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「――ところで先生、俺のクラスは?」
廊下を歩きながらいい加減、知っていてもおかしくない事を健吾に聞く。そんな問いに健吾は顔だけこちらに向け片方の眉をクイッとあげて見せる。
その様に苛立ちを感じるが再び呪文のように自分に言い聞かせて心を落ち着かせる。
「お前はAクラスだ。Aクラスはこの先の一番最後の部屋でな、亮も言っていたように族の総長たちがいる」
「その暴走族の名前を聞いてもいいですか?」
そんなあたしの質問に答えてくれた健吾は最後には、やはりニヤリと笑って見せる。ひょっとしてそういう風に笑うのは健吾の癖なんだろうか?
「...そんでここが教室だ。俺が先に入るがお前は呼ばれてから入って来いよ?」
「分かりました。なるべく普通に呼んでください。ちなみに変なアドリブはごめんです。」
目当ての教室のドアの前で静かに話すが教室からの雑音で良く聞こえない。心元、自分の声が大きくなったような気もする。
「...なんかそんな事があったような言い方だな?」
「えぇまぁ...昔のことですが」
チラリと健吾から視線を外したあたしは一先ず大きく息を吸ってゆっくりと吐く。そして再度健吾を見る。これ以上を何も突っ込んでくるな、と言う意味を込めて...そしてその思いが伝わったのか何も言わずに健吾は教室のドアを開けて中に入る。
「おい、おまえら! いい加減席に着けッ! 今日は転校生が居るぞッ!!」
持っていた出欠簿で教卓を叩くなり健吾は周りを見渡しながらそう怒鳴った。
「転校生? そいつどんな感じ?」
「まぁこのクラスに来るって事はそこそこ強いんだろけど」
「それはマコに聞け。そいつ、絡まれたマコを助けたってことだから」
教室内の生徒たちがそれぞれ口にした問いに、心底どうでもよさげに答えた健吾だったが更に質問が飛んで来た。
「へぇー、何時?」
「一週間くらい前だそうだ」
「護衛の奴らと逸れた日か?」
「他に無いんなら多分そうなんだろう」
「ふーん。で、当の転校生は一体何時になったら入って来んだ?」
「おっと、そうだった。まぁお前ら、兵藤をどうするかは見て決めろ。あ、ちなみにバックには東海林兄弟が付いてるからな? あぁ、兵藤、入って来い」
健吾と生徒たちによるそんな言葉のやり取りの最後に、やっと名前を呼ばれてあたしは教室に入る。そして中に入るなり健吾に視線を向ける。
―先生。変な紹介しないで下さい、ってお願いしたはずですよね?
―あ? 俺は別に了承なんてしてないぜ?
なんて知り合って間もないのに目で会話しあう事数十秒。あたしは視線の矛先を無理やり健吾から生徒たちへと変える。
教室内の生徒の中で特に異彩を放つ数人の少年たちを目にするも、取りあえずは転校生らしく自己紹介を始めた。
「――飯岡高校から特待生として転校して来た兵藤晶です。それと助けたと言っても相手がそれほど強くなかったのと護身術で武道を少々かじっていた為に出来た事なのであまり過度の期待はしないで下さい」
目を細めながら視線を教室内に滑らせたあたしは最後に健吾を見る。
「で、先生。俺の席はどこです?」
「空いてる席ならどこでもいいぞ」
つうか空いてる席ってありすぎなんですけど。なんでこんなに空いてんの? そんな疑問が顔に出ていたらしく異質な少年の一人が答えてくれた。
185はあるんじゃないかと思われる身長にシンプルスパイキーの灰褐色の髪。瞳の色はカラコンによる灰色でスッと通った鼻筋に形の良い薄い唇が愉快そうに弧を描く。
「俺たちの役に立たないヤツは要らない。さて、あんたはどっちだ?」
その少年が醸し出す色気に一瞬、クラッときたが視界を遮断し心を落ち着かせる。瞼に映るは先程の少年の妖艶な笑み。けれどその瞳の奥は笑っていない。