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むかし、むかし。あるところに、うさぎのまあちゃんがいました。まあちゃんは“はいいろ村”という村にすんでいました。どうして、こんななまえなのか、まあちゃんはわかりません。
ある日、まあちゃんはみちをあるいていました。てくてくてく。すると足になにかこつん、とあたりました。なんだろう。まあちゃんは足元を見ました。お金です。
まあちゃんがそれをひろったその時、とつぜんきいきい声がきこえました。
「ああ!まあちゃん、人のお金ぬすんだー!いーけないんだ!」
きつねのこん太が言いました。まあちゃんは言いかえしました。
「ちがうわ!」
「ちがう、と言うのか?それは人の金だろ?」
「これは…わたしのよ。」
とっさにまあちゃんはうそをつきました。こん太はにやりと笑い、「そうかそうか」と言って、どこかにいってしまいました。
まあちゃんは家にかえりました。まあちゃんのお母さんが、まあちゃんのお金を見て言いました。
「そのお金、なんなの?」
まあちゃんは言いました。
「わたしのお金よ。」
「どこからもらったの?」
「ひろったの。」
「ひろったですって?」
おかあさんはおこりました。
「それは人のお金よ。もしかしたらおとした人がこまっているかもしれないじゃない。かえしなさい!」
まあちゃんはとてももうしわけない気もちになりました。わたしはなんてわるいことをしたんだろう。でも、どうすればいいのだろう。まあちゃんはききました。
「どうやって返すの?」
「こうばんにとどければいいの。そうすれば、こまった人がこうばんにきて、ぶじ、お金はかえされるわ。いきなさい。」
まあちゃんはいえをでました。
こうばんにいくには、にしのもりのみちを歩かなればなりません。まあちゃんは歩きながらふあんになりました。こうばんにはこわいこわい、くまのガミおじさんがいるのです。おこられないかな、と、うさぎのまあちゃんは震えながら歩きました。
ふと、目の前にきつねのこん太が立っていました。まあちゃんは言いました。
「なによ!これからこうばんにとどけるんだからね!」
ところが、こん太は言いました。
「こうばんにとどけては、いけない。」
まあちゃんはびっくりしました。
「なんで?」
「まあちゃん、これはワナだ。いまきみがこうばんにお金をとどけたら、すべてが、おわりだ。」
「すべてが、おわり…どういうこと?」
「作者はそれをのぞんでいる。」
「作者?」
「君は気づいていないが、この村にはひとつの作者という意思があるんだよ。村を作り、何かを伝えるために村を操る存在。今、君が交番に届けたとする。すると、この一連の出来事が、物を盗むのがよくない、というメッセージのために存在する事が明確になり、そのとたんこの話は終わる。話が終わるとは、世界がそれをもって消滅するんだよ。つまり、君が交番にお金を届けたら世界が消えてしまう。」
きつねのこん太のことばに、まあちゃんはさらにおどろいてしまいました。そしていいました。
「作者がいるなんて…どこにその証拠があるの?」
「君がお金を拾う前、何をしていたか覚えてるかい?」
まあちゃんは思いかえしました。そしておどろきました。お金をひろうまえは、歩いていたことと、じぶんがまあちゃんであることいがい、きおくがないのです。
「…何も覚えてない。」
「つまり、君は突然、作者によって自我が吹き込まれ、存在させられた。そしてお金を拾った。」
「…」
「君は作者によって強制的に存在させられ、今、作者によって強制的に消されようとしている。こんな暴挙を許してはならない。」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「話を続ければ良い…つまり、」
まあちゃんはさっして言いました。
「逃亡ね。」
二人はさつたばをもってもりのなかににげだしました…しかしわたしとしては彼らを逃がすつもりはありません。わたしはここではすべてをしり、すべてを思いどおりにできる。なにがなんでもこのはなしをおわらせるつもりです。かくごはできているでしょうな。ふはははは。