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中学1年の時に親代わりに育ててくれた叔父が死んだ。天涯孤独となったあたしは日々の糧を得るためにバイトに勤しんでいたが客とのトラブルでそのバイトを首になったその帰り道、歩道で蹲る老人を見つけた。高級そうな木で出来た杖に濃紺の着物。老人が纏うオーラが堅気の人間ではないことを醸し出している。
そんな人間の側には誰かが居るものと思い周りを見渡すが、それらしい人間はいない。しかもその老人は一刻も争うような状態だ。叔父を見殺しにされたあたしはそれを見過ごすことが出来ない。だから……
『――大丈夫ですか?』
声を掛けながら近づいた。
『く...薬が......』
『薬があるんですね? どこにあるんですか?』
震える手で老人は自分の懐を探るが肝心の薬が取り出せない。見かねたあたしは一声断りを入れるとその老人の手の上から同じように差し込んだ。その指先に触れるは伝わる冷たい感覚。手探りで形を確かめるとそれは薬ではなく身を守ることも人を殺すことも出来る道具だと気づいた。
それでもそれに臆する事もなくそのまま懐を探り続けた結果、小さなビンを取り出す。そしてそれを確認できるように持ち上げるとその老人は軽く肯いて見せ、更に小さな声で2粒と呟いた。
言われた通り薬を取り出し意識が混濁してきた老人の口に半ば無理やり放り込む。そのまま老人の身体を支えながら喉に詰まらぬように気を付けながら持っていたミネラルウォーターで薬を嚥下させる。程無くしてから目に見えて落ち着いてきた老人に安堵の息を吐いたその直後、
『――てめぇ、そこで何してやがる』
殺気を伴った低い声が頭上から降って来た。それと同時に髪を鷲掴みにされる。そして痛みに呻く間も無くその声の男によって下を向いていた顔が無理やり上を向かされた。
痛みに呻くあたしを冷たい瞳で見下ろす男。
『事の返答の次第によっちゃあ、どうなるか分かってんだろうな?』
満面の笑みを浮かべているが瞳の奥は笑ってない。所謂、黒い笑みと呼ばれる類のものである。
『...これやめんか龍。その坊主はワシを助けてくれた恩人じゃわい』
先程から上体を起こした老人が龍と呼んだ男に鋭い視線を向けてそう言い放つ。すると『龍』と呼ばれた男は掴んでいたあたしの髪を忌々しそうに舌打ちしながら突き飛ばすように放つ。釈然としないが取り合えずは...
『...どうやら知り合いもいらっしゃったようですし、あたしはもう行きますね』
散らかった荷物を纏めながらお爺さんにここを去ることを告げた途端、
『『...は? ...女?』』
心底吃驚した顔の老人と鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした龍でそう聞き返された。かなり失礼なやつらだ。
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「――おまえ、一体なに考えてやがる?」