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合わせ鏡が描く天弓(にじ)~卵から憧れのイケメン先輩が生まれちゃったんだけど、セーカクサイアクで困ってます  作者: 東條零
第五章 臨界へのカウントダウン

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第29話 楽しい家族団欒

 素奈多はソワソワと落ち着かなかった。

 両親が来て、三人で仲良く談笑しながらお茶を飲む。

 その時間が、果てしなく長く、無駄に思えた。

 もちろん、いい両親で、進路についてのわがままも聞いてくれたし、一人暮らしも許してくれた。


 その一人暮らしのマンションに、得体の知れない男を連れ込んでいることがバレたら、それこそ大変だった。

 クランが察して、ニセキジを連れて出てくれたから、ペット不可の禁を破ったことも露見せずにすんだ。


 だけど、出て行くときのクランの様子が気になった。

 テンパっていてはっきりわからなかったけれど、なんだか……。

 とにかく、さっきまでのクランと違う感じがしたのだ。


 何かを胸の裡に隠しているような……。

 あれは……。

 あれはなんだろう?

 あの表情に浮かんでいたのは……?


「で、素奈多、大学はどうするんだ? ここの医学部は難しいんだろう?」


 父親が、コーヒーを飲みながら言った。


「え? あ、うん」

「無理せずに、外部受験でもいいんだぞ?」

「でもそれじゃあ、わざわざ付属に入った意味ないし……」


「まあまあ、お父さん。この子は自分で決めたら変えないんだから……」

「頑固なところは誰に似たんだろうな?」


 父親は、母を見て、笑った。

 母親は、父を見て、首をすくめた。

 お互いがお互いのせいにしているようだった。

 まあ、なんだかんだ、仲のいい両親だ。


「あの……さ、ご飯食べに行くんでしょ?」


 素奈多は切り出した。

 みんなで何かうまいもんでも食おう、と父親が言っていたからだ。


「そうね……。でもまだ早くない?」


 時間は、午後五時過ぎだ。


「予約してないなら、お店混んじゃうから早めの方がいいんじゃないかな?」

「確かにそうね」

「じゃ、お父さんたちが泊まるホテルのそばがいいよ」

「あらどうして?」

「だって、帰るの楽じゃん?」


 素奈多は、なんとかして少しでも早く両親から解放されるべく、もっともらしい理由を並べる。


 クランが気になって仕方がなかった。


 そうだ。

 いっそのこと、公衆電話からでも電話をしてくれれば……。

 とんでもない急用でもでっち上げて、今すぐ飛んで行くのに。

 彼は、いつの間にか、素奈多の電話番号を暗記していたんだから……。


「そうねぇ、じゃあ、何を食べようかしら?」


 母親が、ゆったりと考え込む。


「お、お蕎麦とか?」


 素奈多が提案する。

 ファストフードというわけにもいかないだろうから、だったら、蕎麦が一番早いような気がした。


「お蕎麦ねぇ……」


 母親が、再びゆったりと考え込む。


「じゃあ、ラーメンは?」


 父親が笑った。


「なんだ? 素奈多はそんなに麺類が食べたいのか?」

「えっ? うん。なんか、そんな気分かなって」


「じゃあ、ほら、イタリアンの専門店があったでしょう? 私、リゾットが食べたいわ。ワインもいただけるお店」


 リゾット……。

 米から炊くんかい!?

 ラーメン屋のチャーハンでいいじゃん!


 と、内心、素奈多は思ったが、つとめて顔には出さなかった。


「じゃ、そこ行こ。あたしはパスタ食べるから」


 麺にこだわりすぎて墓穴を掘ったようだ。

 でもまあ、フランス料理とか言われるよりはマシかもしれない。


「じゃあ、そうするか」


 父親が腰を上げる。

 母親も続いたが、何を思ったか窓際に近寄ると、レースのカーテンを開け、外を眺めた。


「あら、雨だわ」

「えっ?」


 素奈多は、窓に駆け寄る。

 かなり強い雨だ。


 クラン……。

 傘持ってない……!


「じゃあ、車を呼ぼうか」


 父親が言い、携帯でタクシーアプリを操作し始める。

 

 ――ごめんね、クラン……。

 どこかで雨宿りしててね……。


 素奈多の胸に広がったのは、心配なのか、罪悪感なのか……。


 罪悪感?

 誰に?

 両親に?

 それともクランに?

 こんな秘密を抱えてしまったこと自体に?


 多分、全部だ。


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