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「は、ははッ...あははっ。ダメ...だ腹、痛ぇーー......」
顎が外れるんじゃないかと思うほど大口を開けて爆笑する理事長...ええもう身を捩りながら。まぁ、終いには咽てましたけど。しかも最後の方、口調変わってますよ?
そんな中、何か言いたいのか現れた青年があたしを見る。見るって言うよりも睨んでるって方が正しいのかもしれない。
「お前が征次の言っていた兵藤晶か?」
『征次』と呼び捨てにしているあたり、この人も理事長同様に征次(この際呼び捨てでいいや)の知り合いなんだろう。
「えーと、あなたが俺の担任になるんですか?」
「ああ、そうだ。俺の名は早坂健吾。マコを不良から助けたんだって? なら俺のクラスでも十分やっていけるな」
「なんですか先生。その裏を含んだ言い方って...」
明らかに何かを含んだ健吾の言い方に背中が薄ら寒くなり、自ずと体が後退する。
「健吾と俺と征次は中学からの悪友でね。ちょっと...いやかなりやんちゃをしてたんだよ」
そして頼みもしないのにここぞとばかりに昔を語りだした理事長。
「君の事は俺同様に征次に言われてるはずだから大丈夫。クラスの奴らには健吾が釘を刺すはずだし...まぁ、君が巻き込まれる事は無いはずだ」
「すいません。なんか聞き捨てなら無い物騒な話しが...」
「実は君のクラスには暴走族の総長たちが居てね。まぁ、俺たちの後輩なんだけど」
「こいつが副で俺が特攻隊長。で、征次が総長だ」
先生、説明ありがとうございます。確かにあの綺麗な顔で凄まれたら怖いかもしれません。これからはいくら心の中でも呼び捨ては止めます。
「そう言えば俺、まだ理事長の名前って聞いてませんね」
「そう言えばそうだね。...俺の名前は高峰亮。《たかみねとおる》それと俺たちだけの時は無理に一人称を変えなくていいよ」
「ああ、無理に変えることはねぇさ」
いつの間にかディスクに腰を下ろしていた先生...健吾は長い足を優雅に組みながら呑気にタバコを吸っている。しかも口から吐き出した煙で輪っか作ってるし...ってそう言えばあんた、何の為にここに来たんだっけ? 確か亮さんに呼ばれて来たはずなのに。
しかも呼んだ亮さんも亮さんでなんで呼んだんだか忘れてない?
「あぁー、ところで理事長。あたし何時までここに居ればいいんですか?」
「「あ、忘れてた!!」」
心底忘れていたようで亮さんは本当に申し訳なさそうに謝罪してくるのだが、健吾はニヤニヤと厭な笑みを浮かべている上に軽い口調の謝罪...自分が悪いなんてちっとも思っていないことが見て取れる健吾になんか腹が立ってくる。けど、相手は教師。ヤクザの姿だろうが一応は教師。ここは一先ず大人しくしていよう。そう、たとえ心の中でどんなに呼び捨てにしようがどんなに罵ろうが声にはしない。
ここは学校、あいつは先生。そんでもってあたしは生徒...うん、OK、OK、大丈夫。落ちついた。
「それじゃぁ健吾、そろそろ兵藤くんを教室に連れて行ってあげてくれ」
いい加減授業が終わり掛けている事に気づいた亮さんに促されたことによってなのか、はたまた煙草が吸い終わったからなのかは分からないが健吾はやっとあたしを教室まで連れて行ってくれる気になったようだ。