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合わせ鏡が描く天弓(にじ)~卵から憧れのイケメン先輩が生まれちゃったんだけど、セーカクサイアクで困ってます  作者: 東條零
第二章 期限切れの悪魔

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第8話 夢の舞踏会

 その日、素奈多は卵を枕元において、猫のニセ・キジタロー、略してニセキジといっしょにベッドに入った。


 猫はすっかり素奈多の部屋に居着いてしまったので、背に腹はかえられず、愛らしいピンクの猫用トイレなんぞも買う羽目に陥った。

 猫缶とか猫砂とか、爪とぎとか……。

 猫一匹のために、随分と出費がかさんだ。


 それを部屋まで誰にも見つからないように運ぶのがまた、一苦労だった。

 だって、このマンションは、ペット禁止だから……。


 なんとなく、猫用の道具を集めて、ホッと一息。


 どこから現れたのか判らないままだったが、猫は、チュールをむさぼり食い、しっかりとトイレで用を足してしまうくらい、現実そのものだった。


 キジタローとそっくりの猫は、確かにここにいて、食べて、出して、寝ていた。

 とても、卵の中で一夜にしてムクムクと育ってしまうような、非現実的なものであるとは思えなかった。


 やっぱり、この猫は、偶然、どこかから迷い込んだだけのキジタローのそっくりさんなのだろうか……?


 だとしたら、マンションの住人の誰かが、必死でこの子を捜しているかもしれない。

 ペット禁止のマンションだから、きっと、おおっぴらに探せずに困っているのだ。


 明日、階下の高橋さんに相談してみようかな、とぼんやり思った。

 彼女は、マンションでペットを飼う権利を主張して住民集会なんかを主催している人だ。

 もしかしたら、飼い主を捜してくれるかもしれない。


 そんなことを考えているうちに、うとうととまどろんできた。


 素奈多は、夢の世界にふわりと気持ちよく堕ちていった。



 そこは、キラキラとした装飾品が豪華に輝く、絢爛たるおとぎ話の宮殿だった。


 夢の中なのに、さすがに場違いだとぼんやり思うほど、きんきらきんのロココ調の宮殿だった。


 そうだ。

 宝塚で見たベルばらのような感じだ。


 そこに、夢の王子様が現れた。

 茶色のサラサラの髪をなびかせ、ビロードのマントを背負った時代錯誤な格好をした王子様だ。


「うわぁ……。九嵐くらん先輩……」


 素奈多の夢の中の王子様は、コスプレをした九嵐だった。


 ゆっくりと九嵐が歩み寄ってくる。


 次第に、ビロードのマントが金色に輝く天使の羽根にかわってゆく。


 ああ……。

 先輩はやっぱり、天使だったんだ……。


 そんなことを茫然と思ったとき、ふわりと先輩は素奈多の前にひざまづき、手を差し出した。


「一曲お願いできますか? お嬢様」


 一曲?

 気づくと、ワルツが流れていた。


「でも、わたし踊れな……しかもこんなパジャマで……」


 素奈多は自分の服を見た。

 すると、ピンクの熊さんのパジャマを着ていたはずが、豪華なレースに彩られたピンク色のドレスに替わっている。


「えっと……あの……」


 素奈多が戸惑っていると、先輩は優雅な動作で素奈多の手を取り、腰を抱くように引き寄せた。


「大丈夫だよ」


 ああ、先輩の必殺のセリフ「大丈夫だよ」が、また聞けるなんて……。


「そう。ぼくに合わせて」


 耳元でささやく先輩の声は、素奈多の体の芯までとろけさせた。


 ああ、先輩……。

 素奈多は夢見心地だ。

 夢の中でも夢見心地になれるのだ。


「素奈多……。君だけを、愛してる……」


 夢のような告白が、素奈多の鼓膜をくすぐった。

 いや、本当に夢なのだが、夢を見ている本人には夢と現実の境界線は曖昧だ。


「九嵐先輩……」


 素奈多は、うっとりとつぶやくと、天使の翼を持った九嵐に抱きついた。

 ぎゅっと腕に力をこめると、あたたかなぬくもりを感じた。


 あたたかくて、幸せで、このままどうにかなってしまってもいいと、文字通り夢心地で思った。


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