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学園に向かうために乗った車はシルバーのクラウン。しかもハイブリット車の本革使用。しかも煙草臭い。主人...まぁ真琴の事だが、その主人が居る中で黒服連中はタバコは吸わないだろうし征次さんも吸ってはいなかった。となればニオイの元と長時間一緒に居た、と言う事になるが...
そんなどうでもいいような思考に囚われている間に車は学園に着いたようだった。しかも、
「――は? 真琴って年上だったの?」
無駄にデカく大きな煉瓦造りの門から無事に昇降口まで辿り着いたあたしだったが思わず穴が開くんじゃないかと言うほど真琴を見つめていた。だってこの容姿でひとつ上って...年齢詐称?
「あ、迷わないように僕の後をちゃんと着いて来て下さいね?」
可愛らしく小首を傾げながら更にそう続ける真琴。女のあたしより女の子っぽい姿。やだなぁ、男子に女子力で負けるなんて...スゴク居た堪れないんだが...。
「――で、晶さん。ここが理事長室だよ」
どうやらひとり悶々としている内に目的である理事長室へと到着していたようだ。
「サンキュー真琴。後は大丈夫だから教室に戻りな」
「うん分かった。じゃあ僕もう戻るね。それとお昼は食堂まで案内してあげるね。晶さんのクラスが今は分かんなくても直ぐに分かるから。だから一緒に行こうね」
にこにこと微笑む真琴。しかしあれだな。直ぐに教室が分かると言うのは転校生は目立つと言う事なのだろか。出来れば目立ちたくないのだが...まぁ兎に角、
「えーと、失礼します。転校して来た兵藤でー...」
ネガティブ思考のままドアを開けたあたしは簡潔に自身の名を名乗るはずだった。なのに言葉尻は途切れてしまった上、乱雑に積み上げられた書類が崩れ落ちないようにと必死になって抑えている男と目が合ってしまい、従って思わず『手伝いましょうか?』と言う言葉が...そしてそんな言葉を漏らしたあたしに男は...理事長は地獄で仏に会ったような、ホントにひどくホッとした顔をして見せるのだった。
*** ***
崩れ落ち掛けていた書類を纏めてディスクの端に置くその際、理事長が安堵の吐息を吐きながら椅子にドサリと腰掛けるのが見えた。
「いやー、助かったよ兵藤くん。あのままだったら確実に落ちてた」
「別に礼を言われるような事はしてませんし。それより、征次さんと話しが付いてるとの事ですが...」
「ああ、君は特待生として転校して来たって事になってる。それでね、この学園には特待生用のマンションがあって特待生は皆そこに住むんだけど生憎、そのマンションの住人は君1人になってしまうんだ...」
すみません理事長。それはそれで非常に助かるんですが...。
「まあ兎に角、君の事は出来るだけバックアップしてあげるよ」
「...はぁ、よろしくお願いします」
「うん、それじゃぁ担任を呼ぶから兵藤くんはそこに座って待っててくれるかい?」
「あ、そう言えば俺って本名で大丈夫なんですか?」
「ああ、漢字もそのままでOKだ。それにその容姿も問題ない。毛先を遊ばせたショートの黒髪。そして凹凸のない身体は何処からどう見ても見ても立派な男子生徒だ」
「征次さんといい理事長といい...人にケンカ売ってます?」
「ははは、まさか...ソンナ積モリハ全然無イヨ」
視線を逸らしながら片言で否定する理事長に『じゃあどう言うつもりだ』と突っ込みを入れようとした所でドアがノックされ、一人の青年が入って来た。そう、入って来たのだが...
「あー、理事長? 職業に貴賤は無いとは言いますが、ヤクザを教師として雇うのはどうかと...」
入って来た人物の容姿を見るなりそう呟いた瞬間、部屋の中に理事長の笑い声が響き渡った。