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09 怒れるサポートキャラ 【後編】

前編・後編と、2話同時更新です。

サポートキャラ(中藤愛)の仕事は、ヒロインに対象攻略者の好感度や誕生日などを教えるのがその役目。



――でも、ゲームが終わったら?





(フラフラする)



教室に戻る途中の廊下。



私の横を、元攻略対象者の清流の三つ子のうちの2人が歩いて行った。

会話の端々が耳に届く「ま…ちゃん」「逃げ…だ…んだ」


ブワリと背筋が凍る。


白兼会長は?

清流の三つ子は?

緑川は?

赤松先生は?


ゲームで、ヒロインと結ばれなかった“攻略対象者たち”はこの後どうなるの?

――“私”はどうなるの?




予鈴の音がして、私は早足で教室に向かった。







教室の前で、葵が誰かと話している。


この感じ。

デジャブ。


予感は当たるもので、今朝と同じ…赤松がそこに居た。


私は二人に隠れて、様子を伺う。


「赤…先生……で、…」

「………愛……だろ」


声が聞き取れない。

まだ、周りが騒がしいのもあるし、二人が小声で話しているのもある。


「中藤さん、教室にはいらないの?」

「!!!」


ドキッ!!


振り向くと、そこには緑川の姿が。

眉目麗しい姿で、微笑んでいた。


(はぁ…今日は、色々脅かされる日なのか。精神年齢的にきつい日だわ)


思わず顔が引きつってしまった。

緑川も、私の目線の先に気付いて、何やら面白そうな顔をする。


「あ、吉水さんと赤松先生だ。何話しているんだろ?」

「さぁ、古典の質問とか?」

「受け持ちじゃないのに?」

「……」


緑川は今度は違った笑みをして、私に質問を投げかけた。

私は、さも気にもなりませんという風を装ったが…次の緑川の言葉に背中に冷たい汗が流れた。


「…中藤さんって………前世って信じる?」

「!! …な…に? 昨日のテレビの話?」

「そ、テレビの話」


ドドドドドド

うるさい。

心臓が耳の横でなっているみたい。


腕を組み、顎に手をやった緑川が私の顔を覗き込んで再度微笑んだ。

端麗な顔が、酷く歪んで見える。


「新しい人生のシナリオが元から決められていたら…それって、ぶっ潰したくならない?」

「……」

「一人だけ、勝った気でいるなんて、ムカつくんだよな、僕。中藤さんは、そうは思わない?」

「よくわからないんだけど…」

「…中藤さんと吉水さんって、仲が良いよね。タイプは全然違うのに。それって、始めから決められていたんじゃないの?」

「葵と私は親友で」

「そうだね。シナリオ(・・・・)終わる(・・・)までは、そうだったね」


緑川が、葵を。

そして、二人が私たちを見た。


二人の視線は、冷たいもので…


私は、乙女ゲームのサポートキャラ ――ヒロインに対象攻略者の好感度や誕生日などを教えるのがその役目…それが終わったら??



交差する視線。


ぐらりと揺れた地面。



ああ。







ま っ く ら 。










***







ブチブチブチッ


髪が何本か切れる音がする。



痛い。

痛い。



鷲掴みされた髪は、私の顔を歪ませ…目の前に狂喜を孕んだあいつ(・・・)の顔が。



「あーーいーー」



どうして、こうなった?


何が、間違っていた?







―――世界は冒頭に戻る。







「せ…先生……痛いんですけど…」


パチンと頬を叩かれ、髪を持ち上げられ、無理矢理起こされた上半身を片手で髪を抑え、片手で身体を支えた。


「愛? 起きた? ダメだろ? 緑川なんかと二人で話して。俺が気づかなかったら、今頃あいつにここまで運ばれいてたんだぞぉ?」

「…何を…言って…?」

「やっと時間が出来て、来てやったらお前は何も知らぬ顔して呑気に寝てやがる。昼休みは白兼と見つめ合っていたな。俺をこれだけ傷つけて。ダメだろぉ? ダメだろぉ?」

「せん…せ…い、離して、痛い!!」


右足で勢いよく赤松の身体を蹴り、無理矢理、身体を引き剥がす。



ブチブチブチブチ!!!


