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青春

 試合の後、保健室にて。

 黒斗は手厚い待遇を受けていた。

「……白門黒斗」

「黒斗くん、……ぐすっ」


「「いい加減にしなさい!」」


 具体的な内容は楓と絢芽の本気の説教である。

「えぇと、その……」

「……怪我をするなと、あれだけ言ったはず。その耳は飾り?それとも頭がかしら?」

「なんで、なんであそこまでやったの!?そんな怪我してまで続けていい訳ないでしょう!!」

 言い淀む黒斗に畳み掛けられる二人の言葉に何も言い返せなくなってしまう。

「……問題を起こすとか、そんなのいいから心配させることはしないで」

「黒斗くんに、黒斗くんにまで…ぐす。何かあったらもう嫌だよ!」

 悲しそうな楓とほとんど泣いてる絢芽に言葉を無くす。

(良くはねぇって思っちゃいたけど……こりゃホント馬鹿やったなぁ)

 自分の、自分たちのやったことは必要だった。それは疑いの余地がない。

 だが、ほんの少し後悔した。

「ごめん、本当にごめん。こんなやり方しか思い付かなかった」

「……反省しなさい」

「ぐすっ、謝ったって……許さないもん。絶対こんなことしないって約束して」

「あ~……善処はすっけど確約は――」

 ギロッ!!

