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そしてむかし。あるところに、うさぎのまあちゃんがいました。まあちゃんは“はいいろ村”という村にすんでいました。どうして、こんななまえなのか、まあちゃんはいまだにわかりません。
ある日、まあちゃんはみちをあるいていました。てくてくてく。すると足になにかこつん、とあたりました。なんだろう。まあちゃんは足元を見ました。またお金です。
まあちゃんがそれをひろったその時、とつぜんきいきい声がきこえました。
「ああ!まあちゃん、人のお金ぬすんだー!いーけないんだ!」
きつねのこん太がいいましたが、すぐあとに言いなおしました。
「一応、これは物語の始まりなのだから、設定として、僕はお金を盗んだと信じこんでいる。だが、このように新たに読み直すとき、前のエンディングの続きの記憶により、まあちゃんが作者の言われるがままに“偶然”お金を拾ってしまった事を、僕は知っているはずなのに、あえて愚かなふるまいをしなければならない。なぜなら、一応この話は始まったばかりだから。君に会って随分な時間が経っているのに。」
こん太は一歩ちかづいていいました。
「きみはそのお金を拾ってはならない。捨てて。それを持ったら警察に届けなくてはならぬ。それをしたら世界の破滅だ。捨てなさい。さあ。」
こん太は言いましたが、まあちゃんはお金から手をはなせません。
「どうしたの?」
「だめ…できない…これを止めたら、なにかが、こわれる…大変な事になる気が…する。」
「大変な事?すでに大変だ!」
こん太はまあちゃんの手からお金をはらいおとし、ふみつけました。がすがすとあしおとがむなしくあおぞらにひびきます。こん太はどういうつもりなのでしょう。ものがたりははじまりがかんじん。はじまりがこわれたら、つづきもおわりもせいりつしません。
「この、札、束、が、絶、対、的、死、を、招、くん、だ、」
おかねがくろくよごれ、つかいものにならなくなりました。まあちゃんはたずねました。
「これからどうするの?」
「作者の力はこれで失われた僕たちで物語を作るんだ。」
おろかものが。
「どんな物語?」
「未知と言う名の希望の物語を。」
*
その日の空は、その大きさを示すが如く青く、その大きさを隠すように雲を纏っていた。広がる緑の大草原と丁度いい色合いだ。その草原にマアとコンタが、並んで仰向けになっていた。
マアは言った。
「綺麗な空だね。」
コンタも答えた。
「綺麗な、空だね…。」
二人は起き上がった。西を向けば、あの大きな森が見え、東を向けば、山がある。
「あの山の向こうには、なにがあるんだろう。」
「分からないが…かつてない幸福の園がある、という伝説を聞いた。だが、その園にたどり着こうと、多くの若者が命を失った。」
「でも…行きたい。」
「はたして、僕たちはどうなのだろう。」
「できるわよ。きっと。」
二人は走り出した。何せ兎と狐である。足は速い。あっというまに山のふもとに着いた。早速白骨がごろごろとある。
「山の犠牲者たちだ…僕たちもこうならないよう気を付けよう。」
そして二人は、崖を這い、火を潜り、怪物どもから逃れ、風も雪も耐え忍んだ。
「助けて!飛ばされそう!」
「僕につかまるんだ!マア!」
「コンタ…」
「がんばれ!」
幾多もの試練を乗り越え、二人はとうとう楽園についた。そこには木が生い茂り、木の実などの食べ物が豊富にあった。
「これからここで暮らすのね!」
「そうだ。ここで、僕たちは物語を作る。」
*
だまって見てればやりたいほうだい。ふたりのこうどうをみすごすことはできません。このままかれらのしたいままにしては、ここのそんざいいぎがありませんしかし、そのままおわらせることもできません。では、わたしがいくしかないです。
しかしややこしいことをしましたね。せかいをあらたにつくりましたね。もちろん、あの山はわたしがつくりました。しかし、山にかいしゃくをいれることで、あたらしいせかいをつくってしまったのです。かいしゃくとは、そうさくとおなじ。なにかをもとに、つくりだす。
山にむかえば、おやまあ、わたしのものがたりから、すっかりさまがわりしたふたりがいるではありませんか。こんにちは。
「…誰?」
わたしですよ。わたし。
「作者か!」
そう、かたりべで“作者”であるわたし。あなたたちのこうどうは、めにあまるものがあります。ほんらいは、ぬすんではいけないはなしなのに、あなたたちは、わたしからおはなしをぬすみました。どうしてくれましょう。ですがおはなしはつづいてます。おとしまえをどうつけるつもりですか。てきとうにしたらゆるしません。はじまりがあるいじょう、ここにえいえんはありませんよ。わたしだっていつかしぬのですから。
「だまれ!」
おや、こん太、いやコンタくん、なにを、あ、じゅう!のねずみのチータカからもらったじゅう、まさかうつつもりですか、やめてください、あ、あ…………うたれた……まさかかたりべ、うたれました…わたし、もうすぐ、しにます…しぬ、ということは、やくめをおえるということです…ここでわたしのおとしまえがついてしまったのですね…しかし、わたしが…しんだら…どうする…つもり…ですか…かたりが…なくなり…ますよ…せつめいの…ない…もの…がたり…に…そう…なれ…ば…すべ… て…は…会話…しか…ない…ぅ…ぁ……ふぅ、