ストーカーの作り方
ある日、東京に向かう電車の中で僕はある女性に出会った。
完璧だった、間違いなく完璧だった。
なんというか、その女性に対して、何か文句をつけることができない。それほどその女性は完璧だった。
もちろん、僕にとってはという意味だけど。
そりゃあ、一目見かけただけだから、話したこともない訳だし、どんな声なのかも知らない。
外見上の話だ。
彼女の目、耳、口、髪型、ファッション、体型、身長、指の形。
とにかく目に見える部分は僕の理想の中のド真ん中を突いてきた。
この女性が例え、魔女のような性格でも、または家庭環境に複雑な問題があろうとも、莫大な借金を抱えていようとも、僕は全く問題にしないで、サラッと流して、彼女を受け入れられると思った。
むしろ、他の男じゃ参ってしまうような、何か大きな問題が彼女の身に起こっていればいいのにと思った。
彼女は、電車の長い座席に座っている。僕は彼女の斜め前に立っていた。
彼女がチラリと僕を見た。でもそれは特別なものではなくて、ありふれた視線だった。
彼女に釘付けになっていた僕は、一瞬にして、胸がドクンっていうのわかった。顔が熱くなって、脂汗が噴き出した。
彼女に見られていた数秒間、顔に力が入りすぎて、普通の顔ができなかったと思う。
名前もしらない彼女に変な顔を見られてしまったかもしれないという思いが、また顔を熱くした。
一駅一駅、到着を知らせる車内アナウンスが流れるたび、彼女が降りていってしまうのではないかという不安に、ハラハラした。
彼女をのがしたくなかった。
頭を中で、どうしたら彼女をのがさないようにできるか、必死で考えた。
彼女が降りた時に僕も降りて、正直に
「一目惚れしてしまいました」
って言おうか。
うーん、なんかナンパ野郎にしか思われなさそうだからダメだ。
じゃあ、小さなメモに
「可愛いですね、友達になってください。」
って携帯の番号でもつけとくか。
だめだ、これもメモ捨てられて終わりだ。
第一、見知らぬ男にいきなりこんなことされたら、キモがられるだけだ。
俺には彼女に話しかけるチャンスすらないのか。
話せなくてもいい。今日会ったのが最初で最後で、もう永遠に彼女に会えないってのだけは絶対に嫌だ。
そうだ、卑怯かもしれないけど、彼女のあとをついて行って家を突き止めよう。そうすればいつでも彼女に会える。
よし、完璧だ。