「くっ…」


痛い! ハゲる! ハゲる!!


その痛みのお陰で、覚醒し、状況を判断する為に部屋を見渡す。


白いカーテン。

消毒液の匂い…。

夕日が、部屋をオレンジ色に染めて、遠くで運動部の声がする。


(…また保健室?…放課後…?)


私はベッドの上で寝ていた所、赤松が無理矢理髪をひっぱり起こした所だったようで。


蹴りから起き上がった赤松の右手には何十本もの、髪の毛が絡まっていて、それを口元に持っていき「スーーー」と息を吸い込んでいる。その瞳は酷く濁っていた。


「愛の匂いだ」

「…何やってんですか?」


(気持ち悪い)


「俺、今まで愛に優しすぎた。それを反省してるわけ?」

「はぁ?」

「ほらぁ? 躾だよ。躾。愛には教えてやらないとな? 誰が、一番、な の か を」


絡まった髪を、ハラハラと床に落とし、一歩、私に近づいた。

午前中、私が整えた赤松のネクタイが、再度、緩められていく……


シュルッ


両手でネクタイの端と端を持って、何をしようとしているの?

ベッドを挟んでの対面。赤松の方向に出入り口の扉。私の後ろは窓。絶体絶命。


「近づかないで!! 暴力教師! 教育委員会に訴えてやる!」

「訴えてどうする? 俺を首にさせる? そうしたら、俺はもっと自由だ。もっと、愛に教育(・・)できるよな?」


(この男…何を言っているの!!)


ボサボサにされた頭を抱えたくなる。


赤松は私を見下ろしながら、ベッドサイドに足をかけて、手を前にやり私を捕まえようとする。


(ネクタイを…私の首にかけようとしていない?)


私は窓際ギリギリまで、身体をそらして、なんとか距離をとった。



「躾? 教育? 例えば?」

「愛が俺の事を理解するまで、縛るのもいい。切り刻むのもいい。 俺しか見えない様にしてやる。まずは身体に覚え込ませる。縛らなくても心をずっと縛られたままにしてやる。快感に沈めてやる。俺の付けた傷を付けた愛なんて、最高じゃないか。死なない程度に、愛してやる」



ああ。

こいつは。

もう、どうしようもない。


――プツン


キレた。


「子育てもした事もない若造が……、何、己の性癖を17歳そこらのか弱い子供に押し付けてんだよっ!!」


「……愛?」


(イライラする! 本当に、イライラする!)


「躾? 教育? 愛情? そういうものはねっ! 支配しようとしてするもんじゃない!」

 

一瞬、動きが止まった赤松をベッドにあった枕で叩きつけた。



ボスン!


「何が縛ってやるだ! 切り刻むだ! 犯罪者になる気か! 馬鹿者!! その腐った性根を叩き直してやる!!」



ボスン! 

ボスン! 

ボスン!



枕の間抜けな音が憎らしい。

この、屈折愛情破綻者(ヤンデレ)は、野放しにしては世間様に迷惑がかかる。

ここで、叩き直してやらなければ!


なぜか強く感じた使命感。

体格差がなければ、お尻もペンペンしてやりたい。


「フッ」

「!!」

「ハハハハハハハハハッ!!!」


私に枕で叩かれながらも、笑い出す赤松。

しまった、強く叩きすぎたか?!


「ああ、その目!! その目だよ! お前は生徒のくせに、悟りきったような目をして、俺らを見ていた。いいねぇ。ゾクゾクくる。従わせてやりたくなる。 跪かせてやりたくなる。 壊してやりたくなる」

「変態」

「なんとでも」

「私が躾しなおしてやるから」

「へぇ…ありがたいね」 

「……どうして、私になったの?」

「ん?」

「先生の相手は、本当は私じゃなかったでしょ?」

「もしかして、……吉水の事を言っているのか?」

「………」

「あいつは順応でいいな。でも、所詮それだけだ。まぁ、お前に会わせてくれたのは吉水だからな。その点は感謝している。でないと、何も接点もないお前を知るなんて出来なかったし、吉水には、色々とサポート(・・・・)してもらったよ」



(サポート?)



