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先輩

 放課後の保健室にて。

 悠司が黒斗に深く頭を下げる。

「ごめん!僕のせいで決闘が決まっちゃって」

「んなわけねぇだろ。あれは、あいつらから俺に売ってきた喧嘩だ」

 学園長室での出来事を話した悠司は、自分が答えたせいで黒斗が闘うことになってしまったと思って責任を感じているが、黒斗はそれを否定する。

「あいつらの喧嘩を、俺が最初から買ってんだ。だからその時点でお前に非はないし、責められる道理なんざ欠片もねぇ」

 今までのことを考えたら、そもそも黒斗が受けたのであって悠治がその決定を左右したわけではない。だが、悠治は申し訳なさそうな表情をやめない。

「でも――」

「それよりさ、教えてくれよ。あの魔術」

 さらに謝罪の言葉を重ねようとした悠治を遮って尋ねる。

「あれは、念動力の魔術だよ」

 悠治には珍しい複雑な表情なまま、質問に答える。

「へぇ……あれ?でも術式なのか?」

「ん?何が疑問なんだい?」

 物体を飛ばす術式なんてものが無いとは思わなかったし、実際使っている人物が目の前にいる。

 だから、疑問なのはその存在ではなく、操り方。

「俺だって魔力使って物を飛ばして怒られたことならあるけどよ」

「怒られたんだね……」

 苦笑する悠治に構わず続ける。

 魔力で単純に飛ばすのは、手で投げるのと大差ない。要は物体を放った瞬間が最も勢いがあって、距離と共に勢いがなくなっていく。

「あん時、悠治との距離は十メートル近くはあったはずだ」

「なのにあのボールは、俺を気絶させるくらいの威力があった」

 あれはもはや、殺傷性を失くした銃弾である。

「う~んとね、僕の術式は飛ばすんじゃなくて、レールを作って運ぶってイメージなんだ」

「レールに乗せて、押し出し続ける。そんな感じだよ」

「なぁ、それって……」

 黒斗の予想に頷いて答える。

「魔力を構築出来さえすれば、距離が開くほど威力が上がるよ」

「意外とえげつないな……」

 心外だ、という顔をする有事だが、範囲内であれば視界に入っただけで射程内。つまりは悠治と敵対したら悠治から逃げることは難しく、向かい合うのが一番という厄介な状況に常に持ち込めるということである。

 そんな術式だと、さらっと言われて若干引いたことに頷ける者は、多くはなくともいるだろう。と、

 バン!!!

 保健室のドアが壊れかねない勢いで開いた。

 不動明王がそこにいた。

「か、楓先輩……」

「十束先輩も……」

 今までとは違う、圧倒的なプレッシャーで黒斗に近付いて、

 ドッ!

「ぐほっ!」

 ボディブロー一発。からの

「……ふんっ!」

 全力アッパー。

 パンッ!

 気持ちいいほどの音を、彼方とのハイタッチで響かせて、

 バキッ!

