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そんな第三者からどう見ても会話と呼べぬやり取りをしたのは30分程前。そしてそうこうするうちに鬼のスタート時間が近づき、それに伴い少年たちの眼つきが変わる。
狂楽を宿した瞳...そんな目を見てしまったらどうやって逃げ切るか考えるしかない。――ただし、追いかけられながら、だが。
「――へぇー、結構しぶといね。あれだけスタートが遅れたのにも関わらず逃げること逃げること」
「だな。それに見てみろ。あの反射神経に体術。掠り傷ひとつ負ってねぇぞ?」
「ホントホント。ひょっとしてマコに絡んでたって奴らも弱かったなんてホントは嘘なんじゃない?」
「ありえるな。にしてもこれに知能も加われば完璧に幹部クラスじゃねぇ?」
そんな彼らが必死に逃げ回るあたしの姿を高みの見物しながら分析していたなんて全く知る由もないし、
「あれ? そう言えばうちの総長さまはどこに居んだ?」
「さぁ? いつものとこじゃねぇ?」
「だな」
なんて思い出したように呟く〝Phantom〟幹部たちなんて尚更知るわけが無い。しかもやはり暴走族の兵隊だけあってしぶとい。てか、明らかに他のクラスの奴ら混じってね?
ぶつぶつと悪態を付きながらもあたしは兎に角2階へと駆け上がる。にしても3時間も逃げ続けるなんて、そんな面倒な事...もとい、体力的に無理だしどこかで時間を潰す事にしよう。うん、そうしよう。あ、でもどこで時間を潰そう。
逃げながら考え付いた場所は朝にお邪魔した理事長室。幸い理事長室はこの2階にある。なら...
「さっさと、逃げ込むとしよか」
進路を一路理事長室へと定め、廊下を走って行くあたしの耳に不意に自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
鬼たちには名を呼ばれることが無かった為、思わず立ち止まりきょろきょろ見渡す。すると再度呼ばれ...
「真琴?! ここって真琴のクラスなのか?」
「そうです。ここは僕のクラスです。それはそうと晶さん。晶さんは一体何をしてるんですか?」
真琴が後方にある教室の出入り口からひょっこりと姿を現して晶の名を呼んでいたのだった。
「あー、鬼ごっこ?」
「鬼ごっ...もしかして晶さん。1-Aに転入したんですか?!」
「うん、そう。つうかこいつらキリが無いから理事長室で時間を潰そうかと思うんだけど」
「...本当にキリが無いようですね」
真琴と立ち話をしているが相も変わらず〝Phantom〟の兵隊たちは襲って来ていた。側にいる真琴に被害が及ばぬよう気をつけながら相手をしていたがそのうちの一人がナイフを取り出した。
ナイフを取り出した男は一直線にあたし目掛けて襲い掛かって来る。
そしてあたしと真琴は縦に並んで会話をしていた為、ここで避ければ真琴が傷を負う事になるかもしれないことに思い至った訳で...それは勘弁してほしい。
そう結論付けたあたしはナイフを持つ男目掛けて足を蹴り出した。