prologue
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――春、と言うにはまだ肌寒い頃。見通しの悪いカーブを猛スピードの上、横一列で走行する無数のバイクと数台の車。そして運悪くその場に居合わせた対向車はそんな状態の走行車を避け切ることも出来ずに道路沿いの大木に激突した。激しい衝撃音と爆風、そして壊れてしまったクラクションが辺りを無情に包み込む。
「あ~あ、やっちゃったよ。どうする? レン」
無数のバイクと車は何時しか路上に止まっておりその中央にある一台の車の中から銀色の髪をした一人の青年が紫煙を燻らせながら姿を現した。
「...息はしてんのか? シン」
同じく車の中からレンと呼ばれた冷めた瞳をした少年が『シン』と呼んだ少年の側に近づき声をかける。
「さぁね。で、どうする?」
「『何がどうする?』だ。これが初めてって分けじゃねぇんだろうが...どうするかなんて分かり切ってんだろう」
「やだなぁ。確認の意味で聞いただけだよ」
なにが楽しいのかカラカラと笑い声を上げるシン。そしてレンと呼ばれた少年は歪んだ車体と粉々になったフロントガラスにちらりと視線を向け、僅かながらに顔を歪ませていたがその歪みはわずか数秒で消え、無表情へと変わる。
暫くレンはそのまま眺めていたが急に向きを変え、乗っていた車へと戻り始めた。そしてその後をやはり笑いながらシンが付き従うようにして乗り込む。惨劇の場に無情に響くエンジン音が合図となり、無数のバイクは爆音を轟かせながら次々と何事も無かったようにその場を走り去る。
そんな彼らの去り際に見えた赤い軌跡はバイクなどのテールランプ等ではなく別の、もっと小さな何かを抛ったような...
翌日、【暴走族の暴走行為に巻き込まれた車の運転手と同乗していた女性が死亡した】という記事が小さな新聞欄を飾った。