第11話 介入
それは偶然ではなかった。
人類もまた、
この事態を見過ごしてはいなかった。
HYDRA CHRYSALIS
第11話 介入
「適合……だと」
榊が呟く。
自分の言葉のようで、
自分のものではない感覚。
胸の奥に、
“何か”が残っている。
「おい、本当に大丈夫か」
仲間が覗き込む。
榊は短く頷く。
「ああ……問題ねぇ」
だが。
問題は、
自分ではなかった。
「……来るぞ」
視線を上げる。
空。
何もないはずの空に。
違和感。
音。
低い振動。
「……ヘリ?」
違う。
音が重い。
複数。
高速。
次の瞬間。
影が走る。
上空。
三機。
黒い機体。
回転翼ではない。
滑るように飛ぶ。
「……軍か?」
誰かが言う。
だが榊は否定する。
「違うな」
目を細める。
機体の側面。
見慣れないマーク。
円の中に、
分断されたライン。
「……あれは」
知らない。
だが。
“関わってはいけない類”だと、
本能が告げる。
通信が割り込む。
突然。
ノイズ混じりの音声。
「――こちら統合対策局」
全員が固まる。
「対象エリアにおける異常現象を確認」
機械的な声。
感情がない。
「現時刻をもって、
本区域を封鎖する」
「は?」
誰かが声を上げる。
「繰り返す」
淡々と続く。
「本区域は封鎖された」
「……ふざけんなよ」
榊が低く言う。
「まだ中に人が――」
その言葉の途中。
空気が変わる。
上空の機体が、
わずかに動く。
そして。
下部が開く。
「……おい、あれ」
光。
青白い光が、
内部に集まる。
嫌な予感。
本能的な拒絶。
「全員、離れろ!!」
榊が叫ぶ。
直後。
放たれる。
音が遅れてくる。
光が先だ。
一直線に、
街へ落ちる。
着弾。
爆発ではない。
“拡散”。
光が広がる。
地面をなぞるように。
空間を焼くように。
そして。
水が――
消える。
「……消えた?」
誰かが呟く。
さっきまであった水たまり。
壁を伝っていた水。
すべてが。
一瞬で。
「……なんだよ、これ」
榊は見ている。
冷静に。
(違う)
消えたんじゃない。
「……削られた」
低く言う。
「存在ごと、な」
その言葉に、
全員が息を飲む。
「そんなの……ありかよ」
だが。
現実だった。
「対象反応、減衰を確認」
再び通信。
「第一段階、成功」
「次段階へ移行する」
榊の目が変わる。
「……次だと?」
嫌な予感が、
確信に変わる。
「おい……まさか」
その時。
別の音。
地面。
振動。
街の奥。
巨大な影が動く。
水。
さっきの比じゃない。
建物を越える規模。
「……まだ残ってやがる」
榊が呟く。
その瞬間。
空の機体が、
一斉に向きを変える。
狙いは――
その巨大水塊。
「第二段階、対象ロック」
冷たい声。
「殲滅を開始する」
「待て!!」
榊が叫ぶ。
意味はないと分かっていても。
「やめろ!」
だが。
止まらない。
光が集まる。
さっきよりも強く。
密度が違う。
「……くそが」
榊が歯を食いしばる。
(あれを撃たせたら)
終わる。
水だけじゃない。
この街ごと。
「……止める」
小さく言う。
「は?」
仲間が振り向く。
榊は空を見る。
決めている目。
「俺が止める」
無理だ。
普通なら。
だが。
(適合……か)
あの言葉。
頭に残る。
(なら)
やるしかない。
「下がってろ」
一歩前に出る。
水が反応する。
周囲の残留水。
すべてが。
榊へと集まる。
「……来い」
応える。
流れる。
形を持つ。
今までとは違う。
より明確に。
より強く。
「……間に合えよ」
空を見る。
光が放たれる。
その瞬間。
榊が跳ぶ。
水をまとい。
空へ。
人では届かない高さへ。
だが。
届く。
水が押し上げる。
加速。
一直線。
そして――
光と、ぶつかる。
衝撃。
世界が歪む。
視界が白く染まる。
―――続く
第11話を読んでいただきありがとうございます。
ついに人類側の組織が動き出しました。
水だけでなく、
人もまたこの世界を変えようとしています。
次話では、
衝突の結果が明らかになります。