 キッ!……フルフル

 片や殺気すら篭ってるように感じるプレッシャー。

 片やポロポロ涙を流して見つめてくる。

「すみません……」

 何て言うかもう、勝てない。

 静かに敗北宣言した。




 一方その頃、竜胆は。

「言わなくても分かるよね?竜胆さん」

「あたし的にはメッタメタに言ってやりたいけどね」

「いや、その……悠司どの、椿」

「何かな?」

「何よ?」

「何でもない……」

 やっぱりお説教を受けていた。

 しかも、黒斗のものとは大分違う。

 針の筵に座らされているようなプレッシャーがチクチクと竜胆を刺してくるのだ。

「あたしとしてはね、あそこまでやる必要はなかったと思うのよ。友達を大怪我させてまで続けて、取り返しがつかなくなったらどうするのよ?」

「だ、だが本気でやらねば他の魔法科に文句を言われるかもしれない上、真剣な黒斗にも悪いだろう?」

 正論の説教に、一応反論する。

「だろう、じゃないでしょう?竜胆さん、君たちが一体どれだけの人に心配かけたと思ってるの?」

 だが、それ以上の正論に反論出来ない。

「反省しなさいよ?」

「と、当然だ!」

 力一杯の言葉に、仕方ないといった様子でため息を吐く椿。

 それで今回は水に流すという雰囲気が伝わってきた。

「う~ん」

 しかし、悠司は難しい顔を崩さない。

「諸星崎?どうしたのよ」

「ゆ、悠司どの?」

 その様子に不安になる竜胆。

 竜胆としては、悠司に許してもらえないのは非常によろしくない。当然、他の皆にも許してほしいし、そうでないと困るのだが。

 悠司にだけは絶対に嫌われたくなかった。

「それじゃあ、僕のことをこれから呼び捨てで呼んでくれたら許してあげるよ」

「なっ!?」

 要求されたのは、何とも恥ずかしいものだった。

「ははーん。諸星崎、あんた中々やるじゃない」

「そうでもないよ?」

 ニヨニヨと笑う椿に軽く返す悠司。

 言われた竜胆は顔を真っ赤にしていた。

「ゆ、ゆゆゆゆゆ悠司っ!!」

 反省したか、と聞かれた時より随分と力が入っている。

 力一杯と言うよりは一杯一杯だった。

「うん、なんだい?」

 その様子を微笑ましく見守る。

「それと、椿も……その、本当にすまなかった!」

「だから、えと……これからも、よろしく頼む」

 その言葉を受けて、

「当ったり前でしょ?こっちこそよろしく、リン」

「こちらこそよろしくね、竜胆」

「はぅ!」

 悠司の意地悪な返しに爆発してしまった。

 微笑ましく笑われながら、竜胆の説教タイムは終了した。




「にゃ~、今頃二人ともお説教受けてるのかにゃ」

「あれ?猫屋さんじゃない」

 中庭でミケが黄昏ていると、春菜がやって来た。

「先生……」

「どうしたの?お見舞いとかお説教とか行かないの?」

「そういうのは絢ちんたちに任せるにゃ」

 言って空を仰ぐ。

「悩みごと?」

 問いかけに、こくん、と頷く。

「にゃ~、先生。魔法って何なのにゃ?」

 出された質問は、また難しいものだった。

「何って言われてもねぇ……」

「ミケは、もっと何て言うかにゃ……魔法ってもっともっとキラキラして、カッコよくて、何かスゴい!って感じだと思ってたのにゃ」

「けど、絢ちんは倒れるし、竜胆っちは喧嘩するし、モノクロくんは大怪我するし」

「このまま魔法を学んでいくのが正しいのか、本当にいいことなのか分かんなくなっちゃったのにゃ」

「ミケは……このまま進んでいいのかにゃ?」

「猫屋さん……」

 ミケの悩みは実はよくあるものだ。

 事故に遭って、今の自分が進んでいる道が正しいものか、このままでいいのか。

 毎年数人はこの手の相談に来る。実際に学校を辞めた者もいる。

 ミケも、その一人なのだ。

「その答えはね、酷かもしれないけど猫屋さん自身で見つけるしかないの」

「私たちの同期にもいたわよ。同じ悩みを抱えて、学校を辞めた人」

「そ、その人はどうなったのにゃ!?」

「この間、行ったでしょ?」

 優しく笑って言う春菜。その顔に、今日までの一件の、ある意味その発端となった会場を思い出した。

「にゃ!あの高級料亭!」

「正~解。正確には雅の旦那さんが、なんだけどね」

「にゃ~」

 意外と近くに自分と同じことを考えてた人間がいた。何だか複雑な、もやもやしたものが心に宿る。

「結局、何が正解なのにゃ……」

「分からないわ」

 すっきりしない回答に、表情もどんどん曇っていく。

「ただね、これからも魔法を扱う選択をするなら、その悩みは捨てちゃダメよ」

「にゃ?」

 諭すような言い方で、よく分からないことを言ってくる。

 そこを今悩んでいるのに、その悩みを過ぎても持ち続けろとはどういうことだ。

「常に現状に疑問を持ちなさい。それでもっと先へ、上へ、さらなる魔の奥へ(・・)進み続けるの」

「そうして初めて、魔の一端を知ることができるわ」

「なんだったら、そこで魔と関わるのをやめる選択をしてもいいのよ」

「つまり、今は続けろってことかにゃ?」

 その言葉に、春菜は首を横に振る。ミケの疑問はますます深まる。

「嫌なら嫌でいいの。でも少なくとも今、猫屋さんは魔法が危ないものだって知ってる」

「魔法を色んな視点、価値観で見られてる」

「なら、一度進んでみるのも手」

「離脱して別の道を行くのも手」

「ぶっちゃけ、好きにしなさいってことよ」

 笑顔で言う春菜だが、疑問が晴れないミケ。

「にゃ~……」

 空を仰いだまま、ベンチに倒れて寝転がる。

「ままならないにゃ~」

 このまま進んでいいのか分からない。

 しかし、立ち止まるわけにはいかない。

「意外とみんな、そんなもんよ」

 気楽に言う春菜だが、その声には少し寂しそうなものが混じっている気がした。



 小さな魔術師たちは過ごす。悩みながら、転びながら進んでいく。

 少年少女たちは、止まることはなく。

 時にぶつかり合って、でも寄り添って並んでいく。

 そんな青春を感じる夕方過ぎの放課後だった。

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