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合わせ鏡が描く天弓(にじ)~卵から憧れのイケメン先輩が生まれちゃったんだけど、セーカクサイアクで困ってます  作者: 東條零
第一章 錬金術師の卵

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第6話 禁断の果実……じゃなくて卵

 ピチャピチャと音をたてながら、猫が皿のミルクを美味しそうに飲んでいる。


 素奈多は、床に体育座りをしてその様子を見守りながら、ぐるんぐるん空回りする頭の中を整理しようとしていた。


 バラバラになった卵の殻を左手で並べながら、右手に握ったもうひとつの卵に視線を移した。


 あのとき、どさくさまぎれに、転がった卵をもうひとつ手に握りしめてきたのだ。


 このマンションの玄関はオートロック式で、迷い猫が簡単に入り込めるような構造ではない。


 どこから見ても、キジタローそっくりだけど……。


 マンションの誰かが飼っている猫だろうか?


 どこかの部屋から逃げ出した猫が、たまたま迷い込んだだけ、のことだろうか……?


 素奈多は天井を仰いだ。


 まさか……。

 本当に、あの卵から生まれたなんてことがあるだろうか?


 自分でも莫迦なことを考えていると思った。

 だいいち、あの小さな鶏の卵から、ひとかかえもある成猫が簡単に生まれるわけがない。


 いや。

 ポケットから出てきた卵の殻と、クローゼットの中に落ちていた殻を合わせると、ずいぶんと大きな、ダチョウの卵くらいの大きさになるようだ。

 中の生き物が成長するに従って、卵の殻がゴムのように自在に伸びていくようなイメージが浮かんだ。


 ふと、キジタローが卵の中の白身みたいな部分を前足で触ったのを思い出した。

 キジタローが触ったあと、卵をくっつけると吸い付いて離れなくなった。


 ゾクッと背筋が寒くなった。


 この猫は、キジトラの配分といい、顔つきといい、金色の目といい、なにからなにまであのキジタローとそっくりだ。


 そう、まるでコピーのように。


 コピー。


 右手の卵に視線を移した。


 この卵は、魔法の卵だろうか?


 中に入れたもののコピーがつくれる、魔法の卵……。


 まさか……。


 理性が否定していた。

 でも、好奇心と、ある種の期待が素奈多の正常な判断能力を麻痺させていた。


「なにか、入れるんだ……。コピーしたい生き物の……」


 素奈多は、茫然とつぶやいた。

 視線をさまよわせる。

 机の上の小瓶に、目がとまった。


 ――まさかね……。猫と人間は違うよね……。


 心臓がバクバク高鳴っていた。


 もし、もしも……。


 これが、本物そっくりな生き物をコピーできる魔法の卵だとしたら……。


 素奈多はあらがいがたい興味につきうごかされ、右手の卵を両手で握って、ちょっと力をくわえてみた。


 卵はパカッと二つに割れる。

 あのときと同じ、真ん中からぱっくりだ。


 素奈多は立ち上がって机の前に立った。

 御守りの入った小瓶のコルクの栓を、ポンと抜く。

 わるいことをする前のように、ごくりと唾を呑み込んだ。


 キラキラ輝く髪の毛を瓶の中からとりだして、卵の中に押し込んだ。


 ――うわー……。


 指先が震える。

 そうっと卵の割れた面をくっつけた。


 ――うわー、うわー、うわー……!


 心臓が破裂しそうにドキドキして、口から飛び出しそうだった。


 卵は、猫のときと同様、ぴったりくっついてしまって、もう離れない。


「そんなこと、あるわけないよね……」


 声に出しつぶやいてみた。

 まさか、本当に、こんなちっちゃな卵から人間のコピーができちゃうなんてことが、あるわけない。


 猫のことは、きっとなにかの偶然に決まってる。

 素奈多は、悪戯をしてしまった子供がいいわけをするように、そう自分にいいきかせた。


 でも。

 なにかの偶然だとしたら……。


 あの、ポケットにあった卵は……。

 キジタローが触った卵は、いったい、どこにいってしまったんだろう?


 先輩の髪の毛を入れた卵を握りしめて、素奈多は茫然と部屋の中に立ちつくした。


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