるほどにに崩れる前に仕切り直しができた。

「ちぇ、ここで崩れてくれりゃ楽だったのに」

ぬるい」

 冷めた声で告げる鈴木が再びは術を発動。

 ダッシュでその攻撃を躱した黒斗だが、

「何度も甘い、と言ってる」

 何発も同時に複数箇所で爆発が起こる。

「なっ、マジかよ」

 その連撃にどんどん追い詰められていく。再び上へ逃れようとする黒斗だが、

「舐めんなぁ!!」

 山本の怒号と共に、真上から広範囲の炎が襲ってきた。

 周囲の空気爆破と上からの炎の攻撃に、横に大きく跳んで躱そうと深く膝を曲げる。

「捕まえたぜぇ!」

 その隙を突かれて、田中の拘束術式が黒斗を捕まえる。

「くっ、この……!」

 迫る攻撃に、防壁の準備も展開も間に合わない黒斗に避ける術はない。

 空気と炎の混ざった大爆発に、黒斗は包まれた。



「あらあらぁ、ピンチねぇ」

「だが、三人相手によく持った方だ」

 闘技場の特等席で、学園長の恵と軍部総督の龍姫が試合を観ていた。

「ここで終わるとは思わないが、直撃か……」

「うふふ、きっと大丈夫よぉ。怪我はしてるでしょうけど」

 心配と同時に期待する目で見る。

「お?」

「あらぁ?」

 煙が晴れていく途中、黒斗が動いた。

「ほう、これは……」

「やるわねぇ」

 楽しそうな笑みを浮かべて、二人は観戦を続ける。



「がはっ!」

「田中!?」

 煙がまだ完全に晴れない中、いきなり田中が倒れた。

「って~、くそがぁ……」

「どうした、何があった!?」

「おそらく、魔法弾による攻撃だ」

「鈴木、正〜解」

 煙が晴れた先、やはりダメージを受けたのか膝を着きながら不適に笑う黒斗がいた。

 防御が間に合わないと判断した黒斗は咄嗟に攻撃に行動を変更。

 目標は、魔術を行使している間地面に手を着いて動けない田中である。

 位置さえ覚えていれば、隙や死角を窺っていつでも攻撃を通せる。

 実際狙い通りに攻撃は決まった。

(へっ、一矢報いたぜ……)

 しかし、当てた攻撃に対して受けたダメージが大きすぎた。

 こんなやり方でカウンターを狙っていたら、間違いなく先に倒れるのは黒斗の方である。

 勝つためには一矢報いるだけでなく、どこかで一度形成を逆転、そこまで行かなくてもイーブンに近づけなければならない。

 そのために狙うは……

「隙は与えない」

 再び鈴木が爆破術式を連続で展開。地上に逃げ場が無くなっていく。

「これで、堕ちろぉ!!!」

 山本も同じように炎の魔術を放ってくるが、今度は黒斗も準備が出来ている。

「は?」

 次に黒斗が取った行動に首を傾げる。

 自ら炎の中に突っ込んでいったのである。

「!おい」

 黒斗の狙いに鈴木が気付くが、もう遅い。

 炎と触れる直前、一部が消し飛んだのだ。

「な!?」

 その光景に思わず硬直する。

 山本の術式はすでに構造の解析が終わっていた。しかも竜胆に比べたらお粗末もいいところ。

 ディスペルするのは容易い。

 そして、セキュリティキューブ状に組んだ足場を蹴って山本に急接近。

「!しまっ」

「らぁ!!」

 魔力を腰から背中、肩、腕から最後に手、という順番で強化し流す。

 筋肉を伝って増強された力が、手に集まって爆発的に増強される。

「終わりだ!!」

 山本は防御が間に合わず、黒斗の絶対的な一撃を食らい――

「術式開放……ニードルロック!!」

 突然地面が先端を棘のように鋭くして盛り上がってきた!

「う、お……っ!」

 必死に身体を捻って躱そうとするが、さすがに空中で足場なしに方向転換はできない。

 ザシュッ!

 結果、足を大きく抉られた。

「あがっ」

 跳んだ勢いのまま体制を崩し、ごろごろと転がっていく。

「はっ、ざまぁみろ」

 得意気に田中が立ち上がる。その顔は狙いが完璧に上手く行って上機嫌だ。

 逆に黒斗は、立ち上がれない。

「消えろ」

 そこに容赦なく術式を打ち込んでいく鈴木。

 どうにか無事な足と腕に魔力を集中させて避けていく。

 だが、そんな避け方が続くわけも無い。

「がっ!」

 ついに追いつかれて、直撃を食らってしまう。

「くそっ!」

「そろそろお終いだ、クソ白門」

 山本が手をかざす。

 止めをさすために。

「魔術ってのはいいな、やっぱ」

「てめぇみたいなムカつく奴をこうやってぶっ飛ばせるんだからな」

 満足げに告げる。

 まだ立ち上がろうと懸命な黒斗を嘲笑いながら。

「魔法ってのは素晴らしい力だな」

「んじゃ、あばよ」

 最後の一撃に魔術を組む。

 殺しはしないが全力の攻撃。

 ドォン!!

 大きな爆発の余韻である煙が晴れる。

 ボロボロになった黒斗の姿を予想していた三人は、いやこの闘技場に集まった全ての人間がその光景に驚いた。

 今の攻撃を躱し、両足でしかと立っているではないか。

「てめぇ……」

 その姿はボロボロではあったが、今までとは違う雰囲気を纏っている。一瞬別人かと思ってしまったくらいだ。

「ふざ……けんな」

 小さく動かした口だが、黒斗の声は不思議とはっきり聞こえた。

「ふざけんなぁ!!」

 大きく吼えて、足を強く踏み込む。

 敵を見据えて、



「術式展開!!!」



 力の限り、全てを注ぎ込む。

 決闘は、まだ終わってない。

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