 顎に入ったアッパーに目をチカチカさせた黒斗にげんこつを食らわせる。

「……今は、それで反省してなさい」

「許す、じゃないんですね……」

 いきなりのコンボに、少し怖がりながら悠司が尋ねる。

「当たり前だ。ついこの間怪我したばっかで、なんでこうも争いごとを持ってくるんだ」

「そ、それは……しゃあないと言えばしゃあないんすよ」

 大ダメージを受けながらも、事のあらましを説明する。

「要は、魔術賛成過激派と魔法否定派のぶつかり合いなんす」

「……何て馬鹿馬鹿しい」

 価値観の違いでどうしてここまで発展出来るのか、と大きくため息を吐く楓。

「全くお前は……分かった。俺が学長に掛け合ってくる」

 同様にため息を吐いた彼方が保健室を出て行こうとする。

「あ、恐らく取り消しは無理です」

 それを悠司が止める。

「は?何でだ?今回は明らかに黒斗は――」

 悪くない、と続けようとした彼方に首を振る。

「僕、先ほどまで学園長室にいまして……」

 今度は悠司が説明して、風紀委員の二人が頭を抱える。

「……全く、学長はこれだから」

「全然変わってないんだな、あの人」

「?先輩たちも学長と関わったんすか?」

 諦めではなく呆れた様子に、黒斗が質問する。

「関わったもなにも、似たような対立があったんだよ。去年もな」

「……彼方、その話は今いいでしょ?」

 少し居心地悪そうな楓に対立したのはおそらくこの二人なのだということが伝わってきた。

「マジか、楓先輩」

「人は見かけによらないって本当なんだね」

「……今はそれより黒斗の話。どうするつもり?」

 不機嫌そうにぷい、と顔を逸らした。

「先輩たちはどうしたんすか?」

「……それは…………」

「お前と真壁がやったのと一緒だよ」

 言い淀む楓に代わって彼方が答える。

「……彼方」

 責めるような楓に肩をすくめる。

「……どういうつもり?無駄な争いは――」

「一応、無駄じゃなかったろ?オレたち」

 楓の反論にかぶせる。そんなことはなかった、重要なことだったと言いたげに。

「な?」

 優しい問いかけに、顔を赤くして黙り込む。

「こうやって対立すんのは仕方ないにしても、せめて三対一ってのはどうにかなんなかったのか?」

 それを見て、今度は黒斗に問いかける。

「そういうわけにもいかんでしょ。これは、俺の主張が引き起こした事態っすよ?」

「こんなことに巻き込んで、友達を傷付けてもいいなんてルールは俺にはないんすよ」

 彼方の提案に、目を見て真剣に拒否する。

「大怪我はするなよ?あと、これでこんな騒ぎは終わりにしろ」

「いいな?」

 それに応えて大真面目に確認する。

「怪我はある程度しますけど……」

「分かってる、無傷とは言わん。ただ、五体満足では帰ってこい」

 そこまでは求めてないのか、でも納得はし切れてないのか眉をひそめて頷く。

「うす。んじゃ、心置きなく全力で戦ってきます」

 自信満々に笑う黒斗。

 その姿に心配は無くならなくとも、取り返しがつかなくなるほどの不安は感じられない。

「……また、終わったら説教よ」

「うげぇ!」

 悲鳴を上げる黒斗を擁護する気配はなかった。

 その気配がないのはこの場だけではないだろうことは、黒斗にも分かっていた。




 さきほど保健室にいた四人で歩く帰り道。

「そういや、悠治」

「どうしたの?」

「お前、昼間の学園長がやってたっていう通信魔術ってどうやれば出来るか、なんとなくでも分かるか?」

「ごめん、あの時は受け答えに精一杯で解析は全く……」

 黒斗の質問に、申し訳なさそうに応える。

『これのことか?』

「「えっ!?」」

 いきなり頭の中に彼方の声が響いた。しかもどうやら、黒斗と悠治同時にらしい。

「先輩、使えるんすか?」

「まぁ、風紀委員での報告とか連携には必要だからな」

 そう言って、簡潔に構築の仕方を説明される。

「イメージは糸電話だ。相手の頭に糸電話を繋げて伝える」

「相手に魔力を通す必要性があるが、ブロックさえされなければ基本相手と繋げられる」

「いいか?イメージは糸電話だ」

 やってみろ、と言うようにジェスチャーする。

「えっと、こうかな?」

『えっと、こうかな?』

「おぉ、届いた届いた」

 悠治が口に出した言葉と同じものが、コンマ数秒遅れで黒斗の脳内に聞こえてきた。

「でも悠治、口に出してたら意味がないからな」

 まぁ、最初はオレもやったけど、と苦笑しながら褒める。

「こう、か」

「……!」

 ドカッ!

 黒斗が魔力を組んだ途端、楓が顔を赤くして腹パンをおみまいした。

「ぐほぁ!」

 思わず膝を着く。だが、なぜかその顔には意地悪な笑顔があった。

「何を言ったんだい……?」

「いや、純粋な疑問をな……」

「……余計なことは言わなくていい」

 呆れる悠治にだけは耳打ちしようとしたが、ピシャリ、と止められる。

 その後は、黒斗と楓が牽制し合いながら、間に挟まれた悠治が冷や汗を流しながら、そして彼方がそんな様子に呆れながら木枯寮に到着した。

 ここでさらなる説教があるなどと、黒斗は一切考えずに。



 ちなみに、帰り途中で黒斗と楓がやっていたのは悠治に通信するのとそれを防ぐという意外と難易度の高い無駄な争いを繰り広げていた。

「さすがっすね、楓先輩。でもそこまで教えたくありません?彼方先輩と決闘したこと」

「……うるさい」

 寮に帰った後、他の人に聞こえないところで会話する二人。帰り道で聞いた内容を教えてほしいと言ったのだが、当の楓は拗ねた表情でこれを拒否。

 どうしても知られたくないらしい。

「あ、もしかしてその時に起こったことがきっかけで彼方先輩のこと――」

「……それ以上言ったら、燃やす」

 保健室に入ってきたものとは比べ物にならない圧力で黒斗を黙らせる。

 さすがの黒斗も再び楓の攻撃を食らいたくはないのか、それ以上は聞かなかった。

「……おやすみ」

「はい、おやすみなさい」

 プレッシャーでかいた汗を拭いてから黒斗は布団に入った。

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