――『中藤さん。中藤さんはどうして、赤松先生と面識があるの?』


そうだ。


赤松は3年の担当。

赤松は生徒会の顧問で、白兼会長経由で葵と知り合う。…生徒会活動もなにもしていない2年生の私とは、接点がなかったはず…。

なのに、葵を通じて…赤松と話すようになって?



――『吉水さん(ヒロイン)には気をつけて』


――『…中藤さんと吉水さんって、仲が良いよね。タイプは全然違うのに。それって、始めから決められていたんじゃない?』



はは。



とんだ茶番。


とんだ道化。


二人してヒロインの手の平の上じゃない。


「絶対に、従わない」


私は改めて、目の前の元攻略対象者―赤松を睨みつけた。



「卒業までは、手を出さないでやるよ。先生の情けだ。でも、おいたが過ぎると…わかるよな?」

「おいたって? 例えば?」

「そうだな。 俺以外の奴と話さない。触らない。近くに寄らない。ああ、特別サービスで、女友達の吉水だけは話していいぞ? 俺は優しいからな」

「明日から、学校中の男子と仲良くしよっと。ボディータッチとかしまくって、ビッチになってやる」

「殺されたいのか?」

「…言ってみただけです。それに、恋人でもない人に束縛される云われはありませんし、そんな戯言、守るつもりはないから」

「俺が決めた。お前に拒否権はないけど? お前の身体も声も全て俺の物だ。泣き顔も、恐怖する顔も、喘ぐ姿も、全部、全部、全部、ぜーーーんぶ、俺の物だ」


(この、エロエロ暴力系俺様が!!)


凄んで睨むと、また赤松は愉快そうに笑った。

それに、一緒になって笑ってやった。


ははははははは。


「本当、バカみたい」

「何だ? 早くこっちに来い。今なら優しくしてやるぞ?」


(ピンと張ったネクタイを持ったまま、言うセリフじゃないと思いますけど)


背中にある窓の鍵に手をやり、――開けた。



ガラッ



「愛? ここは2階だぞ?」

「先生? 知ってます?」


私がサポートキャラとして、この世界が娘がやっていたゲームだと気付いた時、何も対策をとらないとでも思った?

敵はヒロインを狙う変質者(ヤンデレ)。ヒロインに危害を加えるなんて許さない。

前の世界では娘を置いて死んでしまい…失意の私は決意した。転生して葵の『サポートキャラ』になったのも、天が私に与えてくださった使命なのだから。ヒロインを護ろうと色々な対策を練って身体を鍛えて…来るべき時に備えていた。



………全ては、ヒロインの為だったんだけどな…。



自称気味な笑を浮かべて、前世の…思春期の娘を持った親の気持ちを思い出していた。


(まぁ、親の気持ち子知らずって事で。悪い子にはちゃんと()をしなきゃね)


「私、運動神経はいいんですよ?」


私は目の前の赤松(元攻略対象者)に、宣戦布告した。



「絶対、捕まってやらない」



窓枠に足をかけて、悠々と飛び降りた。




「愛!!!」



慌てて、窓に駆け寄る赤松を背に、近くにあった、出っ張りを利用して、無事に着地する。


「ふうぅ」


見上げて見えるのは、私を見下ろす赤松の甘く…濁った瞳。


ぞわぞわぞわ。

ブルブルっと震えた身体をさすった後、校舎に背を向けて歩き出した。


「ああ、嫌だ」


卒業まで、まだ1年以上ある。

それまで赤松に私が捕まるか、私が逃げきれるか。それとも……。



ポケットに入れていた携帯を取り出して、電話帳を開き、電話をかけた。


《トゥッ トゥッ トゥッ……トゥルルルルルル…》


無機質な呼び出し音が耳に響く。



―――さて、葵。


()攻略のサポートなんて、うん十年も早い事を教えてあげる。


 ――きっちりと、話を聞かせてもらうからね。







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